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天生諷
著者:天生諷(あもうふう)
極々平凡な会社員。毎日楽しい出来事はないかと、心の中で模索しながら生活をしている。旅行と昼寝をこよなく愛し、読書とゲームが生きる原動力となっている。群馬県在住。
小説/ファンタジー

赤い死神 右手に鎌を左手に君を(6)

[連載 | 完結済 | 全14話] 目次へ
黄金の城の一味が侵入したとの報告があってから丸一日が経過。ハイダーナイツたちが探りを入れているが目立った動きはない。一方、ミシシュを恋敵と模擬戦を挑むバラーズ。
 三章 ミリデリアの談話役

 ハイダーナイツの執務室を兼ねた訓練所は、王城の地下一階にあった。凶悪犯や政治犯を入れておく牢屋の真上に位置するハイダーナイツの訓練所は、まさに犯罪者の上に置かれた重しだった。町外れにある牢獄では手に余る犯罪者も、此処に入れられれば借りてきた猫のように大人しくなる。
 サーンラーデンに黄金の城の一味が進入していても、定時訓練は相変わらず行われていた。しかし、サリヴァンの指示に従い、約半数の隊員が街に散っているため、定時訓練の出席者は少なかった。広い訓練所が、今日はやけに閑散としていた。
「今度の相手は、黄金の城だ。それも、隊長クラスが絡んできている。決して気を抜くなよ」
 まるで隣にいる人物に話しかけるようなサリヴァンの小さな声だったが、衣擦れ一つしない訓練所にその声は響き渡った。
『ハッ!』
 テンダーランドから選び抜かれた屈強な兵士達が、声を揃えてサリヴァンの言葉に応じる。
 時刻は午前七時。門衛が黄金の城のメンバーに殺害されてから、一日が経過していた。ハイダーナイツ一名に対し、一般兵士を二人で組ませ、歓楽地区を中心に探りを入れているが、まだ何の進展もない。各国のコミュニティーとも連絡を取り合っているが、そこからも確かな情報が得られていない。
「いいか、相手は守護聖霊と対話の出来る者が数名いるだろう。だとすれば、強力な魔法を持っているかも知れない。事実、昨日殺害された衛兵の死体からは植物が生えていた。現場を見ていた者の話では、手に嵌めた爪で斬られた途端、体の内側から発芽したようだ」
「それも、魔法ですか?」
 隊員の一人が聞き返してくる。サリヴァンは頷くと、兵士達の前をゆっくりと歩み出した。隊員達が見つめるサリヴァン。しかし、彼らの視線の先には、壁際に備え付けられた長椅子に腰を下ろし、うたた寝をしているエミリアの姿があった。
 サリヴァンはエミリアの事は全く気にしていなかったが、前列に並ぶ隊員達は、チラチラとエミリアに非難がましい視線を送っていた。
「今更説明する必要はないだろうが、魔法とは守護聖霊が起こす奇跡の総称だ。炎を出す魔法もあれば、水をワインに変化させる魔法も存在する。そして、今回のように無から生物を生み出す物だって存在する」
「サリヴァン隊長! ならば今回の相手は、かなり特殊な力を持った強敵という事ですね」
 今更確認するまでもないが、サリヴァンは頷くと一拍間を取って「そうだ」と答えた。
「特殊と言う点ではアメスサスペンドに劣るかも知れないが、それでも強力な魔法である事に違いはない」
「アメスサスペンド……。それは、植物を生やす以上に特殊なんですか?」
 訓練所に緊張が走る。隊員達の頭に過ぎるのは、一人の青年の顔だろう。
「そうだ」
 サリヴァンは肩に掛かる長い髪を背中に落としつつ、眉間に皺を寄せる。ミリデリアから来た赤い死神。ルリアの強い希望で、今は談話役を務めているミシシュ。噂でしかないが、彼はアメスサスペンドを使えるらしい。
「アメスサスペンドは、何もかもが特殊だ。守護聖霊による魔法である事に違いはないが、そこにミリデリアの秘技が織り込まれている。残念ながら、その存在自体が疑問視されているアメスサスペンドだが、確かに、赤い死神なら使えるかも知れない」
「サリヴァン隊長も、見た事がないんですか?」
「ああ。これだけ情報が出ないという事は、アメスサスペンドを見た人物は、例外なく死んでいるという事だろう。まあ、見たとしても言わない奴がいるかも知れないがな」
 サリヴァンは足を止め、ついには長椅子に横になってしまったエミリアを見やった。本当に寝ているのか起きているのか、その呼吸を読んだだけでは分からない。もしかするとエミリアは、あの時の赤い死神との戦いでアメスサスペンドを見ているかも知れない。
「話はそれたが、魔法を抜きにしても黄金の城の隊長クラスは危険な相手だ。隊長である九頭竜以外でも、隊長補の数名がクライマックスに登録されているくらいだからな。昨日も言ったと思うが、もし黄金の城の一味を見つけても、一人で行動を起こすな。必ず私かエミリアに報告を入れるように。相手が雑魚なら構わないが、隊長クラスでは、何人束になっても敵わないだろうからな」
「基本的にサリヴァンに報告してよね。特に、夜十時から朝の九時までは報告を受け付けないわよ」
 いつの間に起きたのか、エミリアが欠伸を噛み殺しながら歩み寄ってきた。視界の隅では、レオシールもエミリアに釣られて欠伸をしている。
「後は宜しくね、サリヴァン。レオシール、お前も来なさい」
「えっ! 私もですか? しかし、訓練が……」
 チラリとサリヴァンを見て言うレオシールだが、その顔にはしてやったりの笑みが浮かんでいた。
 レオシール=フルフラック。神童と呼ばれ、十代でハイダーナイツに配属された彼。しかし、生来のムラのある性格が、彼をただの隊員止まりにしてしまっている。レオシールが少し真面目になれば、隊長としてかなり期待のできる隊員になるのだが。
「構わない、レオシール。あちらも重要な仕事だ。行きなさい」
「了解しました、サリヴァン隊長」
 ビシッと形だけの敬礼をしたレオシールは、列から離れると足早に出入り口へと向かった。
「じゃ、私も行くわ」
「ああ、了解した」
 サリヴァンに手を振ると、エミリアは気怠そうに訓練所から出て行った。エミリアを無言で見送った隊員達は、扉から蒼い髪が消えると、皆一斉にサリヴァンに口を開いた。
「サリヴァン隊長! 何故、エミリアが我らハイダーナイツの隊長なのですか!?」
「そうです! エミリアよりも、もっと隊長に相応しい人物は沢山います!」
 古参の隊員は兎も角として、まだ若い隊員達は、常日頃のエミリアの自堕落な勤務態度しか見ていないのだろう。もっとも、サリヴァンも彼女が真面目に仕事しているのをここ数ヶ月見ていないが、サリヴァンは絶対の信頼をエミリアに置いていた。ハイダーナイツの隊長として、彼女以外の適任者は、何処を探しても見あたらない。
「そうかな? 私には、エミリアが一番隊長に向いていると思う。それに、彼女はハイダーナイツで最も重要な物を備えている。彼女以外に隊長は務まらない。今回の事は不問にするが、エミリアは隊長だ。以後、エミリアを呼ぶときは隊長をつけるように」
 硬質な口調でキッパリと言い放つサリヴァンに、若い隊員達は不満そうな表情を浮かべつつも、「ハッ」と返事をするだけだった。ただ、古参の隊員達は、サリヴァンの言葉を肯定するように、何度も頷いていた。


「お前も大変だな」
「全くだよ。昨日は仕事だったんだよ? 三時間も寝ていないのに起こされてさ」
 口を尖らせるミシシュに、レオシールが「仕方がないさ」とぼやく。
「ま、俺も同じようなものだ。リオンにいたところを隊長連中に見られたからな。もう、毎朝七時から始まる定時訓練に狩り出されている始末さ」
「お前のは仕事だからやって当然だろう。僕は出仕するのはルリアの休息日だけって約束なんだぜ。で、どうして僕が呼び出されたんだ?」
 最後の言葉はレオシールではなく、三歩前を行くエミリアに投げかけた。彼女は肉付きの良い腰と長い髪を振りながら、顔を半分こちらに向けた。
「私もルリアも呼んでないのよ。ミシシュを呼んだのは、バラーズよ。彼、どうしてかミシシュに会いたいって言い出してね」
 そう言うエミリアは、どこか楽しそうな表情をしていた。その笑顔はまるで、悪戯をして楽しむ子供のようだった。
「エミリアの奴、何かやったな?」
 眼前に迫ったエリンピオ城から、得も知れぬ不穏な空気が漂っているように感じる。
「エミリア隊長も大人げないところあるからな。まあ、バラーズ様は人格者なんだろう?付き合ってやれよ」
「人格者ね〜」
 確かに、バラーズは素晴らしい人物だと思う。しかし、ミシシュはどうもバラーズを好きになれなかった。それは、前を歩くエミリアも同じ事だろう。そして、サリヴァンも同じ思いのはずだ。
 バラーズには何かが欠けているように思える。それは、彼を構成する上で最も大切な何か。それがあるから、ミシシュはバラーズを信頼する事ができない。彼の言葉の裏には、何かがあると勘ぐってしまう。
「う〜ん、いけないな。王族専門の護衛なんてやってると、どうも人を疑って掛かっちゃうんだよね」
「その位じゃないと、王族の護衛なんて務まらないんだろう?」
「まあね。って、僕に何を言わせるの。レオシールは現役のハイダーナイツでしょう」
「ハハハ、そう言えばそうだったな〜。あ〜、リオンに行って早くシスティーナにお酌してもらいたい」
「まだ早朝だよ」
 レオシールと二人、くだらないことを話している内にミシシュは王城に足を踏み入れた。エミリアは城門潜ると、真っ直ぐに歩き続ける。この道は、そのまま中庭へ通じる道になっている。見慣れた光景を眺めつつ、三人は中庭へ出た。
 中庭と言っても、そこは整理された公園のようであり、遊歩道もあれば噴水もある。そして、城壁に沿うようにして木々が生い茂っている。
「こっちよ」
 エミリアは木々の間をすり抜けていく。
「ここにバラーズ様がいるのかな?」
 青々と茂る木々の間を縫いながら、レオシールが呟く。朝の鮮烈な光が、木々の間を抜け、光のシャワーとなって一面に降り注いでいた。
 木々の間を抜けたミシシュは、芝生に反射する強烈な光に目を細めた。
 中庭の中央には噴水がリズミカルに放水しており、そこから舞い散る水滴はまるで宝石のように輝いている。その噴水を背に、一振りの剣を持ったバラーズが立っていた。
 剣の調子を確かめるように、軽く振るうバラーズ。その両脇には、心配そうな表情を浮かべるルリアと、相変わらず無表情のアイリーンがいた。
「おはようミシシュ。突然呼び出してすまないね」
 全く意味の分からないミシシュは、ルリアを見、そしてエミリアを見た。エミリアは無言で腰に差してある剣をミシシュに突き出してくる。アシュタルテではない、刃が落とされた訓練用のサーベルだ。
「これは?」
「見ての通り、模擬戦よ」
「隊長、模擬戦って……。まさか、ミシシュとバラーズ様が?」
 この事には、さすがのレオシールも戸惑いを隠せない様子だ。
「そ、恋敵に自分の力を知らしめたいんじゃないかしらね」
「恋敵って?」
 ミシシュの疑問には答えず、エミリアはサーベルを投げてよこした。
 ここテンダーランドで、ミシシュは自衛の手段以外で戦うことをハイダーナイツから禁じられている。ここで戦ってしまえば、間違いなくテンダーランド追放になってしまう。
 ミシシュはサーベルの柄を握りしめながら、助けを求めるようにルリアに視線を注いだ。しかし、ルリアは仕方がないという様に目を伏せると、コクリと頷いた。
『ミシシュさん、頑張って下さい! 相手はヘキルイの次期国王になるかも知れないお方ですよ!』
 エミリアの手元から、アシュタルテの楽しそうな声が聞こえてきた。守護聖霊とのシンクロが極めて高い、ミシシュとエミリアにしかその声は聞こえていないだろうが、エミリアは黙れとばかりに手にしたアシュタルテを上下に揺らした。
「ま、そう言うわけだから、ミシシュ。今回の模擬戦は姫様や議員の連中からも了承は得ているわ。ハイダーナイツの私も立ち会うんだから、法的には何も問題はないわ。朝の体操だと思って、一戦手合わせしなさい」
 まるで他人事のように言うエミリア。ぶっきらぼうな命令口調とは裏腹に、美しい顔には本当に楽しそうな笑みが浮かんでいた。
 エミリアの言葉がミシシュの了解と聞こえたのだろうか。バラーズは手にした剣を鞘から引き抜いた。あちらも、何の変哲もない刃が落とされた訓練用の剣だ。しかし、ミシシュのサーベルよりは幅も広く、重そうだ。
「そう言うわけだからミシシュ。手合わせ、頼むよ」
 僅かに腰を落とし、正眼に剣を構えるバラーズ。バラーズの気配を読み取ったのだろう。エミリアとレオシールが同時に下がる。
「断る、と言うわけにはいかないみたいですね」
 ミシシュは右手でサーベルを握ると、一振りしてその感触を確認した。ただ重たいという感触。練習用なので、レアメタルではなく、鋼だから仕方ないと言えば仕方がないが。それにしても、こうして剣を握るのは本当に久しぶりだった。不思議なことに、こうして剣を握るだけで、体中の血が沸き立つのを感じる。
「行くぞ、ミシシュ!」
 半身になったミシシュに、バラーズが攻撃を仕掛けてきた。流れるような足運び、そして、無駄なく繰り出される剣戟。型通りの攻撃を、ミシシュはサーベルで難なく受け止める。力強く繰り出された薙ぎ払いを屈んでやり過ごしたミシシュは、ここから攻勢に転じた。しかし、一歩踏み出したミシシュは、体のバランスを崩してしまった。鋭い意識とは裏腹に、体の動きは余りにも緩慢だった。
「隙あり!」
 蹈鞴を踏んだミシシュに、バラーズが容赦なく剣を振り下ろしてくる。その一撃を受け止めたミシシュに、バラーズが顔を近づけてくる。
「ミシシュ、君がルリア姫の思い人か?」
 一瞬、バラーズが何のことを言っているのか理解できなかった。しかし、バラーズの肩越しに見える蒼白な表情をしたルリアと、視界の隅で楽しそうに見物しているエミリアを見て、一瞬にして状況が飲み込めた。
「もしかすると、エミリアが可笑しな事を言いましたか?」
「否定はしないんだな?」
「否定をするも何も!」
 上半身を引き、その反動でバラーズを押し返したミシシュは、後ろに飛んで距離を取った。しかし、またしてもそこで膝が折れた。手に填められたリングの影響だろう、手足が異常に重い。
「そうか、忘れていたよ」
 舌打ちをしつつ、両手に嵌められたリングを苦々しく見やる。本来、このリングは一つつけるだけで十分だ。屈強な囚人も、これ一つでまともに歩けないほど疲弊してしまう。そのリングを二つも付けているのだ、まともに動けるはずがない。
『ミシシュさん! 頑張って下さい! 赤い死神の実力、見せて下さい!』
 アシュタルテの声が頭に響いてくる。異様な緊張感が漂い、静まりかえる中庭で、唯一の歓声がアシュタルテだけだった。
「頑張れとは言うけどね、アシュタルテ」
 小声で呟いたミシシュ。気がつくと、ほんの数回斬り合っただけで息が切れている。特殊な魔法を扱える人のみを集めた魔導師集団。その集団を作り上げ、このようなアイテムを生み出しているハイダーナイツという集団を、ミシシュは改めて恐ろしいと感じた。
「戴くぞ、ミシシュ!」
 バラーズが斬りかかってくる。ミシシュの限界を見破ったバラーズが勝負に出てきた。
 重い体を引きずるようにして、バラーズの剣から逃れようとするが、根本的なスピードの差がそこにはあった。意識は昔の赤い死神のまま。しかし、体は意識が要求する半分のスピードも出せない。そのギャップが、さらにミシシュの状況を悪くしていた。
「この!」
 苦し紛れにはなった一撃は、クルリと体を回転させて攻撃をいなされた。剣と剣は触れ合っているというのに、一切の手応えを感じない。まるで空気を斬りつけたような感覚が、ミシシュの手に残った。ある物がそこにはない。体は自然と前方に流れ、自ずと大きな隙をバラーズの眼前に晒す。やばいと思った瞬間、ミシシュの細い体を激しい衝撃が突き抜けた。背中に感じる激しい痛み。回避行動を取る前に、脆弱な体は芝生の上に倒れ込んでいた。
「僕の勝ちだ!」
 朝日を受け、切っ先が鋭い輝きを放つ。逆手に持った剣が、ミシシュに向けられていた。刃先を丸められたと言っても、強烈な突きは衣服どころか肉さえも突き抜ける。普段の温厚さが消えた無表情のバラーズ。まるで人形のように整った顔からは、殺気も怒りも、あらゆる感情が消えているかのようだった。
 バラーズの剣がミシシュの腹に向けて振り下ろされた。亀のように反応の鈍い体では、その一撃を防ぐことは不可能だった。
「そこまでです!」
 刃先は、腹部までほんの数センチという所で止まっていた。エミリアが鞘に収まったアシュタルテで、振り下ろされたバラーズの手を押さえていた。
「勝負ありです。これは、模擬戦です。それともヘキルイでは訓練といえど、負けた相手を死に至らしめるのが流儀ですか?」
 怒気を含んだ声で窘めたエミリアが、バラーズを睨み付ける。
 暫し、中空でバラーズとエミリアの視線が絡み合っていた。
 両手で振り下ろされた剣を、エミリアは左手で持ったアシュタルテで受け止めていた。兵士ではないといえ、バラーズは男だ。代わって、エミリアは驚くほど線が細い。それであるにも関わらず、エミリアはグイグイとバラーズの手を押し退けていく。
「あの、エミリアさん……?」
 光のないバラーズの瞳に、徐々に人らしい感情が戻ってくる。
「まさか、殺すわけありません。これは、模擬戦。訓練の一環ですからね」
 いつもの柔らかな笑みを浮かべ、剣を退いたバラーズ。エミリアはバラーズが鞘に剣を収めるのを待って、漸くアシュタルテを退いた。しかし、途中でアシュタルテを持つ手が凍り付いた。
 いつの間に移動したのか、アイリーンが音もなくエミリアの後ろに立ち、抜き身の刃を背中に押しつけていた。
「無礼であろう、エミリア。ハイダーナイツの分際で、王族に手を挙げるか」
「そう言う貴方こそ。他国の城でこうも簡単に抜き身の剣を突きつけるなんて、随分大人げないわね」
 無造作に剣をはね除け、アイリーンに向き直るエミリア。ミシシュはよろよろと立ち上がると、向かい合う美女二人を遠巻きに見つめた。
「二人とも、お止しなさい。エミリア、貴方もです。バラーズ様に失礼ですよ。ミシシュ、ご苦労様です。怪我はありませんか?」
 見かねたルリアが、エミリアとアイリーンの間に割ってはいる。アイリーンは仕方なさそうに剣を納めるが、敵意むき出しの眼差しはエミリアに注がれたままだった。
「うん。僕は大丈夫だよ。それよりも、バラーズ様。見事な剣の腕前です。僕では、全く歯が立ちませんでしたよ」
「いや、すまなかったね。背中は大丈夫か?」
 差し伸べてくる手を握ったミシシュは、一つ頷く。
 お世辞ではなく、バラーズの剣の腕は基本に裏付けされた確かな物だった。王族の中でも剣技をたしなむ人物はいるが、ここまで実践的に磨かれた剣技を身につける人物は、そう多くない。もしかすると、ヘキルイという特殊な環境で育ったバラーズだからこそ、剣技を自分の物にできたのかも知れない。
「また、手合わせを頼むよ」
「僕で良ければ、いつでもお相手をいたします」
 深々と頭を下げたミシシュにバラーズは満足そうに頷きながら、アイリーンを伴って王城へ戻ってしまった。
「じゃあ、僕も行くよ。朝まで仕事だったから、眠くてさ」
「突然こんな事を頼んでしまって、申し訳ありません、ミッシュ」
「いいよ。これも談話役の努めだからさ」
 ルリアとエミリアに別れを告げたミシシュは、レオシールと共に城門へと向かった。明るかった中庭から、場内へ入ると、一瞬視界が真っ黒に染まる。長い廊下を歩くミシシュは、前方から歩いてきた奇妙な一団に目を止めた。白いローブにすっぽりと身を包んだ数名の人物が、まるで隠れるように廊下の隅を音も立てずに歩いている。
「ん? あれは?」
「ああ、魔導師達だ。黄金の城が進入してきても良いように、何か魔法的な細工を施すらしい」
「城にか?」
「ああ、そうらしい。詳細は、まだ姫様と隊長くらいしか知らないけどな」
 白いローブの一団は、件の魔導師の様だ。生憎と、フードを目深に被っているためその顔は窺い知れないが、誰もが守護聖霊とシンクロしているようだ。アシュタルテのように明瞭な声としては聞こえないが、羽虫が飛ぶようなざわめき声が、その一団から聞き取れる。
「なるほどね。あれが、僕の手についているリングを作った奴らか」
 足を止め、魔導師の一団を見送ったミシシュは、思ったよりも近くに黄金の城が迫ってきていることを、肌身に感じられた。
(つづく)
(初出:2014年05月06日)
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登録日:2014年05月06日 17時17分

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