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新美健
著者:新美健(にいみけん)
1968年生れ。愛知県で育ち、石川県で卒業し、富山県で就職し、東京都に流れ着き、現在は地元に戻って愛知県豊田市在住。ゲームのノベライズ化というニッチ稼業で15年ほど漂っていたら、いつの間にか40代も後半戦へ。2015年、第七回角川春樹小説賞にて特別賞を受賞。探偵、怪奇、幻想、冒険、歴史モノの小説が好物。
小説/ファンタジー

いらない王様

[読切]
あるとき、あるところにひとりの王様がいました。とても体が大きく、頭のいい人でしたが、気が短くて乱暴であったため、家来たちに自分の国から追い出されてしまいます。ついてきたのは道化師ひとりだけ…。番組化もした童話原作。
 ここに一人の王様がいます。
 いつの時代のことだと思いますか?
 じつは、いつでもいいのです。
 昔々のお話かもしれないし、たった今のことかもしれません。ひょっとしたら、ずっとずっと未来のことかもしれません。
 では、どこの国のお話でしょうか?
 これも、どこの国でもいいのです。
 遠い遠い国のお話かもしれないし、ひょっとしたらあなたのすぐ隣でおきていることかもしれません。
 ちょっとだけ眼をとじてみてください。
 今、何が見えましたか?
 どんな風景がありましたか?
 どんな人たちがいましたか?
 ほら、もう一度眼をとじてみて。
 それから、王様の顔を思い浮かべてみてください。
 王様はどんな服を着ていましたか?
 王様はどんなお城に住んでいましたか?
 それから、どんな顔をしていましたか?
 ひょっとしたら、お友達の誰かに少しだけ似ていたかもしれませんね…。

 さて、ここに一人の王様がいます。
 王様は、とても体の大きい人でした。力も強く、頭のいい人でした。ただ、困ったことに気が短くて、かなり乱暴な人でもありました。
 たとえば、王様が家来たちのまえで大切な話をしているとき、誰かがクシャミをしたり、転んだりしたとします。
 すると、王様は腹をたててしまい、
「おまえはダメなやつだ。おまえのようなやつはどこかへいってしまえ」
 と、その人を国の外に追い出してしまうのです。
 王様は、
「すんでしまったことはしかたがない。君はもう同じ失敗をくりかえさなければいいんだよ」
 という優しいことの言えない人でした。
 家来たちはみんな、王様が失敗をすればいいと思っていました。
 そうすれば、王様も失敗した人の辛さや恥ずかしさがわかり、自分たちに優しくしてくれると思ったからです。
 けれども、王様はちっとも失敗をしません。
 王様は、頭のいい人でしたし、いつも他の人よりいっしょうけんめい努力をしていたので、できないことがなにもなかったのです。
 自分にできて、どうして家来たちにはできないのだろう?
 王様は、そう考えるたびに、なにも努力をしようとしない家来たちに腹をたてるのです。
 でも、ただひとつだけ王様がいくら努力をしてもできないことがありました。
 それは、人の失敗を笑って許す、ということです。
 だから、王様はみんなに嫌われていました。

「ほんとうにあの王様は必要なんだろうか?」
 あるとき、家来の一人がそう言いました。
 それに召使いの一人が応えました。
「王様がいなくちゃ、わたしたちは困るじゅないの。どこの国にも王様は必ず一人は必要じゃないの」
「でも、王様がいなくたって、ぼくたちは生きていけるし、食べ物だってなくなるわけじゃないんだよ」
「そうかもしれないけど、きっと他に困ることがあるわ」
「困るって、どんなことが?」
「たとえば……、そうよ、となりの国がせめてきたらどうするの?」
「兵隊たちがいるじゃないか。そのために兵隊はいるんじゃないか」
「じゃあ、毎朝やってる儀式とか、わたしたちが楽しみにしてるお祭りとかはどうするの?」
「朝の儀式なんて、かたっくるしいだけでちつとも面白くないし、お祭りはぼくたちだけでやればいいじゃないか」
「じゃあ…じゃあ、地震とか、台風とかが突然やってきたらどうすればいいの?」
「それこそ、王様が何人いたって、どうしようもないじゃないか。王様は神様じゃないからね」
「それもそうね。だったら、どうして王様は必要なのかしら」
「だから、ぼくが言ってるじゃないか。もしかしたら、王様はいらないんじゃないかって」

 その話は、すぐに城中にひろがり、あっというまに国じゅうにひろがっていきました。

 さっそく王様と家来たちは話しあいました。
「わたしはいらない王様なのか?」
「はい、私たちもさんざん話し合いましたが、の国に王様はいりません」
「わたしがこの国をここまで大きくしたのだぞ」
「いいえ。それは私たちが手伝ったからです。だから大きくなったのです」
「わたしがいるから、この国は平和なのだ」
「いいえ。それは私たちの兵隊たちが強いからです」
「おまえたちが毎日パンを食べていけるのはいったい誰のおかげなのだ?」
「それはパン屋とパンをつくった職人たちのおかげです」
「すべてわたしのおかげだぞ」
「いいえ。やはり、王様は必要ありません。私たちには、すぐに怒ったり、家来を追放したりする王様は必要ありません」

 こうして、いらなくなった王様は、家来たちによって自分の国から追放されてしまいました。
 王様についてきたのは、お城にいたお調子者の道化師ただ一人だけでした。

「王様王様、どうか元気をだしてください。ほらほら、面白い芸をしますから、踊ってみせますから」
「道化師よ、どうしておまえはついてくるんだ。それに、おれはもう王様ではないのだぞ」
「私は王様が好きなんですよ。だから、ほら、見てくださいよ。笑ってくださいよ。私は王様の笑ったお顔が見たいんです」
「ええい、うるさいやつだ。いつまでもヘニャヘニャ踊ってるんじゃない。…まったく、妙なやつに好かれたものだ」
 王様は、腹をたてていました。
 道化師に怒っているのではありません。
 自分を裏切った家来たちにたいして怒っていたのです。
「ノロマで怠け者のくせに口だけは一人前のバカものどもが。今に、また新しい国をつくって奴らの国を攻め滅ぼしてやるぞ」
「いえいえ、いけません、王様。そんな乱暴なことは考えないで、ほら、笑って笑って。もっと世の中たのしく生きましょう」
「そこで踊るなというに」
「では、歌でも歌いましょうか」
「歌わんでもいい」
「そんなに怒ってばかりでは体によくありませんし、ご飯もおいしくありません」
 あまりにも道化師がうるさいので、王様はひとつ怒鳴りつけてやろうと思いました。
 しかし、道化師が顔につけているニコニコした仮面を見ていると、なぜか怒る気がしなくなるのでした。
「さっき、おまえはおれが好きだといったな」
「はい、いいましたよ、王様」
「好きというのは、どういうことなのだ?」
「好きというのは、その人のそばにいたい、ということです」
「では、なぜおれは家来たちに嫌われたのだ?」
「それは王様がいつも怒ってばかりいたからです。怒っているということは、その人が好きではなかったということです。だから、人に好かれるには、まず相手を好きにならなければいけないのです」
 道化師の応えを聞いて、王様は考え込んでしまいました。
 今度は道化師が王様にききました。
「王様はさびしいのですか?」
 王様は応えませんでした。怒ったように顔を赤らめ、唇をぎゅっとむすんだまま長いこと黙りこんでしまいました。
 とつぜん、王様がこう言い出しました。
「おれは今から森にいる盗賊たちを退治してくる」
「では、私はどうしましょう?」
「おまえはそこで踊っていろ。おれが戻るまで、気がすむまで踊っているがいい」
 そう言い残して、王様は森のなかに一人で入っていきました。

 王様がふたたび戻ってきたのは四日ほどあとになってからでした。
 王様はとても上機嫌でした。
 森にはいってから一日目で盗賊のすんでいるところを見つけ、二日目に作戦を考え、三日目には作戦どおり盗賊のすみかに火をつけて相手があわてふためいたところを一気にやっつけたのです。
 盗賊たちは王様の家来になることを誓いました。
 森からもどってきて、王様は驚きました。
 道化師がまだ踊っていたのです。
 フラフラになりながら、ヨレヨレになりながら、道化師は王様が戻ってくることを楽しみに踊りつづけていたのです。
 王様は後悔しました。
 戻ってくるまで踊っていろ、といった自分に腹をたてました。
 しかし、王様はニコニコと笑っている道化師に謝ろうとはしませんでした。
 そのかわり、こう言いました。
「道化師よ、おまえはどうしたらおれのもとから去っていってくれるのだ?」
 踊り疲れてチョコンとしゃがみこんでいた道化師は、少し考えてから応えました。
「では、王様が新しく自分の国をつくって幸せになられたとき、私はこの仮面を外しましょう。仮面を外せば、私はもう道化師ではありません。道化師でなくなれば、私は王様のもとから去っていきましょう」
 それを聞いて王様は満足そうに笑ってうなずきました。
 満足そうな王様を見て、やっぱり道化師もうれしそうにニコニコと笑いました。

 王様は新しい国をつくるために、まず家来にした盗賊たちを使って商売をはじめました。
 山のものを海へもっていっては売り、海のものを山にもっていっては売りました。
 頭のいい王様は、商売の才能もあったので、盗賊たちの住んでいた森はあっというまに豊かになり、たくさんの人であふれかえり、大きな都にも負けないほどにぎやかになりました。
 道化師は、王様の仕事がひとつ成功するたびに、自分で歌をつくり、それを王様のために歌いました。
 道化師の声はとても澄んでいて、森中によく響きわたりました。
 楽しく、ゆかいな歌でした。
 それを聞いて、王様の家来たちは喜びました。
 みんな歌が好きだったのです。
 だから、みんなは王様のためというよりは、道化師の歌が聞きたくていっしょうけんめいに働いていました。

 そんなある日、王様を追放した国から、昔の家来たちがやってきました。
 家来たちはみんな泣いていました。
「王様、王様、どうかわたしたちの国に戻ってきてください。となりの国の兵隊が、攻めてきたのです。わたしたちの兵隊は命令されなければ戦えないといってします。お願いです、どうかわたしたちといっしょに戻ってきてください」
 あまりにも自分勝手な家来たちでした。
 王様は、彼らをこのまま追い返そうか、それとも、怒鳴りつけてやろうかと考えこみました。
 道化師は、ハラハラしながら王様と家来たちをうかがっていました。
 やがて、王様はいいました。
「わたしが君達の王様でいいのかね?」
 もちろんです、王様、と家来たちは両手をあげて喜びました。

 道化師は、すっかり安心した家来たちが去っていったあと、どことなく寂しそうな顔で王様におじぎをしました。
「おめでとうございます、王様。あなた様は自分の国をとり戻されました。さぞかし幸せな気分でしょう」
 王様は、ニッコリと笑ってうなずきました。
「その通りだ。おれはもういらない王様ではなくなったのだ」
「それでは、私は約束どおりこの仮面を外して王様のもとから去ることにしましょう」
「道化師よ、道化師よ、おれの話をもう少し聞くがいい。たしかに、道化師はもう必要ない。しかし、おまえがいなくなったら誰がみんなに歌を歌ってあげるのだ? おまえの歌が聞こえないとみんなが寂しがるだろう。みんなが寂しがれば、おれも寂しくなるだろう」
 王様の話をきいて、道化師は困ったように首をかしげました。
「しかし、それでは王様との約束が果たせません。私はいったいどうしたらいいのでしょう?」
「簡単なことだ。道化師はいなくなって、おまえが残ればいいのだ」
 王様のいっていることがわからず、よけいに道化師は困ってしまいました。
 王様は、道化師の顔に手をのばし、道化師から仮面を外しました。
 仮面の下からは、おどろいて眼をパッチリと見開いた、かわいい女の子の顔があらわれました。
 道化師は、じつは女の子だったのです。
「ほら、これで道化師はいなくなった」
 王様は、ニコニコと笑いながら、これからもずっとそばにいてほしい、と女の子にささやきました。

 さて、このあと道化師が王様にどう応えたのか……それは、みなさんが自由に考えてみてくださいね。
(了)
(初出:2015年07月21日)
登録日:2015年07月21日 14時26分
タグ : 児童文学 童話

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