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坂本義教
著者:坂本義教(さかもとよしのり)
長年、医学、薬学関係の論文や科学史を専門に翻訳業を営んでいます。仕事柄、医学史に名を残す人物の経歴を目にします。そこには「えっ!」と思わせる意外な事実やエピソードが隠されています。自分一人の胸にしまっておくのももったいないと、あまり取り上げられることのない医師達の素顔を紹介しようと思い立ちました。収録しきれなかった興味深い事実がまだ多数あります。これからも掘り起こしていきたいと思っています。
コラム/健康・医療

Dr.医師 医学のトリビア大全(15)

[連載 | 完結済 | 全17話] 目次へ
新兵器によって船上で逮捕された初めての犯罪者クリッペン、事故で胃に穴が空いた男から論文が発表された話、臓器培養法の完成を目指したカレル、錬金術師兼医師グラウバーの発見の4編。
56.無念の無線
 クリッペン博士(本名ハーレイ・ハーヴェー:1862〜1910)は英国に住んでいた米国人医師である。米国ミシガン州に生まれた歯科医であった。彼はヒヨスチンを用いて妻であるコーラ・クリッペンを殺害。その遺体を切り刻んで地下室に埋めた後、アメリカに逃亡した。この時、少年に変装した愛人エセル・ル・ニーヴを連れていた。ところがこの頃導入された新兵器=無線で情報が伝えられため、クリッペンは船上で逮捕された世界初の犯罪者となり、死刑となった。またヒヨスチン(中枢神経系に対し著しい鎮静作用を持つ。モルヒネと併用すると半麻酔状態を作り出す)が殺人に使用されたのも世界初である。なお愛人のエセルはお咎めなしで釈放された。

[コラム]
ギリシア神話では、モルペウスは眠りを促し、夢を創り出す神とされている。モルヒネは、この神に因み命名されたアヘンの主要アルカロイドであり、服用すると瞳孔は針先の大きさぐらいまで収縮する。またマウスに投与すると尾が直立する。


57.利用できる物は何でも
 1822年、米国のマッキノー砦で起きた出来事である。アレクシス・サン・マルタンという若者が、至近距離から散弾銃の暴発事故で脇腹を撃たれるという事故にあった。なんとか回復したのであるが、胃にあいた1cm程度の穴(胃瘻)はそのまま残ってしまった。彼の治療に当たった陸軍軍医ウィリアム・ボーモント(1758〜1853)は、いやがるマルタンを説得し、この穴を通して胃の内部作用を調べ、胃液を採取し、毎日観察し、記録を取り、1833年に「胃液と消化の生理学」という論文を発表したのである。観察対象とされたマルタンは長命を保ち、1880年、82歳で亡くなった。


58.リンドバーグとカレル
 1902年、大西洋横断無着陸飛行に初めて成功したチャールズ・リンドバーグ(1902〜1974)は、実子を誘拐、殺害された。後に、フランス人生物学者・外科医であるアレキシス・カレルと知り合う。彼と協力し、生物の組織や器官を永遠に生かし続ける装置「カレル━リンドバーグポンプ」を開発、臓器培養法の完成を目指した。これは全器官培養に用いる灌流装置であり、実験材料には鶏の鶏冠を用いたが、今でもこの鶏冠は生き続けているらしい。
 カレルは怪しげな似非学者ではなく、1904年に渡米し、ロックフェラー医学研究員となり、組織培養法の確立に貢献した経歴を持つ。1912年度には血管縫合術および臓器移植方法の研究により、ノーベル生理医学賞を受賞した大物学者である。


59.錬金術師の貢献
 ヨハン・ルドルフ・グラウバー(1604〜1668)は17世紀の錬金術師兼医師であるが、興味深い発見を数多くなしている。その一つが硫酸ナトリウムであり、後に彼の名前を冠し「グラバー塩」と呼ばれている。苦みがあり、緩下剤や利尿薬として作用する。また塩酸、アセトン、ベンジン、アルカロイドの発見者でもある。人類史上、最初に硝酸を作り出したのもグラウバーと言われている。
(つづく)
(初出:2014年03月25日)
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登録日:2014年03月25日 16時45分
タグ : 医学史 トリビア

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