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麻梨
著者:麻梨(あさり)
銀魂と廃墟と三浦しをんさんと箱根駅伝をこよなく愛する性別♀。最近の悩みは仕事帰りに寄ったプールで監視員のおじさんに(真剣に泳いでいたにもかかわらず)「大丈夫? ビート板使う?」と心配され、それをさらに職場で話して笑われたこと。大体毎日幸せに生きています。そう見えないらしいけれど。上記で勘のいい人ならうっすら察せる通り、書くことにおいてド素人です。
エッセイ/エッセイ

吾輩は司書である(24)

[連載 | 連載中 | 全29話] 目次へ
「図書館で借りられるエロ本」として、谷崎潤一郎をとりあげる。うらわかき著者に「痴人の愛」はどのようにうつっただろうか。
 近代文学と麻梨(その二)「図書館で借りられるエロ本」谷崎潤一郎編

 あまり教科書で取り上げられることがないであろう文豪のお話でもしましょうか。

 私の好みと独断と偏見でピックアップさせていただきました「谷崎潤一郎」と「坂口安吾」。二名とも絶対に図書館に所蔵がある文豪ですね。一方で、おそらくその作品が教科書に掲載されていることはないんじゃないかなぁ……(調べてなくて申し訳ない)。
 ずばり「国語の教科書の作品が嫌いだった人」にお勧めしたい作家です。

 まず、谷崎潤一郎先生をざっくり説明しましょう。
 彼は、悪女と猫が大好きです。「峰不○子」と「ねこ○つめ」が頭に浮かんだ人、あながち間違っていないと思います。そして元祖(?)足フェチです。多分尻も好きだったんじゃなかろうか。
 淫靡とか妖艶とか名器とかマゾヒズムとか。普通に生きていたらそうそう使わないであろうそっち系の単語を惜しげもなく、かつ惜しみなく盛り込むにもかかわらず『文学』として地位を確立している作家です。
 まとめましょう。

 エロい。

 いや、マジでそうなんだって。作品の中に「跪いて脚をお舐め」とか言い出しそうな悪女がいっぱいいるんだもの。関係各所、ファンの方にすんげぇ怒られそうだけれど。
 代表作は「痴人の愛」「卍」「刺青」でしょうか。
 私のおつむでは先生の世界観が説明しきれないので、「痴人の愛」の本文をご紹介します。
 お前は僕の宝物だ、僕が自分で見つけ出して磨きをかけたダイアモンドだ。だからお前を美しい女にするためなら、どんなものでも買ってやるよ。僕の月給をみんなお前にあげてもいいが。
谷崎潤一郎『痴人の愛』 新潮社文庫

 まるでお姫様の様に彼女を敬うこの男はエリートサラリーマンの譲治。
 女性なら誰だって一秒たりとも粗末に扱われたくない。おしゃれを応援してくれるなんて最高じゃないですか。夢のようなセリフです。
 さては女心を熟知したようなプレイボーイ? かと思いきや、この譲治。物語開始の二八歳にして女性とのお付き合いの経験ゼロ(アラサー童貞)。
 それもそのはず。
 譲治の理想とする結婚は「世の汚れを知らない少女を引き取り、教育・作法を身に付させ、ゆくゆくは夫婦に関係を築く」というもの。
 女性を代表して言わせて頂きます。
 気持ち悪ッ!
 てか気色悪ッ!
 もっともらしいことを言っているけれど「それ光源氏計画じゃねーか!」って誰もがツッコむポイントです。現代に置き換えたら犯罪の臭いしかしない。
 しかも本人はそれを「シンプル・ライフ」とか言っているし。むしろロリコンプランだぞ。
 さらに問題は、譲治が惚れた彼女、ヒロインのナオミ。
 学はないし、飽きっぽいし、わがままだし、金銭感覚は狂っているし、脱いだ下着も放置! 注意すれば「あたし、女中じゃないもん」ってそりゃアンタ……。極め付けは誰とでも寝ちゃうという!
 あーら譲治さん。お好みの世間知らずですヨ。なんて皮肉も言えないくらいぶっ壊れている。しかし、彼女を勘当しようにも、彼女は絶対絶大の肉体的魅力の持ち主で――と、まぁもうこの設定で教科書に乗せられない理由はお察し頂けますよね。PTAがぷんすこするわ。

 谷崎先生、よくもまぁここまでぶっとんだものを……と思った方もいらっしゃるかもですが、この物語の恐ろしい所は、ひたっすら十四歳年下の娘に溺れ、無様に堕ちていく男を一概に「馬鹿だなぁ」なんて呆れることができないことにあります。
 実は譲治がナオミに求めた愛情って、誰もが恋人に求めてしまう信頼や期待値と根源的には大差ない。他人の失敗だから呆れられるけれど、その落とし穴は誰の手にも届く距離にある感情に精通していたり、なんて。
 深く考えていけば全く理解ができないわけではないんですよね。
 本文中、譲治は浮気癖に辟易して出て行けと追い出すものの結局追いすがってしまう。
 切るに切れない恋愛なんて馬鹿のすることかもしれませんが、情を簡単に断ち切れないのが人間というモノでございましょう。
 道徳的によろしくない内容ではありますが、だからこそ、血肉通っているのがこの「痴人の愛」。
 ざっと紹介させて頂きましたが、まぁだいたいこんな感じです。

 蛇足ですが、私が谷崎先生の作品を読むきっかけは、中村佑介さんが表紙を書いている文庫に一目ぼれしたから。
 近年、名作を人気イラストレーターや漫画家が表紙をつけて販売していますよね。
 集英社文庫から発売されている「谷崎潤一郎犯罪小説集」と「谷崎潤一郎マゾヒズム小説集」の表紙はデザインもイラストもめちゃくちゃかわいい。
 当時高校生の私はマゾヒズムの方を特に何も考えないで購入しました。
 下腹にズンドコズンドコ太鼓の音が響いてくるようなエグさとエロさが満載でありました。
 表紙詐欺だ! と憤慨した一方、結局他の作品も読み漁る私。その数年後にこんな大人になりました。
 ……別に高校時代に谷崎作品に目覚めたから変態になったわけじゃないと思うんだけれど。

《参考文献》
 痴人の愛 谷潤一郎 新潮社文庫
 文豪ナビ 谷崎潤一郎 新潮社文庫
 谷崎潤一郎マゾヒズム小説集 集英社文庫
(つづく)
(初出:2016年02月11日)
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登録日:2016年02月11日 12時54分

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