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宇佐美ダイ
著者:宇佐美ダイ(うさみだい)
2011年夏、東京から宮崎に戻ってきました。格闘技をやってます。元カメラマンですけど、今は正義の味方の仕事をしています。いつの間にか人の心も読めるようになりました。そして趣味で浮遊しているような写真を三脚+セルフタイマーで撮ってます。林ナツミさんの写真を見て撮り始めました。反原発、反TPPです。今の殺伐とした仕事をテーマにいつか書きたいなあ、と思ってます。
エッセイ/エッセイ

ビーチボーイズ白浜に吠える(6)

[連載 | 完結済 | 全13話] 目次へ
今回の生贄は誰か!? 著者の視線に顔を伏せるビーチボーイズ。選ばれたのはシン。彼はいやがる素振りも見せず、砂浜に埋められた。縦に……。
■生け贄《いけにえ》はだれなのよー

「そろそろだから、ね? いいだろう……? むふふ」
 僕は炊事場であわただしく準備をしていたジェット山中の腕を軽くひっぱった。
「え? なんでオレなんですか?」
 ジェット山中は、目を点にした。
 僕の中で、今日の生け贄はジェット山中と決めていたのだ。
 あいかわらず自己中心的な考え方だなあ、これじゃあいかんよなあ、と思いつつ、さらにジェット山中の腕をひっぱる。
「い、いやですよ。陸上使用だし」
 ジェット山中は、僕の手をふりほどいた。
 ジェット山中はジーンズにスニーカーだけど、それがなんなのさ。
 以前、その姿で一緒に泳いだこともあるじゃないか。
「かまわない。車の中には僕の海パンがあります」
「いや。汚い。汚らわしい……」
 そこまで言わなくても。
 うーん、まあ、とにかく、意志は堅いようだ。
「んじゃ、つーつーれろれろ……」
 僕はあたりを見回した。
 さささっ。
 そんな僕の視線をさえぎるように、ある者はマナイタで顔を隠し、またある者は震える手で十字架をかざし、みんなフナムシのように素早く移動するのであった。
 さっき到着した、初参加で穴の存在すら知らないタカコまでもが、危険を察したのかフナムシになっていた。
「しょうがねえなあ」
 僕は頭と尻をかいた。
 ピーチボーイズのメンバーは、前回のお倉ケ浜オフで埋められた川俣ジュンジさんの悲惨《ひさん》な姿を見ている。
 縦穴にすっぽり埋められて首だけを出していた川俣ジュンジさんは、小学一年生のシュンくんのいいおもちゃになってしまったのだ。
「はーい、シャンプーしましょうね」
 と、砂で髪を洗われ、鼻の穴の中にはいろんなモノをつっこまれた。
「穴に入れられた上に穴につっこまれるなんて……」
 後日、川俣ジュンジさんが涙ながらに語ってくれた。
 みんな生け贄をいやがって当然だよね。
 じゃあ、何故やるか?
 そりゃあ、埋められる本人以外、みな楽しいからである。
 ぴた。
 視線が絡《から》みあった。
「ふふふ。来なさい。ビーチボーイズなんだから、海パンくらい持ってるよね」
 僕は、優しく彼の肩を抱いた。
 油を買いに走ってくれたシンだ。
 恩を仇《あだ》で返す最悪な宇佐美。
 ところが。
「はい」
 と、淡々とこたえるシンは、いやがる様子も見せず、いや、むしろ胸の奥深くからわき上がる興奮と喜びをわさわさわさわと顔面に浮き上がらせていたのである。
「はあ……。深いんですねえ……」
 穴をのぞきこんだ陰陽石まんじゅうのともりんさんがためいきをもらし、下唇高木が脳天気な音色のオナラをもらした。
 お倉ケ浜の砂の中に、川俣ジュンジさんは中腰状態で埋められたけど、シンの穴は完全直立でOKだ。
 もしかしたら、顔まで埋まってしまうかも。
「こわい……」
 イイサカがつぶやいた。
「大丈夫だよ」
 僕がついているよ、といわんばかりの力を声と拳にこめてアゴだし水野が言った。
 しつこいかもしれないけど、イイサカは男である。
「それでは、入ります」
 シンは、都農兄さんに助けられつつゆっくり穴に入っていった。
 あれれ……。
「顔がでません……」
 シンが情けない顔で僕たちを見上げた。
 深く掘りすぎたようだ。
 このまま砂を入れていったら、生き埋めになってしまう。
「埋めちゃえ! けっ!」
 ノンベのけいこが、吐き捨てるように言った。
「かわいそうよ」
 陰陽石まんじゅうのともりんさんが、ぶるんぶるんと首を振った。
「バレリーナーでいけ! けっ!」
「おお、なるほど」
「それでは、シンちゃん、爪先立ちでお願いします」
「は。やってみます。足がつらないうちに砂を入れてください」
「わかった。君の気持ち無駄にはせん。みなさん……。砂をお願いします……」
 僕は、厳《おごそ》かに言った。
 みんな幸せそうな笑顔を浮かべながらスコップで砂をかけ、僕は薄ら笑いをしつつニコンF4のシャッターを切る。
「ひひひひひひひ」
「へっへっへっ」
「ふふふふふふふ」
「けけけけけけけけけ」
 毎度のことながら、ちょっと異常な風景かもしれない。
「ちょっとこのへんを固めてください」
「よござんす」
 佐藤さんがビーチサンダルでとんとんと首のうしろの砂を固め、ロングスカートを靡《なび》かせながらタカコは無言でビデオを回し、超ローアングルのシンはそのスカートの中をじっと見つめていた。

「完成です!」
 ついに、シンは、砂の上に首だけを出すという姿になった。
 まるで、さらし首のようだ。
「殺風景だから……」
 下唇高木がシンの顔の前に火のついたタバコをたてた。
 ますます寒々とした風景になった。
 そんなシンを中心にすばやく記念撮影。
「すいません! タバコをくわえさせてください!」
 シンが突然叫んだ。
「そうか、そうか。立てたタバコを口にくわえたいんだねえ」
「ちがう、ちがう! 火のついてないやつ!」
 砂の上に顔だけを出したシンは、まっさらなタバコをくわえそれを立てられたタバコにむかってぐぐっとのばしている。
 その行為にいったいどんな意味があるのかわからないけど、あとわずかで届かないという、ぎりぎりの状態がうすらおかしい。
 ド!
 そこにいた全員が大爆笑をした。
 シンの真剣な表情がさらに笑いを誘った。
 それでも、なんとかタバコに火をつけ、シンは満足そうな笑顔でみんなを見上げるのであった。
「よかったわあ」
 目頭に人差し指をあてて見ていた陰陽石まんじゅうのともりんさんが拍手をすると、「そうね、感動べりーまっち」と、あきよさんも拍手した。
「くー、なかせるねー」
 と、佐藤さんも手を打った。
「まあね。けっ!」
 みんな感動していた。
 何事かと覗きに来た一般人までもが拍手をしている。
 拍手は続くよどこまでも、と思った、その時。
「それじゃ、記念撮影も終わったことですし」
 と、川俣ジュンジさんがさわやかに言った。
「そうね。腹もへったから」
「あきちゃったしね」
「けっ!」
「基地にもどろう」
「そうしましょう、そうしましょう」
 ほんとうにシンだけを残し、全員引き上げてしまった。
「あのう……」
 シンがつぶやいた。
「えー、もしもし」
 その時、固い砂がシンの右の頬を思いっきり叩いた。
「とーさんにもぶたれたことないのに……」
 アムロ化したシンがいた。
(つづく)
(初出:2002年05月)
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登録日:2010年05月31日 21時28分
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