騒人 TOP > コラム > 健康・医療 > Dr.医師 医学のトリビア大全(16)
坂本義教
著者:坂本義教(さかもとよしのり)
長年、医学、薬学関係の論文や科学史を専門に翻訳業を営んでいます。仕事柄、医学史に名を残す人物の経歴を目にします。そこには「えっ!」と思わせる意外な事実やエピソードが隠されています。自分一人の胸にしまっておくのももったいないと、あまり取り上げられることのない医師達の素顔を紹介しようと思い立ちました。収録しきれなかった興味深い事実がまだ多数あります。これからも掘り起こしていきたいと思っています。
コラム/健康・医療

Dr.医師 医学のトリビア大全(16)

[連載 | 完結済 | 全17話] 目次へ
動物磁気療法のメスメルとルイ16世。卵の栄養価や野菜で血尿、聴診三角など息抜きコラムを10編掲載。
60.ルイ16世の国王らしい仕事と催眠術
 現在では「催眠誘導する」という言葉には「hypnotize」を用いるが、かつては「mesmerize」という言葉が用いられていた。これはオーストリア人医師フランツ・アントン・メスメル[Mesmer](1734-1815)に由来する。彼は博士論文で、人間の健康は様々な惑星の引力の影響を受ける、という動物引力論を表した。1775年までには動物引力論を見直し、動物磁気と改名。ついには身体に手をかざすだけで、治療に必要な磁力を作り出すことができると述べ、ウィーンで開業した。
 もっとも医学界からは、その療法は詐欺的行為であると非難され、訴訟問題にまで発展し始めた。そのため1778年にはパリに移り、フランス人を相手に磁気治療を再開した。数年間は人気を博したが、オーストリアと同様にフランス医学界からも歓迎されなかった。
 メスメルの治療方針を巡る論争は、遂にかの国王陛下ルイ16世の耳にも届いた。王は1784年、科学者グループにメスメルの方法を調査し、結論を出すよう命じた。メンバーの中には、運命の皮肉と言うべきか、当時の指導的立場にある科学者、例えば後のフランス革命で処刑される運命にある化学者ラヴォアジェ(罪状は元徴税請負人であったこと)や、安楽死を目指しギロチンを導入した医師・政治家ギヨタンなどがいた。さらには来仏中のアメリカ人ベンジャミン・フランクリンも名を連ねていた。
 同グループの結論は、メスメルの技法を支持できる科学的証拠は存在しない、というものであった。そのためメスメルの信奉者は一人また一人と去り、彼も1785年にはパリを離れ、短期間ヴェルサイユで滞在した後スイスに向かった。最後は故郷で静かな余生を送り、1815年3月5日死去した。
 多くの医師や科学者は、メスメルの方法や理論について、いわばあら探しを行ったが、「精神が混乱した病を処置する」という考えまで軽視したわけではなかった。特にフランクリンは、肉体よりも精神に巣喰う疾患の存在を信じており、そうした病は暗示の力で癒せることを認めていた。メスメルの方法は、催眠療法の先駆けをなすものであった。

[コラム1]
ルイ16世が擁するベルサイユ宮殿のコックは386人、一日の食事時間の合計は10時間に及んだ。当然ながら肥満体型の国王であった。

[コラム2]
1ポンド(約454g)の牛肉を生産する場合、必要とする穀物・大豆は16ポンドである。ところが、

 ・1ポンドの豚肉の場合は6ポンド
 ・1ポンドの七面鳥の場合は4ポンド
 ・1ポンドの卵または鶏肉の場合は3ポンド

ですむ。


息抜き

1.茶色の卵は栄養価が高い?
 白い卵は、産卵数の多い白色レグホン種(年間に200個以上)の卵である。一方茶色の卵は、非白色系の鶏の卵であり、産卵数が少ないため希少価値があり魅力的に思われる。もっとも両系統ともその飼育法に大差はないため、茶色の卵が栄養価に勝るわけではない。
 因みに卵黄は各種脂肪の混合物、卵白はアルブミンと呼ばれるタンパク質である。

2.アヒルの卵
 アヒルの卵は、食中毒を起こすことで悪名高いサルモネラ菌の住みかである。もっともサルモネラ菌は熱に弱いため、調理の際は十分な加熱処理を行うと安全に食することができる。
 しかし油でさっと揚げることは効果的ではない。なぜなら卵の外側だけが加熱され、内部は熱の影響を受けないからである。従って数分間の煮沸処理が遙かに効果的である。

3.野菜で血尿?
 火焔菜と呼ばれるサトウダイコンの変種がある。蕪に似て大きく甘みが強い。鉄欠乏性患者がこの野菜を食すると、中に含まれる色素が腎臓より排出され尿が赤くなるため、血尿と誤解される。

4.覆いがなければ
 肩胛骨の一番下側近くには、小さな三角形の部分がある。この部分は背部の厚い筋肉で覆われていない。従ってこの部分に聴診器をあてると、胸部の音が鮮明に聞こえる。そのため「聴診三角」と呼ばれる。

5.モデル
 サー・アーサー・コナン・ドイルは、師匠であるエジンバラ大学医学部教授ジョセフ・ベルをモデルに名探偵シャーロック・ホームズを創造した。卒業時の学位論文は脊髄癆(ろう)(=歩行性運動失調症)の研究である。
 ドイルは後に博物学者アルフレッド・ウォレスと同じく、心霊術に傾倒した。
ドイルの言葉:医師が過ちを犯したとき、医師は第1犯罪者となる。知識が全くないか、なまじ知識があったからである。

6.食べられない野菜
 ボクサーが外耳に繰り返し強打を受けると、組織内では何回となく出血が起こる。その結果生じた血の塊は、ゆっくりと繊維組織に置き換わり、肥厚化し、カリフラワーのような独特の襞が生じる。別名「拳闘家耳」。
 
7.悪いのは私だけ?〜テニス肘
 テニス選手のいわば職業病のようなものであるが、必ずしもテニス選手だけに起こるものではない。演奏に熱演するバイオリニストにも頻発する。

8.友は医者
 聖パウロの友人である聖ルカの職業は医師であった。もっともその生涯や医療活動については、ほとんど知られていない。伝承では、画家でもあったという。そのため画家の守護聖人となっている。

9.癌の語源
 癌は英語でcancer。元の意味は蟹を意味するcrabである。古代の人々は、癌を取り巻く血管が変化し、膨れあがることに気付いていた。その外観が蟹の脚に似ていたためcancerという語が生まれた。

10.帯状疱疹と水疱瘡
 帯状疱疹は英語でshingles。これは「帯」や「ガードル」を意味するラテン語のcingulumが訛ったものである。帯状疱疹を引き起こす帯状疱疹ウィルスと水疱瘡を引き起こすウィルスは同一ウィルスである。
(つづく)
(初出:2014年05月13日)
前へ1 ...... 11 12 13 14 15 16 17
登録日:2014年05月13日 16時27分
タグ : 医学史 トリビア

Facebook Comments

坂本義教の記事 - 新着情報

コラム/健康・医療の記事 - 新着情報

あなたへのオススメ