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麻梨
著者:麻梨(あさり)
銀魂と廃墟と三浦しをんさんと箱根駅伝をこよなく愛する性別♀。最近の悩みは仕事帰りに寄ったプールで監視員のおじさんに(真剣に泳いでいたにもかかわらず)「大丈夫? ビート板使う?」と心配され、それをさらに職場で話して笑われたこと。大体毎日幸せに生きています。そう見えないらしいけれど。上記で勘のいい人ならうっすら察せる通り、書くことにおいてド素人です。
エッセイ/エッセイ

吾輩は司書である(25)

[連載 | 連載中 | 全29話] 目次へ
近代文学と麻梨その三では坂口安吾の堕落論を取り上げる。ささやかな絶望を知ったとき、はじめて染みる「開き直り」。ラノベもいいけど、たまには近代文学に浸ってみてはいかがだろう。
 近代文学と麻梨(その三)「人間だれもがアンチヒーロー?」坂口安吾編

 続きまして坂口安吾。
 代表作は「蟹工船」「堕落論」でしょうか。
 言わずと知れた「蟹工船」はプロレタリア文学の代表作。前回・前々回紹介している「舞姫」や「痴人の愛」よりテーマがわかりやすく、内容は超絶ブラック企業に虐げられても戦う男達の物語です。
 一度目のストライキが失敗したシーンは本気で読者の犯罪係数もしくはソウルジェムを濁らせにかかっています(わからない方は検索してください)。
 二度映画化しており、二〇〇九年版は今を時めく俳優陣が勢ぞろいしています。漫画版もあるのでぜひ。
 有名かつ、解説しはじめたらとんでもない長さになりかねないので、今回は「堕落論」についてお話させて頂きます。

 私の持っている集英社文庫の堕落論には「精神の自由を説き、戦後の思想と文学のヒーロー」と記載されています。
 ここだけ抜き取ると、汗をきらりと流して、さわやかに微笑みながら「みんなで敗戦から立ち直ろう!」とか言いそうなイメージが浮かんじゃいそうですね。
 違います。
 曰く
「日本は負け、そして武士道は亡びたが、堕落という真実の母胎によって始めて人間が誕生したのだ。
 生きよ、堕ちよ。
 堕ちること以外の中に人間を救う道はない」
 (坂口安吾 堕落論 集英社文庫より)

 人間落ちるところまで落ちたらさ、どん底の下ってないじゃない。ここから這い上がるだけだよ、てやんでぇ。
 肝心なのは開き直りでござる。
 ある一定の年齢、つまり勉強なり部活なりでささやかな絶望を知った時、この言葉って染みると思うんですよね。
 私の人生は大半の出来事が負け戦なので、非常に慰められました。

 常にポジティブであることなんて不可能です。
 反面、ネガティブであり続けることも実は労力がいる。
 そのどちらでもない中間って、前と後ろのどちらを向いているのでしょうか。
 私はどこにも目のやり場が見つけられないときこそ、足元が沼にずぶずぶと埋まっているときだと思います。
 それが良い悪いは実は問題ではない。解答のない問題。どうにもならない現実と向き合うこと。生じた摩擦に自らの解釈を考え続けることは本当の救いを求めるために一番必要なことなのでは、と。
 正統派のスポーツ根性があまりお口に合わない方にお勧めしたい哲学です。いずれにせよ、小学校の道徳の授業には使われないだろうね。
 うまく使いこなせるよういなれば家族に
「あんたごろごろしすぎよ!」
「はは。お母様ご冗談を。これが人間のあるべき姿でございます」
 なんてのらりくらりできるかもしれない。おぉ、これは便利だ(※使用法に誤りがあります)。

 さて、教科書におそらく乗っていないであろう文豪の作品として、「痴人の愛」「堕落論」を選ばせて頂いたわけですが、共通して言えることは「骨太である」ということ。
 谷崎純一郎先生、坂口安吾先生。
 供に趣旨首肯・思想など、己の中の血肉や骨がしっかりしている。つまり作者のキャラが濃い。
 近代文学って面白いんですよ。
 作品だけじゃなくて、その中の人もね。
 彼らがツイッタ―とかブログとか、はたまたタレントとして冠番組とか始めちゃったら面白いことになるんだろうなぁと妄想する一方。恐らくPTAとかBPOと戦い続ける日々になるのでしょうね。
 ……それはそれで面白そうじゃね?

 そういうわけで、みんな本を読んだらいいと思うよ!(※つまり図書館を利用しろ)
 おぉっと失礼。心の声が……。

《参考文献》
 堕落論 坂口安吾 集英社文庫
(つづく)
(初出:2016年03月15日)
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登録日:2016年03月15日 14時20分
タグ : 坂口安吾 堕落論

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