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宇佐美ダイ
著者:宇佐美ダイ(うさみだい)
2011年夏、東京から宮崎に戻ってきました。格闘技をやってます。元カメラマンですけど、今は正義の味方の仕事をしています。いつの間にか人の心も読めるようになりました。そして趣味で浮遊しているような写真を三脚+セルフタイマーで撮ってます。林ナツミさんの写真を見て撮り始めました。反原発、反TPPです。今の殺伐とした仕事をテーマにいつか書きたいなあ、と思ってます。
エッセイ/エッセイ

ビーチボーイズ白浜に吠える(10)

[連載 | 完結済 | 全13話] 目次へ
プレゼント贈呈式で渡される前からジェット山中は泣いていた。『こんにゃく』というあだ名をもつケンケン。なぜ、こんにゃくなのかというと……。夜になり、盛り上がるメンバー。焚き火を飛び越えたそのとき。
■さらば山中!

「山中さん、こっちへ」
 まな板にむかって背中を丸めているジェット山中に声をかけた。
 僕と川俣さんで買ってきたプレゼントをみんなの前でわたすのだ。
 主催者としては、ここを感動のシーンにしなくてはならない。
 アカデミー賞5部門受賞とまではいかなくても、サンホテルフェニックス国際会議場の新郎新婦が流すような静かな涙がほしい。
「は?」
 なんと。
 振り返ったジェット山中は泣いていた。
 まだ、早いちゅうに。
 でも、わかるよ……。
 ジェット山中の部屋で火を噴いた14インチのテレビ、僕が駆るヤマハV−MAXのミラーの中でぐんぐん小さくなっていくジェット山中を乗せたホンダの250、ウェットスーツの足首の部分を内側に折り曲げ、その中に車のキーをいれたままサーフィンをして案の定JAFを呼んだジェット山中……。
 そんな彼の姿が走馬燈《そうまとう》のように僕の心の中を駆け抜けていった。
 さらば……。
 さらば、ジェット山中……。
「お、俺だっておんなじキモチだよ……」
 僕はジェット山中の背中を軽く叩いた。
「なんすか?」
 さらに涙を流すジェット山中の手にはむきかけのタマネギがにぎられていた。
 そうゆーことかいっ。
 さて、気をとりなおして記念品の贈呈式だ。
 口角泡《こうかくあわ》を飛ばし、たまには胸ぐらなどつかみつつ鬼の形相で論議をしたかったのだけど、まあ今回は、僕の独断と偏見でプレゼントの品は決めさせてもらった。
 参加費を出してくれたみんなにはたいへん申し訳ないのだけど、時間がなかったのだ。かんべんしてくれい。

 昨日たまたま仕事場で顔をあわせた、穴あきスパッツサーファーのケンケンにだけは「何がいいだろう?」と、聞いてみた。
「南極18号!」
 と、こたえるケンケンの顔は夢見心地であった。
 まったく、こんにゃくなんかに聞いたのが間違いだった。
 あ、そうそう。
 ケンケンは、『こんにゃく』というりっぱなあだ名を専務からつけてもらっている。
 こんにゃくが大好物だからとか、こんにゃくのような根性なしといった意味じゃなく、別の目的にこんにゃくを使うのが大好きだったからのようだ。
 それをネタにニフティの会議室で彼に詩をプレゼントしたことがある。
 曲はドラエもんのテーマをのせるとぴったりくるはずだ。

 こんにゃくっていいなっ
 できたていいなっ
 あんなこと
 こんなこと
 いっばあいするからあー
 なにをじゆうにとばしたいなっ
 たてわりいっちょう!
 あんあんあん
 とってもだいすきこんにゃくちゃん

 なかなかでしょう?
 しかし、なにゆえに、ケンケンはあんなにタケリ狂ったのだろう?
 ジェット山中にもりっばな詩をとも思ったのだけど、「小さな親切大きなお世話!」と、また怒られてもかなわないのでプレゼントは無難なナイフに決めた。
 無人島に行く時に何かひとつ持って行くとしたら、というアンケートを某アウトドアー誌が行っているけれど、毎年ナイフというアイテムがトップなのだそうだ。
 僕は、若い頃に恋人にプレゼントしてもらった、小型ナイフを今もちゃあんと使っている。
 大事に手入れさえすれば、ナイフは一生使えるのだ。
 そして、そのナイフを使う時、必ず彼女の事を思いだすのである。
 ふふふ。
 ジェット山中にも、僕たちの思い出をたっぷりつめ込めたナイフを一生使ってほしい。
 リンゴの皮をむく時、チーズをスライスする時、こんにゃくにたてスジをいれる時に、きっと、宮崎の愉快な仲間たちを思い出してくれるだろう。
 そして、「ふふふ」と含み笑いをしたり、「ああん……」と喘《あえ》いでほしいのだ。

「カメラ、準備いい?」
「ぶ、らーじゃあ……」
 たかこが低い声でつぶやくように言った。
 それをジョークと思った2、3人がかすかに笑った。
「えー、それでは、宮崎を離れるジェット山中さんに今日の参加者全員からプレゼントを送りたいと思います」
 川俣さんの澄んだ声が白浜に響いた。
「ええっ、ほんとに? なんだろう」
 ジェット山中は少しとまどいの表情を浮かべ、川俣さんから小さな包みを受け取った。
「ナイフです。けっこういいナイフなんだよ」
「ありがとうございます」
「がんばれよー!」
「俺たちの事わすれんなよー!」
「身体に気をつけるんだぞー!」
 全員が拍手する中、ナイフを手にともりんさんを人質にとるジェット山中なのであった。
 感動もへったくれもないのだ。
 ナイフをそんな風に使ってはいけません。

 湿気っているから、3時くらいから火をつける準備をすればいいんじゃないか、と思っていた薪がもうすでに足りなくなっていた。
 先日、玉田さんとケンケンとで、トラックの荷台が一杯になるほどひろってきた流木があとわずかになっていたのだ。
 夜中じゅう、焚き火をするつもりなのに、もう一時間も持ちそうにもない。
「誰ですか、昼から燃やせって命令したのは」
 玉田さんの目が三角になって燃えていた。
「とうちゃん! ごめん!」
 僕は頭をかいた。
「誰がとうちゃんやねん! もう、まったく。しかたがないなあ。んじゃあ、何人かつれて山に行ってきます」
「すんません」
 おしりもかいた。
「ねえ宇佐美さん、自慢のナタを貸してくださいよう」
 そう言ってきた下唇高木に鉈サイズの大型ナイフを貸した。
「大事にね」
「はーい」
「本当に大事にね」
「ほーい」
 危険指定のおもちゃを見つけた子供のような怪しい笑みを浮かべて下唇高木はナイフをぶらぶらと振り回した。
 目の焦点が定まっていない。
 心配だ。
「おーい、いくぞっ」
 下唇高木はイイサカやアゴ出し水野と一緒に玉田さんのトラックにのりこんだ。
 うー。心配だ。

「まっ、とりあえず肉を出しましょう」
 川俣さんが言った。
 あわててジェット山中の贈呈式をしたので、肉と飲み物はまだ車の中なのだ。
「薫製もするよ!」
 もうすっかり料理長のような雰囲気の都農兄さんが、声をあげた。
「そうそう、ソーセージもあるんだ!」
「ビール、ビール!」
「リンさんの獲物は?」
「ねえよ」
「けっ!」
「カレーはまだ?」
「ご飯たけてるよ!」
「やったあー! オコゲない?」
「おれ中辛ね!」
「わたし甘口!」
「辛口もちゃんと食べてね!」
「こら! シンちゃん、カレー鍋にきたない指つっこむんじゃないよっ!」
 とたんに賑やかになった。
 空は明るい。
 とりあえず、夕食は雨にあわずにすみそうだ。

 浜で燃える薪の炎のオレンジが鮮やかになった頃、長友さんと伊東さんが到着した。
 うじゃうじゃと登場人物が増えて、読者はそれを把握するのがたいへんだろうけど、これでも割愛しているのだ。
 がんばってついてきてください。
 長身の伊東さんは台風波にがんがん挑戦する過激なサーファーだけど、外見は中学の英語の先生といったカンジで普段はじつに静かなのだ。
 ところが、その伊東さんが台風波にめむかってパドリングしている時のように興奮している。
 やべえぜ!
 シャツのボタンをポンポンと外し、「さあ、飲むぞう! もう誰も俺をとめられないぜえ」と、もうまさに臨戦態勢かくあるべきといった雰囲気である。
 黒ブチメガネがきらりとひかっちゃったりして。
 しかし、すでにビールは残り少なくなっていた。
 いったい誰が飲んだのだ。
「けっ!」
「じゃあ、わたしが買ってきましょう」
「来たばかりなのに、いいですか? 頼みます」
 伊東さんにお金をわたすと、彼はマッハのスピードで酒屋に向かって走っていった。
 さすが、我らビーチボーイズのキャプテンである。
 さっきまで、仕事をしていたインテリな長友さんは、原始人の集団と化した我々に同化するのには、まだ少し時間が必要らしい。
「ち、ちょっと怖い。マジで……」
 助けをもとめ、視線をそこら中に泳がせていた。
 しかし、助け人はいない、という非情な事実が長友さんを待っていたのだ。
 か弱いオーラは暴力を引き寄せる。
 あ、という間に長友さんは身ぐるみはがされ、穴に突き落とされたのであった。
「パンツはカンベンして」
「けっ!」

 都合がつかず参加できなかった野外生活集団「宮崎いやはや隊」のぼんち隊長と、延岡の端人さんから電話があった。
 お二人には主賓のジェット山中と電話で別れを惜しんでもらうことにした。
 ジェット山中は、砂浜に腰をおろし、うすぼんやりと見える水平線を見つめながら2つの携帯電話と器用に話している。
 キャンプが好きでたまんない、ぼんち隊長は我々の盛り上がりをしきりにうらやましがっているようだ。
 電話のまわりでは、「今すぐこい!」と、アルコールで脳をおかされた数名(含、宇佐美)がわめいていた。
「これだけ言われたら普通くるよねえ」
 釣り師リンさんが言った。
「隊長が今すぐ来ると言ってますが」
 そう言って、長友さんがウィンクしながら僕に電話をわたした。
「じゃあ待ってますので」
 静かに言って僕が電話を切ろうとすると、「うーん。うーん」便秘ぎみのデーブ・スペクターのような声で唸り続けるぼんち隊長であった。
 端人さんは、ジェット山中にプリンターの質問をしているようだ。
 それに、サービスセンターの職員のよに真剣にこたえるジェット山中。
「たんとだほい。たんとだほい。たんとだほいほいほーい」
 その横で歌い踊るあほが約二名いた。
 僕と川俣さんである。
 いつもは、冷静沈着質実剛健となりの客はよく柿食う客だ的な川俣さんもビールのせいか、焚き火の魔力に取り憑かれたのか、かなり類人猿化がすすんでいる。
 棒で鍋を打ち鳴らし、キレたチアガールのようにタオルをふりまわしていた。
「もうこいつらったら、しかたねえなあ」
 と、ペットにそそぐようななんちゅうか無償の笑顔を浮かべつつ、ジェット山中が携帯電話を我々にむけるとさらに調子にのって歌いまくる、ふたりであった。
「たんとだほい。たんとだほい。たんとだほいほいほーい」
 もちろん、「キャンプだほい」の替え歌なのだけど、端人さんは電話のむこうでどんな顔してこれを聞いているのだろうか?
「あのね。電話だけどもう切れてるよ」
 ジェット山中が静かに言った。

「そーうーれい!」
 いきなり川俣さんが焚き火を飛び越えた。
「おお、いきなり成人の儀式がはじまってしまったあるよ!」
 誰かが急速に中国人化してわめき、僕は「もんぺえとくわあ。かめらあとれびあーん」と、フランス人化すると怒濤のいきおいでカメラにむかって走った。
 薪回収班が戻り、焚き火はさらにでかくなり、夜空を焦がしつくそうとしていた。
「きききききききききききききききききき」
「うひうひうひひひひひひひひひひひひひ」
「きゃきゃきゃきききゃっきゃっきゃきき」
 声にならない、声をあげながら次々に炎を飛び越えていく、原始人ども。
 不気味である。
「こうぼうもさるのおだまりっ!」
 ああ、本日いちばんつれないヤツ、リンさんまでが飛んだあ。
 すげえぜ。
 そして、事件はおこった。
(つづく)
(初出:2002年07月)
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登録日:2010年06月01日 15時02分
タグ : キャンプ

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