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天生諷
著者:天生諷(あもうふう)
極々平凡な会社員。毎日楽しい出来事はないかと、心の中で模索しながら生活をしている。旅行と昼寝をこよなく愛し、読書とゲームが生きる原動力となっている。群馬県在住。
小説/推理
【電子書籍】スコルピオの星 御陵高校探偵倶楽部事件簿
評判の占いの館「サイン」を舞台に起こる連続殺人事件。軽い気持ちでサインを訪れたふたりだったが、それ以来、おかしくなってしまう佐野。蓮音も「消したい過去を乗り越えるために道を示す」という言葉にぐらついていた。そんな折、蓮音が所属する生徒会で立ち寄った教会でスコルピオの第一の殺人事件が発生。捜査によって占いの館に疑いの目が注がれることに。凄惨な事件に巻き込まれる蓮音と生徒会の面々。そして、ついに御陵高校探偵倶楽部が動きだす。部長でヒーローオタクの杏子、斜め上の天才、真理。武闘派だが女に弱い東光、コスプレマニアのアサギと一癖も二癖もある部員たちにもたらされた事件は思いもよらぬ展開が待ち受けていた!

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スコルピオの星 御陵高校探偵倶楽部事件簿


 プロローグ 確立


 空を見上げると、ポツリポツリと雨が降ってきた。
 予報ではこれから大雨になる予定だ。予定通りの雨。全ては順調に進んでいる。
 切れた息を整えながら、私は覚束おぼつかない足取りで後ろに下がる。
 人を殺すのは簡単だ。刃物を一つ、若しくはロープ。そのどちらもなければ両手を使えば良い。シャープペンシル一本でも、十分人は殺せる。重要なのは覚悟と道具の使い方だ。
 雨粒が額を伝い、鼻筋を通り、顎から滴り落ちる。
 私は上を見上げる。遠くにある街灯の僅かな光に照らされた死体が、ギシギシとロープを鳴らしながら揺れていた。
 また私は人の命を奪った。これで二人目だ。まだまだ殺されなければいけない。

 咎人とがにんは吊されて死ぬべし

 私は呟いた。
 殺されてもおかしくない人物。法では裁けない人物に、それ相応の罰を与えたに過ぎない。今は人を殺したという罪悪感よりも、一つの正義を成し遂げたという達成感の方が大きい。
 世界は閉ざされている。
 自分という存在以外にも、様々な人々が街には溢れかえっている。だが、人は心と思考を共有することはできない。幾ら言葉を口にして伝えようとしても、言葉は放たれた瞬間に別の生き物となり、聞き手の耳に入る。千の言葉を持って気持ちを伝えようとしても、伝える側の気持ちを全て受け取ることなど不可能。嬉しい、楽しい、辛い、憎い。あらゆる感情の振り幅は人それぞれであり、強弱も様々だ。
 受け取る側は、相手の気持ちを知った気持ちになり、ただ自己満足しているだけに過ぎない。鏡を見るように、相手の心を見ている気になっているだけだ。だから、人は孤独だ。
 本当の意味では解り合えないし、話し合いで解決できないことは山のようにある。仮に、人の心が本当に伝わるのだとしたら、この世界から争いは無くなっているだろう。相手の気持ちが分からないから、自分の気持ちを伝えられないから、人は絶望し、争うのだ。
 私は私の正義を一つ成していく度に、自分が確立した『個』である事を確認する。確認しなければ、世界と自分の境界が曖昧になってしまう。
 世界は一つ。
 私も一つ。
 誰もがそうであるように、世界は私だけのものであるべきなのだ。
 そう、全てをやり終えた時、私は私になれる。


 五月二五日 日曜日

 初夏の日差しを思わせる強い陽光が頭上に降り注ぐ。
 なにが一体どうなっているのだろう。
 突然の呼び出し。河川敷には、見知った顔が集まっていた。
 長い髪を風に靡なびかせた少女。彼女の力強い眼差しがこちら側に注がれている。
 事件は解決したはずだ。誰もが忘れたいあの事件。多くの犠牲者を出し、多くの悲しみを生み出した事件。それなのに、どうしてまたあの禍々しい記憶を呼び起こさせるのだろうか。
 自分の戸惑いを表情から見て取ったのだろう。少女の横に立つ扇子を手にした青年は、良く通る声で言った。
「まだスコルピオの事件は解決していない。事件の本当の解決は、これからだ」
 彼の声は、冷たい風を切り裂いて響き渡る。
 本当の解決? 本当の解決とはなんだ。まさか、犯人が他にいるとでも言うのか。
 ギュッと力強く手が握られた。この時になり、自分の横に女性がいることに気がついた。年上の彼女は、少し緊張した面持ちで目の前に陣取る集団、自称正義の味方、御厨杏子みくりきょうこを中心とする御陵高校探偵倶楽部の面々を見つめていた。
 果たして、この後なにが起こるのだろう。
 五人もの命を奪ったシリアルキラー、スコルピオ。警察やマスコミの見解では、一週間ほど前に事件は解決したはずだ。なのに、どうしてまだ探偵倶楽部は事件が解決していていないというのだろうか。
 自分の困惑をよそに、青年は射すくめるような眼差しをこちらに注ぐ。思わず視線をそらしてしまった。
 彼から放たれる無言の圧力を前にして、世界は不安定に揺れた。足元が瓦解し、前後不覚になりその場にペタンと腰を落とした。
「蓮音れおん、彼らを殺したのは、お前だ」
 青年、珠洲真理すずまりの言葉は鋭利な刃となって蓮音の胸に突き刺さる。
「俺が、殺した……?」
 反論の言葉は持っていなかった。
 分かっていた。本当は分かっていたのだ。ただ、認めたくなかった。認めれば、真理に負けてしまうことになる。自分が劣っていると認めてしまうことになる。
「……分かっていたよ……俺が悪かったんだ。俺が、もっと早く動いていれば……」
「六人の被害者を出すこともなかった。あの時、俺達に頼んでいればな」

 パチンッ

 珠洲真理が、開いていた扇子を勢いよく閉じた。
 御厨杏子が真理と見つめ合い、コクリと一つ頷いた。
「御陵高校探偵倶楽部! これより、正義を執行する!」
 だだっ広い河川敷に、御厨杏子の声が抜けるような青空に響き渡った。



 第一章 Sign

 思い返すと、事件はだいぶ前から始まっていた。
 春の匂いが残る四月の後半。四月一九日。
 俺、小野寺蓮音はこの日、一人の女性と出会った。その出会いから、俺は『スコルピオ』を名乗る犯人の事件に巻き込まれていくことになる。
 多くの出会いと別れを同時に運んできたスコルピオ。俺は一生この事件を忘れないだろう。忘れられないだろう。
 殺したいほど怒り狂い、死にたいほど悲しんだ。だけどこの後、何年か後、この事件で得たものを良かったと思える、そんな時が来るのだろうか。

   ◇

「占い?」
 クラスメイトの言葉に、蓮音は高い声で聞き返した。
「そう、占い。最近さ、色々とあっただろう? だから、ちょっと見て貰わない?」
「なにを? そんなにどこの大学に行くか迷っているのか?」
「いや、そうじゃなくてさ」
 友人である佐野道之さのみちゆきは恥ずかしそうに頬を赤らめ、鼻先を掻く。
「ホラ、最近は色々と不穏だろう? 呪われていたりしたら、ちょっと嫌じゃないか?」
「呪いって……。そもそも、占いと呪いは関係ないだろう?」
「そうだけどさ」
 蓮音は教室を見渡す。
 確かに、ここ最近の校内の雰囲気は少々異常だ。元美術部の部長、自殺した真壁志保まかべしほの魂が校内に漂い、不可解な事件を起こしているとの噂もある。御陵高校探偵倶楽部を名乗る面々が、色々と事件解決に向けて動いているというが、正直興味は無い。
「市内にさ、良く当たる占いの館があるんだってさ。学校でも色々と話題になっているんだ」
「占いの館、ね……」
 蓮音はあまり乗り気ではない。幽霊、呪い、占い、そう言ったものをどうしても信じることができない。否定しているのではなく、目に見えないものを信じられないのだ。そういった理由で、蓮音は今まで神頼みをしたことがない。初詣に行けば、賽銭箱の前で手を合わせるが、そこで一年の健康などをお願いしたことはない。
「なあ、一緒に行ってみようぜ?」
 佐野の言葉に、蓮音は難色を示しながらも頷く。この殺伐とした校内の空気が占いなどで良くなるとは思えないが、佐野が行きたいのなら付き合っても良いだろう。それに、蓮音も占いを見たことが無い。どんなものか一度見ておくのも悪くないかも知れない。
「いいよ、帰りに付き合うよ」
「OK! 今日、生徒会は?」
「あ〜少しある。ちょっとだけ待っていてくれよ。すぐに終わらせるからさ」
 ここでチャイムが鳴り、佐野は自席へ戻っていった。
「ナニナニ? 蓮音は佐野とどこか行くの?」
 数学の準備をしながら問いかけてきたのは、小学生の頃からの友人である椎木朝輝しぎあさひだ。この雰囲気が沈んだ学校にあっても、彼女はいつものように快活で、その名が示す通り、太陽のように明るかった。
「ちょっと、市内にある占いの館にね」
「あっ、それ、サインって所でしょう?」
「サイン?」
「今、人気の占い師なんだって。占い師は隠者、ハーミットって名乗っていてね、結構な人気で、私の買ってる雑誌にも紹介されていたわよ」
「朝輝もそのサインに行ったことあるのか?」
「うんん。私はないわ。S−NETにも、最近サインに関する結社が作られたけど、なんか妙なのよね。ただの占いって言うよりは、どことなく宗教ぽいって言うか。信者みたいな人もいるって噂だし」
「信者?」
「そ。なんかさ、そういうことを聞くと怖い感じしない? 友達の何人かは行ってるけど、私は遠慮してるんだ」
 それほどまでに当たる占い師なのだろうか。朝輝の話を聞けば聞くほど、好奇心が首をもたげてくる。
「ま、蓮音は大丈夫だと思うけど、単純な佐野辺りはすぐに引っ掛かりそうだから、ちゃんと見張ってるのよ」
「ああ……」
 朝輝は前を向いた。数学の教師が入ってきたのだ。蓮音は一度小さく深呼吸すると、授業に集中した。

   ◇

 警察に予告状が届くことはあまり珍しくない。ネットの掲示板などで騒がれている犯罪予告はいつもテレビで報道されている。といっても、報道されるのはごく一部で、本当は報道されている以上の脅迫状、予告状が届く。九割以上は愉快犯であり、実際に事件が起きることはない。
 予告状が来たらそれなりに調べはするが、起きるか起こらないか分からない案件に人も時間も割けるわけがない。マスコミは怠慢だと言うが、もしも全ての事柄に真剣に対応していたら、人員は今の数倍は必要だろうし、寝る間も惜しんで働かなくてはならない。なので、自然と予告状などは明らかに愉快犯と思われる物は捜査から除外される。
 群馬県警捜査第一課の刑事、井守忠伸いもりただのぶは、茶封筒の中から姿を現したA4用紙を見て慄然とした。そこには、短い文章が七行認められていた。

 裁けぬ罪をスコルピオがニードルによって裁く
 咎人は頭を割られて死ぬべし
 咎人は吊られて死ぬべし
 咎人は焼かれて死ぬべし
 咎人は落ちて死ぬべし
 咎人は潰されて死ぬべし
 咎人は刃で死ぬべし
 咎人は無限の獄で死ぬべし

 この文章が意味することを理解するのに、そう時間は掛からなかった。刑事の勘、というかも知れない。プリントアウトされた文字だったが、そこから伝わってくる狂気は尋常ではなかった。他の同僚も同じことを感じたのだろう。皆、神妙な面持ちで文面を見つめていた。
「井守! この文章を鑑識へ回してくれ」
「はい」
 警部に言われ、忠伸はすぐに鑑識へと向かった。
 向かいながら、手の中にあるこの文章がやけに熱を帯びてきた。
 刑事になって十年近く。幾度となく奇っ怪な事件に携わってきた。その勘が告げている。これは『本物』だと。本気だと告げている。その証拠に、『咎人』、罪を背負った人物が誰か、どこで殺害されるのか、そうしたことが記されていない。つまり、事件が起きることは知らせるが、邪魔はされたくない。そういうことなのだろう。これでは、後手に回るしかない。
 スコルピオ。聞き慣れないが、その言葉から『蠍さそり』を表す『Scorpion』だと想像できる。だが、忠伸が思いつくのはそこまでだ。犯人の通称が分かった所で、調べるには限度がある。
 重い気分を紛らわすように、忠伸は足を止めて埃で汚れた窓の外を見る。今にも雨が降りそうな空模様だ。予報では、お昼過ぎから雨の予定だ。
「事件、か……」
 ポツリと呟いた忠伸は、胸に淀む悪い予感を振り払うように、一度深呼吸をして歩き出した。
 まだなにも始まってはいない。この予告状だって、詳細は書かれていない。イタズラの可能性だってある。いや、ただの愉快犯の可能性の方が高い。この手紙を意識しているのだって、なんの根拠もないただの勘だ。これと同じような文章は、結構な頻度で送られてくる。今回も、ただのイタズラのはずだ。
 事件が起こることを喜ぶ刑事はいない。まして、ここに記されているのは七名だ。小説やドラマの中と違い、現実では人一人殺すのだって容易ではない。それが七名となれば尚更だ。
「そうだな。嘘に決まっている……。これはただのイタズラだ」
 忠伸は自分に言い聞かせるように呟いた。まだ年齢を言い訳にするには早いが、歳を重ねるごとに心配事が多くなっていく。少しは楽観的に考えた方が良いかもしれない。
 スコルピオの事件は、きっと起きない。希望的観測でそう思っていた忠伸だったが、忠伸の考えは悪い意味で裏切られることになる。杞憂が杞憂ではなくなり、世間が震撼するような連続殺人事件が起きることになるのだった。

   ◇

 空に立ち籠める鉛色の空。湿っぽい空気を吸いながら、蓮音は生徒会室にいた。書記としての仕事はあまりないが、選ばれたからには責任を持って遣り遂げなければいけない。
「皆、揃ったわね」
 一同を見渡して言ったのは、生徒会長である宇佐見鴇子うさみときこだ。高校三年生、才色兼備の彼女は、学園でも人気が高く、去年の文化祭で行われたミスコンでは惜しくも準ミスだった。長い髪を首元で一つに結った鴇子は、書記である蓮音を見て、次に会計である少女に目をとめる。
「聖美さとみ、各部の予算案は上がったかしら?」
 聖美と呼ばれた少女は、ノートブックのキーを叩いていた手を止めると、「はい」と小さく答えた。
「今、会長のPCにデータをメールで送りました。予算は去年に比べると14%ほど上がっています。得体の知れない部が幾つか増えたので」
 黄色いリボンをした聖美は、まだ幼さの残る顔を引き締めて鴇子を見る。彼女は高校一年生。つい三週間ほど前に入学したばかりだ。中学の頃からの鴇子の知り合いということで、生徒会長の権限で聖美が会計に抜擢された。短いおかっぱに白い肌。何者にも屈しない強い意志を秘めた眼差しは、常に強い輝きを放っている。美しい少女だが、氷のような冷たさと他者を寄せ付けない雰囲気を纏まとっており、蓮音は年下の聖美を前にすると不思議と緊張してしまう。
「うん……ちゃんとできているわね。エライエライ」
 ニコニコと微笑む鴇子に、聖美は少し抱け頬を桜色に染め、再びノートブックに目を落とした。
「だけど、本当に沢山の部活が増えたな」
 そう言って鴇子の肩越しにPCを覗き込んだのは、副会長の栗原茜くりはらあかねだ。ほんのりと茶色がかったボブに縁なしの眼鏡。鴇子と同じ三年生で、成績は常に学年上位にいる優等生だ。優等生といっても、決してガリ勉なわけではなく、アルバイトをしながら高校生活を送る苦学生だ。彼女は左胸に留めてあるペンダントヘッドを右手の指先で弄びながら、ディスプレイを見て溜息をついている。
「そうね……予想はしていたけど、一月もたたずに部活が50個も増えるって、どういうこと?」
「S−NETの影響じゃないでしょうか。結社(society)の延長上で部活を作る人が沢山増えているみたいですね。この分では、まだまだ増えると思いますよ」
 S−NETとは、御陵高校が運営するSNSで、結社と呼ばれるグループを作って生徒同士でコミュニケーションを取ることができる。
 結社は様々で、テレビゲーム愛好者、おしゃれ大好き高校生、オカルト大好きオタク達など、様々な趣味を持つ生徒達が、匿名で参加できる。もちろん、部活動や仲良しグループの連絡網としての機能も果たしており、結社の数は数千にものぼる。匿名性が高く、いじめや犯罪の温床になりやすいS−NETだが、学校側もすべてを把握し切れていないのが現状だ。
「そう……。これは一度職員会議まで上げないとダメね。部活動は担当する教師が必要だけど、名前だけ貸して後は放置している教師が多すぎる。事実、部費だけ請求されて、どんな内容の活動をしているのか不明な部活動も沢山あるわ。なんとか、その辺りから絞っていきましょうか」
「絞るって、それは、部の取り消しもあるということですか?」
 蓮音が声を上げる。自分は叡智究明団といわれる部員人数6名の部活に所属しているが、鴇子の言葉を借りるなら、名前だけで活動していない部類に入る。
「ああ、蓮音は叡智なんとかって部活に入ってるんだっけ?」
「叡智究明団です」
「活動内容と規模によるけど」
「部員六名で、活動内容は図書館で本を読もう、ってことだけです」
「廃部ですね」
 カタカタとキーボードを叩きながら聖美が冷たく言い放つ。
「ちょっと! 待ってくれよ! あまりにも素っ気なさ過ぎないか? 部活動が廃止って、それだけで学生生活がガラリと変わるんだぞ!」
「どうせまともな活動もしていない部活だろう。そもそも、図書室にある本を読むだけなのに、なぜ部費が必要になる。同好会で十分だ。いや、それこそS−NETでの繋がりだけで十分ではないか」
 茜だ。副会長の言葉に、蓮音は「それはっ……」と言葉に詰まる。
「あらかた、お菓子でも買って食べているんでしょう?」
 聖美の言葉に、蓮音は「そんなことはない」と、口を開いたまま固まった。
「私、お姉ちゃんから聞いて知っていますよ。蓮音先輩の所属する部活は、飲食禁止の図書室でお菓子を食べて、皆に迷惑を掛けているって」
「朝輝かぁぁぁ〜〜〜!」
 いつだったか、お菓子を食べながら談笑していたら、朝輝に叱られたことがあった。あの時は、飲食云々よりも大声で話していたことを注意されたが。
 いつもはきつく結ばれている聖美の口元は少し緩んでいた。
 聖美がいうお姉ちゃんは、隣の席の椎木朝輝。もちろん、朝輝と聖美は姉妹ではない。話によると、二人は近所で小さい頃から家族ぐるみで付き合いがあったそうだ。その流れで、高校生になっても聖美は朝輝のことを『お姉ちゃん』と呼ぶのだそうだ。
 チラリと、蓮音は壁に掛かっている生徒会役員のバストアップの写真を見る。写真の下には、それぞれネームプレートが貼られているが、聖美のネームプレートには白いカラーテープが貼られており、その上に小鳥遊聖美たかなしさとみと油性ペンで書かれていた。
 聖美はあまり家庭の事情を話したがらない。生徒会の仲間で詳しい事情を知っているのは、蓮音と鴇子だけだろう。蓮音と鴇子は、同じ中学の出身で、それまでにも何度か接点があった。といっても、その接点はあまり良い思い出ではないが。
「ま、叡智究明団が廃部かどうかは置いておいて、少し精査する必要があるのは確かね。学校のお金をある程度生徒会の権限で自由にできるといっても、元を辿れば親御さんのお金なんだから」
「そうだな。この時期は雨後の竹の子のように沢山の部活ができる。ある程度発生するのを待って、一気に刈り取ろう。そして、ガイドラインを定め、来年以降は査定を厳しくして貰おう」
「副会長、厳しいですね」
「当然だろう。私達は生徒会。生徒の要望を聞くだけが仕事じゃない。締めるべき所は締めなければいけない」
 茜は腕を組むと、その容姿に似つかわしくない男のような言葉を投げかけた。
「うう〜、ですね」
 しょんぼりと肩を落とす蓮音をそのままに、鴇子は幾つかの議題を定義し始めた。学校では様々な問題が起こっていたとしても、生徒会にはまだ影響はなかった。仕事を終えた蓮音は、足早に学校を後にして友人と待ち合わせ場所である中之鳥なかのとり駅へと向かった。
 この一時間後。
 学校では北校舎にある美術室の窓ガラスが割れ、奇っ怪な血文字が巨大なカンバスに浮かび上がる事件が起きるが、蓮音がそれを知るのは翌日のことだった。後に、『真壁事件』と呼ばれる事件は、生徒会、いや、一般生徒の知らないところで着々と進行し、いつの間にか解決していた。
(続きは電子書籍で!)
登録日:2015年10月27日 14時30分

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