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井上真花
著者:井上真花(いのうえみか)
有限会社マイカ代表取締役。日本冒険作家クラブ会員。長崎県に生まれ、大阪、東京、三重を転々とし、現在は東京都文京区に在住。1995年にHP100LXと出会ったのをきかっけに、フリーライターとして雑誌、書籍などで執筆するようになり、1997年に上京して技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「オフィスマイカ」を設立。
エッセイ/エッセイ

ネットオークション★潜入レポート

[連載 | 連載中 | 全4話] 目次へ
魅惑のYahoo!オークション。出品されている物をウォッチングする著者を、娘さんがのぞき込む。彼女が見つけたものとは? はたして手に入れられたのだろうか?
 今、Yahooオークションが熱い。各誌特集でそう書いてあるんだから間違いない。わたしがオークションに手を出してしまったきっかけはなんだっただろう。おそらく友だちが「Yahooオークションでボロもうけした」と自慢したあたりからだったに違いない。彼女は家の中に眠っていた大昔の人形のホコリを払いつつ出品し、かなりのお小使い稼ぎをしたらしい。さすがに出品するほどの勇気はないので、とりあえずID登録して出品されている物をウォッチングすることにした。
 オークションには、いろんなものが出品されている。本やCDは予想の範囲だったが、ブランド物や旅行チケット、古着、レコード、ポスターまで出されているのには驚いた。極端な話、ここだけで買い物は済んじゃうんじゃないの?という勢い。一時は人まで売っていたらしいが、さすがにそこまでヤバいものはもう出ていないらしい。新宿や渋谷界隈であやしげなおにいさんが「いいのあるよ」なんて女子校生に売りつけているナゾのキャンディとかも見つかりそうな無法ぶりなんだけど。
 ひとつひとつ商品を見ていてもキリがないので、ここは一発キーワード検索をかけてみることにした。さんざん悩んだあげく「アンジェリーク(PS用ゲームソフト)」といれてみたら、かかるかかる。ヒットした商品リストは数ページに渡った。さてさてその内容はというと、トレーディングカードやら販促用ポスターやらテレカやら、およそ予想とかけはなれたものばかり。わたしが欲しかったのは「アンジェリーク」のゲームソフト。それもなくはないが、「プレミアムBOX入り」とかレア物ばかりで、お値段もそこそこ高い。これならコーエー通販で買ったほうがマシだと、一瞬オークション熱は冷めかかった。
「何やってるの?」
 そこでモニターを覗きこんだのは、春休みで遊びにきた娘。
「これ? ネットオークションっていってね、インターネットでバザーができるところ。ほら、子供会でもやってたでしょ、バザー。あんな風に、家にあるいらない物をここで売れるみたい。バザーは商品の値段を自分で決めたけど、オークションは買う人が値段を決めるらしいよ」
「ふーん」
「ほら、ここに欲しい物の名前をいれるでしょ。んで、ボタンをクリックすると、その名前の商品がずらーっと出てくるの」
「へえ、おもしろそう! ね、やらせてやらせて〜」
 彼女はモニタの前に座り、腕を組んでしばし熟考。
「何にしようかな…。あ、そういえば電卓がいるんだった。電卓にしよっと」
 余談だが、娘は今年中学に入学する。元夫と二人、元気に父子家庭やってる彼女の健気さはまさに落涙もので、愛読書は「Papa told me」だ。そんな環境の中、日々彼女の「オバサン」度は強まっていき、ネギが安いと聞けばタイムサービスに走り、いただいた図書券は古本屋で100円の本を買って400円という現金に変える。久しぶりに会ったんだからとごちそうしようとしても、「おかあさん、無理しちゃだめよ。お金ないんだから」と逆に諭されてしまう始末。
 話を戻そう。彼女はキーワードに「電卓」といれ、検索ボタンを押した。数々の電卓がリストアップされる。ハイテク電卓からiMACカラーの電卓、カード型など、種類も豊富ダ。
「どういうのがいいの?」
「うーん、家で使うやつだから、大きくて見やすいのがいい」
「んじゃこれは?」
「…高い」
 それじゃあと彼女の予算を聞くと「100円くらいかな」とのたまう。100円の電卓なんて送料のほうが高くつきそうだが、そこはやっぱり子供なので送料のことまで考えない。でもここで送料の話をするとやめてしまいそうなんで、あえて説明しないことにした。それよりも、100円なんていう商品があるのかどうか、私も興味津々である。
「あ、これがいい!」
 嬌声と共に彼女が指さしたのは、なぜかワニの人形。
「え、これ電卓?」
「電卓だよ。だってここにそう書いてあるし」
 確かに「ワニの電卓」というタイトルになっている。
「これかわいいし、しかも電卓だし、100円だし」
 娘は夢中である。これがかわいいとは、ユニークな感性だ。写真の下に、「一応電卓機能はついていますが、とても使いにくいです」というコメントがあるが、そんなところまで見ちゃいない。自分の思いがけない発見に、ひたすら喜ぶばかりである。「お金は私が払うからさ、これ申し込んで!」と何度も頼むので、しょうがなく初めての入札を試みた。希望価格に「150円」といれる。「えーーー!100円じゃないとやだー」と娘は文句タラタラだが、「今100円なんでしょ。だったら、それ以上の値をつけないとオークションにならないじゃん」と説得する。しぶしぶ了解させ、次にIDとパスワードを入れて入札…のはずだったが、初めてオークションに参加する人は、別途メール承認システムで手続きをとらなくてはならないらしい。面倒な気もしたが、娘の期待に満ちた目を見ると途中でやめる訳にもいかない。地道な承認作業を終え、ふたたび電卓の画面で150円入札する。しかし、どうやら「Yahooオークション」では最初に入札した人に限り、次の人が入札するまで価格は動かないらしい。「あれ、100円のままだ」という私の声に、小躍りして喜ぶ娘。その後丸一日、娘はずっとオークションを監視し続けた。
「ほかの人に取られないかなあ…」
 彼女の表情は、真剣そのものだ。しかし、やっぱりこの「使いにくい電卓」に目をつける人はほかにいないらしく、価格はずっと100円のままだった。
 翌日、娘は父の待つ家に帰った。「ワニの電卓」落札日まで、まだあと3日ほど間がある。娘は、「おかあさん、あとは頼んだ。あの子がほかの人に取られないように、がんばってね」と言葉を残した。かわいい娘のたっての願いである。叶えなくてなるものか。私は彼女の意志を引き継いで、その後ずっとワニ電卓を監視し続けた。しかし彼の評価は微動だにしない。いつまでたっても100円のままだ。ここまで人気がないと、落札するのも複雑な気分である。ついに値はあがらないまま、100円という信じられない価格で「ワニ電卓」は見事娘のものとなった。私はさっそく娘に電話し、「ワニ電卓、100円で買えたよ」と報告する。電話のむこうで歓声が聞こえた。彼女が喜べば私も嬉しい。オークションなんてウサンクサイと思いかけていたが、この1件でぐっと好感度アップ。わたしも何か落札するぞと、いきなりオークションウォッチャーになってしまった。その後わたしがオークションで手に入れたのは、ローラアシュレイのセーターおよびジャンバースカート、愛用しているVisorのスタイラス、ゲーム攻略本、昔愛読したコミックなど、すでに8点。中にはちょっとしたトラブルもあったが、ほとんどが気持ちのいい取り引きだった。なにより、商品に添えられた短い手紙が嬉しい。
 後日談になるが、「ワニ電卓」にはオマケとして新しい電池とかわいいシールが同梱されていた。オマケだけでも、ゆうに100円は越えている。多分これを出品した人は、お金を儲けようと思って出したのではないのだろう。このあたりの心境を追体験すべく、私も何か出品してみようと企み中。まず、かわいい梱包材料とオマケを考えなくては。
(つづく)
(初出:2000年05月)
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登録日:2010年05月30日 15時18分

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