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井上真花
著者:井上真花(いのうえみか)
有限会社マイカ代表取締役。日本冒険作家クラブ会員。長崎県に生まれ、大阪、東京、三重を転々とし、現在は東京都文京区に在住。1995年にHP100LXと出会ったのをきかっけに、フリーライターとして雑誌、書籍などで執筆するようになり、1997年に上京して技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「オフィスマイカ」を設立。
エッセイ/エッセイ

松田聖子世代★緊急レポート

[連載 | 連載中 | 全4話] 目次へ
今回の離婚騒動を機会に、松田聖子さんと同い年の著者が、自分の人生を重ねて振り返り、そして進んでゆく。
「やっぱり聖子ちゃんはやってくれました!」
 テレビで某主婦が頬を上気させながらいったセリフだ。
「20世紀の最後を飾る話題がキムタクの結婚なんてつまんない。やっぱり聖子ちゃんで締めくくってもらわなくちゃ!」
 当のご本人が「やっぱりわたしが締めくくらなくちゃ」と思ったかどうかは別として、世間の評価はどれも似たりよったりだ。「松田聖子は、見事に自身をプロデュースしきっている」…だれだったかテレビでそうコメントしていたが、彼女の生き様をハタで見ていると、たしかにそんな風に見える。世間の期待をすべて体現してやろうとでもいうような、彼女の人生。今回の報道は、彼女が二度目の離婚をするという内容であった。その影には、我々の世代に懐かしい原田真二の名前もあった。ダブル不倫だとか恋多き女だとかいわれつつも、多くの報道陣の前で圧倒的なオーラを放ちながら「夫婦の夢の実現のため」と言い切る彼女。

 実は私、普段から彼女に非常にお世話になっている。「今、おいくつなんですか」「ご結婚なさっているんですか」「お子さんもいらっしゃるんですよね」などと質問されるたび、私はこう答えている。「松田聖子さんと同い年なんです。この年に生まれた女性はみんな彼女みたいな人生を送っているんですよ。だから私もね、いろいろありまして…」。 こういうと、なぜかみなさんとても納得してくださるのだ。それはまるで、「そーか、松田聖子と同い年ならしょうがないな」とでもいうような、根拠があってないような納得の仕方である。その後、これまでの自分の遍歴を語り始めるのだが、その内容がどれほど波乱万丈であれ、「でもまあ、松田さんと比べたらおとなしいものですよね」という結論に落ち着く。不思議なものである。
 さて、本当に松田聖子と同い年の女性がみんな彼女のごとくドラマティックな人生を送っているかというと、決してそんなことはない。同級生の友だちを思い浮かべても、平和な家庭の主婦として穏やかに過ごしている人のほうが多いと思う。反面、この業界に入って出会った素敵な女性は、そろいも揃ってなぜか私と同い年で、しかもほとんどの方が離婚経験者である。「三度目のダンナはね」なんて会話も、ごく普通に交わされている。彼女たちの口から、「もうそろそろ40なんだから落ち着かなくちゃね」とか「走りつづけてきてから、そろそろ休みたいわ」なんて言葉は一切発せられない。いつも気持ちは現役であり、それは仕事だけでなく恋愛においても同じだ。だから、私たちにとって松田聖子の言動はごくフツーであり、コメントがあるとしても「もうちょっとうまくやればいいのにね」程度のものである。「あーやって目立つ行動をとるから、マスコミにいじめられるんだよね」。

 たしかに、彼女の行動はあまりにも無謀である。「今わたしは恋をしてるのよ」という瞳のまま「いえ、彼に特別な感情はもっておりません」といっても、それはまるで口のまわりにチョコをつけたまま「チョコなんて食べてないよ」とウソをつく子供のようで、見てるこちらが恥ずかしくなる。ウソをつくならもっと上手につきなよ!と叫びたくなる。「ホントは夫から気持ちが離れてしまったのよ。ドキドキしない男と暮らすなんて嫌なのよ。ドキドキさせてくれる男がいるというのに、その人に手を触れないなんてとても無理よ。わたしは彼を自分のものにしたいのよ」と、彼女の顔にはそうしっかり書かれている。しかし、世間の常識やら彼女の愛娘であるさやかちゃんやらを守らなくてはならないため、彼女ホントの気持ちがいえない。だから、そういう顔のまま「二人の夢を実現させるための第一歩です」と、よくわからない理由で離婚を説明しようとする。そんな彼女の姿を見ていると、「もういいよ、あなたはあなたなんだから」と肩を抱いてあげたくなる。抑えきれない感情があるなら、それに従って生きればいいよ。そういって、彼女の中の不釣合いなバランスをとっぱらってあげたくなる。

 さて、さきほど「私は松田聖子さんと同い年だから、波乱万丈な生き方ができる」という意味合いの文章を書いてしまったが、これがすべて事実だとはいえない。たしかに私の人生は、決して順風満帆ではなかった。別居から離婚、ゼロからの自立、シングルマザー時代、そして今と、山あり谷あり谷あり谷ありな道を歩んできた。現在、縁あって二人目のパートナーを得て、もう一度山を迎えようとしている。一見したところ「ほぼ松田聖子な人生」に見えなくもないが、実は中身が全然違う。わたしは彼女のように雄々しくないので、ひとつ段階を越えるたびに非常に消耗し、何度も倒れそうになり、いろんな人に手をひいてもらいながらやっとここまでたどり着いた。泣いて、心配されて、人のお荷物になって、そこからようよう這い上がって、少しだけ歩き出して、また転んで泣いたりしている。一言でいうと、すごくかっこ悪い。そんな自分がイヤだし、どうせやるなら彼女のように「あれが松田聖子というブランドだ」とまでいわれるようになればいいと思うのだが、とてもそんなバイタリティは持ち合わせていない。

 昨日の夜、昔の知人に電話で再婚の話をした。「まあ、まあ、まあ!」を連発する彼女に、なぜかやたらと「ごめんなさいね」とお断りをいれる私。「なにがゴメンナサイなのよ、喜んでいればいいんじゃないの。おめでたいことでしょ」といわれても、ただひたすらに申し訳なく思ってしまう私であった。誰に謝っているのか、自分でもよくわからない。ただなんとなくきまりが悪く、できればその話題に触らずにいてくれと一心に願うばかりである。心の奥に残るわだかまり、申し訳ない気持ち、いろんなものを失ってしまったような気分は、なかなかきれいに消えてくれない。いったいこれはなんだろうと、電話を切った後、しばらく考えこんでしまった。わたしは何にひっかかり、松田聖子のように堂々と自分の人生を歩めないのだろう。

 その時、ある言葉を思い出した。高校時代、思ったことを徒然なるままに書き綴ったノートがある。そのノートの中に、その言葉があった。書いたのは、ほかならぬ高校時代のわたしである。
「尾長鳥のしっぽのごとく、長々しく続く想い。私は、自分が経験したすべてを引きずって生きる。一生が終わる頃には、どれほど長い尾となっているだろう」
 あまりにも抽象的すぎてわかりにくい言葉ではあるが、この言葉を書いた時の気持ちを私は覚えている。恋をしてその恋が終わり、嘆き悲しみつつも次の恋に向かう自分。その時私は、前の恋を忘れてはいなかった。前の彼との思い出を思い出しながら、別の人と新しい恋を育もうとしている。しかし、この新しい恋も、いつか昔の恋と同じ運命をたどると知っている…。この言葉は、変わりやすい自分の心と時間を呪い、せめてすべてはっきり覚えていようと心に決めて書いたものである。そう、これは強い呪いの言葉なのだ。

 その言葉通り、わたしはその後に経験したすべての出会いについて、しっかり記憶している。前の結婚のこと、子供が生まれた時の彼の表情、幸せだった家族の時間、私が家を出る時の子供たちの表情…。においや風、音に至るまで、しっかりと覚えている。覚えているからこそ、失われた時間が悲しい、切ない、つらいと思う。幸せだと思うその瞬間、頭の中にいくつもの時間と顔がよぎり、意味もなく立ち止まってしまうこともある。そんな私のためらいを、一緒に立ち止まって待っていてくれる彼でなくては、おそらく新しい出発は不可能であった。「いつまでも昔のことを引きずってメソメソするような女はお断りだ」という人なら、とっくの昔に私のそばから離れていっただろう。

 松田聖子、アナタはどうなんだろう。いつか彼女に会う機会があれば、ぜひ彼女に聞いてみたいと思う。あなたもやっぱり、その長い尾にすべての想いを引きずっているの? 切なくて立ち止まりそうになるけれど、その想いを振り切って次の自分を演じてきたの?
 彼女はこういうかもしれない。
「わたしに見えているのは、今。いつも身軽に生きている。そんな尾なんて、人に迷惑をかけるだけで、何の役にも立ちはしない。さっさと切ってしまいなさいな」。
 …実はこれ、もう一人の私の声でもあるのだ。
(つづく)
(初出:2000年12月)
登録日:2010年05月30日 15時12分

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