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麻梨
著者:麻梨(あさり)
銀魂と廃墟と三浦しをんさんと箱根駅伝をこよなく愛する性別♀。最近の悩みは仕事帰りに寄ったプールで監視員のおじさんに(真剣に泳いでいたにもかかわらず)「大丈夫? ビート板使う?」と心配され、それをさらに職場で話して笑われたこと。大体毎日幸せに生きています。そう見えないらしいけれど。上記で勘のいい人ならうっすら察せる通り、書くことにおいてド素人です。
エッセイ/エッセイ

吾輩は司書である(23)

[連載 | 連載中 | 全29話] 目次へ
文学部出身の著者が森鴎外の舞鶴を論ずる。固いイメージのある近代文学だが現代に通ずるものがあると主張。未読の方は読んでみたい。
 近代文学と麻梨(その一)森鴎外編

 私は文学部出身の癖に悲しくなるくらい文学への教養が浅く、かつ多くの作品を読み込めているわけではないという、教授が聞いたら涙がでるような学生でした。
 いや、多分私のことなんて覚えてねぇんだろうなぁ。むしろこっちが涙でるわ、ぐすん。

 そんな私ですが、森鴎外が好きです。
 先日は文京区の森鴎外記念館へ足を運びました。
 近代的な施設でフロワがとてもきれい。
 展示室の映像コーナーとカフェスペースがお勧めです。
 別に「鴎外先生地味にイケメン! ヒゲ! ヒゲのセンス!」とか「子供に西洋かぶれの命名とかマジ未来に生きてますわァ。そこにシビれる憧れるゥ」とか。
 そういう理由ではありません。
 念のため。
 代表作品は「舞姫」「高瀬舟」「山椒大夫」。
 言わずと知れた文豪でございますね。
 別に私が解説する必要などないですね、えぇ本当に!
 で、でもさ……せっかくなので魅力を語らせていただきたいなぁなんて……。少しでも興味を持ったら、図書館で全集とかかりればいいと思うんだよねぇなんて……(げへへ)。

 高校の教科書で「舞姫」を読んだ方は多いのではないでしょうか。
 知らない人のために紹介。
 一九世紀末。ドイツに留学した主人公、豊太郎は困っている様子の美少女、エリスと出会います。父親の葬式代すら払う事ができない貧困の彼女に豊太郎が工面したことで、交際が始まるのですが、問題はエリスの職業。
 踊り子、といえば聞こえがいいかもしれませんが、夜の職業です。
 現代風にイメージすると、超有名大学の教授の研究室にそっち系のお店のおねぇちゃんが「来ちゃった☆」って遊びに顔を出すみたいな。それで周囲に干されてします。乙女の大好物、階級差恋愛ですね。
 豊太郎はエリスとその母を養うために新聞社で働くのですが、それを親友の相沢に咎められます。
 それもそのはず。豊太郎、日本では超絶エリートです。それはお前のやるべき仕事じゃないだろう! と親友は怒る怒る(そもそも国費留学……)。紆余曲折の末、エリスが妊娠していることを知っていながら豊太郎は日本へ帰国。

 学生時代、私や同級生は「なんて酷い男だ!」と一方的に豊太郎を責め「エリス超かわいそう(薄幸の美少女萌え)」と同情したものです(あれ、心の声が漏れている)。
 一方で、社会人になりますと一概に豊太郎だけを責めるわけにはいかないと身を以て感じます。
 才能がある人間が、行く末を約束されたわけでもない愛のために夢に背を向けることなどどうしてできましょう。
 「舞姫」は決して明るい話ではなく、どう解釈を付け加えようと結末に苦いものを感じてしまう。それでもこころを掴まれるのは、読者に「覚悟」を問いかけていることにあります。
 「高瀬舟」は病に苦しむ弟が不憫で兄が手をかけてしまう内容。これは罪人となった兄の告白の物語です。
 もしも自分が、と想像したとき。
 あなたはどんな覚悟を固めるでしょう。
 どうにもならないことであっても、どうにかしようとする苦悩は擦り切れるくらい痛い現実を生む。
 生きることは苦しいし、死ぬことは悲しい。
 鴎外の作品、特に「舞姫」と「高瀬舟」は『覚悟』と『決断』の物語です。
 本当の意味で生きる事への救いについて考えさせられる作品だと私は思います。

 近代文学作品って「わかりにくい」とか「固い」ってイメージが先行しがちですが、前二作品のテーマを解題すると「仕事か女」「安楽死」なんですよね。現代にも精通するものなんです。
 どうです、ちょっと興味がわいてきませんか?
 ……まぁ、先にも述べましたが、言わずと知れた文豪です。故、んなもん知ってるわいとつっこまれたらもうね、
「さーせん! 知ったかぶりしましたぁああああ!」
 なんて、土下座ものなんだけれどさー。
(つづく)
(初出:2016年01月21日)
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登録日:2016年01月21日 16時29分
タグ : 森鴎外

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