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宇佐美ダイ
著者:宇佐美ダイ(うさみだい)
2011年夏、東京から宮崎に戻ってきました。格闘技をやってます。元カメラマンですけど、今は正義の味方の仕事をしています。いつの間にか人の心も読めるようになりました。そして趣味で浮遊しているような写真を三脚+セルフタイマーで撮ってます。林ナツミさんの写真を見て撮り始めました。反原発、反TPPです。今の殺伐とした仕事をテーマにいつか書きたいなあ、と思ってます。
エッセイ/エッセイ

ビーチボーイズ白浜に吠える(1)

[連載 | 完結済 | 全13話] 目次へ
天気予報は大雨。スーパー雨男の著者は「大丈夫さ」とひとりごつ。パソコン通信『ニフティサーブ』の宮崎会議室から生まれた『ビーチボーイズ』が白浜に集う!
■夏の終わりの海水浴場

 白浜海水浴場の細長い駐車場の一番左はしにセレナをとめたのは、朝の9時だった。
 セレナのエンジンを切ると、サビにかかったチューブの『夏休み』が消え、かわりに鳶の鳴き声が聞こえた。
 天気予報では、今日は大雨。
 でも、車のウィンドゥはクリアだ。
 ミルク色の雲の間からは夏色の空も見えている。
 太陽を探しながら、僕はセレナからおりた。
 ビーチサンダルの跳ね上げる熱い砂が、爪先を撫《な》でていく。
 セレナの屋根で、9フィートのロングボードが、銀色のハードカバーから大きなセンターフィンをつきだしいばっている。
「大丈夫、大丈夫。今日こそ大丈夫。たぶん……」
 あまり公にしたくないのだけど、何を隠そう僕はスーパー雨男なのだ。『卵1パック98円!』のスーパーじゃなくって、スーパーマンのスーパーね。念のため。
 カメラマンとして学校行事などに参加したりすると、ほとんどの行事がとんでもない大雨になっちゃうのである。
 修学旅行、卒業式、入学式。住吉南小学校のプール開きでは、大雨の中紫色になって震えている子供たちや先生たちの目の前で、御神酒を蹴飛ばして割ってしまうという醜態も演じた。
 とにかく、どこに行っても雨男は評判がよろしくない。
「あれー、天気予報では晴のはずなのになあ。ぶつぶつ」
「まったく、誰なんだよ、雨男は。ぶつぶつ」
「お化粧もお洋服もだいなしだわ。ぶつぶつ」
「てやんでい、ぶつぶつ」
「おぶつだんの前でもぶつぶつ」
 ぶつぶつ星人と化した、先生たちは最重要参考人というか、容疑者というか――、まあとにかく僕を睨《にら》んだりするのだな。
 だけど、証拠はないし、「は! すんません!」と、直立不動後45度平身低頭の形で謝るのもなんか腑に落ちないのも確かであるので、「へへへ」と、薄ら笑いをしつつ、しらばっくれていたのであります。
 仲間たちと元旦に登った高千穂の峰は、僕が登りだしたとたん濃い霧につつまれ、五合目からは冷たい雨も降りだし、トドメに雪が舞い、とても初日の出など拝めるという状態じゃなくなってしまった。
 凍り付いた笑顔でとりあえず万歳三唱などをすると、周りの山男山女たちから暖かい拍手がおこった。
 しかし、暖かくてもしょせん拍手は拍手なのだ。「同情するなら金くれー」じゃなくて、「拍手するなら、ホッカイロくれ」である。
「さ、さぶい、さぶい、さぶい、さぶい……」
 と、うわごとのように繰り返す仲間たちは、水もしたたるボロ雑巾といった状態で山を降り、正月はみな仲良く体温計をくわえ病床の人となったのでありました。
 なーに、今日は大丈夫さ。
 パソコン通信『ニフティサーブ』の宮崎会議室から生まれた『ビーチボーイズ』は、海が大好きな老若男女の集まりである。
「ボーイズなのに、何故女性がいるのよ? きぃー!」
 と、いうつっこみは受け付けませぬ。
 サーファー、ボディーボーダー、ダイバー、ウィンドサーファー、カーヌーイスト、磯遊びの達人、おっぱい星人など総勢、40人を越す、まあ、オフから生まれた集団としては大所帯だと思う。
 メールや宮崎会議室内で連絡をとりあって、予定があいているものたちが、マリンスポーツを楽しんでいるのだけど、年に何回かはほとんどのメンバーをほぼ強制的にかき集めキャンプをすることにしているのだ。
「さてと……」
 キャンプ用品満載でややシャコタン気味になったセレナのバックドアをあけつつ僕はあたりを見渡した。
 木材を叩く金槌《かなづち》の音が潮騒《しおさい》の中を規則正しく響いてくる。
 夏の終わりは、どの季節のそれよりも遙かに寂しい。
 さまざまな出会いや別れ、酔っぱらいやかっぱらいなどを見てきたであろう、海の家が今まさに撤去《てっきょ》されるのだ。
 僕は、金槌の音にむかって歩いた。
 とりこわされつつある海の家のむこうには、簡単な炊事場がある。
「売店の方の屋根はこのまま残しておくのですか?」
 気難しそうな白髪頭の大工さんに聞いてみた。
「ああ、このままだよ。キャンプでもするんかい」
 大工さんは、かけた前歯を2、3度左右にこすりあわせると意外なほど優しい声でそうこたえた。
「ええ、長倉さんには伝えてあるのですけど」
 長倉さんとは、夏の間ここで海の家をやっている近くの長倉商店さんのことだ。
 頼みに行った時、長倉商店内は飛び込んできた4羽の雀のせいでパニックになっていた。
 あんなに小さな雀でも、狭い店内を縦横無尽に飛び回られると恐怖の一歩手前なのだ。
 長倉さんは雀相手に怒鳴りまくり、小学校に上がる前くらいの女の子がふたり大声で泣き叫んでいた。
「あのー、長倉さん」
「あー!」
「キャンプをするんですけどね」
「ぎゃー!」
「炊事場とかトイレとか借りていいですか?」
「びえー!」
「あのー」
「このやろう!」
「キャンプ……」
「わかった、わかった」
「ぎゃー!」
 まったく、阿鼻叫喚《あびきょうかん》の、――まさに南国雀大戦といったカンジであった。
 かき氷の値札がまだ残ってる海の家の売店には、万が一、雨が降りだした時に避難するには十分なひさしがある。
 見上げるとひさしの隙間から小さな陽の光がとびこんできた。
 どっかーん、と晴れそうだ。
「炊事場よーし、ひさしよーし」
 張りつめていたものが、じわっと緩んでいくのを感じ、思わず指差し確認をする宇佐美であった。
(つづく)
(初出:2002年05月)
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登録日:2010年05月31日 19時39分

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