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天生諷
著者:天生諷(あもうふう)
極々平凡な会社員。毎日楽しい出来事はないかと、心の中で模索しながら生活をしている。旅行と昼寝をこよなく愛し、読書とゲームが生きる原動力となっている。群馬県在住。
小説/ファンタジー

赤い死神 右手に鎌を左手に君を(12)

[連載 | 完結済 | 全14話] 目次へ
東の間ではエミリアとレシオールが襲い来る黄金の城に対応していた。一般構成員がハイダーナイツにはかなわない。そこにバラーズの付き人アイリーンが現れる。何一つ変わらない要望と裏腹に、異様な気配を立ち上らせていた。
 六章 決戦

 蒼一色で塗り固められた東の間。その色は、空の青ではなく海の蒼だった。壁の至る所にランプが灯り、三メートルはある高い天井からは豪奢なシャンデリアが釣り下がり、クリスタルが虹色に煌めいていた。元来、この間は謁見を控えた者が待機する場所であるため、調度品は一流の物が揃えられていた。壁にはタペストリーや絵画が並び、テーブルやソファーが部屋の至る所に置かれている。
 しかし、今は緊急事態と言う事でそれら全てが撤去され、海よりも濃い濃紺の絨毯が広がっているだけだ。だが、時間が経つにつれ、その絨毯が真紅の液体を吸って黒く染まりつつある。
「……キツイ、隊長……、もう……良いですか?」
 襲いかかる黄金の城の構成員を切り伏せたレオシールは、最上階へ通じる通路脇の壁に背を預けているエミリアを振り返った。
「ひい、ふう、みい……ちょっと、レオシール。まだ十人も倒して無いじゃない! ダメダメ、普段サボっているんだから、こういう時くらい頑張りなさいな!」
「一人で八人倒せば十分でしょう!?」
「何が十分よ。たった八人でしょう? 本来、貴方が持っている力を発揮すれば、その程度楽勝でしょう」
 取り付く島のないエミリアに内心舌打ちしつつも、レオシールは周囲を取り囲んだ構成員達を見やった。
 兵士とは違う、粗暴な雰囲気を纏った集団。手にする獲物も様々で、ナイフから斧、弓を構えているが、一見して基本も何もなってはいないのは明白だった。しかし、彼らがいくつもの修羅場をくぐり抜け、そして、一般の兵士では束になっても敵わない事は、彼らの放つ気で判断できた。
「ったく、最近貧乏くじを引いてばかりだな」
 僅かに反り返った片刃の剣アルカンプを構えたレオシールは、迷うことなく構成員に切り込んでいく。いくら実戦経験豊富だと言っても、やはり素人臭さは抜けていない。連携も何もなっていない彼らは、一対一よりも一対多での闘いには極めて不慣れだった。至近距離で切り込まれた相手には、必ず一対一で相対してしまう。迂闊に背後や左右から攻撃すれば、味方にも当たってしまう。そんな思いが彼らの動きを鈍くしていた。
「はぁぁぁぁ!」
 気合いの籠もった声を放ちつつ、レオシールは一瞬にして二人の構成員を切り伏せた。距離を取り、こちらを矢で射ろうとしている構成員に、すかさず右手を向けた。
「アルカンプ! 頼む!」
 手にした剣が赤い輝きを放った。瞬間、矢を番えていた構成員の足下から火柱が立ち上り、一瞬にして目標を焼き尽くした。
「チッ! ダメだ! こいつを迂回して上へ向かうぞ!」
 三人の構成員達がレオシールを避けるように背後へ流れていく。
「あっ! 待て!」
 レオシールが叫ぶよりも早く、欠伸を噛み殺したエミリアが通路の前に立ち塞がった。
「ったく、使えないわね」
 斬りかかってくる構成員達。エミリアは抜き身のアシュタルテを肩に置いた。構成員達が、無防備なエミリアに集約していく。彼らを十分引きつけてから、エミリアは一歩踏み出した。

 フォンッ!

 突然、構成員達の上半身が消し飛んだ。切り離されたのでも、爆砕したのでもない。文字通り消し飛んだのだ。数瞬後、大気中に舞っている赤い霧のような物をレオシールは確認し、思わず口を押さえた。
 漂う血煙。それは、アシュタルテの一閃により、上半身を吹き飛ばされた元人間の物だった。視認できないほど猛烈な素早さで振り抜かれたアシュタルテは、骨や筋肉すら血煙へ変えてしまったのだ。
「フンッ、雑魚ね」
 自身の身長よりもあろうかというアシュタルテを軽々と振り回したエミリアは、部屋の入り口でその情景を見つめていた構成員達を見やった。
「バ、バケモノだ!」
「あっちだ! 違う入り口から上へ行くぞ!」
 勝てないと判断した構成員達は、我先にと元来た道を引き返していく。もっとも、引き返して西の間へ向かったとしても、待っているのは東の間と大して変わる事のない結末だろう。
「バケモノって、全く、こんな綺麗な私に向かってなんて事を」
「いや、あながち間違っていませんよ、アイツらの言ってる事は」
「隊長に向かって、随分と言うじゃない」
「確かに隊長ですがね、一応、俺の方が年上なんですよ……」
 恨めしくエミリアを見やるレオシールに、蒼髪の美女は口元を押さえてクスクスと笑う。
「ご免なさい、レオシール。才能がないって言うのは、いつの世も悲しいわね」
「謝る気無いでしょう」
 肩を落とすレオシール。しかし、エミリアの一撃で砂糖に群がる蟻のようだった構成員達も、すっかり居なくなってしまった。
「隊長、これからどうしますか?」
「そうね、敵がいないんじゃ、此処にいても仕方ないわね。あっちに行った敵はサリヴァンに任せるとして、私は城で暴れている奴らを殲滅しに行こうかしら」
「そうですね……。ルリア様は無事でも、エリンピオ城を奴らの好きにさせるのは我慢できませんからね」
 戦局が次のステージへ移り変わろうとしたとき、構成員が逃げ戻った通路から悲鳴が響いてきた。
「なんだ?」
 廊下から、得体の知れない物が近づいてくる。闇に飲み込まれた廊下から、異様なプレッシャーが押し寄せてくる。頭ではない、体が危険な何かがやってくると警告していた。レオシールの足は独りでに後ずさっており、気がつくとエミリアの横に並んでいた。
「良い勘してるわね、レオシール。それは、貴方が持っている一番の才能かもね」
 口元に笑みを浮かべたエミリアは、肩に掛かる髪を後ろへ流しつつ、赤い瞳を細めた。人間離れした美しい横顔から、隠しきれないほどの闘気が流れてくる。

 カツン……カツン……カツン……

 通路から乾いた足音が流れてくる。異様と言うよりも、異常といった方が適切な気配を持った何者かが、近づいてくる。足音に続き、爪先が闇の中から光の下へ現れる。纏った闇のベールが剥がれるように、みるみる間に光の下にその体を晒す。
「お待たせ」
 待ち合わせしていた友人に語りかけるように、その女性はレオシール達の前に立った。
 アイリーン=リサリバー。バラーズ=ブロイラの付き人。レオシールも、何度かアイリーンと言葉を交わしている。言葉を交わしてはいるが……。
(この変貌は何だ? 容姿は何一つ変化がない。だけど、まるで別人のようだ)
 普段はバラーズの背後で影のように控える彼女。時折浮かべる楚々とした笑みは、とても魅力的だった。ハイダーナイツの中でも彼女の人気は上々だった。しかし、今はどうだろう。楚々とした笑みは消え、浮かぶのは冷笑。敵意を持って立ち塞がる彼女の手には、血に濡れた細身の剣が握られている。
 ジリッと、レオシールは更に後ずさりした。それと反対に、エミリアは一歩前へ足を踏み出す。彼女だけは、アイリーンの放つ得体の知れない気配にも何処吹く風だ。
「やっぱり、アナタも(・・・・)なのね。初めて見たときから、どうも妙な感じがしていたのよね。同じ空間にいるだけで、胸の奥がもやっとしてくるし、アナタと視線を合わせると、本当にもう」
 エミリアは肩を揺らして笑う。
 このとき、レオシールは理解した。アイリーンの放つ異様な気配にエミリアが何故平静でいられるのか。それは、エミリア自身がアイリーンと同じ、いや、それ以上に凄まじい気を放っているのだ。
「殺したくなっちゃうのよね」
 アシュタルテが唸りを上げて振り下ろされる。切っ先が、アイリーンへと向かう。
「あら、奇遇ね。私も同じ事を思っていたわ。どうして、私と同じバケモノが、人のマネをしているのかとね」
「私は人よ。アナタとは違うわ」
「いいえ、同じよ。だって、こうして向かい合っていれば分かるもの。アナタは私と同じ、平和よりも闘争を好む。人を愛する事よりも、殺す事を好む」
「………」
 ジリジリと二人の間が縮まっていく。
「さあ、楽しみましょうよ。直にディアブロがこの国を壊すわ。だから、もう人のフリをする必要はないのよ」
 アイリーンの手から剣が落ちた。鋭い剣先が絨毯に突き刺さり、パタリと倒れる。
「始めましょう! 魔物と人の血を引く、ダブルリング同士の闘いを!」
 叫んだアイリーンは、突然四つん這いになった。天に向かって吠えるアイリーン。みるみる間に彼女の体が大きくなり、身につけていた衣服を突き破る。褐色の皮膚はあっという間に黒く変色し、ひび割れた固い皮に覆われた。口先は突き出し、ナイフのように鋭い牙が上下の顎から映えてくる。黒く長い髪の毛は白く変色し、針のように鋭く硬く尖る。
「魔獣マグベル。その力に、その血にアナタは苦しめられていたのね」
 エミリアは悲しそうに呟くと、変貌を遂げたアイリーン見やった。


 エミリアとレオシールが東の間でアイリーンと向かい合っている頃。
 西の間には死体の山が築かれていた。
 東の間が蒼一色に対し、こちらは白一色。天井の至る所にもうけられたランプにより、影も様々な方向へ分散し、白い床に塗り潰されてしまう。調度品も絨毯も無い部屋。白い大理石で囲まれた部屋には一転のシミとなる黒い法衣を纏ったサリヴァンと、部屋に溶け込む白い装束を身につけたハイダーナイツの隊員、それと、山のように積み重なった黄金の城の構成員達。死体と化した彼らからは、真紅に染まる血液が流れ出し、白い部屋に色を添えている。
 もたれ掛かってくる盗賊を脇に押しやり、胸を貫いていたノクターンを抜き去る。サリヴァンは同じように構成員を仕留めた隊員達を見て、満足そうに頷く。
 各人が自らの役割をきちんとこなしている。相手の被害は、丁度五十を超えた辺りだ。どうやら、東の間よりも西の間の方に敵が集中しているようだ。
「東の間は平気でしょうか? エミリア隊長とレオシールだけでは、果たしてどれだけ持ちこたえられるか」
 新人の隊員が、心配そうにサリヴァンに尋ねてくる。だが、後ろに控えている古参の隊員達は、誰も東の間の心配はしていない。もちろん、サリヴァンもエミリアの心配はしていない。彼女なら、五十六十の敵が相手でも、鼻歌交じりで対応できるだろう。
「彼女なら問題はない。それよりも、自身の心配をしろ。まだ、敵は来るぞ」
「ハッ!」
 威勢良く駆け込んできた構成員をハイダーナイツは一瞬にして切り捨てていく。相手がいくら黄金の城と呼ばれる世界最大クラスの盗賊団と言っても、一般の構成員とハイダーナイツでは実力に天と地ほどの開きはあった。
「オホホホホ! 流石はハイダーナイツ! 世界にその名を轟かせるだけの事はありますね!」
 突如として、身の毛もよだつ声が西の間に響き渡った。闇に包まれた通路から、突然一人の男が飛び出してきた。天井付近をクルクルと錐揉み状態に回転し、部屋の中央に音もなく着地する。
 体の大部分をさらけ出した服。いや、そもそもあれは服と呼ぶに値する物なのか。辛うじて秘所は隠してある物の、その他の部分は露出している。裸体よりも、黒革のベルトで所々を覆っている為、より嫌悪感が増している。
「ガラハド=ブライか。皆、下がれ。この変態の相手は私がする」
 変態ではあるが、ガラハドは紛れもなく九頭竜候補だ。一刀の元に切り捨てられた構成員達とは、雲泥の差がある。それどころか、背後に控えている隊員達が束になっても、果たして勝てる相手かどうか。
「変態ですって! 失礼な! 私は今日、サナギから華麗な蝶へと変貌を遂げるのです!」
「……どんな昆虫になろうが知った事ではない。一つ聞きたい。お前らの目的は何だ? 何故、この時期に此処を襲う」
「ん〜」
 ローズと呼ばれる爪状の武器を両手に嵌めたガラハドは、こちらに流し目を送りながら顎をさする。
「良いでしょう。どのみち、今日であなた方の最後です。お教えしましょう。これは、昇進試験です。私たちが、九頭竜になるための、ね。その試験と言うのが、不死の女王が持つ古の宝を手に入れる事」
「試験のために、一国に戦争を仕掛けてくるのか」
 沸々と怒りが込み上げてくる。美的感覚だけではない。あらゆる部分において、目の前の男とは意見が合いそうにない。
「ええ。そうですとも。私たちは盗賊団。奪える物なら、命だって奪います。今までも、そして、これからも」
「なるほど、よく分かったよ」
 サリヴァンはノクターンを振って刃についた血糊を払うと、眼鏡の奥で輝く眼差しをガラハドに向けた。
「私には、一生掛けても貴様らの理屈は理解できんな。だから決めたよ。今までもそうしてきたように、これからも、私は貴様達を血祭りに上げる」
「さて、貴方にできますかね?」
「できるさ。この世には奪う事のできない至高の存在がある事を、貴様の身に切り刻んで教えてやる」
「フフフ、いいでしょう。では、私と美を競い合いましょう!」
「このサリヴァン=テキラメルクと美を競うか、相手にならないだろう、貴様では!」
 サリヴァンとガラハドが動いたのは同時だった。
 目にも止まらぬ素早さでノクターンを放つサリヴァン。ガラハドはノクターンの攻撃を紙一重で躱しながら、下から抉るようにローズを突き立ててくる。
「チッ!」
 寸前の所でローズの刃を躱したサリヴァンは、大きく後ろへ後退する。不満そうな溜息をつきつつ、中指で眼鏡を押し上げる。
 ガラハドの攻撃は、ほぼ格闘戦に近い間合いだ。剣を持っている分、こちらの方がリーチ的には有利だが、ガラハドの素早さは並外れていた。一度懐に入られてしまえば、今度は逆に剣を持っているサリヴァンが不利になる。
「ンフフフ……。惜しいですね。この刃が僅かでも掠れば、貴方は終わりです。果たして、貴方はどんな花を咲かせてくれるのでしょうか」
「花か、血飛沫を咲かせるのも悪くはないな。ただし、私ではなく、お前の体でな」
 地面すれすれまで上半身を倒したガラハドが、サリヴァンに突貫してきた。白い大理石の上を這うようにして迫るガラハドに対し、サリヴァンはグッと腰を落として受けた。
 竜巻のように回転しながら上下で切り分けてくるガラハド。異常とも言える外見とは裏腹に、その体術は今まで目にしてきたどんな人物よりも優れていた。力ではなく、技で押してくるスタイルが相手では、純粋にお互いの技量によって勝敗が決する。
「ホホホホッ! 遅い! 遅いですよ、サリヴァン! それがハイダーナイツの双塔の実力ですか!」
 袈裟斬りに振り下ろされたノクターンが空を切り、一瞬の隙を突いたガラハドが体を押しつけてくる。距離はゼロ。胸元に入り込まれたサリヴァンには、ガラハドを撃退する統べはなかった。
「終わりです! サリヴァン! 最後は、華々しく散りなさい!」
「クッ!」
 咄嗟に上体を反らすサリヴァン、しかし、ガラハドは更に体を密着してサリヴァンの動きを封じた。
 両手に嵌められたローズが唸りを上げて襲いかかる。サリヴァンは黒い法衣が切り裂かれるのも気にせず、足を止めてガラハドの攻撃を避ける。
「ホラホラホラホラ! どうしたのです! 足が止まっていますよ!」
 嬌声を上げながら猛然とローズを振り続けるガラハド。途中、足技などを入れてサリヴァンを翻弄するが、そのどれも法衣を掠めるだけ。彼の体には毛の先ほどの傷も与えられない。
 初めはヤバイと感じたハイダーナイツの隊員達も、徐々にその不自然さに気がつき始めた。いくら凄まじい連続攻撃を放とうとも、サリヴァンに攻撃が当たる事はなかった。
 ゼロ距離でローズを振るうガラハド。圧倒的不利な状況下のサリヴァンだったが、彼は片方の足を軸にして、回転しながらガラハドの攻撃をいなしている。右に左に、重心を置き換えてのサリヴァンの体捌きは、まさに神業だった。
「まさか、そんな! 私の攻撃が! まさか!」
 ガラハドも漸く気がついたのだろう。半ば足を止めての接近戦で、明らかに自分が劣っている事に。ノクターンを下げたままのサリヴァンは、その冷めた瞳の奥でガラハドの動きを計算していた。
「確かに」
 突き出された右手を掴み、ガラハドを投げ捨てる。彼は猫のように空中でバランスを取り着地した。
「貴様の素早さと技は見事と言うより無い。驚きはしたが、しかし、私の予想の範疇を超える事はない」
「馬鹿な! 私の体術が、しかし、私にはローズが居るわ! この子がいる限り、私は負けないわ!」
 大理石にローズを突き立てたガラハド。一瞬にして大理石にヒビがが走り、そこから植物が芽を出す。蔓状の植物は一瞬にして巨大化し、サリヴァン達ハイダーナイツを取り囲んだ。植物の包囲網が徐々に狭まり、サリヴァンの体を捕らえようと触手を伸ばしてくる。
「致し方なし、か」
 右手に持ったノクターンを目線の高さまで上げると、サリヴァンは小さく頷く。
『いつでもいけます、サリヴァン様』
 普段は一切口を開かない守護聖霊、ノクターン。彼がサリヴァンに語りかけてきたとき、それは勝敗が決した事を意味していた。
「花を咲かすのは、やはり貴様だ。最後くらい、華々しく散って、滅美を演出して見せろ」
「何ですって! まだ勝負は決まっていないわ! 貴方の動きを封じ込めれば、まだ私にもチャンスが……」
 まくし立てたガラハドの動きが止まった。
 この部屋の誰もが、何が起こったのか理解できなかっただろう。この部屋の全ての人物の視界から、サリヴァンが消えた。いや、消えたのではない、消えたと思ったサリヴァンは、瞬きほどの間にガラハドの背後に移動していた。
「チャンスはない。お前らが、この国を、この城を狙った時点で、この結末は決まっていた」
 サリヴァンは剣舞でも舞うかの如く大気中にノクターンを走らせた。乾いた風斬り音を立てて振られるノクターンを、クルリと手中で一回転させて鞘に収めた。
「切り払え、ノクターン」
 その言葉が引き金になったかのように、ガラハドの体がずれた。ガラハドの体だけではない。彼の周囲の空間が、前後左右上下、あらゆる方向にずれたのだ。
「まさか……、そんな……!」
 それがガラハドの最後の言葉となった。サリヴァンが宣言したとおり、彼は血飛沫を上げてバラバラに粉砕された。
 彼の死により、西の間を覆い尽くそうとしていた植物も、あっという間に枯れ果てた。
 枯れ草の上にばらまかれたガラハドの死体。それは、誰が見ても美しいと呼べる代物ではなかった。
「やはり、貴様に美を問うのは、無理のようだな」
 圧倒的な強さを示したサリヴァンは、隊員達に掃討作戦へ移るようにと指示を出した。ホッと一息ついた彼の意識は、自然と東の間へ向かう。
「そろそろ、あちらもケリがついている頃か?」
 エミリアが誰と戦っているのか、サリヴァンは知らないし、知ろうとも思わない。しかし、相手が誰であろうと、これだけは分かる。エミリアは決して負ける事はない。怒ったエミリアは、サリヴァンよりも遙かに恐ろしい。彼女の相手になった人物の冥福を、サリヴァンは心の中で祈った。
(つづく)
(初出:2014年07月19日)
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登録日:2014年07月19日 13時53分

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