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井上真花
著者:井上真花(いのうえみか)
有限会社マイカ代表取締役。日本冒険作家クラブ会員。長崎県に生まれ、大阪、東京、三重を転々とし、現在は東京都文京区に在住。1995年にHP100LXと出会ったのをきかっけに、フリーライターとして雑誌、書籍などで執筆するようになり、1997年に上京して技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「オフィスマイカ」を設立。
エッセイ/エッセイ

マッサージサロン★潜入レポート

[連載 | 連載中 | 全4話] 目次へ
マッサージといっても、針灸から指圧、ツボ押しなどさまざまなものがある。息子さんにマッサージしてもらっても蚊がとまった程度にしか感じなくなってしまった著者は、プロにお任せすることに決めたのだった。クイックマッサージに整体、そして究極(?)のインド系マッサージ。さて、その効果は?
「もうこれからは、マッサージでしょ」(C)スタパ斎藤
 …という訳ではないが、私的に今マッサージが旬である。これまでずっと息子にマッサージさせていたのだが、仕事が続くと共に肩のコリも激しくなり、息子が揉んでも蚊がとまった程度にしか感じなくなってしまった。こうなったらしょうがない、プロにお任せしようと決心した。お金はかかるかもしれないが、それで仕事が続けられるのであればよし。もしかすると、うまいネタを拾えるかもしれないし(こっちがホントの理由だったりして)。

 マッサージにもいろいろあって、一般的によく知られているのが「15分1,500円」のクイックマッサージ。横にならなくてもマッサージしてもらえるし、ビジネス街には必ず何店舗かあるので、忙しいビジネスマンでもちょっとした時間を作って治療が受けられる。昼間クイックマッサージに入ってみると、スーツ姿の男性がズラッと並んでマッサージを受けている。さぞかし激職なのだろうと思うと、お疲れさまと声のひとつもかけたくなる。しかし、私のコリはこの程度でもまったくダメ。何度かいってみたことはあるが、瞬間軽くなった気がするだけで、あっという間にコリが戻ってきた。なので、今回はもう少し本格的なものを試すことにした。

 最初に私が出かけたのは、近所にある整体マッサージ。整体というと、なんとなく本格的なイメージがある。整体初心者は、エステサロンのごとくン万ふんだくられるんではないかと、つい余計な心配をしてしまう(私だけかも)。そんな不安を取り除くためか、最近よく郵便ポストの中に治療費が明記されたマッサージ店のチラシが入っている。今回挑戦したのは、チラシに「初診料2,500円、治療代3,000円」と書いてあった店。嬉しいことに、場所もうちの近くだった。電話で予約し、走って1分で店に着く。あっという間に到着した私に驚きつつも、先生はすぐに治療を始めた。まず、普通に立つところからスタートした。先生が、右から左から何度も眺めてうなずく。
「なるほど。姿勢は悪くないですが、体は若干歪んでいるようですね。では、そこに寝そべってください」
 病院の診察室にあるような白いシーツでくるまれた台に横たわり、妙な形の枕にアゴを乗せた。先生は、体中まんべんなく見て回る。次に背中を押し、両足を引っ張った。うんうんとうなずきながら、腰をひねるように動かす。
「思ったより悪いですね。立っていたときは姿勢がよかったのに、横になってみるとゆがみが激しいようです。体が自主的に矯正していたようですね。では、最初だから軽く治していきましょう」
 背中を押し、足を引っ張り、腰を動かし、首を揺さぶる。先生は、忙しくあちこち様子を見ながら、痛くないように加減しつつちょっとずつ治療し始めた。その甲斐あってか、ゆがみはよくなったらしく、治療後すぐに立ち上がるとちょっと斜めに立っているような妙な感じがした。先生は笑いながら、「帰りは気をつけてくださね。よく階段から落ちる人がいるようですから」と言った。笑い事ではない。何もしなくても階段からよく落ちる私だ。これは絶対に落ちる。慎重に手すりを両手で持って、ゆっくりゆっくり降りていった。地面に届いても、まだ気は抜けない。まっすぐ歩くにも十分注意が必要だ。こんな調子なので、来る時は走って1分だったのに、帰りは10分以上かかってしまった。
 帰り際に先生が「今日はきっと仕事にならないと思います。からだが疲れていると思うので、昼寝してください」と忠告したが、私にそんな余裕はない。明日出さなければならない原稿があるのだ。本当は、忙しい時に整体しない方がいいんだそうだ。でもやっちゃったものはしょうがない。気合を入れてパソコンの前に座ってみるが、そのままスヤスヤと昼寝してしまった。肝心の効果はというと、治療の翌々日に現れた。はっきり言って、中1日は体中が痛くてしょうがなかった。しかもダルい。こんな体で原稿書く羽目になってしまうとは。計算違いに、すっかり参ってしまった私だ。

 その翌週、またもや体が痛くなった私は、ダルくならないよう別のマッサージを探した。タウンページによると、駅前にマッサージサロンがあるらしい。早速電話してみる。
「今なら空いてますよ」
 予約を取り、すぐに出かけた。こちらの店は徒歩3分のところにある。料金は15分1,500円。公正を期すため、近い金額である30分3,000円のコースをお願いした。2階に上がり、良い香りとリラクゼーション音楽に包まれながら、台に横たわる。ウトウト眠くなってきたころ、先生が横にたった。
「どこがお悪いんですか」
 全身マッサージしながら先生が尋ねる。しかし、答える前に判ってしまったようだ。
「ひどく凝ってますね。これは痛いよね。しかしひどいなぁ」
 先生は何度もそう言いながら、懸命にマッサージを続けた。手が熱くなってくるのがわかる。力がはいっているのだろう。いつも凝っている背中と肩のあたりをぐりぐりともみほぐす。
「ここがひどいですね」
 額に汗を浮かべながら、ひたすらもみ続ける先生。かなりご年配なので、なんだか申し訳ないような気がする。ホントなら、私の方がマッサージしてあげなくてはいけないような気持ち。とても居心地の悪い罪悪感。客なんだから仕方ないと、自分に何度も言い訳をする。あっという間に30分間は過ぎ、わたしの肩はすっかり楽になったけれど、気持ちはかなり重くなった。「ひどいコリでした。これだけひどいと、一回ではよくなりません。これからちょくちょく治療にきてくださいね」と、先生。はい、と答えながら足早に店を出る。年配の方=キャリアを積んだプロという見方もあるが、わたしはやっぱり古い人間なんだろうか。「若いもんが年寄りに肩揉んでもらってどうする」と、しかられそうな気がしてならない。だったら、ヘタでもいいから若いねーちゃんに適当に揉んでもらったほうがナンボか気楽だと思った。
 さて、こちらのマッサージを受けた後も、やっぱり半日ダルかったような気がする。マッサージとは、すべからくダルくなるものなのだろうか。本当につらい時、ちょっとでも楽になるならとマッサージ通いを決意したのだが、ますます仕事が出来なくなってしまうようではいけない。揉んでもらって、楽になって、その後すぐに仕事がザクザクできるマッサージがあれば、私は何度だってその店に通うつもりだった。ここであきらめてはいけないと、次の週末ふたたび別のマッサージ店に挑戦してみることにした。

 今度のターゲットは、若者の街「渋谷」。「しぶや」と呼ぶのが正解だが、宅の息子は時々「しぶたに」と呼ぶこともある。「しぶたに」と呼ぶと、いかにもしぶ〜い感じがして若者の街というイメージから遠ざかる。その実マッサージ店の多い「しぶたに」を目指し、私は午後一番に電車に乗った。今度の店でなんらかの効果が見られない時は、「マッサージ」そのものの存在意義を疑ってみようとさえ考えている。覚悟は半端ではない。
 道を歩いていると、いきなり「浪越指圧」という看板と出会ってしまった。太いフォントが力強い。下に、「このビル7階」とある。オノレの腕に絶対なる自信をもったその看板を好ましいとは思ったが、なんとなく気が乗らない。どうしようかな、とあたりを見回してみたら、反対側のビルに「Healing Studio ベルデ」という看板があった。「Healing Studio」というアヤシイ響きに魅了された私は、浪越指圧に別れを告げて反対側のビルのエレベータに乗った。
 「Healing Studio ベルデ」は、「インド系マッサージ」のお店である。店内にはいつもハーブオイルのいい香りが充満しており、おねえさんの説明を聞いているだけで頭の芯がぼーっとしてくる。BGMにインド音楽が流れていて、うっかり睡眠不足の状態で店に入ったら、そのまま眠ってしまいそうな雰囲気だ。「こちらは半身マッサージ、こちらはフットマッサージの料金ですが」とチラシを渡され、なんとなくお得そうな「全コース60分4600円」というヤツをお願いする。首と肩、上半身をハーブオイルでマッサージし、最後に20分間「頭皮マッサージ」を施すのだそうだ。この「頭皮マッサージ」というのがものすごく効くんだそうで、いやおうなく期待は高まる。
「では、この部屋で着替えてあちらの廊下に出てください」
 着替え室に入ると、ガウンと紙パンツが用意されていた。服は全部脱いでしまい、紙パンツとガウンをはおって廊下に出る。「着替え中に男の人が入ってきたらどうしよう」と気が気ではなかったが、あとでよく聞いてみたら、どうやら女性専用の店だったらしい。
 カーテンで仕切られた個室に通され、ベッドに横たわってすぐガウンを脱ぐ。腰から下はタオルで隠してもらうが、なんとなく恥ずかしい。これまで受けたマッサージは全て着替えなしだったので、これだけでもずいぶんスペシャルな気分だ。いい香りのハーブオイル(あらかじめ好みの香りを選べる)を塗って、いよいよマッサージが始まった。
 私の担当は小柄な女性だったが、これまでのマッサージがウソのように力強い。いち早く背中のコリを発見した彼女は、「最近コリを小さくするのに凝っているんです」と、グリグリ揉みほぐし始めた。スタートから約10分。信じられないことに、私の肩の上にずっと居座っていたコリの痛みは、すーっと消えてしまっていた。その後、少しずつ彼女の手の下で全身の血行がよくなり、リンパの流れもサラサラになり、冷たい皮膚が暖められ、生気を取り戻していくのが実感できた。最後に「頭皮マッサージ」を受ける頃には、すっかり眠気を催していたほど。「はい、終わりましたよ」とホットタオルを渡され、やっと目を覚ました私。部屋を出て着替えを済まし、おいしいハーブティをいただきながら、「これならすぐにでも仕事ができる」と思った。まったくダルくないのだ。ちなみに、「頭皮マッサージ」の正体は「頭のツボ押し」であった。目の疲れには、特によく効くんだそうな。パソコンで仕事する機会の多い人は、ぜひ一度お試しあれ。視界が一気に明るくなる。
 その後、しばらく肩や首のコリは戻ってこなかった。わたしはいつになく元気で、その結果思った以上の仕事量をこなすことができた。ついに夢のマッサージを発見したのである。長い道のりだった。しかし、世の中には指圧やツボ押し、針、お灸など、ありとあらゆるマッサージがある。そんな中、わずか3回目で相性のいいマッサージを発見できたのは、むしろ幸運だったともいえる。これからは定期的に「インド系マッサージ」の恩恵を受けるべく、日夜お仕事に励む覚悟である。
(つづく)
(初出:2000年06月)
登録日:2010年05月30日 15時16分
タグ : マッサージ

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