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天生諷
著者:天生諷(あもうふう)
極々平凡な会社員。毎日楽しい出来事はないかと、心の中で模索しながら生活をしている。旅行と昼寝をこよなく愛し、読書とゲームが生きる原動力となっている。群馬県在住。
小説/ファンタジー

赤い死神 右手に鎌を左手に君を(14)

[連載 | 完結済 | 全14話] 目次へ
エリンピオ城の戦いから一ヶ月。重傷だったミシシュはすっかり回復し、静けさを降り戻した城で、ルリアとくつろいでいた。赤い死神エピローグ。
 エピローグ

 テンダーランドへ行ったディアブロ達からの連絡が途絶え、十日が過ぎようとしていた。
 構成員からの報告では、エリンピオ城への進入には成功。しかし、中で待ち構えていたハイダーナイツの反撃にあい、殆どの構成員が死亡、若しくは捕らえられた。そして、九頭竜候補であったガラハドは、ハイダーナイツの隊長と闘い死亡。ディアブロは、赤い死神との交戦により行方不明になった。
 黒曜石で囲まれた、相変わらずの調度品も何もない室内。サガンはイスに腰を下ろしている体を身動ぎさせると、うっすらと目を開いた。暗く沈んだ瞳に、室内の灯るランプの明かりがユラユラと揺れている。
「赤い……死神……」
 失われた右腕がズキリと痛む。
 十年の長き年月を経て、間接的にとはいえ赤い死神は再びサガンの前に立ちはだかった。そして、自分の後継者を見事に打ち破った。
 二人とも才能のある若者だった。お互いに性格に難があるとはいえ、その実力は後数年もすれば自分を凌ぐはずだった。
 何という運命の巡り合わせだろうか。これも、自分が十年前に犯した行為への業という事なのか。
 サガンは目を細め、虚空に口を開けている入り口を見つめた。あそこにディアブロが立ったのは、一月以上も前の事だ。あれからそれほど時が経っていないというのに、もう何年も経っている気がする。
「遅かったな」
 まるで一月前の映像を見ているかのように、入り口に一人の男が立っていた。
「ただいま、戻りました」
 苦渋を秘めた声が反響することなく消えていく。
「その様子では、随分と痛めつけられたようだな」
 サガンはイスから立ち上がると、ゆっくりとした足取りで男へと向かう。
「油断しました、とは言いませんよ」
 相変わらずの不遜な輝きを称えた瞳。以前は流水のように青く透き通った眼差しは、死を目の前にして深く淀んでしまったようだ。左手は肩から先が無く、足首も簡易的な義足が取り付けられている。麗しの美貌は見る影もなく、継ぎ接ぎだらけの皮膚は機械的な仰々しさを感じさせる。
「時間を掛ければいい。これから、お前には長い時間があるのだからな」
 変貌を遂げたディアブロ。肉体的に失ったものは多かったが、精神面では大きな変化を遂げ、より盗賊らしくなった。特に、瞳に燃える紅蓮の炎は、怒りと憎しみ。この世界でもっとも強い感情だ。
「これより、お前を九頭竜の一人として迎える」
 ディアブロの肩を叩き、その横を通り過ぎるサガン。何かを言いかけたディアブロだったが、サガンは背中で反論を拒否した。
「この世には、手を出してはいけない人間がいるのかも知れないな。我々も、それを学んだ方が良いのかも知れない」
 部屋の入り口で取り残されたディアブロ。しかし、彼はサガンに厳しい眼差しを向けてきた。
「私は諦めない。絶対に、あの赤い死神の細い首を引き千切ってやる!」
 咆吼のような声が通路に轟く。
 サガンはディアブロを振り返ると、満足そうにコクリと頷いた。
「最終試験、合格だ。その気持ちを忘れるな。必ず、赤い死神を仕留めろ」
 サガンの言葉を受け、ディアブロは深々と頭を下げた。
 新しい時代の幕開けだ。これで、黄金の城は更に強大になるだろう。黄金の城がどのような方向へ進むのか、どのようにしてこの世界を混沌とした混乱の世界に陥れるのか、それを肴に余生を過ごす事にしよう。


 あの一件から一月が過ぎた。暦も翠の月から真朱(まそお)の月へと変化した。太陽は日に日にその強さを増しているようで、日中などは日陰にいてもうっすらと汗を掻いてしまう。
 燦然と輝く太陽、その下で煌めく蒼い海。新緑の緑に包まれた丘の上に立つ白亜のエリンピオ城は、陰る事のない輝きをサーンラーデンの人々の目に映していた。
「生まれて初めて、クッキーを焼いてみました」
 大小様々な形のクッキーが、可愛らしい化粧皿に山盛りに盛られていた。ミシシュの前に座ったルリアは、ニコニコしながらクッキーを頬張っている。
 ミシシュもルリアに笑みを返し、クッキーを口に運ぶ。カリッと軽い食感。そして、口の中に広がるバニラの味。格好は決して良いとは言えないが、味は抜群だ。エプロンを粉まみれにしたルリアの様子を見れば、どれだけ苦労してこれを作ったのか、想像がつく。
 かなり高い場所にあるルリアの自室は、緩やかで冷たい風が窓から入り込んでくる。まるで、涼しい場所を見つけた動物のように、エミリアは細い窓枠に体を預けウトウトと居眠りをしている。
 長い髪を風にそよがせるエミリアを、クッキーを食べつつ見つめたミシシュは、今度の闘いで彼女も辛い思いをした事を思い出した。
 ダブルリング。世間では忌み嫌われている魔物とのハーフ。エミリアと戦ったアイリーンも、ダブルリングだったとレオシールから聞いた。同じダブルリングを、果たしてどんな思いでエミリアは倒したのか。普段は飄々としているエミリアだが、彼女が自分の出生や、同じダブルリングに対してどれだけ気を遣っているか、ミシシュは知っていた。社会的に差別されているダブルリングに対し、エミリアは自身のもらい受ける給料の殆どをダブルリングの救済に当てている。自分と同じように、自分の居場所を見つけられるようにとの願いを込めて。
「エミリアも、苦労したみたいです」
 同じようにエミリアを見ながら、ルリアは紅茶を口に運ぶ。
「ルリアだって同じだろう?」
 腰に下げたラシィータを鳴らし、ミシシュは足を組んだ。
「私の方は苦労していません。右往左往しているのは、今回の見合いを強引に進めた議会の方です。ゴモスは、今回の一件が自分の責任だと感じているらしく、もうズッと寝込んでいるみたいですし。ですが、これで当分は、私の婚姻などという話は出ないでしょう」
 その口調は、どこか嬉しそうに聞こえてきた。口五月蠅いゴモスが寝込んだのが嬉しいのか、それとも、婚姻の話が出ない事が嬉しいのか。恐らくその両方だろう。
「ミッシュ、背中の傷の具合はどうですか?」
 心配そうにルリアはミシシュを見てくる。事件の事後処理に追われたルリアは、この一月休み無く働いていたのだ。一月ぶりに見るルリアはどこか疲れているようだったが、それでもその顔は晴れ晴れとしている。
「すっかり。傷跡もなくなったよ。ま、僕が全快した事をサリヴァンは快く思っていないだろうけどね」
 ハイダーナイツには、傷を負った者を治す専属の魔導師がいる。ルリアの頼みで、サリヴァンはその魔導師を使ってミシシュの傷を癒したのだ。いくつもの金属片が背中に突き刺さり、その中のいくつかは内臓にまで達していたため、傷が完治するのに二週間程掛かってしまった。
「今回は本当に助かりました。ミッシュがいなければ、今頃私はこうしていられなかったでしょう」
「気にする事はないよ。やっと、君との約束を果たせたんだから」
 ミシシュは目を細めルリアを見つめる。少し頬を赤らめ、恥ずかしそうにミシシュから視線を逸らしたルリア。ミシシュは、懐から取り出した手紙をルリアの前にそっと置いた。
「これは……?」
 手紙を手に取ったルリアは、見て良いのかと視線で尋ねてきた。ミシシュは軽く頷くと、まだ熱い紅茶を口にした。
「ミリデリアからの手紙だよ。まあ、サリヴァンの言っている事は間違いじゃなかった。それを、ルリアに知っておいてもらいたくってさ」
「………」
 ルリアは手紙を読んでいた。途中、眉間に皺を寄せる部分もあったが、それでも、最後までキチンと読んでくれた。上げた顔には何の感情も浮かんでいない。ただ、黙ってミシシュを見つめていた。
「見ての通り、その手紙の内容は反故になった」
「本当にですか?」
 探るように言うルリア。しかし、その顔にはこれまでにないほど、晴れ晴れとした笑顔を浮かべている。
「エバーラスティングは、君の中にあるだろう?」
「しかし、この手紙には、古の宝の奪取としか記されていません。神の言霊を、ミリデリアに送ったのですか?」
 その口調に咎めるような調子はない。あの時、ルリアはミシシュが手にした神の言霊について、何も触れようとはしなかった。あの時、見咎められていたら、ミシシュはルリアに神の言霊を渡していただろう。それをしなかったという事は、ルリアは全てミシシュに託したという事だ。自分を信じて、ルリアは全てを託したのだ。
「いいや、送っていないよ」
「なら、今は何処に?」
「ルリアの手元だよ」
 クッキーを口に運びながら、ミシシュは窓の外を見た。蒼穹という言葉がピッタリの、雲一つ無い青空だ。青空の手前にいるエミリアは、寝ているのか起きているのか、こちらの会話に口を挟むつもりはないようだ。
「どういう意味ですか?」
 少女のように小首を傾げるルリア。
「この国にあるよ。この国にある物は、全部ルリアの物だろう」
 口の端を上げ、ミシシュは笑みを浮かべる。
 その時、一陣の風が窓から室内へ飛び込んできた。エミリアの長い髪が大きく流れ、ミシシュの腰に差してるラシィータの鞘飾りが大きく揺れた。いくつもの房が絡まった鮮やかな飾り。その飾りの中央には、神々の言霊が淡い光を称えて揺れていた。
(了)
(初出:2014年08月26日)
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登録日:2014年08月26日 18時12分

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