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小説/現代
【電子書籍】投稿Web小説『Sohzine.jp』Vol.5
騒人編集部お勧め作品を掲載! 城本朔夜氏「ホプニラム」はファンタジー「イペタムの刀鞘」外伝。南川純平氏「月水早流し」は堕胎をする医師を訪れる女達。浅川こうすけ氏「犬餅」は愛犬自慢にうんざりし一計を案じる。阿川大樹氏「作家の日常」は執筆環境を公開。宇佐美ダイ氏「LeLeLa」。激昂する北島は変貌を遂げる! 井上真花氏「電車に棲む人々」は、通話相手はなんと? 紫苑氏「伝説の人」は、微笑ましいドジ話3本。

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投稿Web小説『Sohzine.jp』Vol.5


目次

 はじめに

【読切小説】
 城本 朔夜『ホプニラム イペタムの刀鞘・外伝』
 南川 純平『月水早流し』
 浅川 こうすけ『犬餅』

【連載エッセイ】
 阿川 大樹『作家の日常 第五回』

【連載小説】
 宇佐美 ダイ『LeLeLa 第五話』

【読切エッセイ】
 井上 真花『電車に棲む人々』
 紫苑『伝説の人』

 原稿募集のお知らせ
 奥付


はじめに

 「Sohzine.jp」は、オンラインマガジン騒人(http://sohzine.jp)に掲載した編集オススメ作品と書き下ろし作品を掲載しています。

 騒人の前身となる「QuickSand」が産声を上げたのは、パソコン通信「Nifty Serve」(現、@nifty)の「本と雑誌のフォーラム」(FBOOK)でした。当時、FBOOKでは、作家の水城雄氏による小説修業の「小説工房」が設けられており、どんどん上達したアマチュアライターのなかには、作家デビューした人も数多くいます。そんな中、「QuickSand」では、FBOOKに集うライターたちの作品を編集し、シェアテキスト(有料のテキスト)として発刊していました。

 インターネットに活動の場をうつし、騒人と改めたのが1999年。なんでもありの投稿サイトではなく、実力あるライターの作品をひとまとめにできたら……という想いの現れが騒人です。騒人にはプロの作家もおりますが、そういったネット作家選り抜きの作品群サイトとしてお楽しみいただき、ライターの皆さんには、次のステップに進んでもらえたらと思います。

 あなたのご参加をお待ちしております。


ホプニラム/城本朔夜

「あたしを返して! お母さんを返して! お父さんを、村のみんなをあたしに返してよう!」
 そう叫んだかと思うと突然、ミナは大きな声を張り上げ、泣き出した。
 泣き声を聞きつけて、表で仕事をしていたレラとチセ(家)の奥にいたツキノエが、セム(母屋と外との間にある物置きのような場所)の中に入ってきた。
 カカミは慌てた。なんといっても、神窓(母屋の東側に位置する窓)に吊るされたエムシ(儀式用の刀)のことで、先刻、村長であるツキノエに特大級の怒りを買ってしまったばかりなのだ。その上、ツキノエが大いに気にかけ案じている親戚筋の少女をこんな風に泣かしてしまったとなれば、この上どんな怒りを買ってしまうことになるだろう。
 カカミは、その場にいたたまれない。ツキノエたちがミナの泣き声に気を取られている隙に、そっとその場を離れることにする。
 コタン(集落)やコタンを取り巻く林のそこここにまだ雪の残る早春。空は青く晴れわたっている。薄暗いセムから出たカカミの目が、眩しさゆえに細められる。林を隔てた先にある川からは、軽やかな、歌うように流れる早瀬の音が今日も聞こえる。その川の方からやってくるのだろう、冷たくて気持ちの良い風が頬をなぶるが、カカミの心は全く晴れない。右手には、ツキノエに「駄作」と切り捨てられた刀鞘が握りしめられたままだ。その刀鞘に視線を走らせ、ため息をつく。
 チセの中からはまだ、少女の泣き声が聞こえてきていた。
 カカミは、自分と同じ十四歳にもなる年頃の少女が、あんなに声を張り上げて泣くのを初めて見た。
 カカミは、屋根や壁、その全面を笹で葺かれた村長のチセを振り返る。
 ――なんだよ、あいつ。まったくひどい癇癪持ちだな。
 ミナがこのコタンに連れてこられて、二年が経った。
 コタンのそばを流れる川は、下っていくと、海へと注ぐ石狩川に合流している。その石狩川の下流域のコタンから、彼女は姉と共に引き取られてきたのだ。ツキノエの遠い親戚筋に当たる人物が治めていたその村の民は、和人によって皆殺しにされ、ミナたち姉妹はその生き残りだった。姉には問題はなかったのだが、ミナは連れてこられた当初から、ずっと人形のように心を閉ざし、引き取られた村長のチセにこもっている。それをいたく心配していたツキノエから、カカミは、友達になってくれ、と頼まれたのだが……。
 どういうわけか怒らせてしまった。 
 女のことはわからない。不思議で不可解。しかも特殊な状態ときている。ツキノエに友達になってくれ、と言われたことを今一度思い出すが、どうせ怒らせてしまったことだし、さらに彼女を泣かせたとなれば、とっくに反故になっただろう。元々気持ちが進まなかったことだ。
 ――ま、いいか。
 カカミは、数軒のチセに囲まれた広場を突っ切るように歩いていくと、コタンを取り巻く林の中へとその足を向けた。


 それから数日。
 カカミは、セムの中で、養父のメヌカから頼まれた仕事をしていた。
 思ったよりも時間がかかって、カカミは、イライラし始めていた。
 頼まれたのは、ユク(鹿)狩りに使う矢筒の修理だ。本体部分に巻かれた樹皮がはがれてしまってそれを直せと言われたのだ。ただ巻きなおすだけの作業のはずが、よくよく見れば、その不具合ははがれてしまった樹皮だけではなかった。矢筒の本体を取り囲んでいるフレラプと呼ばれる補強部品も取れかかっていた。
 メヌカから仕事を預けられた時、すぐに終えられる簡単な作業だと思ったのは甘かった。樹皮のはがれた部分には、鹿の爪を煮詰めて採った接着剤が必要だったし、作業は、接着剤を溶かすところから始まった。結構な手間だ。きっとメヌカは、最初からそのこともわかって、カカミに仕事を預けたのだろう。
 それでも作業をやっと終わらせると、カカミはほっと息をつく。そして、おもむろに木彫りに使うマキリを腰から取り出して、その場に常備してあるトクサでマキリの刃を研ぎ始める。
 庭先で別の仕事をしていたメヌカが、セムへ入ってきた。入ってくるなりカカミのやっていることを見て、眉をしかめる。小言ともつかない愚痴を言い出す。
「また、それか。おまえはマキリの手入ればっかりやるな。他の道具の手入れももっと丁寧にやれっていつも言っているのに」
 カカミは、七年前からこの家の子として養ってもらっている。
 本当の父親の所在はわからない。元々、どのコタンにも属することをしない変わり者の父だったらしい。カカミは、母親を赤ん坊の頃に亡くしてからは、父親と二人だけでこのコタンからは離れた場所にチセを設けて暮らしていたのだが、その父親が、ある日突然、カカミの前から姿を消した。七歳の時のことだ。狩の術も知らず、ひもじさのあまり動けなくなっていたのを、メヌカに発見されたのだ。
 当時、メヌカら夫婦に子はいなかった。望んでもなかなか授からない巡り合わせの中にいたこともあって、村長のすすめからカカミをそのまま引き取ったのだが、一昨年、念願の実子が生まれた。
 カカミと義理の弟との待遇の差は、歴然だ。もっとも、まだ赤ん坊の域を出ない幼い子供と純粋に比較できるものでもないのだが、それにしたって、メヌカの尖った目尻があれほど下がるのをカカミが見たのは、義理の弟が生まれてからだ。
 育ててもらって、文句も言えない立場であるが、七年経っても親であるとは思えない。
 自分の生い立ち、それとも身体中に巻き付くようについている蛇のような痣が原因だろうか? 養父と養母から優しいまなざしを受けた覚えは、一度だってない。
 メヌカは自分の取りかかっていた仕事を終えたようだ。セムの中に入ってきて、持っていた鉈をぞんざいな調子でカカミに突き出した。
「これも研いどけ。そしたら終わりだ」
 そして自身は、チセの母屋へ入っていった。カカミは、ため息交じりに受け取った鉈の刃先をトクサで一通り研ぐと、鉈をセムの片隅にしまった。
 これからはやっと自由な時間だ。すでに日はずいぶん西に傾いているので、夕刻までのわずかな時間と言わざるをえないが、全くないよりましである。
 カカミにとって、木彫りは生きがいであるといっていい。特にある特定のエムシ(儀式用の刀)に出会ってからは、恋に落ちてしまったかのように、その文様と刀鞘の形を再現することに夢中になっている。
 そのエムシとは、村長のチセの神窓に吊るされている刀だ。村長は、この刀を宝刀として敬っているのか、至極大事にしているようだ。
 カカミは、村長こそを木彫りの師匠と信頼しており、ことあるごとに、彫った自分の作品を見せに行っていたのだが、先日、カカミは村長のことを怒らせてしまっていた。心をこめて作ったものを駄作と言われ、頭にきたのだ。ミナと友達になってやる代わりに、神窓のエムシを貸してほしいと無茶なことを言って、逆鱗にふれた。
 懐には昨日のうちに性懲りもなく確保していたクルミの材が忍ばせてある。さすがにこの何日かは、すぐに新しいものを彫る気になれなくて休んでいたが、どんなにけなされ、袖にされても、彫る対象物を変えるつもりは毛頭ないのだ。
 つい先日までそこここに残っていた雪もすっかり融けた。これからの季節は、天気がよければ表で木を彫る。誰にも邪魔されずに心置きなく作業に没頭できる秘密の場所をカカミは数か所持っている。
 さすがにこの間の出来事が尾を引いて、この数日はずっと気持ちが乗っていない。今日もあの水の流れる音を聞きつつ彫れる川縁の場所が適当だろう。
 そんなことを考えながら住んでいるチセを後にした。その時だった。
「カカミ、くん?」
 ふいに声をかけられて振り返ると、チセの横に立てられているプー(食料倉庫)のすぐ横に女の人が立っているのが見えた。今までにおそらく言葉を交わしたことはないだろう。だが、彼女のことは知っている。ミナの姉だ。名前を確かフミといったか。ミナよりいくつも年が上なのだろう。少女というよりはすでに大人の顔をしている。
 カカミは怪訝な表情を浮かべつつ、無言のままで続きを待った。
「わかるかな、私のこと。村長の所に住んでる――」
「フミさんでしょう。知ってるよ」
 ぶっきらぼうな言い方にも動ぜず、フミは少し顔をほころばせた。
「良かった。知っててくれて。あのね、ちょっとお願いがあるの。少しいい?」  
 軽くうなずいて見せると、カカミは怪訝そうにひそめた眉をさらにひそめて、無言のままで続きを待った。
「あのね。この前、妹に会ったでしょ?」
 カカミは黙って首を縦に動かした。
「妹を大泣きさせた張本人?」
 その言葉には、思わずむっとしてしまう。そうですけど? と思いつつ、軽くうなずく。
「妹があんな風に泣くのを見たのは、本当に……本当に久しぶりで」
「悪いと思ってるよ。……ちょっと意地の悪いこと言ったから。でも――」
「違うのよ。責めてるわけじゃないの」
 それじゃあなんだよ? 先の展開が読めないカカミは、口をつぐんでフミの顔を見返した。
「カカミくん。ミナに木彫りを教えてやってくれないかな?」
 カカミは少し驚いた。その話は、ミナを大泣きさせたことで反故になったと思っていたのだ。フミは続けた。
「妹ね、知っているとおり、友達がいなくて。今までにも散々手をつくしたっていうか、同じ年のメノコ(女の子)にお願いしたりしてきたんだけど、全然心を開こうとしなくって」
 そうか、なるほど。どうやら、村長とはまた別口の頼みらしい。しかしまた、どうして自分なんかにフミまでが頼もうとするのだろう。
「ミナが大泣きしたでしょう。それにカカミ君が関わっているってことを知って、思ったの。頼んでみようって。それにね、ミナね、メノコのくせにおかしいんだけど、木彫りが好きなの。だから――」
「おかしいよ」
「え?」
「だって、泣かせたら普通反対でしょう。……相性が悪いよ。ますます怒らせることになりかねない」
「……そう言われれば、そうなんだけど」
「それじゃ。おれ、行くところあるから」
 カカミは、つっけんどんに話をきると、踵を返す。林を挟んだ先にある川へ向かって歩き始める。
「カカミくん、待って」
 カカミは、ため息をついて振り返る。
「うまく言えないんだけど、妹ね、今まで、怒ることさえしなかったのよ、人形みたいに。……知ってるよね。それがこの間のことで変わったの。兆し、っていうのかな。そういうものをあれからあの子に感じるの。……それともミナのことは嫌い?」
 兆しとかなんとか、カカミにはそういうものはよくわからない。しかし、一度は村長からの頼みを引き受けたいきさつがある。食い下がってくるフミの言葉を強固に断る理由もなかった。
「……わかったよ」
「良かった。本当?」
「ああ。村長のチセに行けばいいのか?」
 フミは一変、笑顔になった。
「そうなの。相変わらずチセにこもったきりでいるものだから。本当は、外の空気をもっと吸った方がいいんだけど。ほら、雪もすっかり融けたことだし、これからの季節は本当に気持ちがいいじゃない?」
「明日でいいのか?」
「うん。エカシ(男の老人を敬う呼び方)とフチ(女の老人を敬う呼び方)には言っておく。忙しかったら、無理しなくてもいいから」
 カカミは、黙ってうなずいて見せた。フミは、笑顔のままでありがとう、とお礼を言うと身を翻し、急ぎ足で歩いていった。


 ――とはいうものの。
 数日前に苦い思いをした場所。村長とはあれから顔を合わせていない。何も事態は良くなっていない、その中で、自分の体をあそこへ運んでいくなんて、カカミは少し気が重かった。それでも約束した以上、少し顔を出す程度でも寄らないわけにはいかないだろう。
 自然、養父から言いつかった仕事がはかどらない。時間稼ぎというわけではないが――いや、多分そうなのだろう。ゆっくりゆっくり仕事を進めた。昨日よりも遅い時間に仕事は終わって、やっとカカミは向かない足をミナの住む村長のチセへと向けた。
 具体的な時間は誰にも告げていなかったが、フミは、庭先で仕事をしながらずっと気にして待っていたのだろう。チセの前に現れたカカミをすぐに見つけて、近寄ってきた。
「来てくれたのね、ありがとう。……ミナにはそれとなく言ってあるから。どうぞ入って」
 いざなわれるままに、中へ入った。入ってすぐのセムの片隅に、ミナは相変わらず座っていた。
「カカミ、どうぞよろしくお願いね」
 カカミにしか聞こえないほどの小さな声でフミはこっそり耳打ちすると、再びセムを出て行った。カカミは、フミが出て行ったのを確認してから、所在なさげに、よお、と発した。
 ミナは、チラリとカカミを見上げた。
「座っていいか?」
 ミナは無言だ。だが、カカミがその場にいるということを拒んではいないみたいで、自分の向かい側の花ゴザを視線で示して、座れば、という風に顎を動かした。
 カカミは、視線で示された場所に取りあえず座る。
 しかし、ミナがカカミに反応したのもそれまでで、ミナは再び手元に視線を戻すと、数日前も取り組んでいたのと同じ板を腕に抱えて、マキリで文様を刻み始めた。
 なにが「兆し」だ。雰囲気も何もこの間と全く変わらないじゃないか。心の中で舌を打ちつつ、どう切り出すか考え始める。
 この間のことを悪かったな、と謝ってしまうのも違う気がする。かといって、いきなり何事もなかったように快活に話し出すことも、カカミの性分上は不可能なのだ。
 仕方がないので、カカミは自分の懐の奥から彫りかけている木片を取り出し、腰に携えているマキリを抜くと、自らも木彫りの作業を始めた。
 しばらくすると、ミナが「痛っ」と、かすかな悲鳴を上げた。声につられてミナを見る。ミナは、左の親指にマキリを突いてしまったのか、その親指を口に持っていったところだった。
「しょっちゅうなんだな。やっぱり下手だ」
 どうにも自分は口が悪い。思わず本音が滑り出てしまった。しまった、と思った時にはもう睨まれていた。
「……悪い。口が滑った」
「人の粗探しするためにわざわざ来たの? 話では、木彫りを教えに来てくれるとか。……ちっとも教えてくれないから、なぁに? と不審に思っていたら。……別に誰かとあたしは違って、エカシに認められようだなんて身の程知らずの厚かましい人間じゃありませんから、うまくならなくても結構なんですけど?」
「なんだよ。せっかく来たのに、おまえが不愛想に引きこもってるからいけないんだろ。こんにちは、とか、ここに座って、とか、普通は言うだろ。まったく、取りつく島がありゃしねえったら」
 ミナの目が更に鋭く大きく見開かれた。瞳が少し潤んできているようだ。まずい。また大きな声で泣きはじめるのかなと、身構える。しかし、ミナは表情を戻した。何事もなかったかのように、再び木彫りの作業に戻る。
 カカミは内心、ほっと胸をなでおろす。再び自分の作業に戻ろうとマキリを手に持ち、ふとミナの手元に目がいった。と、マキリで突いた親指の傷から鮮血がぷっくりと盛り上がってきていた。とっさにカカミは持っていたマキリで、自分の衣服の裾を切り裂く。自身の体を前へ乗り出し、ミナの左手首をぐいと掴んだ。
「貸せよ、指。血がまだ出てる」
 驚くミナにそういって制止をかけると、カカミは先に切り裂いた布地をミナの指にぐるりと巻いた。
「……まったく。気をつけろ」
「あ……ありがとう」
 少し呆然としていたミナが、蚊の鳴くようなかすかな声で礼を言う。しかし、カカミには礼を言われる覚えはなかった。
「わかってないな」とカカミは返した。
「ここは、『ありがとう』じゃなくて『ごめんなさい』だろ」
 ミナは、言われる意味が分からないのだろう。きょとんとしている。カカミは続けた。
「もう少しで、おまえの血がその盆の上に落ちるところだ。いいか。木を彫るっているのは、カムイに向かうということだ。しかもおまえが彫っている盆は、儀式に使うものだろう。……習作にしても、だ。そういうものを人間の血で汚したら絶対にいけない。……上手いとか下手とか以前の問題だ」
 ミナの瞳がカカミを見ていた。きょとんとしていた顔はとっくにひっこめている。代わりに食い入るように大きな瞳を見開いている。怒らせたかな?
 言い過ぎたかな、とやっぱりカカミは言ってしまった後で自分を少し顧みる。
 ……だけど。
 間違っていない、と自分の心を奮い立たせるように思い直した。自分が曲がりなりにも木彫りを誰かに教えるならば、やっぱり「気持ち」は大切だ。ミナが指を切り、板を血で汚そうとしたのは、むしろ絶妙な機会だったかもしれない。心構えは、やっぱり初めに教えておくべきだからだ。
 確信のもとにミナを見返す。と、怒っていると思われた目は、ふいに色を失い、ミナは視線をカカミから外した。
 カカミは、この先、どうやってミナに木彫りを教えようかと考え始める。考えながらも、考えあぐねる。
 ミナは自分の作品への作業に戻ったようだ。カカミも軽くため息をつくと、自らの木片を握り直した。
(続きは電子書籍で!)
登録日:2014年07月19日 15時23分

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