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青島龍鳴
著者:青島龍鳴(あおしまりょうめい)
青島龍鳴と申します。メタ化されたものしか受け入れられないこの時代で、黴の生えたような古臭いものばかり書いている時代錯誤作家です。既刊本「But the world is beautiful」。
小説/ホラー

ファーストキスは鉄の味(前編) 眠太郎懺悔録

[読切]
退治屋が不足していた帝家では、狐の女王と取引をした。そして訪れたのは最上位の力を持つ二人だった。一方、邪鬼に寄生され命を長らえた眠太郎は咲来と共に高校に通う。そこで起きた事件と梅岩の独白。
 帝家書受役・葉山泰山(はやま・たいざん)はその日、機嫌が悪かった。
 円角寺の小坊主からキャリアを始めてはや50年。霊に憑かれやすい体質に悩んで寺の門を叩いたのを切欠に、葉山は世に潜む邪な鬼を祓う退魔師としての道を歩み、その頂点に立つ帝家に仕えた。
 以来、当代最高の退治屋として名声を欲しいままにしてきた。常に腰に挿している木刀を相棒に、人に害をなす悪鬼羅刹と最前線で火花を散らしてきた。
 それが、この書受役……実のところただの帝邸の門番役を任されたのだ。
 つまりこれは、実質的な引退宣告だった。
 石畳の敷き詰められた広大な敷地を小さな番所小屋から見つめていると、葉山はますます惨めな気持ちにさせられた。
小屋を覗く松の木々も素朴な造りの石庭も、いじけた老人の心を癒やしてはくれなかった。
 まだ若い帝家当主・帝梅岩(みかど・ばいがん)が言うには、
「葉山は十二分に働いてくれた。後は隠居して余生をゆっくり過ごして欲しい」とのことだ。
 それが痩せ枯れた老人には労りよりも侮辱に映ることを、若い当主はわかっていない。
 葉山の仕事はただ門の近くにある番所で徒然ない時間を潰し、門を叩く者がいれば応じるだけだ。ところが門を通る者の殆どが、『書抜(かきぬき)』と呼ばれる帝家に常駐している者だ。彼らは何らチェックされることなどなく門を通れる。
 つまり、葉山はただの暇な警備員と何ら変わりはないのだ。腰の木刀が哭いている気がしてならなかった。

 不満タラタラの退屈で陰鬱とした毎日を重ねるうちに、葉山はおかしな妄想に取り憑かれ始めた。
 ある日、今までに遭遇したこともないような強力な邪鬼が現れ、帝邸を荒らし回ろうとするのだ。
 葉山はその生命と引き換えに最凶最悪の邪鬼を滅し、誰もが彼に感謝し尊敬の念を示し英雄の死を悼むのだ……。
「また妄想ですか? 葉山さん」
 声をかけたのは大北梨恵(おおきた・りえ)。葉山の半分近いキャリアを誇る、ベテランの退魔師だ。
 瞼に涙を浮かべた葉山は赤面して「退屈すぎて、あくびが出たのだ」と、不明瞭な言い訳をした。
「はいはい。そういうことにしておきますよ。でも実際、門番だって誰にでも任せられるものじゃないんですよ。経験に信頼を置ける葉山さんだからこそ、頼まれたんですから」
 普段は嫌みが多い大北が、ここのところ妙に優しい。そういう態度が老人を傷つけていることが、彼女にもわかっていない。
「オレは痩せ枯れたジジイなんだよ。持ち上げたって、出世には役に立たんぞ」
 自嘲するように葉山は呟いた。
「らしくないですよ葉山さん。貴男は、そういう人じゃない。たいしたことじゃないのに怒鳴り散らして、みんなにドン引きされるのが葉山さんのキャラじゃないですか。地震、雷、火事、葉山っていうぐらいなんですから……」
「なんだおまえら。人が聞いていないと思って、そんな陰口を叩いていたのか!」
 葉山が怒声を浴びせた。が、大北はニマニマ笑うばかりだ。
「そうそう。葉山さんはそうでなくちゃ。可愛い女の子に、へっちゃらで罵声を浴びせるようでなくちゃ」
 これが大北なりの優しさであることなど、葉山のような男にはわからない。
「三十路過ぎた女でいて、何が可愛い女の子だ。図々しいのもいい加減にしろ」
「あらやだ。わたし、もうとっくに40過ぎですのよ。まだ30代に見えます? うふふ」
 ……葉山はもう叱りとばす気力さえ失った。まさに糠に釘。怒鳴ったのに小躍りしそうに嬉しがられる有り様では、怒気を保つことさえできない。
「……大北が、40過ぎか……」
 あの小娘が、いつの間にかそんな年齢に。
「オレも衰えるわな。そりゃ……」
 うなだれた葉山の表情は、さほど落胆しきったものではない。どこか悟りきった諦念が混じっていた。
 もしも、このまま終われば、葉山は当主の思惑通り、緩やかに現役引退出来ていたのに。
 平穏な時は、地響きとともに破られた。

 ズドン、

 という音とともに、激しい揺れが屋敷を襲った。

「地震……!?」
 大北が番所の机の下に隠れようとして、頭をぶつけた。
「違う。これは……」
 葉山は番所を出た。おそらく、これは地震ではない。同じ感覚を経験したことのある葉山は知っていた。
 邪が近くに来たとき、霊感のある人間は特有の違和感に襲われる。それがあまりに強大な邪鬼であった場合、地震に似た地響きを感じるのだ。
「地震じゃない。何か、恐ろしいものがいる」
 葉山は確信を持っていたので、外に出た。地震のように感じるだけで、実際に地面が揺れているわけではないことを確認しようとした。
 しかし地面は揺れていた。
 石畳にヒビが入り、強靭な楠の塀は軋み、百平方メートルを越える二階建ての屋敷が横に震えていた。
 それでも、葉山の感覚に間違いはない。
「両方、か……?」
 強大な邪鬼と地震が偶然にも重なった。そうだとしか考えられなかった。
「無事か、葉山」
 横から声をかけたのは他の誰でもない、帝家当主・帝家梅岩だった。
 二十歳を迎えたばかりの若者は、普段は垂れ気味の眉の間に皺を寄せている。
「当主様、これは……」
 葉山はこのときばかりは馬鹿殿と謗(そし)り続けてきた当主を尊敬した。
 葉山はヘドを吐く一歩手前にいた。近く……おそらく塀のすぐ外にいるのだろう規格外の邪鬼による押し潰されそうな瘴気と、足元が跳ねるように揺れる地面に苛まれ、平静を保つのが極めて困難だった。
 にも関わらず、梅岩は表情こそ険しいが腕を組んで大地にしっかりと立っていたのだ。
「客人のようだな。招かれざる客のようだが」
 この期に及んで皮肉る余裕があるのだから、大したものだ。
 震撃のもとは正門だった。
 何者かが正門を揺らしていることが、この地震に酷似した揺れのもとだった。
 門の外から、声が聞こえていた。
「なぜ……開かない……」
 低い女の声だった。
 感情の薄い、冷徹な声だった。
「焦るなよ。それだけ騒げば、いずれ開くさ」
 もう一人、男の声がした。
 涼やかな青年の声だ。
「加減というものを知らん奴らだな……」
 梅岩はまるで、ただの困り者を見ているような調子だ。
「来るのはわかっていた。西の女王は約束を守ったわけか」
 葉山は話が見えないが、嫌な予感がするのだけはわかった。
「それは一体、どういう……?」
「帝家は人材不足だろう? 特に退治屋に関しては、70近い葉山に最近まで無理をさせる体たらくだった」
 梅岩はわかっていない。
 ……違う。葉山本人よりもわかっていた。老体は既に限界に来ていた。かつての質実剛健を絵に描いたような頑丈な体は年々痩せ細り、いつしか枯れ木のようになっていた。
 むしろ、最も遅れて理解したのは葉山だったのかもしれない。誰もがわかっていたのを、老人を労り口に出さなかっただけなのかもしれない。
 それが証拠に、今の葉山は門外の邪鬼による瘴気に完全に当てられていた。膝はいうことをきかず生まれたての小鹿のように震え、2本の足だけでは地に立てず、木刀を支えにしてようやく身体を縦にしていた。
「それで、狐の女王と取引をしたんだ。人外のものを3・4人、助っ人に貸してくれってね」
 それは葉山も耳にしていたことだった。
 退魔師の代わりに邪鬼を使うなど暴挙にも程があると、ついさっきまでは考えていた。だが、今の我が身の情けなさを実感すれば、梅岩に同情の余地が出来た。
 まっとうに戦える退治屋が梅岩と、脚の震えが止まらない老体だけでは心許ないにも限度がある。いかなる搦手(からめて)を用いてでも人材を確保しなければならないのだ。
 しかし、この結末は悲惨過ぎた。
 助っ人で呼んだつもりの人外の者が、門の外に居るものだとしたら……。
「葉山、済まないが門を開けてやってくれ」
 梅岩は本当に済まなそうに言った。
 帝家の正門は、門番にしか開けられない。規律や慣習という意味でなく、門番に任命された者でなければどんな力を加えようとも門が開かないよう呪(しゅ)がかけられているのだ。たとえ当主であっても、そこは変わらない。
 門番というのは誰にでも任されるものじゃない
 大北の言葉が身に染みた。
「開けるというのですか、これを……」
 それがどんなに危険なことか、葉山には肌で感じていた。
 あれだけ脳内で繰り返した妄想うが現実のものとなったのに、できることは「門を開けない」という選択肢だけだった。
「安心しろ葉山。本当に恐ろしいものなら、この門はくぐれない」
 帝邸には強力な結界が施されている。いかなる邪鬼も破れない、絶対の結界だ。
 書抜と決められたものは勝手口でも生垣を越えようと自由に出入りできるが、そうでないものは正門からでないと足が自ずと止まるよう呪がかけられている。
 正門を通る際にも、人の形をしていないものは通れない。ただし、人の姿に上手に化けた邪鬼はチェックから外される。
 そのために、門番がいる。
 最終的な判断は、門番に委ねられる。
「開門には承諾いたしかねます」
 葉山は言い切った。
 ここで開けるようでは、門番の門番たる意味がない。
「では、外の騒ぎは永久に収まらないな」
 梅岩は怒りもせずに、ただそう言った。
 そして、それは致命的な一言だった。
 大地を揺るがす激震は、いつまでも止まることを知らない。おそらく、邪鬼は開くまで門を叩き続けることだろう。
 葉山はふと番所に目をやった。机の下で震える大北が、そこにいた。
 この馬鹿騒ぎをやめさせる鍵を、自分は持っていると思った。
「しかし……あのようなものを邸内に入れるというのですか?」
 葉山は恐怖に襲われた。一時凌ぎの脅威に負けて、帝家の者を全滅に陥れかねないリスクを考えると、躊躇された。
「心配するな。入ってきたところで、何もできやしない。帝家の結界を侮るな」
 結界内では、退魔のための術の他は全ての霊的能力を封じられるという。ただ葉山は長いキャリアの中で帝邸に人外のものが入ったのを見た例が殆どなかったため、考えたこともなかった。

 揺れる地面に足をとられながら、葉山は閂を持ち上げた。重い閂だった。
 惨めだった。
 圧倒的な力を持つ邪鬼がすぐそばにいるというのに、老人のできることといえば門番としての責務を全うすることだけ。筋骨隆々だった肉体は痩せ衰え、身の丈の半分ほどの長さの閂を持ち上げることさえ容易ではない。
 成人男子なら誰でも出来そうなこの作業に、葉山は全力を尽くさねばならなかった。
 門が開いた。
 まず目に入ったのは、目元の涼やかな若者の姿。
 初春の季節を無視した黒鳶色のパーカーの上に、爽やかな美顔が置かれていた。
「ようやく開いた」
 天真爛漫な笑顔が、葉山には内腑が抉られるように感じられた。
 もう一人は真っ黒なフードを深く被っていて顔が見えない。
 暗闇から僅かに覗いた片目が、猛禽を想わせる鋭さだった。
「どうして……すぐに開けなかった……」
 中性的な低い女の声は、その言葉とは裏腹に怒りに乏しかった。
 2人とも人間ではないことが、葉山にはすぐにわかった。
 激震にも似た禍々しい瘴気のもとは、間違いなくこの2人だった。
 しかもそれが人に姿だけを真似ていることに、葉山は胸がむかむかしてきた。
「声をかければ、開けただろう」
 葉山の背後にいた梅岩が声を出した。
「声もかけずに門を力任せに殴るようでは、開けられるものも開けられない。人を真似るなら、人の礼儀というものも少しは学ぶべきだ」
 人間に倣うことを仄めかす。邪鬼たちがこのような言い回しを嫌うことを、梅岩は知っていて言った。
 口振りは穏やかながら、やはり怒っている。
「なるほど。家に入るには先に声をかけるのが礼儀らしいな」
 青年のようなものが口元を歪ませた。
 勿論、この男はその程度の常識は知っている。知っていながら、横で暴れる相方を止めなかった。
「呼びつけといて……礼儀を知れとか……なんなの?」
 女のようなものが梅岩を睨みつけた。
 こいつは馬鹿かと葉山は思った。
 呼ばれて来た者だと告げもしないでいて、自動で門が開かなかったから腹を立てていたのか。あまりに頭が悪すぎて、聞いているほうが立ち眩みしそうになった。
「で、勿論、入れてくれるんだよね?」
 青年に似たものが笑顔で言った。作り笑いでない純真そうなものであることが、かえって気色が悪かった。
「お名前を、どうぞ」
 葉山は番所に入り、受付口の窓を開けた。帳面と筆ペンを差し出し、名前を書く欄を示した。
 青年が子供のように顔を突き出して帳面を覗き込んだ。
(狐か……)
 葉山は青年の正体を看破した。狐には人の姿に変じるものがいるが、大抵は独特の獣臭がする。香水などで誤魔化すことは出来るのだろうが、そこまで気を使う個体は稀だ。
 西の女王も正体は狐であるという。もしかしたら縁者かもしれないとおもった。
「名前……書け……だと?」
 女のようなものが、今度は明らかな敵意をもって葉山を睨んだ。凄まじい瘴気が老人を襲った。みっともない話だが、僅かながら尿がはみ出た。
「それは、ちょっとなあ……」
 青年も渋っている。
 退魔師と邪鬼の世界において、名前を知られることは致命的な不利を生む。名を知られれば、呪をかけることが出来るからだ。
 帝邸に入るには、自分は絶対に味方であり敵となる可能性は今後とも一切有り得ないことを明言する必要があるのだ。
「何を躊躇することがあるのですか? 孔衛丸(このえまる)どの」
 梅岩は意地悪く笑った。
 そもそも、梅岩と青年は面識がある。名前を隠し通そうと考える事自体、無駄な労力だった。
 孔衛丸と呼ばれた青年は少しムッとしながら、帳面に『近江の孔衛丸』と走り書いた。
 そして、地面に張られた注連縄を跨ぎ、正門をくぐった。
 その様子を見た女のようなものも、孔衛丸に続いて門に入ろうとした。が、注連縄を踏む直前で足を止めた。
 足を止めたまま、食いつくような瞳で梅岩を睨んだ。結界が効いている。条件を満たしていなければ、押し入ることもできない。
「どうして……わたしだけ入れない……」
 眼を向けられたわけでもない葉山が、ただそばにいるだけで激しい吐き気に襲われた。女のようなものから吹き出る憎しみの感情は、それほど強かった。
「聞いていなかったのですか? 名前を書かなければ、入れません」
 梅岩はニコリともせず言った。
 これも、慣習でも規則でもない。帳面に名の書かれないものは、どんなものにせよ自ずと足を止められる。そういう呪(しゅ)が、この結界には施されている。
 帳面に名前が記されることによりのみ、門をくぐろうとしても斥けられない新たな呪が自動的に上書きされるのだ。
「ふざけるな……呼んでおいて入れられないだと……クズどもめ……」
 女のようなものが、門の柱を蹴飛ばした。振動が塀を伝わり、屋敷全体が激しく揺れた。
 鉤爪がついた、鳥の脚だった。人の胴ほどもある太い柱を、鉤のついた爪が掴んだ。
 もしもただの楠木の柱であったなら、型紙のように易々とねじ切ってしまっただろう。広大な屋敷の塀に衝撃を伝わらせるほどの怪力の持ち主である。ただ大きいだけの家の塀であったなら、柱は折られ塀は倒され門は木屑になるまで蹂躙されただろう。
 ただ、帝邸には結界が張られていた。千年近い歴史で幾多の災厄に見舞われても、ついに破られることはなかった最強の結界が張られていた。
 大木を力任せに砕く力がありながら、柱には擦り傷の一つもついていない。
「『ジチョウ』、無駄だ。やめておきな。大人しく人化して、名前を記したほうが早いよ」
 孔衛丸は冷笑しながら鳥女に忠告したが、柱に当たり散らすのに夢中で聞き入れない。
 ジチョウと呼ばれた鳥女は鉤爪で路傍の小石を広い、受付窓に向けて投げた。
 弾丸に近い速度を持つ投石だった。普通なら、葉山の顔面を粉砕しただろう。
 しかし石は受付窓の磨り硝子を穿つ直前に宙で止まり、そのまま出された帳面の上を転がった。葉山老人は今更のように顔を掌で守っていた。
「たいしたタマだね。ジチョウも、帝家の術も……」
 孔衛丸はあたかも他人事のような物言いをして、梅岩に視線を向けた。
「で、私は入れるんだよね?」
 苦笑しながら門の真下を這う注連縄を指差した。
 梅岩は頷いて
「名を記した以上は、客人だ。止める理由も、止める術もない」
 平然と受け答えた。
 背後では相変わらず鳥女が柱を蹴り地震を起こしていた。にも関わらず、孔衛丸は放置したまま門をくぐった。
「たいしたものだ。力が抜けていく。これじゃ、妖術は使えないね」
 呑気なことを口にしながら、石畳の上を歩いた。
「久しぶりだね、帝梅岩。またこうして会えるとは思わなかったよ」
 背後の激震をまるで気にせず、天真爛漫な笑顔を見せた。
 番所から様子を覗く葉山は、戦慄が止まらなかった。
 帝家の結界はあらゆる邪鬼の力を封じる。孔衛丸とやらがどんな凶悪な怪物であれ、妖術は封じられ身体能力も人間並みに落とされてしまう。いかなる恐ろしいものであろうとも、危害を撒き散らすことはできないのだ。
 しかし葉山には、にこやかに笑顔を振り撒くだけの青年が恐ろしくて仕方がなかった。危険なことは出来ないとわかっていながら、得体の知れない違和感が纏わりついていた。
「孔衛丸。久しぶりで悪いんだが、2つほど言いたいことがある」
 梅岩は愛想も見せない。口調は穏やかだが、怒りを抑えているのが顔を見ればわかる。
「まず1つ、あの女を止めてくれ。家の者が怖がる」
 門の外で暴れる鳥女を指差して、僅かに声を荒くした。
「無理だよ。あれが言って聞くように見えるかい?」
 孔衛丸はヘラヘラ笑いながら手振りでお手上げした。
「言ってわからないようなものに、助っ人は頼めない」
 梅岩はキッパリと言い切った。
 話の流れは明らかだった。葉山は察した。この2匹の邪鬼が、帝家で生活が出来るようには到底おもえない。梅岩も同じことを考えているのだ。
「あと1つ。今後のために忠告しておくが、無闇に気配を消すのはよしたほうがいい。姿はあれど気配は感ぜず、では警戒しろと言っているようなものだ」
 葉山はつい声を上げそうになった。孔衛丸に纏わりついていた、得体の知れない違和感の正体とは気配だった。
 人であろうと邪鬼であろうと先ほど蹴られた路傍の石だろうと、この世の全てのものには『気』がある。強さや性質に差はあれど、気を持たないものなど存在しない。
 この男からは、気が全く感じられなかった。見ることができ音を出し臭いもあるのに、気配だけは感じなかった。葉山が孔衛丸に感じていた言い知れない不気味さは、姿があるのに気配がない違和感だったのだ。
「ああ。気を抑えられちゃったから、ついつい」
 孔衛丸は舌を出した。
「なるほど。抑えられたなら、仕方がないな」
 梅岩はわざとらしく同調した。
 気が抑えられて人並みに格下げされるのはわかる。だが、それだけでゼロになる筈がない。明らかに意図してやったことである。
 気をゼロにするなど、並大抵の体内エネルギー操作能力では行えない。梅岩も書物では読んだことのある技術ではあったが、修得に要する余りに果てしない修練の量に、実現は絵空事だと高を括っていたほどだ。
 それが、目の前に実現している。
「ほら、これで怖くないでしょ?」
 と、言う間に孔衛丸からは普通の人間らしい気が感じられるようになった。だが、今更そんなことをされても遅い。むしろ言われてすぐ補正の出来る異常な器用さが、より不気味なだけだ。
(女狐め……)
 梅岩には狐の女王の企みがわかっていた。
 東の『帝家』。
 西の『業界(カンパニー)』。
 彼ら退魔の世界では、一つの島国を巡り、勢力が二分している。
 帝家は元々カンパニーの前身である『青血(チンジェ)』という組織の一派でしかなかった。それが、千年ほど前に枝分かれした。
 かつての青血は傍若無人を絵に書いたような組織だった。邪鬼や無頼漢を平気で人材登用し、彼らの利益のためなら弱き人々を躊躇なく切り捨てる。友好的な邪鬼のために集落が丸々食糧とされたことも一度や二度ではない。そんな青血に嫌気が差して、ある事件を切欠に当時は夷国とされていた東地方に居を構えた。と、いうのが帝家の主張だ。
 ところがカンパニーの歴史観は異なる。そもそも帝家は東地方を委任されたに過ぎず、いまだカンパニーに所属する子分でしかない。青血は消滅しカンパニーと名が変わったとはいえ、その点に変化はないというのが西側の認識だ。
 以後、帝家が政府から公式に退魔の任を受けたことが両者の溝を更に深めた。親組織の許可なく国に頭を垂れたと責めるカンパニーに対し、純粋に人間のために機能しない組織など公的に認められるはずがないと、当時の帝家当主はカンパニーの意見を黙殺した。
 いまだに政府より自分たちのほうが上だと言い張るカンパニーにとって、帝家の『裏切り』は許しがたいものだった。
 カンパニーの長・妖狐青麗(チンリー)は帝家当主を抱き込もうとしていると梅岩は読んでいる。代価を既に払ったとはいえ、助っ人を依頼した梅岩に対し、不仲な組織に対する幇助としては不自然なほど強い者を差し向けてくれた。
 最初に寄越された、百重灯(ももえ・あかり)という現代では貴重な百眼族。
 そして、その実力は妖狐族の中でも青麗に次ぐと名高い近江の孔衛丸。そして、外で暴れている鳥女。いずれもカンパニーでも間違い無く最上位にいる力の持ち主である。
 だが、この人材選択は善意によるものではない。まともにやりあえば帝家の人間全てを皆殺しに出来るような怪物がカンパニーには複数いることを、梅岩に痛感させるためのものだ。

「孔衛丸殿。『お母上』に感謝の意を伝えておいてくれ。
 まさか『御愛息』を助っ人に貸してもらうわけにはいかない。誠意には感謝するが、それは出来ないと伝えてくれ。
 御陰様で人材確保の目処も立った。百重灯は百人力の力の持ち主だ。誠に感謝の言葉もない。更に、別のところで二人の新戦力も得ることができた。
 わざわざお越し頂いた孔衛丸殿には申し訳ないことをした。帰りの切符はこちらで用意させて貰う」
 梅岩はさり気なく話を切り出した。体よく孔衛丸たちを追い返すつもりだ。
 ついでに、とある事実を確信に至らせるために探りも入れている。
「いや、術式を使って来たから路銀はいらないが……」
 意外にも、孔衛丸は反発しない。長距離かつ高精度な空間転移の術式が可能であることをアピールしつつも、出戻りをすんなり受け入れた。追い返しを食うことは予想の範疇だったのか。
 もしくは女王の命に逆らえなかっただけで、ハナから敵性組織に身を置くつもりなどなかったのかも知れないとも考えられる。
「路銀なんかより、二人の新戦力ってのが何なのか気になるね」
 孔衛丸の瞳孔が開くのが見えた。
 葉山は確信した。この男は、帝家に貢献する気はさらさらなかった。助っ人要請の件をダシに、敵情調査をしたかっただけに違いない。
「一人は、今日はいない。ここと別の場所を掛け持ちしている子なんでね。もう一人は、リハビリ中だ。動けるようになれば、外ではしゃいでいる君の友人にも引けを取らない戦力になるはずだよ」
 いまだに柱を揺らし続けている鳥女を掌で差して、梅岩は白々しいほど穏やかに言葉を走らせた。
 梅岩の皮肉は無視したまま、孔衛丸の興が動いた。
「へえへえ。ジチョウ並みの力か。どんな奴? 興味あるなあ」
 どうやら『リハビリ中』と言った下りも聞いていなかったらしい。梅岩がリクエストには答えられない……と告げようとした矢先に、事は起きた。
「何の音だ……?」
 聞き取りにくい低音が、周りの注目を集めた。
 そこには人のような何かがいた。
 全身が、護符の貼られたサラシで巻かれている。左目だけが隙間から覗き、他は埋め尽くすようにびっちりと何重にも巻かれていた。まるで、それを封印しているかのように。
 両の脚までも身動きできないほどサラシを巻かれているため、車椅子に乗せられ押されている。押している十代半ばの少女は恐怖のためか下を見て俯いていた。
「おや。もしかしてそいつが、噂の新戦力かい?」
 孔衛丸が、穴が空きそうになるほど車椅子に乗ったものを見つめた。
「……梅岩、これはなんだ?」
 サラシ人間が、くぐもった声を出しながら孔衛丸を指で差した。
「近江の孔衛丸。カンパニー女首領、妖狐青麗の御曹子サマさ。で、このミイラ男はスドウ君という、御察しの通り我々の貴重な新戦力さ。車椅子を押しているのは、さくら嬢。彼女も立派な……」
「女の子の説明はいい」
 孔衛丸は梅岩の口上を早口で遮った。
「そこのミイラ男と、話がしたい」
「う〜ん。さくらちゃん、いい子なんだけどな……」
 梅岩はニヤニヤしながらサラシ人間の肩に手を置いた。その途端、梅岩の手とサラシの触れた部分が焦げたように黒ずんでいくのを葉山は見逃していなかった。
(熱くなるなよ)
 梅岩はサラシ人間の首の横で小さく囁いた。
「スドウ君、久しぶりだね。高谷山ではお世話になったね」
 孔衛丸は言葉に皮肉をたっぷり込めた。
 この2人も、面識があるらしい。
「済まないが、あの時のことはよく覚えていない」
 スドウと呼ばれたものは、冷静に言葉を返した。しかし、梅岩は触れた手が熱くなるのを感じていた。
 この少年は、つい最近まで邪鬼に寄生され肉体の自由を奪われていた。今でもサラシと護符で力を封じ込めることで、辛うじて暴走を抑えているに過ぎない。
 彼にとって致命的なのは、肉体の殆どが既に失われていることだ。体についた邪鬼を無理に引き剥がせば、生命の維持すら保障できない。
 寄生している邪鬼を、自力で制御する術を身につけなければ満足に歩くことすら出来ない。それが可能になるのは、年単位の時間を要するだろう。
 つまり少年が使い物になるまでは、リハビリの終了を待たなければならない。それまでは、戦える退治屋は梅岩と、まだ監視が必要な百重で遣り繰りせざるを得ない。
 それでも、保守的な葉山ですら賛同できた。少なくとも、いまだに門の外で騒いでいるものや目の前の何を考えているやらわからない狐を当てにするよりはずっとマシな選択肢だった。
「梅岩、一つだけ忠告しておくよ」
 孔衛丸は緩やかに体を門に向けた。そして、ニンマリと笑いながら首だけ向き直って、流し目で梅岩を見た。
「帝家の結界、完全無欠じゃないね」
 それを聞いた途端、葉山の中で何かが切れた。
 腰に挿した白木の木刀を、ついに抜いた。刀身に指を添え祝詞を唱えると、刃は光り呪が文字になって浮かんだ。
 気合いの入った掛け声とともに番所を飛び出し、上段に構えて走りかかった。
 葉山が百を越える邪鬼を切り捨ててきた、必殺の剣術が火を吹こうとしていた。
「早まるな」
 梅岩が葉山の出足を払った。
 梅岩の日の目を見ることのなかった柔術が、役に立ったのは皮肉にもこれが初めてだった。
 葉山は派手に横転し、足を挫いて悶絶した。
「あれっ? 葉山? 葉山!」
 足を止めようとしただけの出足払いが、まさかのクリティカルヒット。
 老人を転ばせることがどれほど罪であるか知らないわけではない梅岩は、この日初めて狼狽を態度に現した。
「ははっ。つくづく、人間ってヤツは……」
 孔衛丸は嘲笑しながら門を出た。
「ジチョウ、帰るぞ。母上に土産話ができた」
 納得いかなそうな鳥女は、更にもう一度だけ思い切り門を蹴り飛ばし、激しい激震を置き土産にして帰っていった。

 番所に隠れて震えていた大北が、外に飛び出てきた。
「葉山さん、しっかり!」
 足を挫いた葉山は、脂汗をかいて呻いていた。
 梅岩は自らを責めた。人材を得ようとしたのに、確保どころか結果的には老兵に止めを差してしまった。しかも、自らの不注意のせいで。
「スドウ君、頼む。……早く、動けるようになってくれ……」
 梅岩はこのとき初めて、悔しさに唇を噛み締め血を流した。
「……約束はできない……」
 少年は口先だけではそう言った。
 まさかそれから僅か一年後にサラシを解くことになるとは、梅岩も期待していなかった。

   *

 末原咲来(まつばら・さくら)はあまり平凡ではない女子高生だった。
 見た目は特別に美しいわけでも醜いわけでもない。成績も良い方でも悪い方でもない。極端に明るいわけでも根暗でもない。
 それでも、彼女のこれまでの人生は平凡とはほど遠いものだった。
 まず咲来には両親がいない。幼い頃に死なれた、と唯一の肉親である6つ違いの姉の百合は言っていた。彼女が赤ん坊の頃、月森という家に引き取られた。これがあまり普通の家系ではなかった。月森家は、悪い霊の居る場所に敢えて身を置き、影響を一身に請け負うことを使命とした一族だった。どうしてそんな家に貰われたかというと、咲来も百合も霊を呼びやすい体質だったからだ。
 小さな頃から、他の人には見えないものが見えた。もっとも、月森家にも見える人がたくさんいたので咲来や百合ばかりが奇異な目で見られることはなかった。
 今は姉妹2人でルームシェアをして暮らしていた。
 まっ白な壁とまっ白なキッチンに、まっ白なエプロンをつけた百合が数年前に流行った 曲を口ずさみながらシチューを煮込んでいる。
 起き抜けの咲来は欠伸をしながらパジャマを脱ぎ散らかそうとして、姉に窘められる前に洗濯籠に投げ捨てた。
「あら。今日はよい子じゃない」
 姉がニッコリと微笑んで、野菜しか入っていないシチューを食卓に上げた。
「お姉ちゃん、またブロッコリーしか入っていないんだけど」
 菜食主義者の百合のレシピに、育ち盛りの咲来はよく不満を言う。
「そんなことないでしょ。人参さんも玉ねぎさんも、キノコさんもいっぱいいるじゃない」
 確かにブロッコリーだけではないが、百合の主張はどこかズレている。
「じゃなくて……肉う〜!」
 高校二年生の咲来にとって、タンパク質を大豆からしか摂取できないのは切実だ。百合が肉を嫌いなのは勝手だが、咲来までが付き合わされるのは堪らない。
「朝からお肉? ダメよそれ。体が穢れるわよ。力が失われるわよ」
 百合は呪師である。主に遠隔視に関する術式に優れ、『千里眼の百合』といえば少しは知られる名前である。
「いやそれ迷信だっていうし。栄養逆に偏るし。力を失うっていうか体力失うし。むしろ、おっぱい育たないのって絶対お肉食べてないせい。16にもなってAカップとか、ありえないし。それに、力なんて、あたしに無いし……」
 順調にキャリアを伸ばす姉だったが、一方で咲来はなかなか芽が出なかった。
 そもそも霊的能力の持ち主というのは木火土金水の5系統に分けられる。百合は呪師として様々な力を発揮しやすい『水』の才能に恵まれたが、咲来は『木』という未知の要素の強い系統に生まれついてしまった。
 『木』に生まれついた者は、今のところ霊を引き寄せやすいという霊的能力の持ち主として当たり前の特性しかないとされている。
「貧乳は遺伝だから諦めなさい。まな板でも貰ってくれる人はいるんだから、安心なさい」
 この生活は、いずれ終わる。
 姉は婚約している。ほどなくアパートを出て、嫁ぎ先に暮らすことになる。家事が壊滅的に出来ない咲来には地獄の日々が待っているだろう。
 退魔師と一般人の結婚なので色々と大変なことはありそうだが、癖はあるがなんのかんの上手くやるのが姉なのだ。
「それに、咲来には立派な力がある筈よ。力のないものに、人外のものは寄ってこないわよ。いいから、下、穿きなさい。パンツ丸出しよ」
 咲来は唇を尖らせながら制服のスカートを穿き、ブロッコリーだらけのシチューをかき込んだ。
「力の無い子に、大事な仕事は任せられないわよ。いってらっしゃい」
 論点をずらされて、咲来はふてくされたまま家を出た。
 姉の言う通り、咲来には任された使命があった。学校にそのまま向かわずに、明後日の方向に歩き始めた。
 前述した通り、咲来は普通の学生ではない。学校に通いながら、やらなければならないことがあるのだ。
 咲来が向かったのは、古い大きな屋敷だった。千年の歴史がある屋敷だといわれているが、真偽のほどは咲来も知らない。
 帝家という、退魔師の総本山と言われる所だ。姉もここに勤め、仕事を貰っている。
 屋敷の門には受付口があり、番所に駐在する老人に来訪を告げるのが慣例だ。
「葉山のおじいちゃん、おはよう」
 咲来が挨拶すると、老人はニカッと笑って
「末原の子か」
 と返事をくれる。姉はとても怖い人だと言っていたが、咲来には到底信じられないほど穏やかな老人だ。
「ミンタロウ、学校連れてくから」
 彼女に背負わされた使命とは、ミンタロウと呼んだ少年を人間に適応させることだった。
 少年は数奇な運命の持ち主だった。
 数年前に邪鬼に肉体を喰い尽くされ、その大部分を失ってしまった。命の火が消える直前に、小さな邪鬼たちが群がった。そこで邪鬼たちが通常ではあり得ない行動をとった。大半を喰われた体を貪ることをせずに、少年に寄生し肉体を補填し生かすことを選んだのだ。
 しかし邪鬼に憑かれるどころか肉体ごと入られて、無事でいられるわけがない。子供の脆弱な精神は易々と乗っ取られ、彼らの思うがままにされた。もしも帝家で少年の障気を祓わなければ、凶悪な邪鬼そのものになっていただろう。
 リハビリと体内の邪鬼を抑制するノウハウの開発により、少年は自らの足で地に立つ力を取り戻した。
 少年が車椅子で動いていた頃から、咲来は少年と一緒にいた。
 今では少年を学校に行かせることが彼女の使命となっているのだが……。
「ネタロウか。あいつなら、今日は先に行ったぞ」
 番所の老人から、意外な事を告げられた。
「あいつ……」
 つくづく、人を何だと思っているのかわからない奴だ。
 車椅子を引いていた頃は、それは恐怖の対象でしかなかった。そばにいるだけで、眩暈と吐き気に襲われた。常に暗紫色のガスに似た何かが(姉の言うには、それは瘴気というものらしい)全身に巻かれたサラシの隙間から漏れ出していて、独特の異臭を放っていた。
 耐えきれずにもう辞めさせてもらうと、何度も考える度に思った。力の無い咲来に出来ることなど、他にないことを。そう思い直すことを繰り返しているうちに、冬の時期は終わりを告げた。
 サラシが解けて現れた顔は、どこにでもいるような同年代の少年だった。(少なくとも咲来には、そう見えた)
 そうして、人間であることを忘れた少年との生活が始まったのだ。

「何考えてんの、あいつ!」
 咲来は走りながら、苛立ちが収まらなかった。携帯を持っているのだから、何かしら先に出なければならない用があったとしたらメールなりするのが常識なのに、それすらしない。
 ……否、そういう人間らしい常識を逐一植え込むのが、咲来の務めなのだ。さっさとミンタロウを見つけて、ひっぱたいて人の道たるものを諭してやるのが咲来の仕事なのだ。
 やがてミンタロウは見つかった。通学路を走るうちに、独特の気配を感じた。
 咲来はよくないものを感じる力がある。あまり精度は高くなく、危険なものが近くにいればわかる程度だ。
 そんな、低スペックの感知器にも捉えられるほどの、強烈な瘴気が咲来を襲った。まるで毒ガス兵器を食らったかのような激臭に襲われた。
 頭痛に悩まされながら匂いを辿ると、ミンタロウはすぐに見つかった。もう春が近いのに時期外れの分厚いコートを着込み、センスのない野球帽を被っているので、見ればすぐにわかった。
 人気のない路地裏で、誰かと話していた。相手はフードを深く被っていて顔はわからなかったが、体つきから女性らしいことだけが見てとれた。
 夕方まで開くことのない小さな飲み屋街の一角で、ミンタロウ少年は背の高い女性と一緒。何やら怪しいと咲来は睨んだ。
 何を話していたのかは、遠くて聞き取ることが出来なかった。焦れているくせに、咲来はあまり近付くことが出来ない。勘付かれたくないという意識が頭にあった。
 遠目から見ていると、二人に近付く影があった。時期どころか時代すらも超越した三度笠を被り、僧服姿をした老人だ。
 チラッと覗いた顔を見て、咲来はそれが知った顔であることに気付いた。帝家の重鎮・烏傘雄彦(うがさ・たけひこ)老人だ。
 烏傘老人は鈴を持っていた。高音のよく響く、漆を焼きつけた印金(いんきん)だ。
 鈴が振られると、ミンタロウと話していた女性が身の毛もよだつ金切り声をあげた。
「この鈴が煩いのは、邪なものだけだ」
 烏傘は持ち前の地声を張り上げた。確かに、聞いていて不愉快だとは感じないのに、あの女性だけが大袈裟に嫌がっている。
 烏傘の鈴は、退魔の力を持ったものなのだろう。
 女性は悪態をつきながら、走り去っていった。頭の痛くなるような匂いが、急に消えてなくなった。邪なものは、あの女だったのだろう。
「そこの隠れている方、姿を見せなさい」
 咲来の心臓が跳ね上がるのを感じた。烏傘老人ほどの偉い人をごまかし切るなんて、やれそうにない。叱られるのを覚悟で、ソロソロと顔を出した。
「なんだ、末原の妹か」
 烏傘老人はホッと安堵したような溜め息を吐いた。
「あの……済みませんでした」
 咲来は怒られる前に謝った。
「なにを謝ることがあるか」
 烏傘老人は、何故か怒っている様子がなかった。
「だって……あたし、こいつのお目付役なのに、目を離して……」
 責務を怠れば叱責の対象になる。咲来は当然そのように考えた。
「違うだろう。小僧がわざと一人になったのは、あの女に目を付けられたことに感づいたからだろう。それを、末原は事情を知らないなりにすべきことをした。結果、この場では無理をせずに監視に徹した。あの女は恐ろしく危険なものだ。無理をすれば、おまえさんは巻き込まれ命を危うくしただろう。今回のことで、おまえさんは何一つ間違った判断はしていない。過程でどのような考えをしたかはわからないが、小僧も末原も最善の手を打った。誇ることはあっても謝ることは何もないぞ」
 このような事を言って貰えるとは予想もしていなかった咲来は、逆に顔を赤らめて照れることしかできなかった。
「……っていうか、そういう事情があるならメールくらいしなさいよ」
 ミンタロウを詰(なじ)ることに、逃げ道を見いだした。
「うむ……それは、あるな。小僧、ちゃんとメールしてワイファイしてアップないといけないぞ」
 烏傘が頓珍漢なフォローをした。
(えっ……もしかして、いまどきメールも知らない人とか……)
 咲来は密かにドン引きしたが、せっかく誉めてくれている相手に迂闊なことは言えない。
「兎に角、今日みたいな非常事態のときはメールくらいしなさいよね」
 咲来は、ますますミンタロウに矛先を向ける他に手を思いつかない。
「面倒くせえ……」
 ミンタロウは本音を隠さない。隠すことを知らない。だからこそわかりやすいが、だからこそ腹が立つ。
「はあ? “今日は先に行く”、ポチッ。それだけでいいんだから、やりなさい。コピペでもいいから。まさか、あんたもやり方分かんないわけじゃないでしょうね?」
 ミンタロウも、世間ズレしているレベルに関しては烏傘に全く引けを取らない。充分にあり得る話だ。
 と、思ったと同時に咲来の携帯電話が鳴った。
 メールが来ていた。
 ミンタロウからのメールだった。
 “めんど”
 とだけ書いてあった。
「いやいやいや。あんた、面倒くさいくらい、ちゃんと書きなさいよ。脳に障害でもあんのかあんたわ」
 咲来には本気でそのように思えてきた。
 烏傘ときたら、咲来の手元をじっと見ている。学習意欲はあるのだが、聞く勇気はないのだろう。
「ところで……小僧、あの女と何を話していた?」
 咲来の携帯電話を見つめていた烏傘の眼が、ミンタロウへと向けられた。(メールの話題が途切れて、咲来は安心した)
「くだらん話だ」
 ミンタロウは吐き捨てるように言った。
「ほうほう、くだらん話か。そいつは、是非とも聞きたい」
 烏傘は興味津々な様子だ。
 ミンタロウは舌打ちをした。
「あの女が、俺のことを興味があるとかぬかしやがった」
 憎々しげに、唾を吐きながら言った。
 咲来は側頭部を殴られたようなショックを受けた。
 それは確かにおぞましい内容だった。それが意味することは何通りか考えられたが、想像できる全てが耐え難く不快だった。
 それにしても、咲来が受けたショックは意味不明なほど大きいものだった。
「ふむ。朗報だな」
 烏傘が信じられないことを口にした。
「ちょっちょっちょっ何が朗報なんですか邪鬼にコクられたんですよコイツ朗報なんてミジンコもないじゃないですかヤらしい汚らしい不潔ヘンタイ!!」
 咲来は理性を失って、自分が何を口走っているのかも不明瞭になった。
「いやいや、誤解を生む言い方だったな、今のは」
 烏傘は失笑しながら、いきり立った咲来の頭を撫でた。
「あの女がどういうニュアンスで『興味がある』と言ったかはわからない。末原の言う通り、恋愛感情のことかもしれない。西側に戦力として奪いたいのかもしれない。万が一だが、もしかしたら純粋な友情のことかもしれない。わからないが、いずれにせよ小僧はそれを、くだらんと唾を吐きながら言い捨てた」
 烏傘はミンタロウを見つめた。いつになく、穏やかな笑顔だった。
「正直にいうとな、オレは心配でならなかった。梅岩様はおまえさんに慈悲をかけて仲間に引き入れたが、それが裏目を引くこともある。帝家に災いを齎す危険があると、それを恐れていたのよ。ところが、おまえさんはあの女の誘いを唾棄すべきこととしか見倣さなかった。もしもカワイコチャンに告白されたように喜ぶようだったら、この場でおまえさんを滅する決意をしなければならなかった。小僧。梅岩様はおまえさんを、人間だと断言した。オレは今の今まで半信半疑だったが、疑いは晴れた。おまえさんは体がどうであろうと、立派な人の子だ」
 烏傘のミンタロウを見る目は、孫を見るものに似ていると咲来は感じた。それほど、優しい眼光だった。
「良かったねミンタロウ」
 咲来は心の底から喜んだ。
 この少年が人か人ならざるものかについて、議論百出されていたことは知っていた。論するまでもなく人ではないと断言する一派と、人道的に考えても当主の認めたものに反するべきでないと主張する一派で、意見が真っ二つに割れていた。
 姉はどう思うのかと訊いてみたことがあったが「差別するような子に育てた覚えはありません!」と、叱られた。頭ごなしに否定派に決めつけられたのに腹が立つ一方で、姉も肯定派だったことは少しだけ嬉しかった。
 今日この日、否定派の頭であった烏傘老人が味方に返った。
 咲来にとって、災い転じて福となった日だった。

「それはそうと……」
 ミンタロウは相変わらず不機嫌そうに、眉をしかめた。つくづく同い年に見えないと、咲来は改めて呆れかえった。
「ミンタロウ、ってのは何なんだ? 他の連中はネタロウと呼んでいるのに、ややこしいから統一して欲しいもんだが」
「だって、三年寝太郎って、日本昔話じゃん。カッコ悪いじゃん。
ちょっと捩(もじ)って、三年眠太郎(ミツトシ・ミンタロウ)ってほうがイケてるじゃん? どうよ、このセンス?」
 咲来は頬を膨らませた後、ドヤ顔で反論した。
「……ダセえ」
 ミンタロウはボソッと呟いた。
「何よ! もう一辺、言ってみなさい!」
 せっかく気を使ってやったつもりの咲来としては、憤懣やるかたない。
「ダセえ」
 ミンタロウは少し大きめの声で、繰り返した。
「いやいやいや、聞こえなかったって意味じゃないから。あんた本当に常識ないわね!」
 ミンタロウと一緒にいると、咲来は金切り声をあげっぱなしだ。
 そばで聞いていた烏傘は腹を抱えて笑った。
「なるほど、ミンタロウか。梅岩様に、オレから話しておこう。それにしてもお前ら、つくづくいい夫婦だな」
「いやいやいやいや何ですか夫婦って何でこんなのと!」
 咲来は顔を真っ赤にして否定した。
「くだらん……」
 ミンタロウは溜め息混じりに言葉を吐いた。
「はあ? くだらんって何よくだらんって!
 なんで邪気と同じリアクションなのよ。他に言いようあるでしょ? 何なのよくだらんって!」
 咲来はもはや、半狂乱だ。
 2人の掛け合いを見ながら、烏傘は嬉しそうに笑っていた。
 それは、とても幸福な時だった。

 ミンタロウと咲来は、同じ高校に通っている。
 クラスも同じだ。
 教室だろうがどこだろうが常に野球帽を被り、クラスメイトと殆ど話をしないミンタロウの評判は頗(すこぶ)る良くない。
 咲来には人並みに友達がいるが、ミンタロウには見事なまでに1人たりともいない。休み時間は独りきりで時間を潰し、昼休みも独りで屋上に引きこもる始末。
 どうして友達と過ごさないのかと問い詰めると
「意味がない」
 という、全く意味不明の答えしか返ってこない。
 そんな体たらくのミンタロウだが、役に立つことは多々あった。
 前述した通り、咲来は邪鬼を寄せやすい体質である。学生生活の際にも、浮遊霊や夜行(やぎょう)の類に憑かれそうになる危険は度々あった。そんなとき、そばにいるミンタロウは瞬く間に退治してくれた。咲来はミンタロウのお目付け役を頼まれた形になっているが、その逆も然りなのかもしれないと感じていた。邪気を寄せやすいが対抗策を持っていない咲来を、護ることがミンタロウの役目なのかもしれない。
 退魔の術式をいくつか習ったらしく、祓ってくれたこともある。
 右腕に寄生した邪鬼を従えることに成功したらしく、使うこともあった。右腕が変形して肉の剣と化け、武器として使えるのだ。
「なるべく、術式の方を使ったほうがいいんじゃない?」
 助けてもらう分際で、そう助言したことがある。 
 ミンタロウは舌打ちだけして返答しなかったが、それ以降は術式でどうにかなることはそれで済ますことが多くなった。
(もう少し、素直になってくれたら可愛げがあるんだけどな……)
 というのは思うだけで口にしなかった。口に出せば、反発するとわかっていたからだ。
「咲来、聞きたいことがあるんだけど……」
 ある日、クラスの友達から話しかけられた。
「咲来って、帽子の彼と付き合ってるの? いつも一緒に帰ってるし……」
 咲来はまた顔を真っ赤にする羽目に陥った。
「なんでなんでなんでそうなんのよどいつもこいつもなんであいつとあたしが付き合わなきゃならないのよ冷たいし愛想ないし口悪いし帽子ダサいし頭おかしいし良いとこなんて一っつもないし……」
 と、ここまでやらかして気がついた。あまりにムキになって否定すると、却って疑われる原因になることに。
 ところが時すでに遅し。クラスメイトは既に、何かを察したような表情になっている。

「……仕方ないのよ。あいつの保護者ってのがね、うちのお姉ちゃんの上司なの。あいつ親いないし、色々と大変なヤツなのよ。色々とおかしいヤツだから、仲良くしてやってくれとか言えないけど。気が向いたときでいいから、たまには話しかけたりしてやってよ」
 咲来は退魔師のくだり等、肝心なところをぼかしたまま嘘ではないことだけで上手く説明しきった。実際のところ、この手の“話したくない部分を抜いて話しをする”マニュアルは帝家で習うのでお手のものではある。
 退魔の世界に関わる者の掟として、人外のものがいまだに存在していることは無関係の者には知らせてはならない。何故なら彼らに対する恐怖は信仰のようなものであり、畏怖されればそれだけ力を増してしまうからだ。現在は邪鬼がそこいらに点在していることなど知られておらず、殆ど都市伝説と化しているからこそ、彼らの力は最小限に抑えられている。近代になってようやく機能するようになったこのシステムのお蔭で、人類は邪鬼による悪影響を軽微なまま済まして繁栄している。これを崩しては絶対にならないのだ。
そういう理由で、帝家のような退魔師の組織には独特の話術が伝わっているのだ。ただ、これを使う度に咲来は汚い大人になってしまったような感覚に襲われるのだが。
 友達は納得しがたそうに頭を捻りながらも、とりあえずその場を去った。
 何だか騙したような、罪悪感にかられた。

 いつになっても、ミンタロウがクラスに打ち解ける気配はまるでなかった。
 またある別の日のこと、授業中のことだった。
 ミンタロウは屋内であろうと外であろうと、必ず帽子を被って過ごす。理由は咲来も知らないのだが、脱いだところを見たことがない。被る理由を聞いても「余計な世話だ」「うるさい」しか言わないので、咲来も放っておいた。
 学校には当然、教師というものがいて、当然のように教師にも色々な種類がいる。中にはクセのある大人もいるものだ。咲来の通う高校にも、いわゆる“問題児”な教師がいた。やっていることは風紀に若干やかましいそれ以上も以下もないだけなのだが、ときどき行き過ぎた指導をしでかしてしまうことがあった。
当の問題教師の担当はミンタロウとは学年もクラスも別だったため、幸いにも両者がぶつかることはなかった。
 教師が自らミンタロウにちょっかいを出しに行くという暴挙にさえ出なければ、何事もなく平和なだけだっただろうに。
 あるお昼休み時間、ミンタロウがいつものように独りで屋上まで上り、時間を潰しに行こうとしたとき
「屋内では帽子を脱げ」
 いかにも正論をぶち上げた。
 その手の輩にミンタロウのような人間がとる反応とは、当然のように無視することだった。
 それは勿論、件の教師のような人間にとって、受け入れられるはずがない侮辱だ。
「聞いてるのか」
 殺気立った教師は、あろうことかミンタロウの帽子を奪い取ろうとしたのだ。
 その瞬間を目にした咲来は、教師の手首が細切れに切断されたかと見紛った。それほど素早く細やかに、ミンタロウの手は動いた。
 ミンタロウは教師の眼を睨みつけた。ただ、睨んだだけだった。それ以上のことはしていなかった。
 にも関わらず
 起きたのは惨事だった。

 教師が倒れた。
 腰の抜けたように倒れた。
「こいつ……」
 呻くだけで、座り込んだきり立てなくなった。
 ミンタロウの眼を間接的に、横からたまたま見てしまっただけの女生徒が

 ギャアッ

 と叫んで失神した。
 咲来は
「なにやってんの!?」
 とミンタロウに叫んで近寄った。
 端から見れば、何かしようとしたのは教師の方だった。ミンタロウは何もしていなかった。
 念のために教師の体を目の端で観察したが、どこか出血している様子もない。
「何かしたの? これ……」
 咲来には何が起こったのか、全く見当もつかない。
「別に何もない。“ドウジュツ”を使えるわけでもあるまいし。アホを睨んだら、勝手に倒れた。そんなとこまで面倒見きれるか」
 ミンタロウときたら、相変わらずの傍若無人ぶりだ。咲来の知らない専門用語まで平気で使うのだから、手に負えない。
 咲来は周りを見渡した。
 気を失ってしまった女生徒の他にも、何が起きたか見ていた生徒がいるかもしれないからだ。
 案の定、いた。隅で震えている男子生徒だ。咲来の見知った顔であったので、話しかけるのに戸惑いはなかった。
「あんた、見てた? 何があったか……」
「何も見てねえ」
 目撃者は皆まで言う前に拒絶した。
 咲来はカッとなりかけて、冷静になるべく努めた。
「……えっとね、見てたことを言うだけでいいから。あいつが何かやばいことしたなら、問題にしないとだから。当然のことっしょ?
 目撃者は怯えていた。咲来はこの生徒の評判を知っている。いわゆる悪ガキで、小さな頃から無鉄砲なことばかりしていた子だ。お尻に花火を挿して空を飛ぼうとして、大火傷を負った逸話には相当笑わせてもらった。
 そんな怖いもの知らずの悪童が、怯えて口を噤(つぐ)んでいる。余程のものを見たとしか考えられない。
「……おまえ、あいつの味方なんだろ?」
 咲来の予想の範疇のリアクションだった。言えば口封じされる危険があるとでも考えていそうだった。
「そう、味方よ。だからこそ、あいつが間違ったことしたら、大人に叱ってもらって更生させる必要があるの。学校の先生よりも、もっと頼りになる人にね」
 自分で言いながら、反吐が出るほど偽善的な言い回しだと思った。しかし、必要なことを聞き出すためには背に腹は代えられない。
「……がちでやるきだった……」
「えっ?」
 呟いた言葉の意味が、最初はよくわからなかった。
「あいつ、ガチで先生を殺すつもりだった。もち、ほんの一瞬のことで、すぐさま思い止まった。でもほんの一瞬だけど、ガチで人を殺そうとしたんだ。ありえないだろ? こんな平和な世の中で、あいつは本気で人を殺す気になれるんだ。あれはガチだぜ。オレにはわかる。あれは、人を殺ったことのある眼だ。平和に暢気に生きてただけの奴が、あんな眼を向けられたらブッ倒れちまっても仕方ないぜ……」
 愚にもつかない
 と、咲来は思った。
 なにが気に食わないといって、それを語る悪童の瞳に、恐怖とともに憧れの色が混じっているのが読み取れたからだ。
「あんがと。でも、チュウニ病も程々にしときなよ」
 それだけ言葉を残して、悪ガキを放って本物の問題児の元へと戻った。
「……梅岩様に、言うからね」
 咲来がそう言うと、ミンタロウがピクリと動いた。
「なぜ、あのアホの名前が出てくる」
「アホとか言わないの! 梅岩様は、あんたの保護者なんだから。失礼過ぎまくりでしょ!」
 ミンタロウの言い草ときたら、口先だけだとわかっていても腹が立った。

 その日の夕方。
 咲来は帝邸までミンタロウを送った足で、屋敷に入った。
 送る道程は、不気味なほどに無言だった。
「まあ、怒られるだろうから覚悟しときなさいよ」
 咲来が言葉をかけても、ミンタロウは返事をしない。
「何をやったのか、結局よくわかんないけど……誰も怪我とかはしてないし、気失った子も何があったのかよく覚えてないみたいだし……」
 脅かしても宥めても反応がないのだから、イジメがいすらない。
「反省、してんの……?」
 と言っても返事がない。
 やがて喋るのを諦めた頃に、屋敷に着いた。
(いつ来ても、ここはホッとするな)
 もともと、咲来は古い家が苦手だった。“オバケが出そう”という一般的に幼稚とされる理由は、彼女のような運命を背負った者には大真面目な問題だった。
 庭に撒かれた純白の砂利を踏みながら土間に入ると、そこでは当主様自らが迎えてくれた。
 まさかそんな待遇をされるとは予想もしていなかった咲来は、地べたに三つ指をついてしまった。
「咲来ちゃん、頭をあげてよ。土足のところに顔つけたらバッチいよ」
 咲来は帝梅岩を尊敬していた。単に高貴な人であるというだけでなく、退魔師としても一流で、なにより人間的に好きだった。
 ただ、もう少し威厳をもって物事に当たって欲しいと思った。確かに土間で平伏する方も非常識だが、国内最大の退魔団体の長がいきなり目の前に現れたら、誰だって緊張する。少なくとも咲来は緊張する。
 よく見ると、着ているものだって和風の寝間着だ。まるきり無防備もいいところだ。偉い人なんだから、もっと自覚を持った方がいい……などと、勝手なことを考えた。
「……で、オレのかわいいミンタロウくんが、何かやらかしたって?」
 笑い事とは程遠い状況なのに、梅岩ときたらニマニマ笑っている。ミンタロウに『あのアホ』などと呼ばれてしまうのはそれ相応の理由があると、咲来でさえ納得する部分があった。
(あ。ミンタロウって……)
 咲来が勝手に決めた名前が既に広まりつつあるようだ。嬉しいような恥ずかしいような複雑な気分にさせられたが、今はそんなことを意に介している暇はない。
「実は……」
 咲来は昼休みにあったことを話した。

   *

「なるほど、人を殺ったことがある眼か……」
 話を聞き終わったとき、梅岩が真っ先に口にしたのはどうでもいい悪童の戯言だった。
 咲来には「そこ?」としか思えなかった。
「咲来ちゃん。この話、一番ヤバいのはどの点だとおもう?」
 梅岩の方から質問されると思っていなかった咲来は意表を突かれて僅かに戸惑った。
「ドウジュツっていうのを、使ってるとこですか?」
 これは当てずっぽうだったが、自信があった。
「いいとこ突くね。さすがは咲来ちゃん」
 梅岩はニッコリと微笑んだ。
「でも、違う。あの子に瞳術は使えない。催眠術レベルのものなら、その限りじゃないけどね」
 咲来は思い切って聞いてみた。
「それで……ドウジュツって、一体何ですか?」
 タイミング的に間抜けているが、聞くは一時の恥とばかりに聞いてみた。
 梅岩はクスッとだけ笑って答えた。
「眼の力を使って、相手を牽制したりする技法だよ。修得には先天的な才能に凄く左右される部分が大きいから、学ぼうと頑張って出来るものじゃない。高等なものになれば眼力だけで人を気絶させたり操ったりもできるようだけど、ミンタロウにその素養はないことは調査済みだ」
「調べたって……どうやったんですか?」
 咲来には深いところまで突っ込まずにはいられない。
「あの子を封じたのは、オレだよ。当然、あいつの肉体にどんな邪鬼が寄生しているかは、隅々まで把握しているさ。
 あの子の左目は自前。右目は眸羽(ひとは)という邪鬼で、逆に瞳術をかけられた際にある程度の耐性がある。それだけだ」
 梅岩は邪鬼の体を持ったものを味方につけるという荒技を使ったのだ。事後のフォローはとうにしているのは当たり前のことだった。
「だとしたら……どうやって睨むだけで人が倒れるんですか?」
 咲来はミンタロウのことは全て知っていたい、そう思った。
「そこが、ヤバいとこなんだ。人間の眼には構造的に瞳術を修得する機能はないけど、それでも僅かな力はある。視線を感じる、っていう言葉があるだろう? もしも人間の眼に何の力も無いなら、成立しえない言葉だ。本物の瞳術使いには鼻で笑われてしまう程度には、人間にだって眼に力が全くないわけじゃない。人間の手と動物の前足くらいの差があるけどね。で、瞳術使いでもないヤツがマグレでもその真似事に成功したとなると、それは並大抵の精神状態じゃないってことだ。そうなると……“人を殺ったことがある眼”ってのが意味を帯びてくるんだ」
 梅岩の話は嫌な方向に向かっていた。
「……あの……あいつ、昔は人外のものに支配されてたって言ってたけど、まさか……」
 咲来は思った。
 これ以上、話を続けたくない。続ければ、聞いてはいけない事を耳に入れてしまう気がする……。
「……咲来ちゃんは賢い子だ」
 梅岩は急に神妙な顔になった。
「賢いっていうのは幸せになることも多いけど、裏目を引いて不幸に繋がってしまうこともある」
 聞きたくない!
 咲来は心の中で叫んだ。
 でも、心の中では大声を張り上げているのに、喉は微動だにしてくれなかった。
「……いや、いつまでも隠していていい事じゃないから、この機会に言っておく。あいつは、ミンタロウは、邪鬼に体の主導権を握られていた時期に人を殺している。国内で十数人、海外では数百人もの命が、あいつの手によって失われた」
 咲来は聞きたくなかった。
 でも、聞いてしまった。
 耳を塞ぐことも、その場から逃げ出すこともできた。他にも、梅岩の話から逃げたいだけならいくらでも方法はあったろうに。
 でも、咲来はそうしなかった。
 聞くことを拒絶する一方で、心のどこかで聞くことを望んでいたのかもしれない。
「初めてミンタロウに会ったとき、あいつは罪悪感に苛まれていた。自分の意志じゃなかったなんて、言い訳にもなりゃしない。自分がこの世に生を受けて生きたせいで、他の大勢の人が死んだ。誰にも否定できない、誰にもどうしてやることもできない圧倒的な事実だ。殺してくれと、あいつは懇願した。そのために、まだ足掻きようのあった戦いに自ら白旗を上げた。オレに殺してもらうことを望んで。でも、オレには出来なかった。殺してくれと願うあいつに、オレに利用されるために生き続けろと強制した。取り返しのつかない罪を背負ったまま、生涯かけても到底贖罪しきれない罪を背負わせたまま、それでも生きることを押し付けた。何故かって? 人が足りなかったからさ。帝家は人数を減らしていた。退治屋に至っては、オレと70近い爺さんだけ。笑っちまうくらい話にならない人手不足だった。それが、千載一遇のチャンスってやつだよ。人間の魂を持った、神様クラスの力の邪鬼がオレに降伏してきたんだ。滅すればただのゴミだけど、利用すれば絶大な力を持ったバケモノが手に入るんだ。これを見逃す手はないぜってやつだ。同情するフリして、友達みたいに話してやって、大事に扱ってやったら思いのほか簡単に折れてくれたよ。寂しかったんだろうな。チョロいもんだったよ本当に。
 あいつ、冷たいヤツだろ? 無口だし、たまに口を開いたとおもえばだいたい悪態だし、クラスに友達だっていないだろう?
 あいつはわかってるんだ。あいつには、幸せになる価値なんかない。嫌われて、無視されて、気味悪がられて、それでないと生きてることなんか許されないと思ってるんだ。友達作って、遊んだり喧嘩したりバカやって、いずれ可愛い女の子と一緒に家族を作って生きてく資格なんてないって知ってるんだ。
 なんたって、あいつは一皮剥けば人殺しなんだ。ひょんなことで封印したはずの殺人鬼のツラが出ちまうんだ。
 あいつがどうして帽子を脱がないか教えるよ。あいつの後頭部についてる邪鬼は、何をどう工夫しても隠せなかった。顔の裏側にある、もう一つの毛むくじゃらの目玉と口が、どうやっても人化できなかった。
 そいつを剥き出しにしようとしたんなら、そりゃ冷静でなんていられるかよ。自分がバケモノだって、みんなにカミングアウト出来るんだから。明日から学校中の人気者間違いなしだもんな。大勢のファンたちから石を投げて貰えること請け合いだ。アハ、アハ、アハハハハハハ……。
 そうそう。もう一つ、笑える話がある。三年寝太郎の由来だ。あいつ、とんでもない睡眠障害なんだ。1日に12時間くらい寝てるんだが、ずっとうなされっぱなしなんだ。しかも、毎晩な。365日、年中無休でうなされてやがるんだ。
 殺した連中が化けて出るんだと。千年もの間、外界から屋敷を守ってきた結界をすり抜けでもするんだろうかね? 実に可笑しな話じゃないか……。
 あいつを……あいつを……。
 あいつを作ったのはオレだ。根暗で無愛想で、自分のことを永久に愛せないし人も愛せないヤツのまま生きざるを得ないようにしたのは、人生の半分を自分を責めることだけに費やすような狂人にしてまで、ただ戦えるヤツが欲しいってだけで死を奪った、最低最悪のクソの塊はオレだ。
 オレが、オレが生きろって押し付けたばっかりに、あいつは……」
 梅岩はそこまで言って、泣き崩れた。
 咲来は一時的にかなり引いたが、やがて狂乱の意味するところを理解した。
 梅岩は耐えていたのだ。ミンタロウを受け入れたときから、罪悪感にずっと苛まれてながらも耐えてきたのだ。
 梅岩がミンタロウを生かしたわけが、決して私利私欲などであろうはずがないことは、梅岩の言うほど賢いわけでは全くない咲来でも簡単にわかった。
 しかし、梅岩はずっと自分を責めていたのだ。ミンタロウを生かしたせいで、地獄のような責め苦を負わせていることに。
 きっと、幾度となく誰かに打ち明けようとしたのだろう。その度に、帝家の当主である重圧がそれを阻んだのだろう。
 挙げ句の果てに、咲来のような無価値な子供の前で心を吐き出してしまったのだ。いや、咲来が無価値で無力な子供だからこそ、つい気が緩んでしまったのかもしれない。
「すまない。何を口走ってるんだ。オレは……」
 梅岩は嗚咽しながら、なお体裁を気にしている。
「いいですよ。あたし、誰にも言いません。だから……」
 咲来も貰い泣きしながら、梅岩を抱きかかえた。咲来よりも背が高く肩幅も広い梅岩の体は、いくら腕を回しても抱え切れなかった。彼女より体が大きい20歳過ぎの若者は、まるで子供のように咽び泣いた。

 ようやく涙を吐き出しきった梅岩は、咲来を帰るように促した。
 姉が一方的に設定した門限の18時は、もう2時間以上過ぎていた。早過ぎる時間を厳守するつもりは毛頭なかったものの、ミンタロウの様子を少しだけ見て帰ることにした。
 屋敷の渡り廊下は既にまっ暗になっていた。あわよくばミンタロウに家まで送ってもらうことも考えていた。
 板張りなのに軋む音の全く鳴らない床板に感心しながら、ミンタロウの部屋の前まで来て足が止まった。
 部屋から呻き声が聞こえていた。
 心配になって襖を開けようとして、止めた。
「くそ……出て行け……幻だってことはわかっている……見るな……こっちを見るな……」
 ミンタロウを悩ませているものの正体は、それだけで充分にわかった。そして、それは誰にもどうしようもないこともわかった。
 もしもそれが罪人に取り憑いた亡霊だとしたら、とっくに祓ってもらっている筈だ。第一、この屋敷には超強力な結界が張ってあるため、死霊ごときが部屋に入れるはずがないのだ。
 梅岩が当てられた罪悪感でさえ、あれほどなのだ。ミンタロウ本人が苛まれている程度となると、想像だにできなかった。
「来るな……いっそ、やるならさっさとやれ……ひと思いに……畜生……」
 咲来は襖に寄りかかって、座った。
「安心しなよ、ミンタロウ。あんた、一人じゃないんだからさ……梅岩様も背負ってるし、あたしだって……」
 咲来の声が届いたか届かないかわからないが、譫言はやがて止み、静かな寝息が聞こえてきた。
 ようやく帰れる、と咲来は立ち上がった。

編集部より
ファーストキスは鉄の味(後編)は無料おすすめネット小説『Sohzine』2013年春号で読めます。
(了)
(初出:2013年03月12日)
登録日:2013年03月12日 14時40分
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