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浅川こうすけ
著者:浅川こうすけ(あさかわこうすけ)
猫が好き。毛がつやつやの黒猫が特に好き。自分で飼ってるわけではなくて人様の猫相手に猫じゃらしを振ったりしています。でも本心では、自分自身が猫じゃらしにじゃれつきたいのです。時間やしがらみを忘れて一心不乱にじゃれつきたいのです。猫じゃらしを振っているのが美しい奥方ならなお嬉しい。――と、こんなことを真顔でいう30代の未婚男子でございます。
小説/SF

幽幻オートカー

[読切]
中古で購入したオートカー。ルートさえ入力すれば目的地まで自動で走行する優れものだが、なぜか同じ場所で急停止する。詳しい友人に見てもらう西谷だったが、不可思議な事態が……。
 三日連続でオートカーが急停止してしまい、鈍感な西谷泰行もさすがに背筋が凍った。
 ルートさえ入力すれば自動で目的地まで走行するオートカーには、安全装置として人感センサーが備わっていた。前方に人がいれば、その距離に応じて、減速なり徐行なりする。飛び出してくれば急停止もする。
 しかし、フロントガラスのむこうには、杉木立のあいだを這い登る道しかなかった。ダッシュボードのモニタに「飛び出しのため急停止」というメッセージが表示されているのは、なんの冗談だろうか。
 オートカーが急停止する地点は決まっている。仕事終わりの帰路につく、その途上であった。杉木立の登り道にはいってから、いくどかヘアピンカーブを曲がる。細い私道が斜めに下る地点を通り過ぎ、さらに十メートルほど走ったら急停止だ。
 一昨日はセンサーがたまたま誤作動したと思った。昨日はなんらかの動物が横切ったのを見過ごしたと思った。
 今日はもう理由が思いつかない。いや、ひとつ思い当たってしまっている。もしかして「アレ」ではないかと……。
 エンジンを再始動させた。オートカーが動きだし、ふたたびルートをなぞって走る。
 無意識だろう。震える西谷は、心のうちで南無阿弥陀仏と唱えていた。
 じきに「アレ」が見えてきた。
 墓地である。


 翌日、職場をでた西谷を待っていたのは友人の上原だった。
「中古車なんだろ、これ。オートカー自体、発売されてまだ間もないのに、もう中古にまわされてるなんてハズレとしか思えないぞ」
 助手席に腰をおろした上原は、そういいながらもノートパソコンからのびたケーブルをダッシュボードのコネクタに差し込んだ。彼がキーボードでなにやら打ち込むと、オートカーのモニターに前方の景色が映る。ただし、画面全体が青みがかっていた。
「人感センサーモードに変更した。青っぽく見えるのは温度が低いからだ。ほら、人間だと赤い」
 横切っていく通行人は赤や橙色で表示されていた。
「なにを人間だと誤認しているのか。オレたち自身の目が確かめてみようぜ。その場ですぐにわからなかったとしても、パソコンのほうで録画してるからな。あとで見直せる」
 急停止の理由は故障と考えるのが妥当だろう。上原の「ハズレ」という意見はしごく当然だ。
 だが故障なら、場所を選ばず急停止するのではないだろうか? どうしてあの場所だけで急停止するのだろうか?
 あそこにはなにかがあるのだ。オートカーのソフトウェアに明るい上原なら「近くに墓地があるから」以外の理由を見つけてくれるに違いない。


 オートカーが曲がり道を登っていく。建物はないが、杉木立が視界を遮り、カーブの先がどうなっているかはわからない。ミラーもあるにはあるが、すべてのカーブに設置されているわけではなかった。
 斜め下にのびる私道を通り過ぎた。
「そろそろだ」
 ふたりでモニターを注視する。
 声をあげたのもふたり同時。
 映っていた。青い画面に赤とオレンジの靄が渦巻いている。さきほど見た通行人の色よりも薄いし、人間にも見えないが、オートカーは急停止した。エンジンがとまる。車内にひとが乗っていれば電源は切れないのでモニタはついたままだ。
「なるほどなあ」
 上原があごをなでなでうなずいた。
「この熱がなにかはわからないが、ほら、丸く渦をまいてる。これが人間の頭に見えなくもない」
 いって外へでた。
 西谷もあとへ続く。車がほとんど通らない道なので、そもそも通行の邪魔になりようがない。
 上原は熱が渦を巻いている場所にいた。
「このあたりだけぬるいぞ。かすかに空気の流れも感じる」
 彼は手をかざして熱源を探そうとしていた。暖かいほうへ暖かいほうへ、ガードレールもない道の端によっていく。下の杉林を見下ろし、
「民家があるぜ。知ってたか?」
「いや。私道があるから近くに家があるとは思ってたけど、この真下だったのか」
 平屋建てで屋根は青い合板だった。排気用の円筒が上にむかって伸びており、先端についたファンからは白い湯気が吹きだしている。白い湯気は杉林まで流れてくる途上で霧散していた。
「風呂か台所か。古臭いつくりの家だな」
 上原にうながされ車内に戻った。
「もういうまでもないが、あの家から排気されてる温い空気を人感センサーが誤認して急停止してたってことだな。寒い時期なら車道にでるまでに冷えきっただろうし、暑い時期なら温度差が小さいので誤認されなかったろう。故障というよりも、搭載されてる人感センサーの苦手なケースにかちあたってしまったんだな」
 いいながらカチャカチャとキーボードを打っていた。ダッシュボードのモニタが通常表示に戻る。
 あらためて言葉にしてくれたことで、西谷は心底から胸をなでおろした。


 オートカーは軽快に走り墓地を通過した。震えあがっていたのが嘘のように、なんでもない風景に見えた。
 墓地から二メートルほど先に、車一台なんとか停車できる空き地があった。墓参り時の駐車場にでもなっているのか、むき出しの土に雑草はそれほど生えていなかった。そこへオートカーがすべりこんだ。いったん停車してからUターンする。
 急停止地点を通過した。復路で急停止しないのは、いつも通りだ。行きは上りで帰りは下りになる。人感センサーの判定が微妙に異なるのかもしれない。
「なあ」
 上原が怪訝そうな声をあげた。ノートパソコンのモニタを凝視している。
「そういえば、そもそも、なんでこんな所へきてるんだ? なにもせずUターンするしよ」
「なんでって、そりゃあ――なんでだろう?」
 いわれてみると、そのきっかけすらあやふやだった。思い出そうとしても頭に靄がかかったようになる。
 上原が顔をあげた。
「オレはずっとパソコンを車に接続して録画していた。いま見てたところだ。オレが車から降りたあと、お前も降りていた。だれも乗っていないなら電源が切れるはずなんだ。だが、録画した動画にはオレたちが家を見下ろしてる姿が映ってる。おかしいぞ、これ。なにも映ってない画面を録画してたはずなんだ。なのに、オレとお前が映ってる。変だ、変だ。停めるぞ!」
 パソコンからの操作だろう。オートカーが停まった。
「降りろ!」
 あまりの剣幕に飛び降りた。振り返って窓から車内を見る。上原も助手席側の窓から見ていた。
 ダッシュボードのモニタが消えたあと、メーターやランプ類も消えていく。盗難防止のカーアラームだけが点滅していた。これが正常な動作。
 何者かが乗っていて、どこかで下りた。
 それ以上は考えたくなかった。考えないほうがいい。
 翌日、西谷はオートカーを売却した。
(了)
(初出:2015年04月11日)
登録日:2015年04月11日 14時35分

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