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北岡万季
著者:北岡万季(きたおかまき)
猫科ホモサピエンス。富士山の麓で生まれ、瀬戸内海沿岸に生息中。頼まれると嫌と言えない外面の良さがありながら、好きじゃない相手に一歩踏み込まれると、一見さんお断りの冷たい眼差しを、身長165センチの高さから見下ろす冷酷な一面も持ち合わせる。これまで就いた職業は多種多様。現在は娘の通う私立小学校の役員をしつつ、静かに猫をかぶって専業主婦として生活している。
エッセイ/エッセイ

過去・現在・未来

[読切]
9歳年上の夫と同い年に見られてしまった主婦(30歳)が、一大決心して挑むダイエット。もちろん金は使わない。絶対に若く見せてやる、ただそれだけが彼女の心の支えであった。しかし彼女には過去に同じような経験が……。
 私って老けて見られるらしい。
 自分が年相応に見られていないと気づいたのは、遡ること10年前の話しになる。当時、私は正真正銘の19才であった。ホントのホントに19才だったのッである。
 しかし、だぁれも19才には見てくれない。
「北岡って何才?」「19才です」「うっそぉ〜」この三拍子の会話が多かった。「ホントですってばぁ」と顔で笑いつつも、何度心で相手をぶっとばしたことか。ぐぁぁッ悔しいったらありゃしない。
 いったい何歳に間違われたかというと、悲しいかな20代後半くらいが一番多かったように思う。自分ではどこから見てもピチピチの19才と思っているのだから、腹立たしいこと極まりなかったのである。何故ゆえに自分の年齢よりも上に見られるのか。

 ――顔がデカイからか?

 そういえば私は顔がデカイのである。デカイ気がする。いや、デカイ。友人たちと一緒に撮った写真を見ても、認めたくはないが、隣りの友人よりも確かに顔が少し……、いや、もうちびっとデカイような気がする。
 そこで私は、「顔がデカイ=老け顔」という疑いを持った。
 顔が痩せれば、この「老け顔」から脱出できるに違いない。そう確信して、どうしたら小さい顔になれるか悩んでいたのであった。

 ある日、雑誌をぺらぺらと捲っていたら、打ってつけの記事が載っていた。
「これこれッ、誰が何ていってもこれッ!」
 その方法とは、まずサランラップを顔の大きさにピッチと切り、窒息しないように目と鼻の部分に穴をあける。それを湯船に浸かっている間、顔にまきまきして汗をながし、「顔だけ部分痩せしちゃうもんねッ」という、いかにも怪しいものであった。が、迷うことなくこの方法を実行に移した。

 ――だらだらと顔から滴る汗。うむ、これはきっと効果があるに違いない。
 湯船に浸かった私の頭の中には、小さい顔になったプリティな自分がポーズを決めてたっていたのであった。

 そんなこんなで半年がすぎた。ところがどっこい、期待に反して一向に顔は小さくならないのだ。「どーしてなのヨッ」とプリプリしつつ、鏡の前で顔をあっち向けたりこっち向けたりと、あらゆる角度から繁々と見やる。
 無駄な肉は落ちたはずである。ぶくっと膨れていたほっぺも、心なしかすっきりしているではないか。んじゃなぜゆえに顔が小さくならないのか?

 ――頭蓋骨がデカイ。

 骨格である。私の顔のサイズがデカイのは、頭蓋骨がデカイからであった。
 鏡の前で、この半年の汗水たらした「ラップで小顔に変身大作戦」はなんだったのであろうか。時折のぼせて倒れたことも無駄だったという事実に、のぼせて倒れそうになった。
 しかし、ここで挫けたらこの半年が無駄に終わる。負けるもんかと、今度は自分の体型がオバサン臭く思われているのではないのか、と考えた。
 10代後半からブクブクと太ってしまった私は、おせいじにもナイスな体型ではなかった。「そうか、そうか、オバサン臭く思われていた原因はデブだったからなのねん」と思いたち、今度は全身ダイエットを試みたのである。
 食事療法と、うりゃうりゃと勢いまかせに運動しまくった結果、マイナス10キロに成功。おそまつなバストの私は、ボンッ・キュッ・ボン! ってな具合のよい女にはたどりつけなかったものの、成人式を迎える頃には、めでたく年相応に見られるようになったのである。ぶらぼー。
 教訓「デブは老けて見える」

 ところが……、結婚したとたんおみごとにリバウンドしてしまった。
 あれよあれよという間にプラス8キロである。あんなに苦労して痩せたというのに、どぉして太るときには、こういともた易くボカァンと体重は増えるか? オマケにその後、妊娠して子供を生んで、産後をグータラグータラと過ごしていたら、あっという間に上乗せ5キロ。合計13キロも増えてしまったのである。
「ま、いいや。これから嫁に行く身でもなし、がっはっは!!」
 と、おばさん特有の開き直りモードで、鏡も体重計も忘れて過ごしていたのだが――。
 ある日、夫の友人たちとお食事に出かけたときのことである。
「北岡さんの奥さんって何歳ですか?」
「あ、コイツ? 29才です」
「うええッ? い、意外に若い奥さんなんですねぇ。俺、北岡さんと同い年くらいかと思っちゃった」

 がびーん。

 冗談ではナイ。夫は私よりも9才年上のオッサンである。ビールっ腹の38才のオッサンと、29才の私が同い年に見えるってのか? イヤイヤそんなの絶対にイヤッ!!
「いやぁ、いいっスね、若い奥さんで」
 そういう言葉を期待していたのに、もう泣きっ面にハチ、その上にアブにまで刺された気分になってしまったのである。あんもう、かゆいんだか痛んだかわかりゃしない。いくらなんでもプラス9才は新記録であるからして、これは何とかせねばと思わずにはいられなかったのである。

 久しぶりに体重計に乗れば、想像以上の数値にまで針がぶっ飛び、ゆらゆらと針が止まる。
「こここんなの、うそだぁぁぁッ!」
 拳を握り、雄叫びをあげたところで、体重計は嘘をつかない。
 鏡を見れば、顔のでっかいペンギンおばさんが虚ろな顔で立っていた。
「鏡よ鏡よ鏡さんッ、らみぱすらみぱするるるるぅ」
 お願いしたところで、鏡も嘘はつかない。映し出されたものは紛れもない事実である。
 こういうときに限って、新聞の折り込みにダイエット食品の広告なんかが入ってやがったりする。太ったお姉さんが、すっきり痩せてほほえむ写真。
「アタシって1ヶ月で10キロも痩せましたッ! ばばぁーん!!」
 エプロンの裾を「キィィーッ、クヤシーッ」って噛み締めたところでどうにもならないのである。

 ああ、甦る10年前のダイエット。
「ふっ、アタシはアンタみたいにダイエット食品になんて頼らないわよ。自力よ自力。見てらっしゃいッ!」
 広告でほほえむ見ず知らずのネーちゃんに八つ当たり的な宣戦布告し、こりゃもう一発痩せてやろうじゃあないのさってなわけで、その日以来、耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、またもダイエットに挑戦したのは言うまでもなかろう。
 ご飯の量を減らし、子供と一緒に公園で必要以上に弾け飛び、間食をやめ、ようやく30才の誕生日を2ヶ月後にひかえ13キロの減量に成功したのである。
 人間その気になればどうとでもなるもんだ。
 むかし着ていた服が再び着れるようになり、ご近所の奥様連中からは「痩せて若く見えるッ!」と言われるようになった。再び成功である。超ぶらぼー。
 教訓「やはりデブは老けて見られる」

 こう簡単に13キロ減ったというと「ふーん13キロね」って感じるかもしれないが、侮ってはイケない。うちの娘は現在3才で13kgである。この子供一人分が我が身にくっついていたのかと思うと、そら恐ろしい気分になる。 肉13キロ、バーベQをしたら、いったい何人の腹を満たせる肉の量なのであろうか。むむむ。

 一度あることは二度ある。二度あることは……とよく言う。そう考えると、私は約10年おきにダイエットに励む傾向があるのかもしれない。
 さて、その「三度」に当たる10年後、私は39才になっているわけだが、今の体重を維持しているか、はたまたリバウンドし、恰幅のよいおばさんになって「がはは」と開き直っているか、またはそれを克服すべくダイエットに励んでいるのか、それは本人すら想像のできない未来なのである。おおコワッ。
(了)
(初出:1998年02月)
登録日:2010年06月21日 17時43分
タグ : ダイエット

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