
著者:北岡万季(きたおかまき)
猫科ホモサピエンス。富士山の麓で生まれ、瀬戸内海沿岸に生息中。頼まれると嫌と言えない外面の良さがありながら、好きじゃない相手に一歩踏み込まれると、一見さんお断りの冷たい眼差しを、身長165センチの高さから見下ろす冷酷な一面も持ち合わせる。これまで就いた職業は多種多様。現在は娘の通う私立小学校の役員をしつつ、静かに猫をかぶって専業主婦として生活している。
エッセイ/エッセイ
痛快主婦閑談(2)
[連載 | 連載中 | 全5話] 目次へ
どこの町内にも必ずいる「迷惑な主婦」。しかし、面と向かって文句を言えないのが、ご近所付合いの難しいところなのである。密かに「ご近所付合いラインキング」を付けつつ日々格闘する主婦の生態記録。
――ご近所付き合い。
なんて面倒くさい響きなんでしょうねぇ。でも、円満な地域生活を営む上で避けては通れない、まさに主婦の必須科目。しかし、全てのご近所さんと万遍なく関わりを持つのはとても疲れてしまう。だから私は独断と偏見と動物的カンで、「この人はちゃんとお付き合いしておこう」というのと「コイツはどーでもいいや」というランクをこさえ、それに基づいて日々生活をしているのである。
ある朝、近所の小林さんから電話がかかってきた。お姉ちゃんを病院に連れていきたいので、下の息子を午前中だけ預かってくれないかというのだ。面倒だなぁと思ったけれど、ご近所付き合いは「困っている時はお互いさま」が基本だし、病院に行ってくる間だけだったらまぁいいかと、息子を預かることにした。
程なく彼女は子供を連れてやってきて、オムツや着替えなどの「お預けセット」と一歳の息子を私にポイと渡すと、鼻歌を唄いながら娘の手をひいて出かけていったのだった。
もうすぐ昼ご飯というころ、小林はカサカサと買い物袋をぶら下げてようやく病院から帰って来た。私は玄関先で「お預けセット」を彼女に返し、「ともクン、ずっと寝てたよ。今連れてくるね」
というと、
「今、連れて帰ると、せっかく寝ているのに起きちゃうからぁ」
といい、弁当を買ってきたから、北岡さんちで食べるといいだした。
彼女の家は我家から目と鼻の先なのに、どうしてここで食べなければいけないのかと思ったが、いくらなんでも「家に帰えって食べれば」とはいえまい。これがご近所付き合いの奥深く難しい所である。
イヤだという理由がみつからないまま「どうぞ」というと、待ってましたとばかりに、病院に連れていかれていたお姉ちゃんが靴を脱ぎ飛ばして上がり込んだ。
お姉ちゃんは病院に連れて行かれた割にすこぶる元気だった。一体どこが悪かったんだろうと思いながら、彼女の足をみると包帯が巻いてある。
「足、どうしたの? 怪我?」
そう聞くと、
「あのね、とびひになっちゃったのよ」
その言葉にあんぐりとしてしまった。
とびひは伝染病である。連鎖球菌やブドウ球菌が原因で起こる。皮膚にかゆい水ぶくれができ、その水ぶくれをかいてシルが飛び散ると、そこがまた水ぶくれになる。かけばかくほど患部は広がり続けるのである。
私も幼い頃、とびひになった。母は「絶対かいちゃダメよ」と厳しくいい、私を包帯でぐるぐる巻にした。しかし、ダメよといわれても我慢などできるわけがない。せめて母に見つかるまいと隠れてボリボリかいていると、
「ダメっていったでしょッ! 治らないじゃないのッ! ぼかッ」
と、頭を強くはたかれた。かゆいの痛いのワケワカランので涙滂沱である。
私はなるべく穏やかに、
「とびひってさ、確かうつるんだったよね?」
と聞いてみた。しかし、小林は全くそれを知らないようだ。
「大丈夫よぉ、それに包帯もしてあるしね」
「そ、そ、そーお?」
娘にうつったらどうしようと気が気ではない。弁当を食べ終わったら帰るだろうと待っていたが、彼女は弁当を食い切っても一向に帰る気配を見せない。見せないどころか、人の家でテレビを見てくつろいでいる。
「うー」
私は何もいえずに、彼女の娘と、うちの娘が楽しそうに遊ぶのをひやひやしながら見守るしかなかったのである。
ふとみると、小林の娘の包帯がとれていた。患部丸出し、菌放出、おまけにカユイらしく、遊びながらしきりにボリボリとかいている。
「包帯包帯包帯、とれてるとれてるとれてる」
そう慌てて彼女にいったが、
「子供って、包帯まいてもすぐに取るのよねぇ、まったくもう、ずずず」
と、のん気に茶をすすっている。包帯を直してやろうともしない。
「あんたには、うつったら迷惑をかけるからという気持ちはないのかね」
私はそう思いながら、なんとかして彼女たちを速やかに、かつ円満に家に帰らせる手段はないかと考えた。しばらく考えあぐねた結果、息子が起きれば帰るだろうと思ったのである。そこで、別室に寝ている息子のところへ行き、
「あんたには恨みはないんだけどね、許してね」
と寝顔に詫びを入れ、横っ腹をボヨヨーンとつついてみた。が、起きない。二度三度としつこくつついてみたが起きないのだ。
「ちっ、母親に似て神経ずぶといやつ」
こうなったら意地でも起こしてやろうと、足の裏をくすぐったり、ほっぺたを引っ張ったり、鼻をつまんでみたり、瞼をびろーんと開けてみたり、まぁとにかくやりたい放題いじくってみる。
「びぃぃぃ〜」
安らかな眠りを妨げられた息子は、こちらの思惑通り泣き出した。小林に気付かれないように、和室を出てリビングに戻った私は、
「あら、ともクン、起きたみたいね。お腹すいたんじゃないの?」
そう白々しくいってやった。ミルクを飲ませるには帰るしかないのである。
「あら、ほんと。んじゃ連れて帰るわ」
作戦大成功、程なく迷惑な親子三人は帰って行った。
その夜、夫に今日の一件をぶりぶりと話し、
「とびひは感染力が強いからな、しばらく一緒に遊ばせるなよ」
「やっぱりそうよねぇ」
と、顔を見合わせて力強くうなづき合ったのだった。
数日後、娘を連れて公園に出かけた。一足先に遊びに来ていた川田さん親子と遊んでいると、小林がベビーカーを押してやってきた。その後ろから、とびひ娘もちょこまかと歩いてくる。
「こんにちはぁ。あ、北岡さぁん、先日はお世話になりましたぁ」
「いいえ、いいえ」
挨拶をしながら、ベビーカーに座っている小林の息子を見て、私は卒倒しそうになった。顔が水ぶくれだらけなのである。同じくそれを見た川田さんが、「いやだ、ともクンどうしたの? その顔!」
と聞くと
「ああ、これねぇ、お姉ちゃんのとびひがうつちゃったみたいなのぉ。やっぱり一緒にお風呂にいれたのがいけなかったのかしらぁ」
彼女がここまでバカだとは思わなかった。
「とびひってうつるのよ! ダメよ同じお風呂なんかに入れたら」
と川田さんがいうと、
「だってぇ〜」
とニコニコ笑っている。どうやら小林はバカを通りこしているらしい。
もしや……と、とびひ娘を見ると、足だけだったはずの患部が、首や腕にも広がって皮膚が斑模様になっていた。息子の方は、ベビーカーに座りながら、ひっきりなしにボリボリとかきむしっている。
とびひ娘は、靴も靴下もぽいぽい脱ぎ裸足で砂場で遊んでいる。全身から菌大放出状態である。それを見かねた川田さんが、
「ねぇ、ちゃんと患部を覆っておいたほうがいいわよ、あれじゃ悪化するわよ。家で遊んだ方がいいんじゃないの?」
そう忠告したが、
「だってぇ外に行きたがるし、家にいても仕方ないからぁ」
小林はそういって、「どっこらしょ」とベンチに腰掛けたのだった。
「ねぇ、とびひってうつるわよねぇ」
と、川田さんが私の耳元でささやいた。
「うつります。家庭の医学にもそう書いてありました。直にさわってもうつるし、その子の身体に触れた衣類やオモチャなんかからもうつるらしいです」
私は覚えたての知識を自信満々に披露してやった。
「まったく迷惑よねぇ。うつったら嫌よねぇ。家にいればいいのに……」
まったくその通りだと、二人でため息をついていると、突然とびひ息子が泣き出したのだ。そばにいた川田さんが、
「あらまぁ、どしたのぉ」
とベビーカーを覗き込むなり「ひっ」と叫んだ。なんだなんだと私も覗き込むと、息子は顔の水ぶくれをかきむしって、シルと血とよだれと鼻水が混じり、まるで顔が溶け出しているようになっていた。
「さてと、銀行に行かなくちゃ。お先にッ!」
私は見え透いたいいわけをし、娘の手を引っ張って帰ろうとした。
ノーテンキな小林は「もう帰っちゃうのぉ、もっと遊ぼうよぉ」と腰をくねらせていた。
私は「またね」と微笑んだが、きっと目は小林をにらんでいたと思う。小林が帰らないのなら、こちらが帰るしかないのだ。
「……うちの子、とびひがうつっちゃったの。お宅は大丈夫?」
数日後、川田さんから暗い声で電話があった。恐れていた被害者が出たのである。私は娘の無事を告げ、お見舞いの言葉を述べて電話を切った。
そして数分後、再び電話のベルが鳴った。
「あ、北岡さぁん、小林ですけど、また息子を預かってもらえないかしらぁ」
またオマエかよ、とウンザリしながら、一応どうしたのかと聞けば、今度は水ぼうかも知れないから病院に行く、というのだ。冗談じゃない。
「ごめんなさぁい、今日は用事があってでかけるの」
私は眉間に皺をよせながら、声だけ明るくそういうと、
「じゃあ、川田さんに頼んでみるぅ」
といい残して小林は一方的に電話を切った。
「ばかめ、川田さんちも無理だよ」
私はつーつー鳴っている受話器に向かってそうつぶやき、ご近所付き合いランキングから小林を完全追放してやろうと固く決心したのだった。
なんて面倒くさい響きなんでしょうねぇ。でも、円満な地域生活を営む上で避けては通れない、まさに主婦の必須科目。しかし、全てのご近所さんと万遍なく関わりを持つのはとても疲れてしまう。だから私は独断と偏見と動物的カンで、「この人はちゃんとお付き合いしておこう」というのと「コイツはどーでもいいや」というランクをこさえ、それに基づいて日々生活をしているのである。
ある朝、近所の小林さんから電話がかかってきた。お姉ちゃんを病院に連れていきたいので、下の息子を午前中だけ預かってくれないかというのだ。面倒だなぁと思ったけれど、ご近所付き合いは「困っている時はお互いさま」が基本だし、病院に行ってくる間だけだったらまぁいいかと、息子を預かることにした。
程なく彼女は子供を連れてやってきて、オムツや着替えなどの「お預けセット」と一歳の息子を私にポイと渡すと、鼻歌を唄いながら娘の手をひいて出かけていったのだった。
もうすぐ昼ご飯というころ、小林はカサカサと買い物袋をぶら下げてようやく病院から帰って来た。私は玄関先で「お預けセット」を彼女に返し、「ともクン、ずっと寝てたよ。今連れてくるね」
というと、
「今、連れて帰ると、せっかく寝ているのに起きちゃうからぁ」
といい、弁当を買ってきたから、北岡さんちで食べるといいだした。
彼女の家は我家から目と鼻の先なのに、どうしてここで食べなければいけないのかと思ったが、いくらなんでも「家に帰えって食べれば」とはいえまい。これがご近所付き合いの奥深く難しい所である。
イヤだという理由がみつからないまま「どうぞ」というと、待ってましたとばかりに、病院に連れていかれていたお姉ちゃんが靴を脱ぎ飛ばして上がり込んだ。
お姉ちゃんは病院に連れて行かれた割にすこぶる元気だった。一体どこが悪かったんだろうと思いながら、彼女の足をみると包帯が巻いてある。
「足、どうしたの? 怪我?」
そう聞くと、
「あのね、とびひになっちゃったのよ」
その言葉にあんぐりとしてしまった。
とびひは伝染病である。連鎖球菌やブドウ球菌が原因で起こる。皮膚にかゆい水ぶくれができ、その水ぶくれをかいてシルが飛び散ると、そこがまた水ぶくれになる。かけばかくほど患部は広がり続けるのである。
私も幼い頃、とびひになった。母は「絶対かいちゃダメよ」と厳しくいい、私を包帯でぐるぐる巻にした。しかし、ダメよといわれても我慢などできるわけがない。せめて母に見つかるまいと隠れてボリボリかいていると、
「ダメっていったでしょッ! 治らないじゃないのッ! ぼかッ」
と、頭を強くはたかれた。かゆいの痛いのワケワカランので涙滂沱である。
私はなるべく穏やかに、
「とびひってさ、確かうつるんだったよね?」
と聞いてみた。しかし、小林は全くそれを知らないようだ。
「大丈夫よぉ、それに包帯もしてあるしね」
「そ、そ、そーお?」
娘にうつったらどうしようと気が気ではない。弁当を食べ終わったら帰るだろうと待っていたが、彼女は弁当を食い切っても一向に帰る気配を見せない。見せないどころか、人の家でテレビを見てくつろいでいる。
「うー」
私は何もいえずに、彼女の娘と、うちの娘が楽しそうに遊ぶのをひやひやしながら見守るしかなかったのである。
ふとみると、小林の娘の包帯がとれていた。患部丸出し、菌放出、おまけにカユイらしく、遊びながらしきりにボリボリとかいている。
「包帯包帯包帯、とれてるとれてるとれてる」
そう慌てて彼女にいったが、
「子供って、包帯まいてもすぐに取るのよねぇ、まったくもう、ずずず」
と、のん気に茶をすすっている。包帯を直してやろうともしない。
「あんたには、うつったら迷惑をかけるからという気持ちはないのかね」
私はそう思いながら、なんとかして彼女たちを速やかに、かつ円満に家に帰らせる手段はないかと考えた。しばらく考えあぐねた結果、息子が起きれば帰るだろうと思ったのである。そこで、別室に寝ている息子のところへ行き、
「あんたには恨みはないんだけどね、許してね」
と寝顔に詫びを入れ、横っ腹をボヨヨーンとつついてみた。が、起きない。二度三度としつこくつついてみたが起きないのだ。
「ちっ、母親に似て神経ずぶといやつ」
こうなったら意地でも起こしてやろうと、足の裏をくすぐったり、ほっぺたを引っ張ったり、鼻をつまんでみたり、瞼をびろーんと開けてみたり、まぁとにかくやりたい放題いじくってみる。
「びぃぃぃ〜」
安らかな眠りを妨げられた息子は、こちらの思惑通り泣き出した。小林に気付かれないように、和室を出てリビングに戻った私は、
「あら、ともクン、起きたみたいね。お腹すいたんじゃないの?」
そう白々しくいってやった。ミルクを飲ませるには帰るしかないのである。
「あら、ほんと。んじゃ連れて帰るわ」
作戦大成功、程なく迷惑な親子三人は帰って行った。
その夜、夫に今日の一件をぶりぶりと話し、
「とびひは感染力が強いからな、しばらく一緒に遊ばせるなよ」
「やっぱりそうよねぇ」
と、顔を見合わせて力強くうなづき合ったのだった。
数日後、娘を連れて公園に出かけた。一足先に遊びに来ていた川田さん親子と遊んでいると、小林がベビーカーを押してやってきた。その後ろから、とびひ娘もちょこまかと歩いてくる。
「こんにちはぁ。あ、北岡さぁん、先日はお世話になりましたぁ」
「いいえ、いいえ」
挨拶をしながら、ベビーカーに座っている小林の息子を見て、私は卒倒しそうになった。顔が水ぶくれだらけなのである。同じくそれを見た川田さんが、「いやだ、ともクンどうしたの? その顔!」
と聞くと
「ああ、これねぇ、お姉ちゃんのとびひがうつちゃったみたいなのぉ。やっぱり一緒にお風呂にいれたのがいけなかったのかしらぁ」
彼女がここまでバカだとは思わなかった。
「とびひってうつるのよ! ダメよ同じお風呂なんかに入れたら」
と川田さんがいうと、
「だってぇ〜」
とニコニコ笑っている。どうやら小林はバカを通りこしているらしい。
もしや……と、とびひ娘を見ると、足だけだったはずの患部が、首や腕にも広がって皮膚が斑模様になっていた。息子の方は、ベビーカーに座りながら、ひっきりなしにボリボリとかきむしっている。
とびひ娘は、靴も靴下もぽいぽい脱ぎ裸足で砂場で遊んでいる。全身から菌大放出状態である。それを見かねた川田さんが、
「ねぇ、ちゃんと患部を覆っておいたほうがいいわよ、あれじゃ悪化するわよ。家で遊んだ方がいいんじゃないの?」
そう忠告したが、
「だってぇ外に行きたがるし、家にいても仕方ないからぁ」
小林はそういって、「どっこらしょ」とベンチに腰掛けたのだった。
「ねぇ、とびひってうつるわよねぇ」
と、川田さんが私の耳元でささやいた。
「うつります。家庭の医学にもそう書いてありました。直にさわってもうつるし、その子の身体に触れた衣類やオモチャなんかからもうつるらしいです」
私は覚えたての知識を自信満々に披露してやった。
「まったく迷惑よねぇ。うつったら嫌よねぇ。家にいればいいのに……」
まったくその通りだと、二人でため息をついていると、突然とびひ息子が泣き出したのだ。そばにいた川田さんが、
「あらまぁ、どしたのぉ」
とベビーカーを覗き込むなり「ひっ」と叫んだ。なんだなんだと私も覗き込むと、息子は顔の水ぶくれをかきむしって、シルと血とよだれと鼻水が混じり、まるで顔が溶け出しているようになっていた。
「さてと、銀行に行かなくちゃ。お先にッ!」
私は見え透いたいいわけをし、娘の手を引っ張って帰ろうとした。
ノーテンキな小林は「もう帰っちゃうのぉ、もっと遊ぼうよぉ」と腰をくねらせていた。
私は「またね」と微笑んだが、きっと目は小林をにらんでいたと思う。小林が帰らないのなら、こちらが帰るしかないのだ。
「……うちの子、とびひがうつっちゃったの。お宅は大丈夫?」
数日後、川田さんから暗い声で電話があった。恐れていた被害者が出たのである。私は娘の無事を告げ、お見舞いの言葉を述べて電話を切った。
そして数分後、再び電話のベルが鳴った。
「あ、北岡さぁん、小林ですけど、また息子を預かってもらえないかしらぁ」
またオマエかよ、とウンザリしながら、一応どうしたのかと聞けば、今度は水ぼうかも知れないから病院に行く、というのだ。冗談じゃない。
「ごめんなさぁい、今日は用事があってでかけるの」
私は眉間に皺をよせながら、声だけ明るくそういうと、
「じゃあ、川田さんに頼んでみるぅ」
といい残して小林は一方的に電話を切った。
「ばかめ、川田さんちも無理だよ」
私はつーつー鳴っている受話器に向かってそうつぶやき、ご近所付き合いランキングから小林を完全追放してやろうと固く決心したのだった。
(つづく)
(初出:1998年05月)
(初出:1998年05月)
登録日:2010年06月21日 17時47分
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