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西巻裕
著者:西巻裕(にしまきひろし)
小学校1年の時東京オリンピックの旗を振り、6年生の修学旅行の宿でアポロの月着陸を知る。写真を撮ったり文章を書いたり雑誌を作ったりの稼業で、今は福島の山奥に住みながらトライアルというマイナーモータースポーツの情報誌「自然山通信」を作っている。昔は機敏だったが、今は寝ることがなにより好きなぐうたらのおっさん。
エッセイ/紀行文・旅行

さばく紀行(1)/砂漠からわいてくるアフリカの民

[連載 | 連載中 | 全3話] 目次へ
サハラ砂漠の東南のテレネ砂漠。こういうところでクルマをとめて休んでいると、どこからともなく、ターバンを巻いた、はだしの現地の人がやってきて、ぼーっとこちらを見ているという。
 砂漠といえば、エジプトの西側のリビア砂漠、北アフリカのサハラ砂漠(リビア砂漠とサハラ砂漠の境界がどこかなんて聞かないでね。わかんないから)、サハラ砂漠の東南のテネレ砂漠にいったことがありますが、そういうところでクルマ(オートバイのこともあった)を止めてしばらく休むとします。

 休む理由は食事だったり純粋な休憩だったりうん*だったりするわけですが、しばらくごそごそとやっていると、そうだなぁ、15分とはいわないけど、30分もすると、ほとんど必ずいるんです、ふと横を見ると。

 ターバン巻いて、はだしで、ぼーっとこっちを見ている。なんの目的でここへやってきたのか、さっぱりわからない。最初は強盗しに来たのかと思って警戒するのだけど、どうもそんな感じじゃない。こっちがじっと見ていると、ボンジュールとか言うんですね。エジプトはアラビア語と英語が主だけど、ほかの北アフリカはほとんどフランス語圏ですから、不思議はないわけですが、最初の最初に、アフリカ人がフランス語をしゃべるのを聞いたときには不思議でした。

 で、たまにはいっしょにお話をしたりすることもあるけど、多くの場合、彼らとはほとんどコミュニケーションなくお別れします。で、クルマが走りはじめてから、疑問に思いはじめるわけです。

 おい、あいつは、いったいどこからやってきたんだろうって。

 クルマを止めたのは、砂漠のど真ん中で、街(というよりオアシスですね)を出てから何時間も走っていたりするわけです。で、走りはじめても、延々とオアシスはない。あいつはあの砂漠の真ん中に住んでいたのか?

 炎天下の真昼間だから、幽霊を見た気にはならないけど、状況的にはそれに近い。クルマの中は、しばらく砂漠の民の幽霊の話で盛り上がります。

 あるとき、歩いている彼らを見ることができました。彼らは、ひたすら歩きます。歩いて歩いて、目標の“クルマ”を目指します。そのときも、彼らはなにかを目指して歩いていたはずです。しかし、ぼくらにはまったくそのなにかが見えませんでした。

 それからクルマで!20分も走ったかというころ、ようやくぼくらはそのなにかに到着しました。1台のクルマが転倒していて、周囲はちょっとした事件になっていたのです。

 彼らはぼくらの見えないものを目標に、ぼくらだったら気が遠くなるような距離をひたすら歩いているのでした。

 考えてみたら、クルマもオートバイもない彼らのこと、自転車じゃ砂にもぐってしまうし、歩くしかないのですね。

 もののある人間とない人間、そこには、住む世界のちがいだけじゃなくて、もっと重大ななにかがちがうような気がします。
(つづく)
(初出:1999年10月)
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登録日:2010年06月15日 17時08分
タグ : 砂漠

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