騒人 TOP > エッセイ > エッセイ > ビーチボーイズ白浜に吠える(4)
宇佐美ダイ
著者:宇佐美ダイ(うさみだい)
2011年夏、東京から宮崎に戻ってきました。格闘技をやってます。元カメラマンですけど、今は正義の味方の仕事をしています。いつの間にか人の心も読めるようになりました。そして趣味で浮遊しているような写真を三脚+セルフタイマーで撮ってます。林ナツミさんの写真を見て撮り始めました。反原発、反TPPです。今の殺伐とした仕事をテーマにいつか書きたいなあ、と思ってます。
エッセイ/エッセイ

ビーチボーイズ白浜に吠える(4)

[連載 | 完結済 | 全13話] 目次へ
高校生にしかみえない子供が二人いるともりんさん、キャンプに必須のカレーを調理。が、純情可憐なともりんさんがバッグから取り出したものは……。
■早乙女愛的陰陽石ともりん

「あ。高校生が二人歩いてくる」と、思ったら、ともりんさんとお友達のあきよさんだった。
 二人とも十代で十分に通用すると思う。
 テーマパークや映画館に行っても高校生料金で入れるかもしれない。
 特に、ともりんさんは子供が二人もいるヒトにはとても見えない。
 ホンモノの女子中学生や高校生が年々ケバくなっていくのに、ともりんさんはますます純粋無垢の――たとえていえば早乙女愛化(古い?)しているのだ。
 たちまち、硬派な『宮崎ビーチボーイズ』代表の宇佐美ダイは、クラゲになってへらへらうへうへするのであった。
「いらっしゃーい」
「宇佐美さんご注文のカレー作りましたよ!」
 ともりんさんは、どうですかっ! と、僕に鍋を差し出した。
 ともりんさんに「甘口カレーを作るように」と、メールで指令を送っていたのだ。
「わあ、ありがとうございます。おいしそうですね」
「鍋の中が見えるんですか?」
「いや、香で」
 僕は鼻がきくのだ。
 それも大好物のカレーには特に敏感になる。
 予備校時代に通っていたメシ屋では何ヶ月もカレーばかり食べていたので、その店の女の子から「カレーにいちゃん」というあだ名までつけられてしまったほどなのだ。
 某カレー専門店の1,300グラムカレーにも挑戦して、勝利している。
 ついでだから書いてしまうけど、いつもその店で食べているカレーと大食い用のカレーとは味が違うような気がしたのだけど、ホントのところはどうなんだろう。
 自宅でカレーを作るといつも10皿ほど食べているから楽勝だろう、と思っていたのだけどそうでもなかったのだ。
「一粒でも残したら、料金をいただきます」
 眉を剃ってヒステリックな表情になってしまっているウェイトレスは重々しくそう言いいながら、特大カレーとタバコ箱サイズの時計を僕の前に並べた。時計が小さく見える。
「制限時間は20分です。食べ始める時に時計のボタンを押してください」
 なんだか、時限爆弾のようだなあ。
「おしっ」
 僕はすぐに時計のボタンを押すと、でかいカレーにスプーンを差し込んでそれを勢いよく口に運んだ。
「あちっ!」
 思わず、叫んでしまった。
 失敗した、と思った。
 かなり熱いのだ。
 成功させないためにわざと極熱熱的カレーを出してきたのじゃないか、と僕はウェイトレスの背中を睨んだ。
 いやはや。
 少し冷ましてからボタンを押すべきだった。
 でも、もう押してしまったのだからしかたがない。
 がんがん食った。
 しかし、何故かおいしくないのだ。
 この店のカレーは、バナナカレーをのぞいて、おかわりをしまくるほど好きなのに、今日のはゲロまずなのだ。
 5分以内で食べ尽くす予定だったのに、15分経過しても半分以上残っている。
 喉が拒否してくるのだ。
「うぐっ……」
 僕は口をおさえた。
 こんなところでもどしたら、最悪だ。
 水に頼ることにした。
 大食い挑戦なのに味を楽しもう、と思った僕がバカだった。
 流し込み大作戦である。
 どばっ、と口に入れて、どどっと水で流し込む。
 どはっ、どどっ。
 どばっ、どどっ。
 ひいひい。
 どばっ。どどっ。
 ひいひい。
 どばっ、どどっ。
 かちゃ、かちゃ、かちゃ、かちゃ、どばっ。
 スプーンでわずかに残ったご飯をかき集めて口におしこんだ。
 ふぅ。
 ため息をついた。
「食ったぞっ」
 冷めた目で僕が不正をしないか見ていた、眉剃りウェイトレスにむかって手をあげた。
 残り時間1分だった。
 やばかった。
 辛かった。
 食とは芸術でありスポーツではない、と悟った。
 これからは、カレーとも清く正しく美しくふつーにおつきあいしたい、と深く反省し、翌日、同店で『納豆カレー普通サイズ』を食べたのであった。
 さて、とにかく、今日の主食はカレーなのだ。
 僕は辛口を作ってきた。
 ともりんさんのカレーは白く可愛いおなべに入っているけれど、僕のカレーは学校給食的黄金色の鍋だ。
 もうすでに見た目で負けているじゃあないか。
「ううん。見た目より中身が大事よ!」
 なあんてよく聞くけれど、あれは真実じゃない。慰《なぐさ》めの言葉なのだ。だって、なんだかんだ言ったって世の女性の多くは関取系やドリフ系よりジャニーズ系やグレイ系を選ぶじゃないですか。カレーだって、きっとそうに違いないのだ。
「きぃー」と、心の中でハンカチを噛みつつ、鼻の穴おっぴろげて大きく深呼吸、も一度ともりんさんの鍋の中の香を嗅《か》ぐ。
 ホント、いいにおいだ。
 また、おなか虫が泣き始めた。
「おい。おなかすいてきたな」
 都農兄さんも、目を細め腹をさすった。
「ええ。もうさっきからぐうぐう言ってますよ」
「よし。わかった。飯を炊く準備を始める」
「いいんですか」
「いいってことよ。浜のカップルに手伝ってもらってもいいかな」
「だから、あれは男二人で……」
「え! 私もカップルと思った!」
 ともりんさんの大きな目が、さらに大きくなった。
「おおい、そこのカップルー!」
 都農兄さんが、浜で遊んでいるイイサカとアゴだし水野に声をかけた。
「あのね、都農兄さん……。ま、いいか……」
 炊事場に、二つの鍋が並んだ。
 人それぞれカレーには好みがあるから、二種類のカレーを用意しようと思い、ともりんさんに頼んだのだけど、好みはどう分かれるのものだろう。
 先日、会社で岩下りえちゃんに「辛口カレーと甘口のどっちが食べたい?」と、聞いてみた。
 ところが、なんと彼女は「中辛」と、こたえたのだった。
「へ?」
「ちゅーからーがいいー!」
「うむむむ」
 二択の質問をして、三つ目のこたえを口にするとは敵ながらあっぱれじゃ。
 僕は、ひとしきり唸《うな》り、『宮崎会議室』のボードリーダーでボディボーダーの川俣ジュンジさんに「すいませんけど、中辛カレーを作ってきてください」というメールを送るのであった。
「宇佐美さんのカレーもいい香ですね」
 ともりんさんがにっこり笑った。
 肩までのまっすぐな髪が潮風に揺れている。
 純情可憐という言葉がぴったりの笑顔だ。
「きっと、下ネタとは無縁のヒトなんだろうなあ」
 と、へらへらしつつともりんさんの横顔を見ていたら、
「あ、そうそう、これ小林で買ってきました」
 と、ともりんさんはバックの中から菓子箱を取り出した。
「これは? もしかして……」
「ええ、そのもしかしてです」
「あ! やっぱり! 陰陽石まんじゅう!」
 宮崎自動車道小林インターチェンジから25分びゅーんと車で走り、陰陽石バス停から、西へ約300メートルとっとこ歩くと浜の瀬川に出る。そのド真中に、どどーんとそそり立っているのが、有名な陰陽石である。
 美女に見ほれた竜が天から降りてきたという伝説もあり、別名、竜岩、夫婦岩とも呼ばれいる陽石の高さはなんと17.5メートル、陰石の周囲は5.2メートルで、そのものずばりの姿形をしている。
 さらに、これが自然石であることから、世にもまれなる奇岩として知られているのだ。
 ここを訪れた野口雨情も、あまりの立派さに二の句がつげず、「浜の瀬川には二つの奇石、人にあ言うなよ語るなよ」と詠んだのだそうだ。
 以前、『大淀川百科』という本のために大淀川周辺の建物や自然を撮影したことがある。
 もちろん、ここも撮影した。
 たいこ橋の全景を撮影できる場所をさがそうと、崖をロープを使っておりていたら、ロープが切れて転落してしまったという痛い思い出のある場所なのだ。
 背中から落ちた僕は、しばらく息ができず、でかい陰陽石を地面から見上げながら奥歯を噛みしめていた。
 話が長くなってしまったけど、まあ、つまり、早乙女愛的ともりんさんが差し出したものは、おちんちんと女性のナニの形をしたおまんじゅうなのである。
「どうですか?」
 ともりんさんは、微笑みを浮かべて首をかしげた。
 どうですか、と言われてもなあ……。
 僕は、ナニの形をしたおまんじゅうを手に当惑するしかなかった。
(つづく)
(初出:2002年05月)
登録日:2010年05月31日 21時15分
タグ : キャンプ カレー

Facebook Comments

宇佐美ダイの記事 - 新着情報

  • Christmas Wave 宇佐美ダイ (2010年06月09日 13時51分)
    前田隆史は、キャラバンを冬の海の海岸に乗り入れた。幼なじみの裕美が声をあげる。フリーカメラマンの前田が撮った女の子は、必ずオーディションに受かるという。写真を撮り終えて車に戻った裕美は、思わぬ告白をする。(小説現代
  • 加速するリビドー 宇佐美ダイ (2010年06月09日 13時44分)
    射精した瞬間、オカズにしていた沙織本人がベットに落ちてきた。彼女に覆い被さったところで何故かAV女優森高あすかを思い出し、またも放ってしまう。すると今度は森高あすかがベットの上に落ちてきたのである。超能力を手に入れた主人公は、その能力を自由自在に扱えるようになるために鍛錬し……。(小説ファンタジー
  • いにしえ 宇佐美ダイ (2010年06月07日 22時15分)
    「代わりに見てきて!」と頼まれ出かけた先は、出雲大社の大社境内遺跡だった。カップルやラジオの生番組をかわしながらずんずんすすむおじさんが出会った携帯電話を握りしめる女の子。淡々とした優しさが感じられる宇佐美エッセー。(エッセイ紀行文・旅行

宇佐美ダイの電子書籍 - 新着情報

  • LeLeLa 宇佐美ダイ (2013年02月22日 19時13分)
    渋谷の喫茶店『スピード』店長で、身長185センチ、握力は100キロを超える北島は頭の中に響き渡る“声”に悩まされていた。狂気の男に襲われる女を助けた北島は、そこで心の力を形にする不思議な力『LeLeLa』に目覚める。しかし、その力は人肉を喰らう吸血鬼――女を襲った津山にも伝染していた。空中に浮かび、信じられない速度で移動する吸血鬼たちは、社会の中に紛れ込み、不可解な殺人事件を起して世界をパニックに陥れようとしていた。炎の『LeLeLa』を駆使する津山に対し、細胞を崩す力を得た北島は鬼と化す。身長203センチのヤクザ、鳴海と協力して吸血鬼の一掃を目指すが……。凄まじい拳と想いが炸裂する伝奇アクション登場! (小説ホラー

エッセイ/エッセイの記事 - 新着情報

  • 川内村ざんねん譚(11) 西巻裕 (2017年07月30日 15時57分)
    田舎暮らしと都会暮らしではプライバシーの考え方にずいぶんと違いがある。田舎では何でもお見通しで、一見さんにはちょっと考えられないようなことまで筒抜けなのだ。まるでヌーディストクラブのような田舎の気持ちよさにあなたは浸れるだろうか!?(エッセイエッセイ
  • 吾輩は司書である(29) 麻梨 (2017年04月19日 16時47分)
    外面はスペックの高い女子二名。ひとりは腐女子でもうひとりはダブルパンツ。見抜けるモノはそうざらにはおるまい……。人は見かけによらないというお話。(エッセイエッセイ
  • 川内村ざんねん譚(10) 西巻裕 (2017年01月19日 11時15分)
    東日本大震災を知らずに逝ったアサキさんを偲び、川内村の人間関係や生活を綴る。(エッセイエッセイ

エッセイ/エッセイの電子書籍 - 新着情報

  • 吾輩は女子大生である 麻梨 (2014年07月19日 15時04分)
    女子大生、麻梨の日常と就活、就職までを記した悪ノリエッセイ22編。下着ドロにあった友人とその後の行方、理解してもらえない趣味など日常のあれこれに始まり、企業説明会、「お祈りメール」こと不採用通知について、「私服でお越し下さい」という面接などの就活エッセイも。「初めて人にいうんだけどさ」と前置きされて、なぜか性癖をカミングアウトする友人たち、人泣かせの彼女たちを潜りぬけ、見事、内定をつかめるか麻梨!(エッセイエッセイ
  • 作家の日常 阿川大樹 (2014年03月29日 20時06分)
    「D列車でいこう」「フェイク・ゲーム」などの著作で知られる人気作家、阿川大樹氏のエッセイ「作家の日常」。オンラインマガジン騒人で連載されていた当作品に、第0回「小説家の誕生と死」――小説家になる前のエピソードを加えて再編集しました。小説家に必要な資質、仕事場・道具、編集者とのつきあい、印税と原稿料についてなど職業作家の日常を赤裸々に告白。氏のファンだけでなく、小説家を目指している人や作家という職業に興味のある方にもオススメのエッセイです。(エッセイエッセイ
  • ワールドカップは終わらない 阿川大樹 (2010年06月13日 17時23分)
    熱狂と興奮の中で幕を閉じた2002FIFAワールドカップ。日韓同時開催のワールドカップとして記憶にも新しい。ジャーナリスト/エッセイストの阿川大樹が1年半の取材と20日間のボランティア、5試合のスタジアム観戦を通じ、舞台裏、客席、オフィスや街…、多角的な視点で「事件」としてのワールドカップを描く。
    価格:315円(エッセイエッセイ

あなたへのオススメ