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いちばゆみ
著者:いちばゆみ(いちばゆみ)
携帯電話やスマートフォンなどのモバイルツール、オークション、SNSなどのネットサービスを中心に執筆するITライター。主な著書に「オオカミなんかコワくない!〜出会いサイト安全利用マニュアル」(ソフトバンクパブリッシング)、「ぜったいデキます!これからはじめるYahoo!オークション」(技術評論社)などがある。横浜市在住。
エッセイ/エッセイ

ゆうきゃんの人生迷走案内(1)

[連載 | 連載中 | 全6話] 目次へ
Facebookでかつての同級生と再会。卒業以来会っていないのに近況は良く知っているという不思議な関係だ。そんな彼女からのメッセージに呆然と立ち尽くす著者。いったいなにが?
■青春が死んだ日

 夕飯の支度をしていたら、メールの着信音が♪ピロリーン…と鳴った。
 あわてて濡れた手を拭き、エプロンのポケットからケータイを取り出す。

 高校時代の友人の昌美ちゃんから、Facebookのメッセージが来ていた。
 昌美ちゃんは高校一年生の時のクラスメートだ。1年くらい前に始めたFacebookで「再会」した。

 Facebookに登録して、出身校の欄に高校名を登録したら何人かの同級生とネット上で「再会」し交流が始まった。
 彼女はそんな中のひとりだ。
 昌美ちゃんとは学生時代は単なるクラスメート程度で、正直すごく仲がいいってほどじゃなかった。
 卒業して28年を経て当時の同級生と連絡が取れたということがうれしく、Facebookでお互いコメントや「いいね!」をつけあううちにどんどん親しくなっていった。
 学生時代の共通の「思い出」があるというだけで、あっというまに距離も時間も埋まる。
 実際には卒業以来会っていないけど、お互いの近況はよく知っている…というのもなんだか不思議な気持ちもするけど、今ではオンラインで毎日のようになにかしらおしゃべりをしている仲だ。

 私は卒業してすぐ上京、彼女は今も地元にいる。
 もう何年も帰っていないけど、私が今度地元に帰る時にはプチ同窓会をしようね、と約束している。

 それにしても、直接メッセージなんて珍しいな…。

 メッセージの内容を見て、私は目を疑った。

「吉田くんって覚えてる? よっちゃん、高校生の時付き合ってたよね? 彼、去年の年末に亡くなったんだって。知ってた?」

 …吉田くんが、死んだ? なんで?
 
 吉田くんは、私が初めて「お付き合い」をした、いわゆる元カレだ。
 高校に入ってすぐ、友だちの紹介で知り合い交際を申し込まれた。
 その時、特に好きな人がいなかった私は軽い気持ちで「じゃ、お友だちからということで」とOKしてお付き合いが始まった。
 結局、高校時代のほとんどを彼と一緒に過ごした。
 いつも彼が漕ぐ自転車に二人乗りして、どこに行くのも一緒だった。
 恋愛における「初めて」は、全部彼が相手だった。
 まさに「青春」を共有した相手だ。

 ひとつ年上だった彼が先に大学生になってから、お互いの生活がすれ違うようになり、ほんのささいなケンカがきっかけで別れてしまった。
 それから、一度も会っていない。
 卒業後私は地元を離れてしまい、そのままずっとこちらに住みついてしまった。
 以来、吉田くんと一緒につるんで遊んでいた仲間たちとも交流がないままだ。
 「今頃どうしているんだろうな」と、思い出すことすらほとんどなかった。

 Facebookで再会した同級生たちのプロフィール写真を見ると、当時の面影はもちろん残っているけれど、そこにはやはり28年ぶんの歳月が降り積もっている。

 会社を経営していたり、学校の先生になっていたり、積み重ねてきた年月の中、みんなそれぞれの道を歩いて来ている。
 ジャニーズ系のルックスで女子の人気モノだったケンくんはメタボなおじさんになっているし、クラスイチの美少女と評判だった朱美ちゃんは今でもキレイだけど、両頬に広がるシミと目尻のしわはさすがに隠せない。
 ああ、みんな歳を取ったな…と思わずため息が出る。

 私だって今では立派な“おばちゃん”だ。
 3人の子どもを産んで体重だって当時より10キロ以上増えたし、老眼こそまだ出ないもののシミも白髪もほうれい線も気になり出した。
 当時のクラスメートと久しぶりに会ったら、すぐには誰も私だとはわからないかもしれない。

 会えていたら、思い出は「更新」されて、現在の姿が「上書き」される。
 ネット上で再会した同級生たちも、目に浮かぶのは当時の姿だけど、現在のプロフィール写真から何となく現在の風貌が予想できる。
 28年経った姿が、なんとなくイメージとして浮かぶのだ。

 でも、吉田くんのイメージは別れた当時のままだ。

 彼だってもしかしたら、当時のスリムな面影なんて全く消え失せてしまって、メタボ腹になっていたかもしれないし、ハゲちゃってたかもしれない。

 会ったらお互い指さして大笑いしながら
「なにー!すっかりおっさんになったねえ」「おまえこそ、老けたねえ!」なんて言えたかもしれない。

 私と別れた後の彼の人生を、私は全く知らない。
 どうしてまだ40代の若さで死んでしまったのか…その苦しみも悩みもわからない。

 もし彼が今も生きていたら。
 もしかしたら、私と昌美ちゃんのようにネットで再会することがあったかもしれないけど。

 …でも、もう彼に会うことは二度と叶わない。
 お互いが過ごした別々の28年は、最後まで全く重なることがないままだった。


 今でも目に浮かぶのは、最後に会った時私が「さよなら」と告げた時の悲しそうにゆがんだ表情だけだ。

 彼の死を告げるケータイの画面を眺めたまま、お味噌汁が煮えたぎるのも忘れて、私はしばらく茫然と立ち尽くしていた。
(つづく)
(初出:2012年06月)
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登録日:2012年06月12日 17時48分

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