
著者:宇佐美ダイ(うさみだい)
2011年夏、東京から宮崎に戻ってきました。格闘技をやってます。元カメラマンですけど、今は正義の味方の仕事をしています。いつの間にか人の心も読めるようになりました。そして趣味で浮遊しているような写真を三脚+セルフタイマーで撮ってます。林ナツミさんの写真を見て撮り始めました。反原発、反TPPです。今の殺伐とした仕事をテーマにいつか書きたいなあ、と思ってます。
小説/ホラー

【電子書籍】LeLeLa
渋谷の喫茶店『スピード』店長で、身長185センチ、握力は100キロを超える北島は頭の中に響き渡る“声”に悩まされていた。狂気の男に襲われる女を助けた北島は、そこで心の力を形にする不思議な力『LeLeLa』に目覚める。しかし、その力は人肉を喰らう吸血鬼――女を襲った津山にも伝染していた。空中に浮かび、信じられない速度で移動する吸血鬼たちは、社会の中に紛れ込み、不可解な殺人事件を起して世界をパニックに陥れようとしていた。炎の『LeLeLa』を駆使する津山に対し、細胞を崩す力を得た北島は鬼と化す。身長203センチのヤクザ、鳴海と協力して吸血鬼の一掃を目指すが……。凄まじい拳と想いが炸裂する伝奇アクション登場!
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立ち読み
LeLeLa
「またかよ……」
北島洋平は、痰のように言葉を吐き出した。
頭の中が痺れる。
きん。
耳鳴りがした。
まぶたの裏が、熱い。
眼球を動かしてみる。
まぶたを透かして、何かが見えるような気がした。
ゆっくり深呼吸をして、眼をあけてみる。
暗闇があるだけだった。
しかし、密度の濃い、液体のような闇だ。
伸ばせば、手の先からずぶりと潜っていきそうだ。
その闇の中から、何かまがまがしいものがじっと息をひそめて、洋平の様子を伺っているような気がする。
洋平は、コールマンの寝袋の内側のジッパーを一気に引き下げて、長い両腕を頭の後ろで組んだ。
暗闇の中に、鬼火のように何かが一瞬光って消えた。
安物のG−shockのライトをつけると、暗闇に慣れはじめた眼が、微かな緑色の光の中に浮かび上がった、アウトドア用の鍋を見つけた。
さっきの光は、カーテンの隙間から飛び込んできた、車のライトがあの鍋に反射したものだろう。
洋平は、しだいに覚醒していく頭の中でそう納得すると、G−shockを見た。
午前4時25分。
寝袋の中で大きな息を吐いた。
「まったく、かんべんしてくれよ」
洋平は、夜中の3時30分に仕事から帰ってきた。
深夜まであいている、喫茶の店長をしているのだ。
なかなか寝つけない日が続いている。
熱帯夜のせいだけじゃない。
ストレスだ。
ようやく寝れたと思ったら、下階の女の声で眼が覚める。
もう一週間ほどになる。
洋平は201号室、彼女の部屋が101号。
真下だ。
「くそっ」
トレーニング用のテニスボールを右手で握りしめる。
「うらぎられたたたたた……」
木霊のように洋平の心に響いてくる、女の声は悲しくて切なくて、心の中をナイフで刺され、抉られる思いがする。
激しく叫び、ほんの少しの静寂があって、また叫ぶ。
声と声の間には、すすり泣きもなにもない。
それがかえって不気味だった。
声……。
鉄筋のアパートなのに。
洋平は、ふと首を傾げた。
「もてあそばれたたたたた……」
「ずっと、ずっといっしょにいてくれるって言っていたのににににに……」
「どくしんっていっていたのににににに……」
「ころしてやりたいいいいい……」
「でも、わたしにはそんなゆうきはないよおおおお……」
「だから、しんでやるるるるる……」
ぶっそうな事を叫ぶ女だなあ、と思った。
上のおれにも聞こえるくらいの大きな声で叫んでいるのだから、他の住人、特に隣の奴はたいへんだ。壁でもけってやればいいのに。
「つやまあ、あきおおお……」
「あきおおおおお……」
やれやれ、ついに相手の名前まで叫びはじめやがった。これで、もし彼女が本当に『つやまあきお』を殺したら、アパートの住人、全員が証人だ。
つまりは、その『つやまあきお』に口説かれていい仲になったところが、相手には嫁さんがいたってわけか。
そりゃあ、頭にくるだろうよ。
ティシュを丸めて、耳栓にしてみた。
それでも、声は飛び込んできた。
しだいに大きく。
強く。
「あきおおおおおお」
きん。
と、耳が鳴った。
頭が痺れる。
ふいに男の顔が頭に浮かんだ。
津山昭夫!
それは一瞬のことだったが、その男の顔や姿までもが洋平の腹の中にしこりとして残ってしまった。
腹の中で実体化した男が、内臓を食い破りながら、洋平の口を両手で押し広げて這い出してきそうな、おぞましいビジョン。
男の右の眉の上には、3センチほどの傷跡があった。
洋平は、思わず口をおさえた。
これは……。
いったいなんなんだ。
洋平は寝袋の中に身体を沈み込ませ、黒い海のような天井をじっと見つめた。
きん。
耳が鳴った。
すると、目の前に広がる海が空にかわった。
果てしない宇宙だ。
すうっと、吸い込まれてしまうような気がして、あわてて目を閉じた。
「彼女は……?」
洋平は、目を閉じたまま、ぎりりっと奥歯を噛んだ。
次の瞬間、テニスボールが洋平の右のてのひらの中で弾けていた。
今にも泣きだしそうな、空の色だ。
昼過ぎ、グレーのトレーニングウェアーとブルーのハンテンのTシャツというラフな姿で部屋を出た洋平は、軽快なステップでアパートの階段を降りた。
出て、左に少し歩くと商店街がある。
商店街を歩きはじめた洋平は、いきなり踵をかえした。
真後ろを、乳母車を押して歩いていた若い女があわてて、洋平をよける。
「気をつけてよ!」
洋平の背中を睨みながら、女は大きな声でそう言った。
しかし、洋平の耳にはその声が届いていない。
洋平は、アパートに戻っていた。
101号室の前に立つ。
スチール製のドアの横に、小さなネームプレートがある。
『今村恵』
白いプラスチックのプレートに、細いマジックでそう書かれていた。
彼女の名前だ。
「いまむらめぐみ」
洋平は、つぶやいた。
つぶやいてみただけだ。
ドアを叩く勇気はない。
目を伏せて、その場を離れた。
北島洋平は、痰のように言葉を吐き出した。
頭の中が痺れる。
きん。
耳鳴りがした。
まぶたの裏が、熱い。
眼球を動かしてみる。
まぶたを透かして、何かが見えるような気がした。
ゆっくり深呼吸をして、眼をあけてみる。
暗闇があるだけだった。
しかし、密度の濃い、液体のような闇だ。
伸ばせば、手の先からずぶりと潜っていきそうだ。
その闇の中から、何かまがまがしいものがじっと息をひそめて、洋平の様子を伺っているような気がする。
洋平は、コールマンの寝袋の内側のジッパーを一気に引き下げて、長い両腕を頭の後ろで組んだ。
暗闇の中に、鬼火のように何かが一瞬光って消えた。
安物のG−shockのライトをつけると、暗闇に慣れはじめた眼が、微かな緑色の光の中に浮かび上がった、アウトドア用の鍋を見つけた。
さっきの光は、カーテンの隙間から飛び込んできた、車のライトがあの鍋に反射したものだろう。
洋平は、しだいに覚醒していく頭の中でそう納得すると、G−shockを見た。
午前4時25分。
寝袋の中で大きな息を吐いた。
「まったく、かんべんしてくれよ」
洋平は、夜中の3時30分に仕事から帰ってきた。
深夜まであいている、喫茶の店長をしているのだ。
なかなか寝つけない日が続いている。
熱帯夜のせいだけじゃない。
ストレスだ。
ようやく寝れたと思ったら、下階の女の声で眼が覚める。
もう一週間ほどになる。
洋平は201号室、彼女の部屋が101号。
真下だ。
「くそっ」
トレーニング用のテニスボールを右手で握りしめる。
「うらぎられたたたたた……」
木霊のように洋平の心に響いてくる、女の声は悲しくて切なくて、心の中をナイフで刺され、抉られる思いがする。
激しく叫び、ほんの少しの静寂があって、また叫ぶ。
声と声の間には、すすり泣きもなにもない。
それがかえって不気味だった。
声……。
鉄筋のアパートなのに。
洋平は、ふと首を傾げた。
「もてあそばれたたたたた……」
「ずっと、ずっといっしょにいてくれるって言っていたのににににに……」
「どくしんっていっていたのににににに……」
「ころしてやりたいいいいい……」
「でも、わたしにはそんなゆうきはないよおおおお……」
「だから、しんでやるるるるる……」
ぶっそうな事を叫ぶ女だなあ、と思った。
上のおれにも聞こえるくらいの大きな声で叫んでいるのだから、他の住人、特に隣の奴はたいへんだ。壁でもけってやればいいのに。
「つやまあ、あきおおお……」
「あきおおおおお……」
やれやれ、ついに相手の名前まで叫びはじめやがった。これで、もし彼女が本当に『つやまあきお』を殺したら、アパートの住人、全員が証人だ。
つまりは、その『つやまあきお』に口説かれていい仲になったところが、相手には嫁さんがいたってわけか。
そりゃあ、頭にくるだろうよ。
ティシュを丸めて、耳栓にしてみた。
それでも、声は飛び込んできた。
しだいに大きく。
強く。
「あきおおおおおお」
きん。
と、耳が鳴った。
頭が痺れる。
ふいに男の顔が頭に浮かんだ。
津山昭夫!
それは一瞬のことだったが、その男の顔や姿までもが洋平の腹の中にしこりとして残ってしまった。
腹の中で実体化した男が、内臓を食い破りながら、洋平の口を両手で押し広げて這い出してきそうな、おぞましいビジョン。
男の右の眉の上には、3センチほどの傷跡があった。
洋平は、思わず口をおさえた。
これは……。
いったいなんなんだ。
洋平は寝袋の中に身体を沈み込ませ、黒い海のような天井をじっと見つめた。
きん。
耳が鳴った。
すると、目の前に広がる海が空にかわった。
果てしない宇宙だ。
すうっと、吸い込まれてしまうような気がして、あわてて目を閉じた。
「彼女は……?」
洋平は、目を閉じたまま、ぎりりっと奥歯を噛んだ。
次の瞬間、テニスボールが洋平の右のてのひらの中で弾けていた。
今にも泣きだしそうな、空の色だ。
昼過ぎ、グレーのトレーニングウェアーとブルーのハンテンのTシャツというラフな姿で部屋を出た洋平は、軽快なステップでアパートの階段を降りた。
出て、左に少し歩くと商店街がある。
商店街を歩きはじめた洋平は、いきなり踵をかえした。
真後ろを、乳母車を押して歩いていた若い女があわてて、洋平をよける。
「気をつけてよ!」
洋平の背中を睨みながら、女は大きな声でそう言った。
しかし、洋平の耳にはその声が届いていない。
洋平は、アパートに戻っていた。
101号室の前に立つ。
スチール製のドアの横に、小さなネームプレートがある。
『今村恵』
白いプラスチックのプレートに、細いマジックでそう書かれていた。
彼女の名前だ。
「いまむらめぐみ」
洋平は、つぶやいた。
つぶやいてみただけだ。
ドアを叩く勇気はない。
目を伏せて、その場を離れた。
(続きは電子書籍で!)
登録日:2013年02月22日 19時13分
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