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いちばゆみ
著者:いちばゆみ(いちばゆみ)
携帯電話やスマートフォンなどのモバイルツール、オークション、SNSなどのネットサービスを中心に執筆するITライター。主な著書に「オオカミなんかコワくない!〜出会いサイト安全利用マニュアル」(ソフトバンクパブリッシング)、「ぜったいデキます!これからはじめるYahoo!オークション」(技術評論社)などがある。横浜市在住。
エッセイ/エッセイ

ゆうきゃんの人生迷走案内(6)

[連載 | 連載中 | 全6話] 目次へ
親権だけは手にできたものの、離婚調停の結果はボロボロだった。晴れて独身となった著者は心のよりどころだった男性に連絡をとるが……。
 春、遠からじ

 家庭裁判所の玄関を出て、足早に日比谷公園を突っ切る。
 足は自然とどんどん早くなる。
 早く、こんなところから去りたい。こんなところ、もう二度と来るもんか。

 調停委員は二人とも今どきびっくりするほどの男尊女卑な古い頭の持ち主で、夫婦が不仲になった原因も「ダンナさんの稼ぎだけで十分生活できるのに、自分の“ワガママ”を通して仕事をしたこと」と決め付けられた。
 夫から受けた数々の暴言や暴力も「妻が言うことを聞かないので、“しつけ”のために殴りました」という夫の言い分がまかり通り、こちらが要求した慰謝料の請求などは全てはねつけられた。
 かろうじて子どもの親権だけは手にしたものの、養育費すら取れずじまいで調停は終わった。結果はボロボロだったけど、これでようやく「離婚」を勝ち取った。
 ま、いいや。これから頑張れば。
 とにかく早く縁が切れてよかった。これでようやく晴れて「独身」だ。


 3月もそろそろ半ばだというのに、風はまだ冷たい。
 ベンチを見つけて腰をおろし、コートのポケットから携帯電話を取り出す。
 長くコールが鳴って、あきらめて切ろうとした時にようやくつながった。

「あ、もしもし、私。ようやく、離婚、できました」と報告する。

「…あ、よかったね。おめでとう」

 やけに間があるな…もっと喜んでくれるかと思ったのに。

「それでね…」

「あ、悪いけど、今ちょっと…後で折り返…」…と、そこまで聞いたところで、後ろから
「ねえ、タカシー?誰から〜?」と、鼻にかかった若い女性の声がした。

 あ…、なるほど。そういう、ことね。

 だまって電話を切る。


 崇と知り合ったのは、仕事で出入りしているデザイン事務所でだった。夫と別居して離婚調停中のフリー編集者の私と、バツイチのカメラマンの崇。
 離婚について相談に乗ってもらっているうちに、距離は急接近した。
 つらい調停期間中、崇の存在が心のよりどころだった。
 だけど私の離婚が正式になるまで、二人の関係は秘密だった。
 いくら、恋人関係になったのが別居後、つまり「婚姻生活が破綻した後」であったとしても、調停中にオトコの影がちらつくのは不利だ。下手すると、「浮気していたから離婚したがっている」と取られかねない。
 晴れて離婚が成立した暁には、二人の関係を公にして、というのはお互い暗黙の了解だと思っていたのだけど…どうやら独りよがりだったらしい。

 「今までどうもありがとう。可愛い彼女とお幸せに」とメールを打って送信ボタンを押した。

 さて。
 …本当に一人になっちゃったな。

 つぶやいたらうっかり涙がこぼれそうになったので、あわてて空を見上げる。
 頭の上に桜の木の枝。
 まだ、つぼみは堅く閉じているけれど、日当たりのいい一角の一枝だけ、ピンク色の花びらがうっすら見え始めている。

 …春、遠からじ、か。

 ううん、ひとりじゃない。子どもが待ってる。
 早く帰って、今日は離婚成立祝いに一緒にファミレスにでも行こう。

 ベンチから勢いよく立ちあがり、有楽町の駅をめがけてぐんぐんと歩き始めた。
(つづく)
(初出:2013年10月30日)
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登録日:2013年10月30日 15時22分
タグ : 離婚 裁判

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