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水瓶ジュン
著者:水瓶ジュン(みずがめじゅん)
1950年、水瓶座生まれ。鳥取県境港市で育ち、現在、神奈川県在住。写真会社で長年ものづくりの技術者をやりながら、詩や小説を発表。作品の価値は、どれだけ読者の感覚を刺激できるかできまると考えます。視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚、と後にいけばいくほど難度は高くなります。現代人の衰えつつある機能を、言葉で裏打ちすることで復活をはかる、そんな大それたことを夢想しています。
エッセイ/エッセイ

釣りオンチ日誌 もうひとつのNY物語「第二話」

[連載 | 連載中 | 全5話] 目次へ
「つべこべ言わないで、ここではみんな釣りをすることになってるんだよ」そんな言葉にうながされて、かなり強引に釣りに目覚めさせられることになった筆者のアメリカ釣り体験記。
 アメリカにやって来るまで、釣りというものに全く縁がない人間でした。
 そういうボクが、釣りに目覚めたのは増島さんのお陰です。
 増島さんは、日本の公的な研究機関から派遣され、ボクと同じ大学で研究生活を送っている四十がらみのオジさんで、隣に住む住人でもあります。
「おいきみ、アメリカの田舎にやってきたからには、この大自然を満喫しないという手はないだろう。こんなダイナミックで素晴らしい自然は、もう日本には残ってないからなぁ」
「へえー、そんなもんすかね」
「なんだよ、この頃の若者は感動というもんを知らんのか。じゃぁ、大自然をたっぷり味わうことにするかな。おい、支度しろ。今すぐ釣竿を買いにいくぞ」
「釣り?……ですか。 いったい誰が?」
「もちろん、きみに決まってるじゃないか」
「えっ? 自慢じゃないけど、これまでの三十年近い人生で、釣りなんて一度もやったことないっすよ。それに、釣りは気の短い人に合うそうじゃないですか。ボクはけっこう気が長い方なんですよね」
「つべこべ言わないで、ここではみんな釣りをすることになってるんだよ」
 そう言って増島さんに強引に連れて来られたのは、大きなディスカウントショップでした。カラフルな釣竿やリールがずらっと並び、なかなか目を楽しませてくれます。
 ざっと眺めていて気付いたのは、ここでも日本製が幅を利かせていることです。
 日本製で一番安そうなリールを手に取ると、
「だめだめ、そんなの選んだら魚にもってかれてしまうぞ。何てったてこっちの魚は獰猛なんだから」
「そうなんですか? 日本製がいいと思うんだけど」
「ほら、こういうんじゃなくっちゃなぁ」
 見ると、増島さんが握ってるのは、赤と青緑の模様が入った、ど派手なデザインのやつです。でも、別段頑丈そうには見えません。
「ちょっとボクの趣味じゃないすね。それに、これは右利き用じゃないですか。ボクは左利きですよ」
「いいんだよ、右利き用でさ」
「えっ? なんでですか?」
「うん、左利き用なら、もっといいのをオレがやるからさ」
「はあぁ?」
「いや、実はな、君が釣りをやりたいと言ってくれて正直助かったよ。この前、間違って左利き用のやつを買ってしまったんだなぁ。でもなぁ、性能は抜群、カラカラと回す感触なんぞ、もう最高に痺れるんだから」
「なぁーんだ、そういうことですか。ボクを騙そうとしましたね。それは狡いや。なんだかヘンだなぁって思いましたよ、ずいぶん強引すぎるんだもの。これで納得しましたよ」「まあ、そういうわけだから頼むよ」
「嫌だって言いたいとこだけど、ボクと増島さんの仲では断れないでしょ」
 というわけで、増島さんの左利き用の釣り竿一式を譲り受け、代わりにボクが増島さん用の道具を購入し、ここに目出度く交渉成立。
 釣り竿の次は餌です。
 針が付いた、プラスチック製のカラフルな小魚が並んでいるコーナーがありました。
「えっ? これが餌ですか? ミミズみたいな虫じゃないの? ほんとにこんなもんで釣れるの?」
「きみは何も知らないんだなぁ。これはルアーという疑似餌だよ。こんなものを餌と間違えて食いつくなんて、魚も哀れだよなぁ」
 今でこそ、日本でもルアーフィッシングは普通になっていますが、当時の日本で疑似餌で一般的なのは鮎釣りの毛針くらいで、ルアーなんてボクはそれまで聞いたこともありませんでした。
  でも、これは大歓迎です。ミミズの仲間を扱わずに済むことだけでも、釣りに対する障害はぐんと小さくなりました。

 NY州の北のはずれに位置する、セントローレンス郡の六月は美しい季節です。新緑が一斉に川辺を覆い、適度に冷たい水も心地良いのです。もちろん、日本の梅雨のような雨期はここにはありません。
 ボクの処女フィッシングはカナダとの国境に近いS町近くの早瀬でした。
 石ころが多い流れに、増島さんはずんずん入り、いきなりルアーを投げました。
「なにが釣れるんっすか?」
 こういう間抜けな質問は増島さんを調子づかせます。いきなり、釣竿が勢いよくしなったのです。
 増島さんは慣れた手つきでリールを回します。もちろん右手で。
 二十センチはあるでしょうか、黒い魚が糸の先で勢いよく跳ねています。
「ブラックバスだぞ。こいつはひどく獰猛なやつなんだ」
 釣り上げられた魚をよく見ると、簡単に糸を切ってしまいそうなぐらい鋭い歯が並んでいて、ちょっと恐いものがあります。
 増島さんの獲物に気を取られていると、今度はボクの方にも当たりが来て、すぐに竿が激しくたわみました。竿が持って行かれそうなほど、ものすごい引きです。
 竿が折れてしまいそうで、リールも勝手にカラカラと回り出します。
「おい、リールだよ、リールを回せ!」
 増島さんの怒鳴る声が聞こえますが、立っている石の上が不安定でなかなか足が踏ん張れません。それでもボクは左手で必死にリールに取り付き、巻き上げました。
 奮闘の甲斐あって、ボクの最初の獲物は、三十センチはあろうかという大物だったのです。
 その夜はブラックバスの塩焼きがメインディッシュに並びました。
 塩焼きといっても、炭もなければ網もないわけで、金属のパンに魚を並べて軽く塩を振り、あとはオーブンにぶち込むだけの簡単なものです。
 しばらくして魚の焼ける匂いがしてきたら、パンを取り出し、上から醤油を勢いよくかけるのです。
 ジュワーという音、そして香ばしい匂いが部屋中に広がり、もう堪りません。
「ブラックバスって何の種類でしたっけ?」
「さあなぁ、鱸{スズキ}の一種らしいけど」
「鯛みたいですごく美味いですよね」
「獰猛なやつほど身がひき締まってるからな」
「やっぱり、魚は塩焼きが一番ですよね」
 などと言いながらも、舌鼓をうつ口は休むことがありません。

 これに味をしめて、僕等は週に二、三度はブラックバス釣りに出かけました。
 北国の初夏は、急に日が伸びる季節です。八時くらいまでは充分明るいので、仕事を終えてからの釣りも、余裕で可能なのです。真夏だと、仕事を終えてから泳ぎに行くこともありました。
 釣りに行くたびに、その夜は焼き魚でパーティーになります。たいていは二人だけのささやかなものですが。
 同僚のアメリカ人の院生にこの話をすると、
「何でも食うお前たちの方がよっぽど獰猛だよ」という顔で、あきれていました。
 彼らは釣ってもその場で放してやるのです。
 何度目かのブラックバスパーティーのことでした。
 バスをオーブンに入れようとしたとき、その黒い魚の腹の辺りに、さらに黒い小さな点がいっぱいあることに気付きました。そう言えば、ただ黒いという印象だけで、あまりこの魚を観察したことはなかったのです。
「何でしょうね? この黒い点々」
「さあね、そういう変わった模様なんだろう? 魚だって、いろいろ個性があるのがこの国だからなぁ」と言って見ようともしない増島さん。
 ボクは何だか悪い予感がして、ナイフの先でその黒い点々に軽く触ってみました。すると、その点々はポロッっと簡単に落ちるではありませんか。
「なんだ? なんかゴマ粒みたいなのが落ちましたよ」
「ん?」
 ビールのパイント瓶を持ったまま、増島さんがキッチンにやってきて、まな板の上に落ちた黒い粒を真剣に点検し始めました。
「こ、これは!」
「な、なんですか?」
「寄生虫の卵じゃないか!」
「き、寄生虫……ですか?!」
 その夜以来、ブラックバスが我々の食卓にのぼることは二度とありませんでした。

 M町の市内をゆったりと流れるR川は、カナダとの国境を流れるセントローレンス川に注ぐ支流の一つです。
 大学のキャンパスのすぐ下をR川が流れ、岸辺には大学のボートハウスがありました。 夏の間は、そこで五十セントを払えばカヌーを貸し出してくれるのです。これを利用しない手はありません。
 増島さんは、以前からこのカヌーに目をつけていたようです。カヌーの上から流し釣りを行おうというわけです。
 ボートハウスの辺りは、川が大きく拡がり、中州が小さな島のようになっていて、釣りのポイントとしても絶好、というのが増島さんの解説です。
 早速カヌーを借りると、二人で漕ぎながら、艫の方に釣り竿を固定してルアーを流す格好をとってみました。
 しかし、水草を避けながら上手く漕がないと糸が絡まってしまい、なかなか難しいものです。案の定、ボクの方は簡単に糸をとられ、早々にギブアップしてしまいました。でも増島さんはしぶとく頑張っています。
 ボクがもっぱら漕ぎ手になり、増島さんは艫にデンと座って釣りに専念する格好になりました。
「おい、止まれ! 止まるんだ!」
 突然、増島さん興奮した声が響きました。振り向くと、すごい勢いで竿がたわんでいます。何だろう? かなりの大物らしい。
「うーん、引き上げられない。・・・・・・しばらく走らせろ!」
 増島さんの指示が変わりました。魚が弱って来るのを待つ作戦らしいのです。
 ボクはまた漕ぎ始めました。
 しばらくグルグル廻って、魚もあまり抵抗を示さなくなったところで引き上げると、体長八十センチはある、鱒のような魚でした。しかし、虹色の体がとても綺麗な魚です。
「何でしょうね。こんなでかいヤツ」
「ノーザン・パイクと言って、やっぱり鱸の仲間だよ」
「これには、寄生虫はいないでしょうね」
「お前も嫌みなやつだなぁ。ブラックバスと大違いだよ。こんな綺麗な魚に失礼じゃないか」
 増島さんは、神妙な顔で魚に祈りを捧げるような格好をています。すっかり日焼けした横顔が、まるでインディアンの酋長が獲物に感謝しているところみたいです。
 それにしても、ノーザン・パイクは神々しいくらい美しい魚でした。食べてしまうのが惜しいくらいです。
 しかしその魚も写真におさめると、やはりオーブンの中に恭しくぶち込んだのです。
 その塩焼きの味の素晴らしかったことは言うまでもありません。

「増島さん、川釣りが得意なことはよく分かりましたが、陸釣りはどうなんです?」
 ある日釣りから帰る途中のこと、冗談とはいえ、まずい質問をしてしまいました。
「ん?」
 ボクの方を見た増島さんのその眼は、ぎらぎらとした異様な輝きに変わっていました。「いえ、冗談ですよ」
「きみ、きみは俺を舐めてんじゃないだろうなぁ」
「いえ、そんな」
「じゃぁ聞かせてやろうじゃないか、俺の武勇伝を」
 それから延々と、増島さんのいわゆる陸釣り武勇伝が披露されたのです。
 いきさつは忘れましたが、なぜか単独で女子寮に招待され、そこでケーキの御馳走責めにあった話。キャシーだかジェニーだかの部屋に招かれると、なぜか目の前でいきなりそのキャシーだかジェニーだかが着ているものを全部脱ぎ始めた話、などなど。
 聴きながら眉に唾をつけていたら、増島さんの突っ込みが飛んで来ました。
「おい、ちゃんと人の話は聴くもんだよ。いつ金髪の美女が目の前に現れるかもしれないんだからなぁ」
 その時です。道端に金髪の娘がひょっこりと現れたのは。もう一人、赤毛の娘と一緒です。二人の若い女の子が親指を立て、こちらに合図を送っているのです。
 アメリカはヒッチハイクが盛んだと聞いていましたが、こんな夕暮れに、しかも女だけで、というのにはちょっと驚きでした。僕たちが悪い男だったら、どうすんの?
 増島さんは慣れているのか、当たり前のように車を停め、彼女たちをリアシートに招き入れました。
 町はずれの小さなパブが彼女たちの行き先です。
「帰りはどうするのかね?」
「さあ、誰かが送ってくれるわ」
「いや、それは危ないよ。俺が帰りも送ってやろう。約束するよ」
「おーさんきゅー、親切な方ね」
「きみたちが、とてもチャーミングなんでねぇ」
 増島さんの英語は、こちらが恥ずかしくなるくらいブロークンですが、シンプルゆえなのか不思議なくらい良く通ずるのです。
 小さな店は若者でけっこう混んでいました。
 ヒッチハイカーの娘たちにビールを一杯おごってやると、僕たちはプール台に取り付きました。
 プールはビリヤードの一種です。日本では、十数年前に映画「ハスラー」と共に一躍ブームになり、各地にプールバーが誕生しましたが、バブル崩壊と共にそのほとんどが消えてしまいましたね。
 しかしアメリカの飲み屋さんには、ずっと昔から必ずと言っていいほどプール台があります。その台にクォーターコインを一枚置いておけば、誰でもゲームに加われることになっているようです。
 ゲームに勝てば次にコインを置いた者が相手になり、勝ち抜いて行けばクォーター一枚でずっとゲームが出来るのです。
 いつもは早々に負けてしまう僕たちですが、どういうわけか、その夜の増島さんは滅法強く、次々と面白いように勝ち抜いて行きます。気付くとかなりの時間が過ぎていました。
「そろそろ、帰りませんか。ほら、あの美女たちを送って行くんじゃなかったんですか?」
「馬鹿いえ、せっかく調子がのってきたところじゃないか。あの美女たちはきみに任せるよ」
「任せるっていわれても・・・・・・そんな」
「ほら、これ」
 そう言って、増島さんは車のキーをこちらに投げました。
 見回すと、さっきまでピンボールマシーンのところに居たはずの、金髪の娘も赤毛の娘もパブの中に見当たりません。
 急いで店の外に出ました。すると、ちょうど爆音を響かせて出て行く真っ赤なシボレーが見えました。リアシートから二人の娘がこちらに向かって手を振っているのが、外灯に照らされてはっきり見えたのです。
「なぁんだ、結局ふられちゃったか。君にチャンスをあげたのに、それは残念だったなぁ」
 まったく、増島さんには翻弄されっぱなしです。

 七月ともなると、蚊や蝿に悩まされるようになります。
 アメリカの蚊は特に大きく、刺された時の腫れ方も日本の数倍にもなります。
 蝿は刺しこそしませんが、しつこくまとわりつきとても嫌なものです。
 あまり動かないで川辺に立っている釣り人は、こういう虫たちの格好の餌食になります。虫除けスプレーをかけたり、煙草の煙をふかし続けて近づかないように防御するのですが、たいてい何カ所か刺されてしまうのです。日本の蚊取り線香が恋しい!
 根性のないボクは、蚊に刺されるのが嫌で、だんだんと増島さんの誘いを断ることが多くなりました。
 しかし、増島さんにとってはそんなことは何のその、ますます日が長くなったのを利用して、ほとんど毎日釣りに出掛けているようなのです。
 そんなある日の夕方八時頃、といっても未だ日は当分暮れそうもない時間のことです。ステーキでも焼いて食おうかと思ってたところに、増島さんの声が聞こえました。
「おーい、すごいぞ! こんなの見たことあるか!」
 外で大声で怒鳴る増島さんを見ると、手に黒く大きな魚をぶら下げているではありませんか。
 その魚、長さは五十センチぐらいですが、丸々太っていて、相当な重量がありそうです。
「こいつはキャットフィッシュって言ってな、ナマズだよ、ナマズ」
「ナマズ? あの地震を起こすやつ?」
 そう言われれば、上から潰したような顔に大きな口、その下から長い髭が伸びています。
「こんなの、食えるんですか?」
「馬鹿言え、この魚はこの国では高級魚なんだぞ。アメリカ人も競って食うんだから」
「でも、どうやって料理するんですかね?」
「そうだな、この国では大半がフィレオフィッシュだけどなぁ、俺たちは日本人だから、やっぱり焼いて食うか」
 ブラックバスの時とも、ノーザン・パイクの時とも同じワンパターン、オーブンで焼くということになったのです。
 焼くこと三十分。
 どんな塩梅かなぁと思ってキッチンを見ると、キッチン中がものすごい煙だらけになってるではありませんか。
 煙を手で払いのけながらオーブンに近づきましたが、オーブン全体が煤けていてよく見えません。でも、オーブンの中で魚が燃えているのか、微かな赤い炎がちろちろと見えました。
「すごい油だよ。こいつ油がのり過ぎてんだ」
 ゴホゴホ言いながらオーブンの中から、表面が焦げてしまったナマズくんを取り出し、シンクに放り投げました。
 表面は焦げていても、中は未だ生でした。さすがに生で食う勇気はありません。
「オーブンで焼くというのは無謀でしたね。表面だけ捨てて、やっぱり油で揚げましょうか」
「いや、こういう魚はな、昔から煮魚にすると美味いんだ。生姜をたっぷり入れて甘露煮にしたらいいんじゃないの」
「そうですかね」
 あくまで日本スタイルにこだわる増島さんです。
 ボクは食い物にうるさい人生の先輩には逆らえない質なのです。素直に指示に従うだけです。
 大きな鍋に適当に切ったナマズの切り身と砂糖を入れ、キッコーマン醤油をたっぷり注ぎ、その上にジンジャーパウダーをドサッと振り掛けました。
 そしてじっくり煮ること約一時間。
 煮えたばかりの切り身を皿に分け、二人で同時に箸を付けました。
「ん?」
 どちらからともなく顔を見合わせ、僕等は同時に箸を投げました。
「まず〜い!」
 油臭くてとても食える代物ではなかったのです。
 鍋の魚を全部ポリの容器に移し、ゴミ回収ボックスに捨てるつもりで外へ出ました。
 そこへ折しも野良犬が通りかかったので、口笛を吹いて呼び寄せ、鼻先に煮魚の山を押しつけてみました。
 野良犬は、突然出されたご馳走に怪訝な顔をしながらも、おそるおそる味見を始めました。
「まあ、せめて、犬に食われて往生してくれよ」
 ボクはナマズに祈りを捧げました。
 ところが、犬は一口味見をしただけで、それっきり食わずに行ってしまったのです。
「犬がダメなら猫がいるさ」
 野良猫がよく出没する辺りに、煮魚のたっぷり入った容器を置いておきました。
 しかし、翌朝になっても煮魚は全くそのまま、減ってる様子はありませんでした。
「なんだい、この国は、犬も猫も贅沢なやつばっかだな」
 増島さんの嘆き声が、ひとしきり大きく聞こえてきました。
(つづく)
(初出:2001年06月)
登録日:2010年06月15日 16時49分

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