騒人 TOP > 小説 > ファンタジー > 赤い死神 右手に鎌を左手に君を(8)
天生諷
著者:天生諷(あもうふう)
極々平凡な会社員。毎日楽しい出来事はないかと、心の中で模索しながら生活をしている。旅行と昼寝をこよなく愛し、読書とゲームが生きる原動力となっている。群馬県在住。
小説/ファンタジー

赤い死神 右手に鎌を左手に君を(8)

[連載 | 完結済 | 全14話] 目次へ
見かけは十代の少女、実際は三百年を生きる不老の女王。その孤独と縁談話からかルリアはミシシュに「誰も知らない世界に連れ出して」と誘う。しかし、この行動は危険な時期だっただけにサリヴァンの怒りを買う。
 四章 暗雲

「もうヤダ、スレイさんったら〜」
 ミオの透き通るような白い肌を、脂ぎった男の手が滑っていく。
「止めて下さい♪」
 笑いながら、ミオの爪が男の手を摘み上げる。いい年をしたスレイが、「イタタタタ」と笑いながらミオの太股から手を離す。
 四十代後半の男。自らをスレイと名乗っているが、その名前が実名かどうかは知らない。そして、ミオ達も男の素性を知る必要はない。リオンのドアを潜れば、どんな人物もリオンのお客となる。此処に来たからには、飲んで笑い、日頃のストレスや嫌な事を忘れて帰ってもらうだけだ。
「ミオちゃんは綺麗だね〜。おじさん、本気になっちゃいそうだよ」
「もう、止めてよスレイさん」
 ミオはこぼれ落ちそうな笑顔を浮かべながら、空いたグラスにウイスキーを注いでいく。
 平日のリオンは、休日と違って空席が見えた。しかし、店内はいつものように活気に溢れており、オカマ達がお客を満足させるために頑張っていた。
「ミオちゃん! お客さんよ〜♡」
 システィーナに呼ばれ、『星屑のミオ』ことミシシュは振り返った。ルビー色に染まる赤い瞳が見開かれ、蒼いカツラが僅かにずれた。
 扉の前に立っているのはレオシール。その横にいるのは、帽子を目深に被ったルリアだった。ルリアは、ミシシュと目が合うと、ニコリと微笑んで小さな手を振った。


「ルリア、一体どうしたの? サリヴァンとエミリアは来ていることを知っているの?」
 グラスにピンク色のシャンパンを注ぎながら、ミシシュはルリアの横顔を見た。あどけなさの残るルリアだったが、アルコールをたしなむその顔は、男を惑わす色気を秘めている。
「サリヴァンは黄金の城の拠点と思われる場所を叩きに行きました。エミリアは、何処にいるか知りません。なので、仕方なくレオシールを伴ってきたのです」
 「迷惑でしたか?」と続けるルリアに、ミシシュは首を横に振る。
「迷惑じゃないけど、状況が状況だよ。黄金の城がサーンラーデンに来ているんだ。もし、ルリアの身に何かあったら」
「やはり、ミシシュも知っているのですね。黄金の城がサーンラーデンに来ていることを」
 ルリアに返され、ミシシュは息を飲む。ハイダーナイツは、黄金の城がサーンラーデンに進入していることを公表していない。一般人であるミシシュが、その情報を知り得る事はない。
「どうして知っているのか、それは聞きません。各国のコミュニティーには、その情報が流れているみたいですし。ミリデリアのコミュニティーを通じて、ミッシュが知り得たとしても不思議ではないです」
 コクリと喉を鳴らして、ルリアはグラスに注がれたシャンパンを飲み干す。グラスがミシシュの前に差し出される。
「………」
 空いたグラスにシャンパンを注いだミシシュは、黙ってルリアを見つめる。ルリアは何も言わず、グラスに注がれたシャンパンを掲げて見つめている。
「酔いも回ってきたので、そろそろ帰ります。ミッシュ、城まで送ってもらえますか?」
 スクッと立ち上がったルリアは、可憐な笑顔をミシシュに向けた。
 店内を見渡しても、レオシールの姿は見えない。ルリアが帰したのだろうか、それとも、サリヴァンに合流するため、ルリアの護衛をミシシュに任せたのだろうか。どちらにしろ、ハイダーナイツがいない今、ミシシュがルリアを城まで送っていくしかないだろう。


「レオシールは帰しました。彼には、私の護衛よりも、もっと大事な任務がありますので」
「ルリアの護衛よりも大事な任務はないだろう」
「いいえ、私一人の命よりも、この国の人達の命を守るという役目があります」
「何を言ってるんだ! ルリアがいなくなったら、この国がどんなに混乱するか。それに、プレスフィーだってどう動くか分からない」
「……つまらないことを言うんですね、ミッシュは。その言い方は、サリヴァンと同じですよ」
 プクッと頬を膨らませるルリア。その仕草は、十代の少女そのままだ。三百年生きていても、肉体が若ければ、やはり精神も若くいられるのだろうか。
 しばらく二人は黙ったまま歩いた。
 派手なネオンと喧噪が支配する歓楽地区を抜け、居住地区へ入っていった。歓楽地区と居住地区を隔てる壁を抜けると、そこは驚くほど静かな街が広がっている。街頭の数は少ないが、空に浮かぶ二つの月が石畳の道を明るく照らし出している。
「王女は損な役回りですね」
 左手に折れ、王城へと続く大通りに入ったところでルリアは誰ともなしに呟いた。前方を見つめる栗色の瞳は、此処ではないどこか遠くを見ているかのようだった。
「そうかな。少なくとも、僕の仕事よりはやりがいがあると思うよ」
 薄い化粧を落とし、チャイナドレスから洋服に着替えたミシシュ。体に染みついているアルコールとタバコの煙は不愉快だったが、その臭いも爽やかな夜風が洗い流してくれていた。
「やってみれば分かります。特に、此処の国の女王は、切ないです」
 『大変』ではなく、『切ない』と言う表現を用いたルリア。長く生きた分、彼女には計り知れない悲しさや苦しみがあるのだろう。
 僅かに目を伏せたルリアは、何かを思い詰めたように俯く。彼女の顔が青白いのは、冷たい月光を浴びているせいだけではないだろう。
「周りにいる者は、皆年を取って行きます。それが、自然の成り行きで当然なのは分かっています。しかし、私は何年経ってもこの姿のまま。老いる事の無い私は、自然の摂理から逸脱した存在なんです。
 生まれたばかりの子を抱いたこの手が、数十年後にはベットに横たわる臨終の手を取っている。どう考えても不自然ですよね。人は生まれ、成長し、子をなして死んでいく。しかし、私にはそれがない。生の営みがないのです。私は、この国を統治するために存在する人柱なんです」
「ルリア……」
 ミシシュには、ルリアの苦しみの半分も分かってあげられない。流れゆく時の中に身を置くミシシュと、静止した時の中に身を置くルリアの間には、目に見えない線が引かれている。手を伸ばせば触れるし、その温もりを直に感じられるというのに、誰も彼女の悩みを理解できない。
 不老の女王は、ミシシュ達人間が触れられる至高の存在。神に最も近い存在なのかも知れない。
「ねぇ、ミッシュ。もし、私がここから連れ出して下さいと頼んだら、貴方はどうしますか?」
 思い詰める表情をして、ルリアはミシシュを見上げてきた。淡い希望を孕んだ大きな瞳。期待と不安から不安定に揺れる瞳を、ミシシュは正面から見返すことができなかった。ルリアの横に居るだけで息が詰まり、上手い言葉が口から出てこない。
「全てを捨てて、私を連れ去ってくれますか? サリヴァンもエミリアもいない、誰も知らない世界に、私を連れ出してくれますか?」
「無理だ」
 自分でも信じられないほど早く、答えが口をついて出た。他人の声だと思ってしまうほど硬質で冷たい、拒絶を含んだ声。しかし、その口は確かにミシシュの口から紡ぎ出されていた。
 夏も近いというのに、夜風に晒されるミシシュの体温はドンドン下がっていく。ルリアが一言一言紡ぐ度、ミシシュの体から何かが抜けていくようだ。
「ルリア、君はこの国の王女で、エバーラスティングという古の宝を宿している。僕はミリデリアから来た、全てを失った人間なんだ。そんな僕には、君を守ることも、連れ出すこともできやしない」
「……ミシシュには、私のエバーラスティングを引き抜くことができないと?」
「………」
 小走りで前に回ったルリアは、ミシシュの両腕を握った。涙を浮かべたその瞳が、ミシシュを正面で捕らえる。一度見つめてしまったら、もう逸らせない。不思議な引力を秘めた瞳を、ミシシュは呆然と見つめ返した。
「私は、もしかするとヘキルイの王子と婚約するかも知れません! そうしたら……もしかしたら……、私はエバーラスティングを失うかも知れません。他の皆は納得するかも知れませんけど、私は……私は……」
 絹のように滑らかな肌を一筋の涙が流れ落ちていく。月光により輝く雫は、まるでダイヤモンドのようだった。
「ルリア、君も知っているだろう。今の僕には、何の力もない。ルリアの望むようなことは、できないよ」
「そんな事はありません。貴方は、赤い死神です! あの赤い死神です! 初めて会ったときのことを、私は忘れません。私は、私にはミシシュの助けが必要なのです!」
 ルリアの言葉が、眼差しが、体温が、ミシシュの胸を締め付けてくる。初めて出会ったときから、ルリアは何も変わってはいない。すました顔の奥にある、激しい感情。義務感と正義感を併せ持ちながらも、自分の夢を叶えようとする強い願望を秘めている。
 初めて会ったときから、ミシシュはこの強い瞳に惹かれていた。手を伸ばせば、ルリアに触れられる。だが、ミシシュは握りしめられた拳は、彼女の手を取る事はできない。
「ルリア、僕は……、無理なんだよ。君のエバーラスティングを取る資格なんて無い」
 僅かに体を引き、ミシシュはルリアの呪縛から解放された。ルリアの手がミシシュを追うように宙を彷徨う。
 二つの月がミシシュとルリアに冷たい光を投げかけ続ける。静寂が支配する街。そこは、精巧に作られた舞台のセットの様にも見える。
「どうしてですか? 貴方はもう、ミリデリアとは何の関係もないのでしょう? 貴方さえその気なら、私はいくらでもサリヴァンを説得します。だから……」
「エミリア!」
 俯いたまま、ミシシュはエミリアの名を呼んだ。「ゲッ」と蛙が踏みつぶされたような声を出し、エミリアが近くの路地から姿を現した。
「エミリア!? どうして此処に?」
「ルリアが消えたからよ。レオシールに聞いてみたらリオンに向かったって言うじゃない。それで私はルリアを迎えに来たの。今は何かと物騒だしね。それに、それが私の仕事だし」
 今までの話をエミリアはまるまる聞いていたのだろう。ポリポリと気まずそうに頬を掻く。
「エミリア、ルリアを城まで送ってくれ」
「……ん。良いわよ」
 小さく肩をすくめ、エミリアはハラハラと涙を流すルリアの肩を抱いた。
「じゃ、またね。サリヴァンには黙っておくから。まあ、ルリアが消えたと言う事実が、まだサリヴァンに届いていなければの話だけど」
「うん、助かるよ」
 薄い笑みを浮かべ、エミリアはルリアを連れて歩き出した。
 耳が痛くなるほどの静謐な空間。城へと通じる道を歩いていく二人の姿が見えなくなるまで、ミシシュはその場に立ち竦んでいた。
「ごめん、ルリア。僕は、君を裏切り続けているんだよ」
 ポツリと呟いたミシシュの脳裏に、先日受け取った手紙の内容が思い浮かんだ。

 これを機に、古の宝を奪い取れ

 育ての親であるノ=ブラウニーからの手紙には、そう認められていた。


 翌朝。ミシシュはハイダーナイツからの招集に応じ、エリンピオ城へ登城した。
 ミシシュが通されたのは、ルリアの執務室だ。エリンピオ城の尖塔にあるこの部屋は、上に行けばルリアの自室で、下に行けば謁見の間へ出る。通常、謁見などの予定がない場合、ルリアは此処で仕事をしている。
 ミシシュにとっては見慣れた執務室。しかし、今日は普段訪れているときとは、部屋の温度がガラリと違う。その温度は体感温度ではなく、場の空気の温度と言えばいいのだろうか。もう夏も始まるというのに、うっすらと殺気すら漂う冷たい空気の中に、ミシシュは佇んでいた。
「貴様! 姫様を誑(たぶら)かしておいて、その言い草か!」
「誑かしてなんかいない。ただ、ルリアは息抜きにリオンに来ただけだ」
「それを誑かしたと言うんだ!」
 そう広くはない執務室に、サリヴァンの怒声が響き渡る。思わず上半身を後ろへ反らしてしまうほどの気迫と殺意を秘めた声は、窓の外に見える青空へ溶けていく。
 執務室にいるのは、ミシシュ、レオシール、エミリア、サリヴァン、そして部屋の主であるルリアだ。
「サリヴァン、ミシシュは悪くありません。私は自分の意志でリオンに行ったのです」
「そうです、サリヴァン隊長。ミシシュは何もしていませんよ」
「レオシール! お前が自分の役割を自覚していれば、私もこんなに怒鳴らずにすむんだ!」
 ミシシュを庇おうとしたレオシールにサリヴァンの矛先が向いた。
「しかし、姫様がどうしてもと……」
「姫様の命令と姫様の命! どちらが大事だと思っているんだ!」
「えっと、それは……」
 子犬の様に体を小さくしたレオシールは、ルリアの様子を伺うが、ルリアは小さな溜息をついて髪の毛を指先で弄んでいる。サリヴァンがこうなってしまったら最後、ルリアが何を言おうと怒りが収まることはない。
 普段は温厚なサリヴァンが、怒ると手のつけようがないことを、ミシシュも三年余りの経験で知っていた。「サリヴァンの怒りは、自然災害と同じ。嵐が過ぎるまで、耐えるしかないわ」と、エミリアが言っていたが、まさにその言葉は言い得て妙だった。
 窓枠に腰を下ろしたエミリアは、腕を組んで眠そうな目を街へ向けている。彼女にとって、サリヴァンの怒りなど窓から入ってくる微風と同じ。気にすることもないのだろう。事実、サリヴァンはエミリアへの説教を早々に諦め、怒りの矛先をミシシュとレオシールに向けていた。
「ミシシュ! 今がどんな時期か、貴様も知っているだろう!」
 サリヴァンに言われ、ミシシュは思わずルリアを見てしまった。ルリアは、ミシシュと目が合うと、ついっと顔を背けてしまう。執務室を訪れて三十分余りが経過していたが、まだルリアと目が合っていない。
「どんな時期って?」
 ルリアとエミリアが、サリヴァンにどれだけの情報を得ているか言ったとは思えない。もっとも、二人が言わなくとも、サリヴァンはミシシュが相応の情報を入手していることくらい知っているだろうが。
「黄金の城がサーンラーデンに来ている。奴らの狙いは……」
 息をついたサリヴァンは、横に居るルリアを悲しそうに見つめた。
「ルリア様だ」
「そうか」
 ノの手紙に記してあったとおり、黄金の城の狙いはルリアのエバーラスティングだ。体内にあるエヴァーラスティングを強引に引き抜くことは、ルリアの死を意味している。ノは、黄金の城がエバーラスティングを手にすることを危惧していた。だから、ミシシュにエヴァーラスティングの奪取を命じてきたのだ。
 一向に目を合わせようとしないルリアをミシシュは見つめた。白いドレスを着たルリアは、いつもよりも幼く見える。昨夜は美しい女性だったが、今はすねている駄々っ子のようだ。
「昨夜、歓楽地区の非合法カジノに出向いた」
 机に腰を預けたサリヴァンは、腕を組んでミシシュを正面から見据える。灰色のその瞳には何の感情も浮かんでおらず、彼が何を考えているのか、ミシシュには理解できなかった。
「相手はガラハドと名乗っていた。恐らく、あれがガラハド=ブライだろう。名前くらいは、お前も知っているだろう?」
 その声には挑戦的な響きがあった。
「黄金の城の九頭竜候補。おかしな奴、と言う事しか知らないけどね」
「確かに、おかしな奴だった。姫様は対話が重要だと仰るが、あの姿を目の当たりにしたら、とてもではないが解り合えない。人間が争うのも当然だと思いたくもなる」
「そんなだったのか?」
「ああ。私と彼は、何百年語り合ったとしても、絶対に解り合えないだろうな」
 余りガラハドのことを語りたくないのだろう。サリヴァンは渋面な顔をしながら、舌打ちをした。
「それで、お前を呼んだ理由になるのだが」
「ん? 僕を怒るために呼んだんじゃないのか?」
「そんな物は小さな用事だ。今更お前とレオシールを責めても仕方がないだろう。それに、こうして姫様は無事でいらっしゃる。それよりも」
 サリヴァンは机から離れると、腰に吊してある剣を引き抜いた。それは、ミシシュが反応するよりも早く、喉元に切っ先が突きつけられていた。
 やられる。そう感じたミシシュは、力を封じられているとはいえ、全く反応できなかった自分の感覚に驚いた。昔ならば、サリヴァンが剣を抜く前に射程外に離れることなど簡単なことだった。それがどうだろう。ミシシュはサリヴァンが剣を抜くまで、何が起こったのか理解できなかった。
(何を考えているんだ、僕は! ここは、サーンラーデンなんだ! 目の前にいるのは、ハイダーナイツの隊長なんだ!)
 ツッと、サリヴァンの剣、ノクターンがミシシュの柔肌に触れる。痛みは感じない。ただ、金属特有の冷たさが喉元に感じられた。
「サリヴァン!」
 色を変えてルリアが叫ぶが、サリヴァンは一睨みしてルリアの口を塞いだ。
「やはり、お前は信用できない、ミシシュ=ラン=フォールエンド。ミリデリアからどんな密命を受けているか知らないが、このままお前を帰すわけにはいかない」
「ちょ、ちょっと隊長! どうしたんですか、一体!」
 サリヴァンとミシシュを交互に見るレオシール。彼には、サリヴァンが何を言っているか理解できないのだろう。ルリアも同じはずだ。彼女は唖然としながらミシシュを見つめている。ただ、エミリアだけはこの状況が予想できていたようで、「仕方ないわよ」と声を出さずに呟いた。
「説明をしなさい、サリヴァン」
 女王の声が響いた。サリヴァンは一分の隙も見せずにミシシュに剣を向けたまま、ルリアの問いに答えた。
「ルリア様、それは、ミシシュが、赤い死神がミリデリアと繋がっていると言うことですよ」
 ミシシュは奥歯を噛み締めた。サリヴァン=テキラメルク。天才と言われ、十代でハイダーナイツに入隊し、そして、二十代前半で隊長にまで上り詰めた。彼の剣技と魔法は危険極まりないが、もっとも注意すべきは、その知謀。独自のネットワークを持つ彼は、普段ならば絶対に入手できないような情報も入手できる。ミシシュが受け取った手紙の内容を知っていたとしても不思議ではない。
「ミシシュ、何か言うことはありませんか?」
 執務室に入って、初めてルリアと目があった。だが、そこにあるのはルリアではなく、テンダーランドの女王だった。彼女はルリアという個を捨て、女王という視線でミシシュを見つめていた。
「……何も」
「その言葉、肯定と見なす!」
 レオシールが一声叫ぶと、執務室の扉が開かれ、三名のハイダーナイツの隊員が入ってきた。予め全て準備されていたのだろう。彼らはミシシュの手と足に手錠を嵌めた。
「隊長! 何もそこまでしなくても!」
「レオシール! お前も同罪だ! 少し頭を冷やしてこい!」
 ノクターンが煌めいた。目にも止まらぬ早さで振り抜かれたノクターンは、レオシールの首筋を打ち払っていた。峰打ちだったため、レオシールの首と胴が離れると言うことはなかったが、レオシールは叫び声を上げるまもなく、昏倒した。
 ミシシュはハイダーナイツに連行され、執務室から連れ出された。去り際、振り返ったミシシュはルリアと目を合わせた。女王ではなく、一人の少女に戻ったルリアは、目を赤くしてミシシュを見つめていた。その口が何かを言ったが、無情にもサリヴァンの手によって扉は閉められてしまった。
(つづく)
(初出:2014年05月27日)
前へ1 ...... 5 6 7 8 9 10 11
登録日:2014年05月27日 18時19分

Facebook Comments

天生諷の記事 - 新着情報

天生諷の電子書籍 - 新着情報

  • 生命の木の下で――THE IMMATURE MESSIAH―― 天生諷 (2016年07月06日 18時39分)
    異次元の怪物ソフィアを切欠にした第三次世界大戦から数百年後――人類は高さ1万メートルに及ぶコロニー“セフィロト”を建造。ソフィアの出現に合わせるように、人の規格を遥かに凌駕する身体能力と一種の超能力であるマギを備えた新人類ネクストが登場する。彼らが組織したオラクルと反オラクルのゴスペルが覇権を巡りせめぎあう中、ゴスペルはオラクル攻略のためセフィロトの管理人である天才少女チハヤを狙う。執事のイルは命の恩人でもあるチハヤを守ろうと奮闘するが……。最強のネクスト、先代ゼロとソフィアを封印したネオらの戦闘に加え、ソフィア眷属によるセフィロト崩壊の危機にどう立ち向かう!? 近未来SFアクション登場!(小説SF
  • スコルピオの星 御陵高校探偵倶楽部事件簿 天生諷 (2015年10月27日 14時30分)
    評判の占いの館「サイン」を舞台に起こる連続殺人事件。軽い気持ちでサインを訪れたふたりだったが、それ以来、おかしくなってしまう佐野。蓮音も「消したい過去を乗り越えるために道を示す」という言葉にぐらついていた。そんな折、蓮音が所属する生徒会で立ち寄った教会でスコルピオの第一の殺人事件が発生。捜査によって占いの館に疑いの目が注がれることに。凄惨な事件に巻き込まれる蓮音と生徒会の面々。そして、ついに御陵高校探偵倶楽部が動きだす。部長でヒーローオタクの杏子、斜め上の天才、真理。武闘派だが女に弱い東光、コスプレマニアのアサギと一癖も二癖もある部員たちにもたらされた事件は思いもよらぬ展開が待ち受けていた!(小説推理
  • ALI-CE ワンダーランドの帰還者 天生諷 (2012年03月12日 20時00分)
    ニニ世紀初頭。テロや犯罪が頻発する人工島IEでは、人々は武装し、ナノマシンで身体能力を強化していた。そんな中、アメリカの特殊機関ワンダーランドで戦闘技術を学び、殺しのライセンス、スイーパーの所持者であるアスカは、三〇〇億という常識外れの借金返済のため学園に舞い戻る。想像の斜め右上をぶち抜く変わり者“天災”ミルティに翻弄されつつ、ナノマシンでもインプラントでも強化人間でもない不思議な力「ALI-CE」と燐光を放つ剣サディーヤを駆使して彼女を護衛するアスカ。彼らを襲う強化人間ソウルレスと哀しい事情を抱えた雄太、妖艶な魅力で誘惑するエルフィネル。テロリストたちの目的とは何なのか? 圧倒的な格闘シーンに酔え!(小説SF

小説/ファンタジーの記事 - 新着情報

  • よろめくるまほろば(2) 石川月洛 (2015年09月19日 13時58分)
    診察室にやってきたサトヤくんはしゃべらない。彼がもってきたケースにはカラーモールで作られた蜘蛛の人形――ターチがいた。ターチと話すサトヤに僕は……。(小説ファンタジー
  • いらない王様 新美健 (2015年07月21日 14時26分)
    あるとき、あるところにひとりの王様がいました。とても体が大きく、頭のいい人でしたが、気が短くて乱暴であったため、家来たちに自分の国から追い出されてしまいます。ついてきたのは道化師ひとりだけ…。番組化もした童話原作。(小説ファンタジー
  • 約束の夏(4) 天野雅 (2014年09月23日 15時35分)
    玲子に取り憑いたとおぼしき霊の目的とは? かつてのこの場所であった出来事が生者を巻き込み展開する。約束の夏、最終章。(小説ファンタジー

小説/ファンタジーの電子書籍 - 新着情報

  • 瞳の奥に眠る森 城本朔夜 (2011年09月29日 15時47分)
    エリートたちが集うネスト本校に通うサナイに、リゴフィールド行きが告げられた。就職と出世の貴重なカードとなるチャンスにも、サナイの心は浮かばない。ひとり分け入った森林で見たオーグルの意外な姿。兄の死の真相、ヒビキの出生、カスガの怪しい行動。次々と明らかになる大人たちの欺瞞と葬り去られた過去に立ち向かう感動の大作! (小説ファンタジー
  • 麗人軍師とオアシスの魔法使い 新美健 (2011年04月20日 14時58分)
    『桜花の大乱』より、一年半後――。解脱してしまいそうな平和な春、第三王女であるウズメ姫に呼ばれた侍女コノハは、密書を託される。オアシスとも称される砂漠の国、ブランク王国に赴いたコノハが、大乱の英雄ユキムラに渡した密書は、世界大戦の引き金になりかねないものだった!
    価格:315円(小説ファンタジー
  • イペタムの刀鞘 城本朔夜 (2010年11月20日 15時42分)
    蛇の痣(あざ)がある孤児、カカミ。村中の人間から「悪魔」と忌み嫌われる彼は、妖刀イペタムに魅入られ、寝食を忘れてイペタムの鞘作りに没頭する。そんな彼をそっと見守るのは、皆殺しにあった村で姉と二人だけ生き残った美しい娘、ミナ。やがて数年の研鑽が実を結び、ついに鞘が完成するが……。
    価格:350円(小説ファンタジー