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宇佐美ダイ
著者:宇佐美ダイ(うさみだい)
2011年夏、東京から宮崎に戻ってきました。格闘技をやってます。元カメラマンですけど、今は正義の味方の仕事をしています。いつの間にか人の心も読めるようになりました。そして趣味で浮遊しているような写真を三脚+セルフタイマーで撮ってます。林ナツミさんの写真を見て撮り始めました。反原発、反TPPです。今の殺伐とした仕事をテーマにいつか書きたいなあ、と思ってます。
エッセイ/エッセイ

ビーチボーイズ白浜に吠える(7)

[連載 | 完結済 | 全13話] 目次へ
埋められたシンは忘れ去られ、ビキニとおるが海中から捕ってきたイセエビに盛り上がる。ジェット山中との出会いに思いふける著者。はて、なにか忘れているぞ……?
■シンはどうした

 ビキニとおるが、無事海中から生還した。
 しかも、元気にはねる獲物を右手にぶらさげて。
「ガビーン!」と、顎《あご》が砂浜に届きそうなほどに口を開けてそれを見つめる釣り師リンさんのわきをぬけ、のっしのっしとビキニとおるは基地に戻ってきた。
「なんだ、なんだ、すげえなあ……」
 アゴだし水野が、かすれた口笛でビキニとおるを出迎えた。
「もーしかしたら、イセエビ?」
 イイサカが、うれしそうな声をあげた。
「そうっすよ」
「でも、マズくない。だって、漁業権が……」
「大丈夫っすよ。オレ持ってるから」
「へえー!」
 全員が感嘆の声を上げた。
「茹《ゆ》でる?」
 ジェット山中がラテンのリズムで鍋を叩いた。
「いやあ、刺身でしょう!」
 今日はまだ成果のない釣り師リンさんがカン高い声で提案すると、メンバー全員が同情と博愛に満ちた声ですぐに同意した。
「一匹だけで申し訳ないけど……」
 ビキニとおるは、岩下りえちゃんから青いスポーツタオルを受け取りながら言った。
「いやあ、りっぱなもんだよ、なあ!」
 一匹も釣れないリンさんが言うと説得力がある。
「うむうむ」
 一同、同情と博愛に満ちたまなざしで素早くうなずいた。
 すぐにイセエビは、ビキニとおるによってサバかれ、マナイタにのっかって我々の目の前に登場した。
 うーん。やっぱり、この人数には足りないかもしれない。
「アミダクジで決めましょう」
 ジェット山中が、ショルダーバックからノートを取り出した。
「誰があみだばばあやねん、けっ!」
「けいこさん、それ古すぎ」
「しかも、なぜ関西弁?」
「けっ!」
 うーん。
 ジェット山中が全部食べてくれてもいいのになあ、と思った。
 僕がジェット山中に知り合ったのは、1993年のことだった。
 当時僕はパソコン通信ニフティサーブのFBOOKというフォーラムで作家、水城雄さんに、同じ志を持つ仲間とともに容赦なくシバかれていた。
 そして、その集大成というべき単行本『小説工房』が青峰社より出版されたたのだった。
 ちなみに現在超売れっ子作家の田口ランディさんも仲間の一人で、単行本『小説工房』には彼女の作品『強い風、短い帰省』も載っている(ランディさんも僕もこの時のペンネームは本名だ)。
 パソコン通信上で書かれたモノが本になるという事でいろんなマスメディアに取り上げられ、『小説工房』は「もう、なにがなんでもやったるけんね! もうどうなってもしらんよー!」と、四方八方に塩をまきまくりさらに豪快に四股を踏みつつ本格的な活動をおこそうとしていた。
 熱情舞い上がり男故若干興奮気味となってしまった僕は単行本『小説工房』の宣伝メールを宮崎在住のニフティ会員に送りまくった(やってはいけない事だったらしい)。
 そんな失礼なメールに純にこたえてくれ、単行本『小説工房』を購入してくれたのがジェット山中だった。
 ある夏の夜、僕はこの白浜にいた。
 本庄保育所のキャンプの撮影をしていて、今日のオフにも参加してくれている副園長の井上優先生もオンボロマイクを片手に雄叫びをあげていた。
 焚き火が勢いよく燃え上がる中、保育所の子供たちはオレンジ色の輪になって踊り歌い、僕は深い闇をバックに先住民族合唱団のような声で「おらおら!」と叫びまくっていた。
 ふと、流木に腰掛けてこっちをじっと見つめている男に気づいた。
 その時、近くのテントの住人が打ち上げ花火を上げた。
 やや頼りない乾いた音とともに夜空に小さな花が咲き、オレンジ色の男の両目は不気味に光った。
「ぎゃ! 宇宙人!」
 身構えながらよく見ると、男はメガネをかけていたのだった。
「はじめまして」
 宇宙人がしゃべった。
 ジェット山中だった。
 まあなんというか原始的な出会いではあった。
 そのジェット山中が東京に転勤しちゃう、という話しを聞いた時、もうこれは思い出の白浜でキャンプをするしかない、と水面下で計画をすすめていたのだ。
 別れの寂しさを、めちゃくちゃ楽しいキャンプで少しでも隠したい。
 そんな私的感情のこもったかなり強引なキャンプ計画だったけど、みんなけっこう楽しんでくれているようだ。
 主賓ジェット山中が作ってくれたペペロンチーノは、脳天直撃のうまさだ!
 都農兄さんの卵スープも最高!
 タカコがまぜる(だけ)ヤキソバもいけるぜ!
 ビキニとおるの伊勢エビが当たって幸せー!
 えーっと、えーっと……。
 あれ、何か忘れているぞ。
 あ、そうだ。
 シンがそのままだ。
「なあ。もう出してあげようよ」
 都農兄さんがアゴで砂浜をさした。
 しまった!
 かー! すっかり忘れていたぜっ!
 そう言えば、お倉ケ浜に縦埋めされた川俣ジュンジさんを救出したのも都農兄さんであった。
 荒くれメンバーの多い宮崎ビーチボーイズが三面記事などに載ったりしないのも、都農兄さんがうまく手綱《たづな》を引いてくれているからかもしれない。
 それにしても、シンは大丈夫だろうか。
「世間は冷たいねえ……」と、孤独感に打ちひしがれ、もしかしたら、首謀者である僕の事を呪っているかもしれない。
 砂浜におりた僕は、さらし首状態のシンの後ろからそっと近づいた。
「はにらほらしょーぴんかりおいしょー、らまへんがとらえばー」
 何か呪文のようなモノを唱えている。
 がーん。
 やっぱり僕の事を呪い殺そうとしているのだ!
「シンちゃん、ごめん!」
 僕は、さらし首のシンの前に座りおでこを砂にこすりつけた。
「へ? 何が?」
「だって、ずっと埋めたままで……。それに、今、なんか呪文唱えていたでしょう?」
「呪文?」
「ほにょらーほにょらー、って」
「ああ、歌を歌ってました。サイモンとガーファンクルですけど」
「え? もう一度歌ってみて」
「いいですよ。はにらほらしょーぴんかりおいしょー、らまへんがとらえばー」
「うー、わからん。と、いうか、音程がないじゃないか」
「そうですか?」
「そろそろ出ますか?」
「あー。いやー。別にこのままでもいいですよ。意外と居心地いいし。なんちゅうか、砂の中ってじわりとあったかで温泉にはいっているようなカンジなんですよ。しばらく入ってればダイエットできるかなあ、なんて思ってました」
「まあ、でもメシを作ってますから」
「ここに持ってきて食べさせてください。あ、でも、宇佐美さんは拒否します。断固、女性を複数名希望します。複数名ですよ!」
「はいはい。もうわかりましたから、とっととそこから出てください」
「ちぇ」
「ひとりで脱出できますか?」
「やってみます」
 シンはホッペタをふくらませ、砂浜で身体をくねらせた。
 なんかサーカスの縄抜け脱出ショーを見ているみたいで、ちょぴり幸せな気分だ。
「あ、少し動きますね」
 川俣ジュンジさんを埋めた時は若干海水で固めたので、川俣さんは微動だにできなかった。
「でも、足首がひっかかって……」
 シンは苦しそうにもがいた。
「よし!」
 いつの間にか僕の隣に立っていた、柔道でつぶれた耳と綱引きで象の尻並みに固くなった掌と真珠の入ったナニを持つサーファー、ふとんのまつおかさんが、腕まくりをした。

「手伝うよ」
 心優しき太腕男、日向夏さんも、シンの腕をもった。
「いててててて」
 シンが顔をしかめる。
 ひっぱるだけじゃ、だめみたいだなあ。
「これ使えないかなあ」
 リンさんが釣り竿を持ってきた。
「……」
 一同、同情と博愛に満ちたため息をつきつつ首を横に振った。
「ナニが楔《くさび》のようにひっかかって……。エヘ、へへ」
 シンがうれしそうに頭をかいた。
「嘘こけ!」
 ブーイングの嵐がおこった。
「しかたがないなあ、川俣さんの時のように掘りかえしましょう」
「いえ、だしょうぶです。やってみます。でも、パンツが……」
 その時、ともりんさんがやってきた。
「なになに?」
「いえ、パンツが脱げて丸だしになっちゃうそうですよ」
「ふーん」
 と、言いつつともりんさんはさらに三歩前に出たのであった。
 さすが、陰陽石。
「シンちゃん、はーい、ラストシーンいきますよ」
 半ケツ状態になりながらもなんとか脱出できたシンの砂まみれの肩を叩き、僕は映画監督のような声をあげた。
 横ではタカコが黙々と、ビデオを回し続けている。
「いいですか。こうです」
 僕は、シンに見本をみせた。
「夏の馬鹿野郎!」
 両目剥き出し感情いっぱいこめてカメラにむかって叫び、やや余韻を残しつつ、すぱっとふりかえると海にむかって走っていくというシナリオにした。
 おしりを三度ふる事を忘れてはいけない。
「それでーはいきます。シーン101! はーい本番! スタート! うっふん!」
 僕は、狂ったように両手両足を振り回しながら叫んだ。
「ほにゃらかほにゃれ! なんとかかんとか!」
 シンは何かを叫ぶと海にむかって走り出した。
 でも僕が指示したせりふとは違うじゃないか。
 ぜんぜんわからん。
「カット! カット! カット!」
 髪をかきむしりつつ僕は叫んだ。
 が、すでにシンは海に飛び込んでいた。
「OKです……」
 タカコは、潮騒のなか小さくため息をついた。
「名作になるかな?」
「どうだか……」
(つづく)
(初出:2002年06月)
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登録日:2010年05月31日 21時38分
タグ : キャンプ

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