
著者:宇佐美ダイ(うさみだい)
2011年夏、東京から宮崎に戻ってきました。格闘技をやってます。元カメラマンですけど、今は正義の味方の仕事をしています。いつの間にか人の心も読めるようになりました。そして趣味で浮遊しているような写真を三脚+セルフタイマーで撮ってます。林ナツミさんの写真を見て撮り始めました。反原発、反TPPです。今の殺伐とした仕事をテーマにいつか書きたいなあ、と思ってます。
エッセイ/エッセイ
ビーチボーイズ白浜に吠える(3)
[連載 | 完結済 | 全13話] 目次へ
さらに集まりつつあるビーチボーイズ。今度はプログラマの佐藤さんに64歳のボディボーダー都農兄さん。そして美青年イイサカの黄色い声が響き渡る。
■波よりビール
「おひかえなすって!」
縦縞のトランクスにアロハの前を全部あけた佐藤義行さんがナイキのビーチサンダルをパタパタ鳴らしながらやってきた。
「佐藤さん、ブギボは?」
「うひひ。今日はこれでござんす!」
ボディーボーダーの佐藤さんは、黒い顔の中で真っ白い歯をきらりと光らせると、キリン一番搾りのプルリングをぐいっとひいた。
「ひひひ。では、ちょいと失礼して……」
それをうぐうぐと一気に飲み干した。
「かー! うんめー! ここんとこ徹夜が続いていたんで、今日は飲んでくらって爆睡させていただきやす」
「プログラマーってたいへんだねえ」
「まったく不健康な商売でさあ。プログラマーやめて、グラマーな女の子を相手にうっしっしの仕事につきたいもんでさあ。あ、今のシャレね。笑っておくんなせい。ききき」
あまりおもしろくない。
佐藤さんは、もう一週間も自宅で寝ていないのだそうだ。
せっかくとれた休みも、僕とつきあうばっかりに、海辺で寝ることになってしまった。
いやはや、申し訳ない。
「と、いう事で、もう1本。宇佐美さんもどーぞ」
「お。サンキュー」
僕もうぐうぐと喉を鳴らした。
うひょうー! 人生最大の幸せここにありってカンジ。
「ところで、今日の基地はどこにするんすか」
「海の家の一番奥、炊事場の隣にしましょう」
僕は面識のない玉田さんと佐藤さんとを紹介し、三人で屋外炊事場の上に工事用の青いビニールシートで屋根を作った。
これで雨が降ってきても、調理はできる。
「おーい!」
駐車場の方からドアの閉まる音とともに野太い声が響いてきた。
デジカメのストラップを太い腕にまきつけた都農兄さんがやってきたのだ。
都農兄さんというのはもちろんハンドルである。都農に住んでいるからという理由でつけたのだそうだ。
「よーう! ひさしぶり!」
都農兄さんはさらに日焼けして精悍《せいかん》な顔つきになっていた。
「今日は波乗りするかい? ボードは車にあるぞ」
64歳の都農兄さんは、うれしそうに言った。

最近、ゲートボール人口が激減していると聞く。
ゲートボールの軍隊的ともいえるシキタリやヤクソクゴトのキビシサが敬遠されているということらしいのだけれど、そのもっとも多い理由は年輩になってもそれぞれやるべきスポーツや趣味を持っているということなのだそうだ。
ゲートボールをやる人たちには申し訳ないけれど、60代であっても都農兄さんにはボディーボードやスキーの方が似合うと思う。
ハワイでサーフィンをした時、800メートルの沖合で波と格闘しているサーファーたちの中に70代や80代の言わば超ベテラン組がいた。
その中の一人、10フィートの分厚いロングボードに跨って波待ちをしていたテンガロンハットのナットは僕のたどたどしい英語を大きく頷きながら聞いてくれ、僕が波に乗る順番を指示してくれたのだ。
ナットと彼の仲間たちを見て、いつか必ずやってくる高齢者とよばれる年に僕がなったとしても、絶対に海や山でアクティブにスポーツをしていよう、と思ったのだった。
「すぐ近くに潮騒閣ポイントがありますが、波乗りするにはちょっとおだやかすぎますね」
僕は都農兄さんに言った。
凪《なぎ》に近い。
海の中から突き出た岩の上で、1羽のカラスがのんびりと羽を休めている。
「そうそう。都農兄さんははじめてですよね。こちらの佐藤さんもボディーボーダーですよ」
「ほう。あんたもやるの」
都農兄さんは、胸の中にボードを抱く仕草をしてみせた。
「いや、いや、今日はこれでござんす」
佐藤さんは、水滴のたっぷりついたキリン一番搾りを持ち上げた。
「波よりビールか。そうか、残念だな」
「そして、こちらが玉田さん」
やや顔を伏せ気味の玉田さんを、都農兄さんに紹介した。
玉田さんは、まだ会ったこともない都農兄さんをネタにからかうような事を『宮崎会議室』に書いていたので、居心地の悪い顔をしていたのだ。
「おお! あーんたが玉田さんか!」
都農兄さんが声をはり上げた。
「いや……。そのせつは……。えっと……。いつも失礼な事ばかり書いて……」
玉田さんは頭をかき、僕はその隣でおしりをかいた。
『宮崎会議室』では傍若無人の玉田さんも、都農兄さんを前にすると股間に尻尾を丸めこんだチワワのようだ。
実はこの2人の対面を一番心配していのだけど、都農兄さんの気迫勝ちって事で無事一件落着した。
本日の風紀班長は、都農兄さんにお願いする事にした。
若い男女を含む大勢が海で一泊するのだから、淫らな事があってもおかしくない。
しかし、清く正しく美しくをテーマにやってきた、まあどっちかというと硬派な『宮崎ビーチボーイズ』でそういう事があってはならんのである。
けしからん事をするヤツは、容赦なく都農兄さんに裁いてもらう事にした。
「ところで、浜で遊んでいるカップルは誰と誰だ?」
たちまち風紀班長の顔になった都農兄さんは、アゴだし水野とイイサカを指さした。
「都農兄さん。あれは2人とも男ですよ」
「え! ほんとか?」
都農兄さんは、目を大きく見開いて、アゴだし水野とイイサカを見つめなおした。
その時、イイサカの黄色い声が、浜に響いた。
「いやーん!」
「おひかえなすって!」
縦縞のトランクスにアロハの前を全部あけた佐藤義行さんがナイキのビーチサンダルをパタパタ鳴らしながらやってきた。
「佐藤さん、ブギボは?」
「うひひ。今日はこれでござんす!」
ボディーボーダーの佐藤さんは、黒い顔の中で真っ白い歯をきらりと光らせると、キリン一番搾りのプルリングをぐいっとひいた。
「ひひひ。では、ちょいと失礼して……」
それをうぐうぐと一気に飲み干した。
「かー! うんめー! ここんとこ徹夜が続いていたんで、今日は飲んでくらって爆睡させていただきやす」
「プログラマーってたいへんだねえ」
「まったく不健康な商売でさあ。プログラマーやめて、グラマーな女の子を相手にうっしっしの仕事につきたいもんでさあ。あ、今のシャレね。笑っておくんなせい。ききき」
あまりおもしろくない。
佐藤さんは、もう一週間も自宅で寝ていないのだそうだ。
せっかくとれた休みも、僕とつきあうばっかりに、海辺で寝ることになってしまった。
いやはや、申し訳ない。
「と、いう事で、もう1本。宇佐美さんもどーぞ」
「お。サンキュー」
僕もうぐうぐと喉を鳴らした。
うひょうー! 人生最大の幸せここにありってカンジ。
「ところで、今日の基地はどこにするんすか」
「海の家の一番奥、炊事場の隣にしましょう」
僕は面識のない玉田さんと佐藤さんとを紹介し、三人で屋外炊事場の上に工事用の青いビニールシートで屋根を作った。
これで雨が降ってきても、調理はできる。
「おーい!」
駐車場の方からドアの閉まる音とともに野太い声が響いてきた。
デジカメのストラップを太い腕にまきつけた都農兄さんがやってきたのだ。
都農兄さんというのはもちろんハンドルである。都農に住んでいるからという理由でつけたのだそうだ。
「よーう! ひさしぶり!」
都農兄さんはさらに日焼けして精悍《せいかん》な顔つきになっていた。
「今日は波乗りするかい? ボードは車にあるぞ」
64歳の都農兄さんは、うれしそうに言った。

最近、ゲートボール人口が激減していると聞く。
ゲートボールの軍隊的ともいえるシキタリやヤクソクゴトのキビシサが敬遠されているということらしいのだけれど、そのもっとも多い理由は年輩になってもそれぞれやるべきスポーツや趣味を持っているということなのだそうだ。
ゲートボールをやる人たちには申し訳ないけれど、60代であっても都農兄さんにはボディーボードやスキーの方が似合うと思う。
ハワイでサーフィンをした時、800メートルの沖合で波と格闘しているサーファーたちの中に70代や80代の言わば超ベテラン組がいた。
その中の一人、10フィートの分厚いロングボードに跨って波待ちをしていたテンガロンハットのナットは僕のたどたどしい英語を大きく頷きながら聞いてくれ、僕が波に乗る順番を指示してくれたのだ。
ナットと彼の仲間たちを見て、いつか必ずやってくる高齢者とよばれる年に僕がなったとしても、絶対に海や山でアクティブにスポーツをしていよう、と思ったのだった。
「すぐ近くに潮騒閣ポイントがありますが、波乗りするにはちょっとおだやかすぎますね」
僕は都農兄さんに言った。
凪《なぎ》に近い。
海の中から突き出た岩の上で、1羽のカラスがのんびりと羽を休めている。
「そうそう。都農兄さんははじめてですよね。こちらの佐藤さんもボディーボーダーですよ」
「ほう。あんたもやるの」
都農兄さんは、胸の中にボードを抱く仕草をしてみせた。
「いや、いや、今日はこれでござんす」
佐藤さんは、水滴のたっぷりついたキリン一番搾りを持ち上げた。
「波よりビールか。そうか、残念だな」
「そして、こちらが玉田さん」
やや顔を伏せ気味の玉田さんを、都農兄さんに紹介した。
玉田さんは、まだ会ったこともない都農兄さんをネタにからかうような事を『宮崎会議室』に書いていたので、居心地の悪い顔をしていたのだ。
「おお! あーんたが玉田さんか!」
都農兄さんが声をはり上げた。
「いや……。そのせつは……。えっと……。いつも失礼な事ばかり書いて……」
玉田さんは頭をかき、僕はその隣でおしりをかいた。
『宮崎会議室』では傍若無人の玉田さんも、都農兄さんを前にすると股間に尻尾を丸めこんだチワワのようだ。
実はこの2人の対面を一番心配していのだけど、都農兄さんの気迫勝ちって事で無事一件落着した。
本日の風紀班長は、都農兄さんにお願いする事にした。
若い男女を含む大勢が海で一泊するのだから、淫らな事があってもおかしくない。
しかし、清く正しく美しくをテーマにやってきた、まあどっちかというと硬派な『宮崎ビーチボーイズ』でそういう事があってはならんのである。
けしからん事をするヤツは、容赦なく都農兄さんに裁いてもらう事にした。
「ところで、浜で遊んでいるカップルは誰と誰だ?」
たちまち風紀班長の顔になった都農兄さんは、アゴだし水野とイイサカを指さした。
「都農兄さん。あれは2人とも男ですよ」
「え! ほんとか?」
都農兄さんは、目を大きく見開いて、アゴだし水野とイイサカを見つめなおした。
その時、イイサカの黄色い声が、浜に響いた。
「いやーん!」
(つづく)
(初出:2002年05月)
(初出:2002年05月)
登録日:2010年05月31日 20時38分
タグ :
キャンプ
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