おおみち礼治
著者:おおみち礼治(おおみちれいじ)
1968年生まれ。16歳のとき、尿検査でたんぱく尿が出ていると言われ検査入院。小康状態を保っていたが、25歳で人工透析を導入。現在は、フリーランスとしてホームページを作成したり、PHPやDBをいじっている。ほとんど趣味かも。
エッセイ/エッセイ

宣う躰(3)

[連載 | 連載中 | 全8話] 目次へ
医大に転院した著者に襲いかかるキンタマチェック。肛門に指をつっこまれ、タマの大きさを検査され、ついにはキンタマを切り取られることに……。その手術の様子を詳細にレポート。
■キンタマチェック - 1985.09

 膀胱尿道造影検査の結果、腎臓と膀胱をつなぐ尿管(腎臓で作られた尿を膀胱へ運ぶ輸尿管)が先天的に太く、何かの拍子にいったん膀胱に溜まった尿が逆流して腎臓を痛めていることがわかった。
 転院をすすめた医師は「医大には日本で五本の指にはいる有名な先生がいるから」という。自分に何が起こっているのかよくわからないまま、転院したのは九月三日。泌尿器科病棟だった。すでに二学期は始まっており、学校に行かなくて大丈夫なんだろうかと不安がよぎったが、あまり先のことを考える余裕はなかった。

 医大に転院した後も検査は続く。キンタマチェックである。
 泌尿器科だからか、よく見られた。初めての回診では、十人くらいの研修医や看護師に取り囲まれて前立腺のチェックをされた。下を脱がされ、肛門から(滅菌手袋をした)指をつっこまれるのである。直腸診というやつだ。
 前立腺は膀胱の真下にあり、大きさは二センチから三センチ程度。直腸の壁越しに触って、硬さや肥大などを確認する検査で、入院したら最初に必ず行われる。
 何がおかしかったのか、その場にいた看護師が「ぐふふ」と笑ったのを見て、大事なものを失ったような気がしたものだ。なんせ、十五歳だったのだ。髪を振り乱して外に飛び出し、すべてを露出して「どーーーだあああああああ!」などと叫びつつガックリと頭を垂れたくなる気持ち、分かりますよね(か?)。

 またあるときは、ベッドに横になったまま下半身をさらけ出し、医者が神妙な顔つきで、木で出来た各種サイズの丸い物体と、私のモノとを比べたりした。「ふふ、あなたはSサイズね」とか「こ、こいつXLだぜ!」などと、評価されるのか知らないが、大きさの基準というものがあるらしい。ちなみに私は……幸いにも聞かされませんでした。

 精巣の機能が正常かどうか調べる検査もした。手術室で睾丸を(ちょっとだけ)切り取り、細胞を調べるのである。

 検査理由について、医師は「二次性徴はありますが、カラダが小さいので……」といっていたように思う。高校に入学してからやっと身長が150センチを超え、体重は35キロくらいだった。それで精巣の機能を疑われたらしい。
 腎臓は成長ホルモンと関係していて、子どもの頃から腎臓を患うと体が大きくならず、いわゆる男性らしい体格、女性らしいスタイルにはならない。子どもままなのだ。

 ところで、高校生にもなれば、大事なところに毛が生えている。手術――このときは検査だが――の前には通常、看護師さんに剃ってもらうが、私は自分で剃った。だって、大変なことになったらどうするんですかっ!?
 影で看護師さんが「けっさく……」といって笑っていたのは聞こえていましたけどね。ふん。

 手術室へは病室で病衣一枚になり、麻酔の注射をしてからストレッチャーに横になって入るものだが、そのときは麻酔もなく、自分で歩いていった。珍しかったのか、付き添いの看護師さんは「面白いわねぇ」と笑っていた。
 医大では、手術室のドアの先にある、実際に手術をする部屋がある区画に出入りするときに横幅二メートルくらいのベルトコンベアに横たわり、廊下の壁と風のカーテンの間を一メートルほど移動する。風のカーテンとは、微菌を中に入れないために手術室から廊下に向かって流れる送風のことだ。

 手術室といっても、なん部屋もあり、同時にいくつもの手術が行われている。なかに入ると、待ちかまえているストレッチャーに乗りかえて仰向けに横たわり、所定の手術室まで看護師さんが押して移動するのだが、乗っている方は、初めて勝手に天井が動いていくのを見てなんともいえない気持ちになる。手術室は鉄の臭いがした。すぐに気が付いたが、すなわちそれは血の臭いなのだった。

 一室に入ると、お腹の辺りから頭にかけて覆うように布がかけられ、自分では下半身が見られないようにされる。スタッフたちは皆大きなマスクをしており、表情はうかがい知れない。
 下半身の病衣がめくられる。手術室は狭い。医師と看護師がふたりづついただろうか。彼らは「ごめんなさーい」といいながら背中をすり合わせて行き来している。手術道具が所狭しと並べられ、それらを扱うカチャカチャという金属音は不安にさせる。

「じゃあ、麻酔しますねー」
 股間への部分麻酔だ。針を縦にして刺す筋肉注射である。これがいちばん痛い。顔をゆがめて痛みに耐えていると、「大丈夫ですか?」と看護師に問われ、こわばりながら「い、いいです!」などと返事をして怪訝な顔をされたりした。

 メスが入る。
 麻酔が効いているから何の感覚もない。術中は、緊張でカラダ全体をまっすぐに伸ばして固まっていた。息をしていたかもよくわからない。テレビドラマの手術シーンは、医師が看護師におでこの汗を拭いてもらいながら、真剣な表情で手にしたメスを動かすといったイメージだが、実際は、もっとリラックスした感じだ。医師にしてみれば、いつもしていることであるから、いちばん緊張しているのは患者の方なのだと思う。

 十分か二十分か――長い時間ではなかったと思う。「では、縫いますねー」と声がし、しばらくすると、部屋の雰囲気が緩むのが感じられた。看護師が股間を消毒し、器具が片付けられ、上半身にかけられていた布も取り外された。
 病衣がふわりとかけられる。

 傷を見る勇気はなかった。といっても、ガーゼで覆われていて見えはしなかったのだが。病室に戻るときは、車いすだった。あとで気がついたのだけれども、なぜかわきの下に血がついていた。タマを切ったときに飛び散ったらしい。どれほど大きく切られたのかと怖くなったが、済んだことを考えても仕方がない。

 傷の痛みは、一日か二日で消えたと思う。
 検査結果は、異常なしと伝えられた。

 睾丸の細胞検査であって、摘出したわけではないが、いまでも左側のタマが少し小さいのは、この検査の影響なのでありましょう。
(つづく)
(初出:2010年10月)
登録日:2010年10月19日 16時42分

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