騒人 TOP > エッセイ > エッセイ > ゆうきゃんの人生迷走案内(3)
いちばゆみ
著者:いちばゆみ(いちばゆみ)
携帯電話やスマートフォンなどのモバイルツール、オークション、SNSなどのネットサービスを中心に執筆するITライター。主な著書に「オオカミなんかコワくない!〜出会いサイト安全利用マニュアル」(ソフトバンクパブリッシング)、「ぜったいデキます!これからはじめるYahoo!オークション」(技術評論社)などがある。横浜市在住。
エッセイ/エッセイ

ゆうきゃんの人生迷走案内(3)

[連載 | 連載中 | 全6話] 目次へ
Facebookで出身校の同級生グループを見つけて同窓会に発展。集まったのは20人たらずだったが、20数年ぶりに会う面々は相変わらずだった。思い出話に花が咲くなか、ちょっと素敵な男子がやってきた。こんなにカッコよかったっけ?
 また、会う約束

 同窓会の会場となった駅前にほど近い居酒屋。
 半個室の小上がり席に誰かが顔をのぞかせるたび、歓声があがる。

「うわー! 久しぶりぃ」
「あんた、ちぃーっとも変わっとらせんね!」
「うっそー、えっらい太ったがね!」

 懐かしい故郷なまりの言葉が飛び交う。

 通っていた高校は当時開校6年目の新設校で、やたらと規則が厳しいことで県下でも有名だった。

 アルバイト禁止、運転免許証取得禁止、男女交際禁止はもちろんのこと、スカートの丈から靴下の色、髪の毛の長さに至るまで、生徒たちを締め付ける規則が事細かく決められ、先生たちの鋭いチェックの目が光る。
「制服の襟に髪の毛がつく場合は、ゴムで結ぶこと。ゴムの色は黒か紺に限る」。
 ゴムの色が茶色や赤やグリーンというだけで、生徒指導室に呼び出されて叱られるなんて、バカバカしい。
 「くだらない! そんな規則、意味あんの?」と思いながら、反抗したり校則を改革しようと運動するほどのパワーもなかった。
 逆らわずに、学校ではおとなしくしてればいいんだから。

 いかにして厳しい生活指導チェックをかいくぐりこっそり遊ぶか…に、情熱をかけていた。
 髪をひっつめにまとめて、文句のつけようもないほど校則をきっちり守り、授業中はひたすら居眠りをして退屈をやり過ごす。
 他校の子や3つ年上で地元のお嬢様短大に通う姉やその友人たちとつるんでは、夜の街に繰り出していた。

3月、まだ春というには肌寒い日に、卒業証書を手に母校の門を後にした。
 門を出て、2つにおさげに結んでいた髪の毛のゴムを思いっきり外した。
 せいせいした。

 大嫌いな学校で、ひたすら目立たないように息を殺しながら灰色の日々を過ごしたけれど、それでも何人かの友だちはいた。

 仲のよかった友だちに手を振った。

 「じゃあ、また会おうね」と。

 それから、一度も母校には行っていない。
 卒業後まもなく、私は就職のために上京した。
 新幹線に乗ればたったの2時間足らずなのに、故郷にはめったに帰ることもなくなり、「また会おうね」との約束も果たせないまま、20年以上が経った。
 
 勤務先の友人に誘われて登録したFacebookで、出身校の同級生グループを見つけて、なんとなく参加したのは3ヶ月ほど前のことだ。
 私自身は当時の同級生とはほとんど付き合いもなかったけど、「あ、私は○○ちゃんと今でも連絡取れるよ」「××なら時々会って飲んでるぜ」と、どんどんつながって、あっというまに参加者は40人近くになった。
 その中の一人が、「お盆前に実家に帰省するんだけど、誰か会えない?」と投稿したことがきっかけで実現した、プチ同窓会。
 せっかくだし、久しぶりに地元に帰ってみるか、と気持ちが動いたのはほんの気まぐれだった。

 集まれたのは、ほんの20人足らず。
 一学年400人近くいた同級生からすると、ごく一部だ。
 学校ではとにかく目立たないように振る舞っていたので、親しかった子も少ない。
 「え、そんな子いたっけ?」って感じで、たぶん同級生の間での印象は薄いと思う。
 卒業してすぐ地元を離れたので、ほとんどの友人とは卒業以来会っていない。
 きっと誰も、私のことなんて覚えてないんだろうな…。

   ※

「やーだ! ヨッシー、あんた! 久しぶりー! どうしとったの!」

 学生時代のあだ名で呼ばれ、あっというまに時間は18歳だったあの頃にさかのぼる。
 太ってしまったり、頭が少しさびしくなっていたり。皆年齢を重ねた分、容貌は変わっているけれど、目元や笑顔には当時の面影が残っている。

 誰も私のことなんて覚えていない、なんて思っていたけど、それでも何人かの同級生がちゃんと私を覚えていてくれたことが、ちょっとくすぐったくてうれしい。

 厳しかったあの学校での時間を共に過ごした仲間たち。

 30km、ただひたすら歩かされた「遠足」という名の強歩訓練。

 ロープウエイもあるというのに、ふもとからひたすら歩いて頂上を目指した林間学校の登山行事。しんどかったはずなのに、懐かしい。

 いかにして、厳しい先生の監視をくぐりぬけて遊びに行ったか、という武勇伝。
 パーマをかけたことがばれて、バリカンを持った先生に追いかけられて丸坊主にされた男子のこと。

 朝会には必ず5分前に集合していること、と言われた「5分前の精神」。
 つい遅刻して、グラウンドの土の上に正座させられてビンタされて痛かったけど、いまだに待ち合わせ場所には絶対5分前にはついてしまう。
 社会人になってから、アレ役に立ったねと笑い合う。

 思い出話は止まらない。

 当然の流れのように、ほとんどのメンバーがすぐ近くのカラオケボックスに移動して二次会が始まった。
 当時ヒットした曲がどんどんリストに登録され、マイクを奪いあうように合唱しだす。

 みんなが学生時代に戻ったようにはしゃぐ中、

「遅れてごめん!」と入ってきた男性を見て、ドキっとする。

 あれ、誰だっけ…?

 隣で手拍子を叩いていた良美ちゃんに
「ねえ、今入ってきた男子、誰?」とこっそり聞いてみる。

 「やーだ、ヨッシー! 1年の時同じクラスだったじゃない! 坂田くんだよ」

 記憶をさらってみるけど、あまり覚えていない。
 そう言われれば、同じクラスにそんな名前のオトコの子が居た気がするけど…。

 いわゆるチョイ悪オヤジってやつだろうか。
 少し色の入ったフチなしのメガネが、短いソフトモヒカンの髪型によく似合う。
 多くの同級生男子がメタボ腹になっている中、すらっとスリムな体にタイト目の黒いシンプルなポロシャツがフィットしていて、垢ぬけた感じだ。

 えー、当時からこんなカッコよかったっけ?

 しまった! ふてくされて居眠りばかりしてないで、少しは同じクラスの男子にも目を向けておけばよかった、なんて、今さらどうしようもないことをちらっと思ったりする。

 「あれー! 吉村さん、久しぶりだね! 元気だった?」と、坂田くんがすぐ隣に腰をおろす。

 覚えていてくれたんだ。意外。

「相変わらず、キレイだよね。高校生の頃もカワイイなって思ってたけど」

 みえみえのお世辞に「やーだ、もう! うまいんだから」と返すものの、悪い気はしない。

 カラオケで盛り上がるうち、坂田くんが振り上げた手が、私の肩に当たった。

「あー、ごめん! 吉村さん、痛かった? よしよし」。

 坂田くんの大きな手が私の頭をなでる。
 誰かにこんな風に頭をなでられるなんて、すごく久しぶりのことだ。
 …ちょっと、どうしよう。
 自分でも驚くぐらい、ドキドキしている。
 
 もう、ここ何年もお互いを「パパ・ママ」と呼び合うだけの夫のことが、ちらっと頭をかすめた。
 いつから私たちは触れ合わなくなったんだろう。
 お互い干渉しない。相手がどこでどうしていようと、咎めたりもしない。
 だいたいいつだって午前様で、平日自宅で一緒に夕食を食べるということもなくなっている。遅いのが当たり前になると、本当に「残業」なのかどうか気にも留めなくなっていた。
 髪の毛を切っても、口紅の色を替えても、全く気付くこともない。
 「同窓会に行ってくるね」と言っても、新聞から目も上げず「ああ、どうぞ」と言っただけだった夫…。

 喧騒の中、普通に話していると、カラオケの大音量に声がかき消されてしまう。
 お互い耳に口に寄せるようにして会話を交わす。
 だんだん肩の位置が、近くなる。

 「よかったら、連絡して?」と、名刺をもらう。
 
 地元では結構名の通った企業の「課長」という肩書。裏をさっと返すと、プライベートの携帯番号とメールアドレスが書かれていた。

 手慣れてるな、と思わず苦笑しながら、そっとその名刺をバッグのポケットにしまい込む。

 同窓会をきっかけに、なんて、陳腐過ぎる恋をバカにしきっていたけど。
 別に浮気するワケじゃない。
 ちょっとしたドキドキを味わうくらい…メールするくらい、いいよね…?

 横から良美が私をつついて耳打ちする。

 「坂田くん、バツイチで今はフリーなんだってよ」

 ふーん、そうなんだ…。

 さすがに終電を逃してまで遊びまわるほど、もうみんな子どもじゃない。
 23時を回った頃、最初に利用を申し込んだ予定の時間が来て、延長することなく会はお開きになった。

「また、会おうね!」

「うん、またね! 絶対ね」と約束して、みんなと別れる。

 うん、また、きっと、すぐ会えるよ…。

 みんなとは逆方向に歩きながら、私はさっそく彼にメールする口実を探し始めていた。
(つづく)
(初出:2012年10月)
登録日:2012年10月13日 13時37分
タグ : 同窓会

Facebook Comments

いちばゆみの記事 - 新着情報

エッセイ/エッセイの記事 - 新着情報

  • 川内村ざんねん譚(11) 西巻裕 (2017年07月30日 15時57分)
    田舎暮らしと都会暮らしではプライバシーの考え方にずいぶんと違いがある。田舎では何でもお見通しで、一見さんにはちょっと考えられないようなことまで筒抜けなのだ。まるでヌーディストクラブのような田舎の気持ちよさにあなたは浸れるだろうか!?(エッセイエッセイ
  • 吾輩は司書である(29) 麻梨 (2017年04月19日 16時47分)
    外面はスペックの高い女子二名。ひとりは腐女子でもうひとりはダブルパンツ。見抜けるモノはそうざらにはおるまい……。人は見かけによらないというお話。(エッセイエッセイ
  • 川内村ざんねん譚(10) 西巻裕 (2017年01月19日 11時15分)
    東日本大震災を知らずに逝ったアサキさんを偲び、川内村の人間関係や生活を綴る。(エッセイエッセイ

エッセイ/エッセイの電子書籍 - 新着情報

  • 吾輩は女子大生である 麻梨 (2014年07月19日 15時04分)
    女子大生、麻梨の日常と就活、就職までを記した悪ノリエッセイ22編。下着ドロにあった友人とその後の行方、理解してもらえない趣味など日常のあれこれに始まり、企業説明会、「お祈りメール」こと不採用通知について、「私服でお越し下さい」という面接などの就活エッセイも。「初めて人にいうんだけどさ」と前置きされて、なぜか性癖をカミングアウトする友人たち、人泣かせの彼女たちを潜りぬけ、見事、内定をつかめるか麻梨!(エッセイエッセイ
  • 作家の日常 阿川大樹 (2014年03月29日 20時06分)
    「D列車でいこう」「フェイク・ゲーム」などの著作で知られる人気作家、阿川大樹氏のエッセイ「作家の日常」。オンラインマガジン騒人で連載されていた当作品に、第0回「小説家の誕生と死」――小説家になる前のエピソードを加えて再編集しました。小説家に必要な資質、仕事場・道具、編集者とのつきあい、印税と原稿料についてなど職業作家の日常を赤裸々に告白。氏のファンだけでなく、小説家を目指している人や作家という職業に興味のある方にもオススメのエッセイです。(エッセイエッセイ
  • ワールドカップは終わらない 阿川大樹 (2010年06月13日 17時23分)
    熱狂と興奮の中で幕を閉じた2002FIFAワールドカップ。日韓同時開催のワールドカップとして記憶にも新しい。ジャーナリスト/エッセイストの阿川大樹が1年半の取材と20日間のボランティア、5試合のスタジアム観戦を通じ、舞台裏、客席、オフィスや街…、多角的な視点で「事件」としてのワールドカップを描く。
    価格:315円(エッセイエッセイ