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宇佐美ダイ
著者:宇佐美ダイ(うさみだい)
2011年夏、東京から宮崎に戻ってきました。格闘技をやってます。元カメラマンですけど、今は正義の味方の仕事をしています。いつの間にか人の心も読めるようになりました。そして趣味で浮遊しているような写真を三脚+セルフタイマーで撮ってます。林ナツミさんの写真を見て撮り始めました。反原発、反TPPです。今の殺伐とした仕事をテーマにいつか書きたいなあ、と思ってます。
エッセイ/エッセイ

ビーチボーイズ白浜に吠える(8)

[連載 | 完結済 | 全13話] 目次へ
参加人数が30人を超え、そろそろ食料が切れてきた。とにかく量が必要と、安い肉を探しにに出かける著者。そこで出会ったのは、NSXを駆る工藤さん。犬用の肉のランクは……。
■肉をさがして

 川俣ジュンジさんと僕とで買い出しにでかけた。
 まず、バーベキュー用の肉を、吉村町の『肉のデパート』で大量にゲットしなくてはならないのだ。
 なんせ、いつの間にか人数がすごいことになっている。
「キャンプせんね?」と、声をかけたメンバーがそれぞれ友人をつれてきていて、もうすでに30名を越えているのだ。
 食料がつきたり、酒のきれた宴《うたげ》ほどつまらないものはない。
 しかも、「めしー!」とか、「さけー!」などと暴れ出す大食らいで大酒飲みのアホもいるので油断できない。
「川俣さん、このくらいでいいよね」
 みんなから預かった会費を握りしめた僕は、この店で一番安い肉を指さした。
「おお、それなら、たっくさん買えますね。それにしましょう」
「高い肉じゃないとヤダって言うヤツいますかね」
「そんな事言うヤツは、肉オタッキーです。モヒカンのおてもやんにして明日の朝まで生き埋めです」
 そうしましょ、そうしましょ、と踊るように安肉を注文し、レジでお金を払っていたら、店の前にホンダの超高級スポーツカーNSXがとまった。
 僕が勤めている会社の現像部門で働いている工藤さんの車だ。真っ赤なその車は9000万円以上もするのだそうだ。
 工藤さんはNSXの助手席にによくセントバーナードのハイジをのせているのだけど、このハイジが本皮シートやダッシュボードをがじがじ噛むので工藤さんのNSXの内装は、時代劇などに出てくる傘貼り内職をしている浪人の部屋といった悲惨なありさまになっている。
 しかも、ハイジは海に行くたびにサーファーたちにむかって泳ぎだしてしまうので、床は潮を含んだ砂だらけだ。
 カーキチから見たら信じられない光景だったりするのだろうけど、工藤さんは愛犬家なので、ちっとも気にしていないのだった。
「よー! 買い物?」
 工藤さんは、僕を見つけるなり大声をあげた。
「はい。工藤さんも?」
「うん。ハイジのメシはいつもここで買っているんだ。安いだろー、ここ。ハイジは大食らいだから、助かるんだよなー! インディ君とサーティちゃんのメシの買い出し?」

 インディとサーティは、僕が飼っているコリー犬である。
 お互い愛犬家なので、よく犬の話をするのだ。
 年老いげっそりと痩せた猟犬が、大分と宮崎の県境の山の中に住む老夫婦の家の庭にふらふらしながらやってきた、という記事を宮崎日日新聞で読んだ時も、工藤さんと僕は猟師にたいして猛烈に怒ったものだった。
 彼らの中には、猟犬を道具のようにしか思わず、病気になったり年をとったりして役にたたなくなってしまったらさっさと山の中に捨てに行くふとどきものがいるのだそうだ。
 インディは、サーティの散歩中に近所のブリーダーから譲ってもらった犬だ。
「それはメス? オスがあまってるんだけど、いらない?」
 男は、金網越しに僕に声をかけてきた。
 男はチャンピオン犬を育てる事に命をかけているような人間で、生まれつき歯並びの悪いインディはただの大メシ食らいの――、まあ男にとっては無用な存在だったようだ。
 インディは、すでに歯の手術を受けていた。
 それでも男の要求を満たすことはできず、捨てられる運命だったのだ。
 その男の心も、老犬を捨てる猟師となんら変わらない。
 コリー犬が二匹になると、世話がたいへんだなあ、と思ったのだけど、犬舎のすみにほおっておかれている生後3ヶ月のインディを見捨てる事はできず、すぐに連れてかえったのだった。
 犬にはそれにふさわしい形というモノがあるらしい。
 ドーベルマンが子犬のうちに尻尾を切り取られるように、コリー犬も髭を切り、糊やテープを使って両耳を折り畳んで型をつけるのがキマリなのだそうだけど、インディとサーティはそれをいやがるので、一切しない事にした。
 僕が犬を飼うのはチャンピオン犬を育てたりショーに出したいからじゃなく、純粋に犬が好きなのだから。
 耳が立ったままのインディとサーティーを見たコリークラブの人が「かわいそう……」と、大きなためいきをつきながら首を傾げていたことがあるけれど、ほっといてよ、ってキブンである。

「いや、今日はキャンプなんですよ。それで大量に買いました」
「あ、そう」
 工藤さんは、僕から店のおばちゃんに視線をうつし、「いつもの!」と、怒鳴るように言った。
「げっ……」
 僕と川俣さんは顔を見合わせた。
 なんと、『ハイジ』のメシになる肉は、今僕たちが買ったモノの数ランク上のお肉様だったのである。
「……じ、じゃあ、また。えへ、えへ……」
 僕は、安肉が入った大きなビニール袋を隠すようにして店を出た。
(つづく)
(初出:2002年06月)
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登録日:2010年05月31日 21時46分
タグ : キャンプ

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