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天生諷
著者:天生諷(あもうふう)
極々平凡な会社員。毎日楽しい出来事はないかと、心の中で模索しながら生活をしている。旅行と昼寝をこよなく愛し、読書とゲームが生きる原動力となっている。群馬県在住。
小説/ファンタジー

赤い死神 右手に鎌を左手に君を(2)

[連載 | 完結済 | 全14話] 目次へ
世界一の大国テンダーラントの王女ルリアに見合い話が持ち込まれていた。相手は国交が断絶していた西のヘキルイの王子。踏ん切りのつかないルリアはお忍びで歓楽街に繰り出しオカマバーに顔を出す。
 一章 不死の女王

 碧月(あおのつき)、下旬。長かった雨期が漸く終わり、青空には燦然と輝く太陽が浮かんでいる。開け放たれた窓からは、初夏の香りを含んだ心地よい風が入ってくる。
「嫌です! 絶対に、イ・ヤ・です!」
 日の光を受けて白く輝くエリンピオ城。世界の中心と言われるセトルキュアー大陸の、東側を占める世界一の大国テンダーランド。エリンピオ城は政治の中心地、『太陽の昇る都市』と称される『サーンラーデン』の中央に位置していた。小高い丘の上に立つエリンピオ城を中心にして放射状に広がる街は、世界中のどの都市よりも発展していた。
 青空に可憐な少女の叫び声が響く。
「しかし、姫様! この見合いは、またとない機会ですぞ!」
 黒いローブを着たゴモスは、丸まった背中をほんの少し伸ばし、イスに腰を下ろすルリアの顔を必死の形相で見つめた。深い皺に囲まれた目がクワッと見開かれるが、瞳に映るルリアは関係ないとばかりにそっぽを向いている。
「だから、この話は何度もお断りしたはずです!」
 繰り返される問答に、ルリアの口調が荒っぽくなる。しかし、ゴモスもその程度では引き下がらない。嗄れた声のトーンを更にあげ、ルリアに歩み寄る。
「断りの返事は出しておりませぬ! この事は、議会でも満場一致で採決されました! 後は、姫様が頷いてくれればそれで済むのです!」
 枯れ木のように細い腕をローブの裾から出しながら、ゴモスはルリアの頭をがしっと掴み強引に頷かせようとする。しかし、ルリアも慣れたもので、ゴモスの腕を弾き飛ばすと、前蹴りをゴモスの腹部へ入れる。
「ひ、ひ、姫様ぁ〜!」
 情けない声を出し、丸い体をしたゴモスがごろりと転がる。後ろにある机の角に頭をぶつける寸前、ルリアの後ろに立っていた影が音もなく動きゴモスを支えた。
「サ、サリヴァン殿ぉ〜。サリヴァン殿からも何か言って下され! このまま、姫様が独り身でも良いと言うんですか!」
 ゴモスは自分を支えてくれた青年を見上げ、ウルウルと涙を流す。
 青年、サリヴァンはハァと短い吐息を吐き出すと、長い髪を背中へ回しながらルリアを見据えた。縁なしメガネの奥にある目は優しいが、否定を許さない強い光が宿っている。
「姫様、私もゴモス殿の意見に賛成です。私のような若輩者が言うのも何ですが、結婚云々よりも、ここは西側諸国の一角であるヘキルイとの繋がりを持つことが重要だと思われます。かねてより姫様が目指している西側との共和、その一歩になるかも知れません」
 痛いところを突かれたルリアは、ムスッとした顔を横に向ける。
 ルリア=サンブルーム。肩口で切り揃えられた髪はピンク掛かった栗色で、愛くるしい瞳は髪と同じ栗色だった。背も小さく華奢な感じのするルリアは、外見年齢は二十歳に達しないだろう。幼さの残る仕草や表情を浮かべるが、彼女は歴としたテンダーランドの女王だ。
「サリヴァンはゴモスの味方なのですか?」
 非難がましい言葉を口にしたが、返ってきた答えは涼しいものだった。
「いいえ、私はルリア様のお味方です。しかし、この国の一人の住人である事には変わりありません。国益のため、未来のためを思うなら、ゴモス殿の言う通りかと」
 優しい笑みを浮かべるサリヴァンはゴモスを立たせた。
 小さく舌打ちをしたルリアは、苦々しくサリヴァンを見る。
 サリヴァン=テキラメルク、二五歳。金糸の袖飾りをした黒い法衣を身につけるその姿は、ボンヤリとした風貌と相まって学者のように見える。しかし、彼はテンダーランド最強の王族私設部隊、ハイダーナイツの隊長を務めている。穏やかな外見とは裏腹に、常に頭の中では最悪のケースを想定した最善の手段を模索している。剣と魔法の腕も規格外で、ルリアは彼が傷を負ったところを一度として見た事がない。
「そうですぞ! 姫様! これは、西側と理解を深める好機(チャンス)! 是非とも、姫様にはこの話をお受けになって戴きたい!」
「そうです、ルリア様。別に結婚しろとは申しておりません。これを足がかりにして、ヘキルイとの関係を改善すれば、世界を覆う不穏な空気を緩和できるというもの」
 二人の言い分は間違っていない。間違ってはいないのだ。しかし、ルリアは納得しかねる。女王としてではなく、一人の女性として、表面上とはいえ見知らぬ男と結婚、いや、見合いをしろなどとは。ここで首を振ったら最後、済し崩し的に結婚まで持ち込まれるに決まっている。
 ヘキルイから話があったのは、碧月の前、白月(しろのつき)の事だった。国交が断絶していたヘキルイから、突然使者が訪れたのだ。ルリアを始め、貴族と市民から選出された議員達も驚きを隠せない様子だった。しかし、本当の驚きは使者が持ってきた書状の内容だった。書状には、ルリアとヘキルイの末子であるバラーズとの見合いの話だったのだ。
 色めき立つ議員達、軽い目眩を覚えたルリア。議会は紛糾したが、ルリアの「イヤだ」の一点張りで、その話は白紙に戻ったはずだった。
「この通りじゃ姫様! とりあえず、話だけでも〜!」
 神様に拝むように、ゴモスは両手をルリアに合わせる。
「このガキが……」と思いながらも、ルリアは視線を宙に彷徨わせた。しかし、その視線を捕らえるように、サリヴァンがルリアの視線を絡め取る。
「この老い先短いゴモスが此処までしているのです。一度会ってみたらいかがですか?」
 議員の連中やゴモスは兎も角として、サリヴァンまでが敵に回ってしまっては、ルリアに逃げる道はない。間違いなく、サリヴァンもそれを承知で言っているのだ。
「ねえ、エミリア。女の貴方はどう思う?」
 それまで一言も声を発することなく後ろに立っていた女性に、ルリアは体を向ける。
 腰まで伸びる蒼い髪に、透けるように白い肌。窓の外を見つめていた赤い瞳は、自分の名を呼ばれて初めて、ルリアに注意を注いだ。人外の美女、そう言う形容がぴったりと当てはまる、エミリア=エル=マヌカヌス。ルリアよりも若干年上に見えるその女性は、サリヴァンと同じハイダーナイツの隊長だった。
 『虚無の闇鍵』と呼ばれるサリヴァン。『ブルームーン』と呼ばれるエミリア。二人の隊長はハイダーナイツの双塔と呼ばれていた。
 キョトンとしているエミリアは、ゴモス、サリヴァン、ルリアを見て「ああ」と手を打った。
「お見合いの話ね。別に、どうも思わないけど」
 簡単に切って捨てるエミリア。聞いた人間が間違いだったと後悔する暇もなく、「では、早速返信を書きます」と、ルリアの答えを聞く前にゴモスはスタスタと短い足を小刻みに動かし、信じられない早さで部屋から出て行った。
「ちょっと! ゴモス!」
 イスから立ち上がってゴモスを追いかけようとしたルリアだが、目の前に立ちはだかったサリヴァンに行く手を阻まれた。
「姫様、国益です。ここはご辛抱を」
 もはやルリアがなんと言おうと手遅れだろう。投げやりにイスに座り直したルリアに、エミリアが声を掛けた。
「ルリア。お見合いも良いけど、明日は週に一度の休息日よ。談話役の職場に行くって、本当なの?」
 『談話役』という言葉に、ピクリと眉間に皺を寄せたサリヴァンをよそに、ルリアはコクリと頷く。
「本当です。エミリア、案内お願いいたしますね」
 パアッと満面の笑みを浮かべたルリアに、エミリアは「もちろん」と言って笑みを返してくれた。唯一、サリヴァンだけは不機嫌そうに、フンッと鼻を鳴らした。

 テンダーランドの首都サーンラーデン。中央の丘に立つエリンピオ城を中心に、放射状に街が広がっている。大分して、街は三つの区画に分かれていた。
 一つは、様々な会社や商社、商店などが立ち並ぶ、東側の海に面した商業地区。サーンラーデンだけではなく、テンダーランドがこの地区を中心に回っていると言っても過言ではない。港も含まれる商業地区には世界中のあらゆる物が集い、そして離れていく。
 二つ目は、街の南側に位置する居住地区だ。整然と区画整理されたこの場所には、上流層から下流層まで、様々な人達が住んでいる。王城の近くに行くほど高級住宅地が並び、逆に離れれば離れるほど、こぢんまりとした家々やアパートやマンションが立ち並ぶ。テンダーランドの正門も、居住地区にあった。
 そして、三つ目が歓楽地区だ。太陽の昇る都市と言われているサーンラーデンにあって、夜になっても光の途絶える事のない不夜城。それが、歓楽地区だった。子供の遊び場となるゲームセンターから遊園地、奥へ進めばピンク色のネオンが灯る大人の街が広がる。
 歓楽地区は奥に行けば行くほど混沌が広がり、司法の手も届きにくくなる。違法なカジノや闇医者、武器商人達がいるが、それらは決して無法者ではない。ただ、テンダーランドの定めた法律に従っていないだけで、歓楽地区で定められた暗黙のルールには従っているのだ。
 歓楽地区の深遠の部分を取りまとめるのは、テンダーランドでも無ければ、莫大な資産を持った個人でもない。コミュニティーと呼ばれる団体だ。コミュニティーには様々な種類があるが、その中でも巨大なのが国のコミュニティーだ。
 国のコミュニティーはその国の出身者同士で作られ、様々な情報や物資が入ってくる。その中には、もちろん違法とされる危険な物も含まれているが、司法当局はあえて手を出そうとはしない。テンダーランドの政府も、コミュニティーの存在を公に認めており、表面上は不干渉を貫きながらも、裏では繋がり、有益な情報を売買している。
 極彩色のネオンが煌めくメインストリートにある一件の店。『オカマバーリオン』の看板が輝くその店に、一日の疲れを癒す様々な人達が集っていた。
「さ、一杯」
 空に瞬く星のように、天井で煌めくスポットライトの下、『星屑のミオ』は手にした酒を隣に座る男のグラスに注いだ。琥珀色の液体がユラユラと揺れて、幻惑的な輝きを発する。
 青く輝く髪をサラサラと揺らし、「どうしたの、レオシール?」とミオは声を掛ける。
「はぁ……、美しいな」
「え? それは、私の事?」
 ミオは幼い顔に艶美な笑みを浮かべる。『星屑のミオ』と言う源氏名を持つミオ。すらりと伸びた肢体は雪のように白く、降り注ぐスポットライトの明かりの下では、キラキラと輝いて見える。チャイナドレスは、細い体に密着し、その美しい稜線を浮き立たしている。
「お前の訳があるか、システィーナの事だよ」
「あっ、そう」
 レオシールは熱い眼差しを、カウンターでカクテルを作っているシスティーナに注いでいる。彼女はこの店で唯一の女性であり、オカマバーリオンのオーナーでもある。システィーナは、レオシールの熱い視線に気がついたのか、手を休めるとこちらを向いてニコリと笑った。
(良いカモだよ、お前は)
 そんな事を思いながら、ミオは店内を見渡す。夜空のように黒く塗られた天井に、スポットライトが等間隔で灯っている。リオンの店内は広く、中央が一番低い擂り鉢状になっている。客層は様々で、怖い物見たさの男性客から、同性愛者、さらに女性の客も約半数を占めている。男でもない、女でもない。どっちつかずの容姿と心が、女性客に受けているようだ。
 店内をザッと見渡したミオは、接客をしている同僚達に目を留める。
 全員が元は男、または現在進行形で男だが、その容姿はまさに様々だ。何処からどう見ても女性の容姿をした者もいれば、オッサンが女装しているだけの人物もいる。個性派揃いのメンツが集まってはいるが、その誰もがシスティーナを中心にして纏まっている。
「そう言えば今日、王城に来なかったな。ついにクビになったか?」
 グラスに口を付けつつ、チラリと横目でレオシールがミオを見てくる。ミオは自分のグラスにも酒をつぐと、チビリと口に含んだ。強烈なアルコールの香りに混じり、木の香りが口いっぱいに広がる。ほんの少量のアルコールを口にしただけで、頭の奥がジンッと熱くなる。
「いいや、今日は来なくて良いって言われたんだ。どうも、夜に来るらしい。隊長二人を引き連れて」
「ふ〜ん。今日は社会科見学か。しっかし、隊長も大変だな。オカマバーにわざわざ足を運ぶなんて。……って、おい! 隊長も来るのか?」
 ガタリと、椅子を慣らして立ち上がったレオシール。丁度その時、レオシールの背後にあるドアが鈴の音を奏でて開いた。外の喧噪が、一瞬だけ店内に入り込んでくる。
「来ましたよ、ミッシュ!」
 戸口から発せられるその声に、レオシールの体が硬直する。顔面が凍り付き、先ほどまで紅かった顔が一瞬にして白くなる。
「あら、その長い髪の後ろ姿は」
「レオシールじゃない。貴方もここに来ていたの?」
 ルリアの後ろにいるエミリアが、直立不動のまま固まっているレオシールに話しかける。
「ど、どうも、ルリア様、エミリア隊長、それにサリヴァン隊長も」
 エミリアの後ろには仏頂面のサリヴァンが続いていた。彼は店内を見渡すと、フンッとつまらなそうに鼻を鳴らし、こちらに近づいてきた。
「ほう、レオシール。今日は定期訓練に来ないと思ったら、ここで一杯引っかけていたのか?」
「いえ、それはですね隊長……、あの、その……」
 しどろもどろになるレオシールの鼻先に立ったサリヴァンは、眼鏡の奥の瞳をスッと細める。表情こそ微笑んでいたが、眼鏡の奥にある灰色の眼差しは笑っていなかった。静かな怒りが、彼の涼やかな瞳に宿っていた。
「別に気にする必要はないぞ、レオシール。お前がどんな嗜好の持ち主でも、法に抵触しない限りなんら問題はない。他の隊員達には、黙っておいてやる。好きなだけ男漁りをするが良い」
「いえいえ! 違います! 俺は、あ、いや、私は真っ当な男です!」
 大仰に両手を振りながら言い訳をするレオシールを見て、カウンターにいるシスティーナがこちらに出てきた。
「ご無沙汰してます、サリヴァン。グラスはおいくつ?」
「中々繁盛しているようで安心したよ。グラスは二つ頼む。エミリア、お前も飲むだろう?」
「ええ、頂くわ。たまには、サリヴァンと一緒にレオシールを苛めながら飲むのも良いわね」
 サリヴァンとエミリアは、レオシールを挟むようにカウンターに座った。
「ちょ、隊長二人揃って隊員をいびり倒すんですか〜」
 悲壮な声を上げるレオシールに、無言でサリヴァンがグラスを差し出す。拒否権のないレオシールは、サリヴァンのグラスに酒を注ぐ。
 レオシールが虐められる様を見ているのも楽しそうだが、ここはリオンの店員が出張らない方が無難だろう。ミオはシスティーナに頷くと、ルリアを伴って階段を下り、店の中央へと降りていく。
「ここがミッシュの働いている所なのですね」
 薄暗い店内である。階段を踏み外さぬよう、ミオは恭しくルリアの手を取ると、一番下の席へ導いた。
「何を飲む? お酒、それともジュース?」
「お酒を頂きます。一番美味しいのを」
 ニコリと微笑んだルリアは、被っていた大きめの帽子を脱いだ。
 今日のルリアは、白いワンピースに浅黄色のカーディガンを羽織っている。テンダーランドの女王という立場上、諸手を挙げてこんな所には来られないのだろう。変装とはいえ、夜だというのに帽子はないだろうと思ったが、考えてみれば、この歓楽地区はおかしな連中の巣窟だ。夜なのにサングラスを掛けている者から、仮面を被っている者までいる。帽子を被っていたとしても、誰も不思議には思わないだろう。
 ルリアの手に持たれたワイングラスに、ルビー色の酒をゆっくりと注いでいく。フルーティーな香りが口細のグラスから漂ってくる。ルリアは慣れた手つきで香りを嗅ぐと、無駄のない仕草で口に運ぶ。
「わあ、美味しいですね。システィーナも、これを仕入れるのはさぞ大変でしょう」
「うん、結構苦労しているみたい。僕も仕入れは手伝っているんだけどね、中々上手くいかなくてね。システィーナはお客様の為にって、妥協はしないからさ」
 笑いながらエミリアにお酒をつぐシスティーナの姿が遠くに見える。
「所で、ミッシュ」
 上目遣いでミオの体を眺めたルリアは、耳元に口を近づけて囁いた。甘いシャンプーの香りが、立ち籠める煙草と酒の匂いを押しのけて鼻孔へ届く。
「何故、そんな格好をしているのですか? ミッシュは、女装が好きなですか?」
 ルリアに改めて尋ねられ、ミオはガックリと肩を落とす。
 星屑のミオこと、ミシシュ=ラン=フォールエンドは、この国を治める女王をしげしげと見つめる。幼い容姿をしながらも、その実年齢は三百歳を優に超える。
 世界中に散らばる神々の遺産、古の宝。中には世界を滅ぼすとまで言われる古の宝の一つを、ルリアは小さな体の中に秘めている。『エバーラスティング』と呼ばれる古の宝は、持つ者を不老にするのだ。
 ルリアは親愛の念を込め、二人きりの時はミシシュの事をミッシュと呼んでいた。
「いやいや、これは仕事だよ。これが一番僕のスキルを発揮できるからね」
「スキル、と言うよりも外見ね。普段から女の子みたいな容姿してるものね。そんな格好をすると、本当に女の子みたい。女性の私から見ても、嫉妬するくらい綺麗ですよ」
 そう言って、クスクスとルリアは笑う。痛い所を突かれたミシシュは、「うっ」と言葉に詰まる。渋面を浮かべるミシシュを一頻り笑ったルリアは、突然、大きな溜息をついた。
「ミシシュ、実は私……」
 そう切り出したルリアの目には、遙か昔に時が止まったようには思えない、瑞々しさが漂っている。
「お見合いをすることになりました」
「はぁ?」
 思わず、ミシシュは素っ頓狂な声を上げて聞き返す。誰が何をすると言ったか?
「だから、私がお見合いをするんです。談話役の貴方だから、こんな話をしているのですよ?」
 口を尖らせるルリアに、ミシシュはコクコクと頷く。
 ミシシュはオカマバーリオンで働きながらも、週に一度の休みの日には、『談話役』としてルリアの話し相手になる。代々、気が遠くなるほどの年月を生き続けるテンダーランドの女王は、唯一、本来の自分に戻れる時間を談話役と共に過ごす。談話役の前では、女王は女王ではなく、一人の女性に、本来の自分に立ち返ることが許されるのだ。
「それで、どうするの?」
 何故か不機嫌なルリアに、ミシシュは恐る恐る尋ねる。ルリアはクイッと酒を一口に呷ると、「会うだけ会います。相手は、あのヘキルイの王子ですから」と、投げやりに答えた。
「どう思いますか、ミッシュ?」
 続けて投げかけられた質問。ルリアは縋るような眼差しでこちらを見つめてくる。ミシシュはルリアの心情を必死になって読み取り、コクリと一つ頷く。
「良かったじゃないか、ルリア! やっと、もらい手が出来てさ!」
 この瞬間、鬼の形相でルリアが立ち上がった。ルリアは怒りの籠もった眼差しで一瞥すると、「帰ります!」と言い残し、一人でスタスタとリオンから出て行ってしまった。慌てて追いかける二人の隊長を見送り、レオシールは半ば安堵の溜息を漏らした。
「お前、何やったんだ?」
 疑問符を浮かべつつ、ルリアの忘れていった帽子を手にシスティーナの元に戻ったミシシュに、レオシールが尋ねてきた。
「……さあ?」
 首を傾げたミシシュは、手にした帽子を見下ろした。つい先ほどまでルリアが被っていた帽子は、煙草と酒の匂いが充満するフロアの中にあっても、まだルリアの甘い残り香を放っていた。
(つづく)
(初出:2014年04月03日)
登録日:2014年04月03日 20時07分

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